CEOコミットメント

CEOコミットメント

代表取締役会長
最高経営責任者 (CEO)

辻本 憲三

世界一面白いゲームの創出で持続的な成長を実現

確かな経営基盤と成長戦略で
世界最高のコンテンツを創出し、
心豊かな社会づくりに貢献します。

カプコンの優位性・独自性を6つの視点で説明

2019年3月期は、2018年3月期に続き2期連続で過去最高益を更新しました。また、2015年3月期から、中期経営目標として、毎期営業増益を掲げていますが、こちらも6期連続で営業増益を達成しています。これらの実績から、我々の戦略および志向するビジネスモデルは間違っていないと私は考えています。

当社の持続的成長の源泉たる要素は、昨年述べた通り1創業の志や共通の価値観を醸成する「企業理念・企業文化」、2競争優位性のある「ビジネスモデル」、3定量的な道標となる「重要経営指標」、4強みに集中した「経営戦略」、リスクを低減し持続可能性を高める5「社会との関わり」と6「ガバナンス」、の6つおよびその連関です。

ステークホルダーの皆様には、これら6つの要素が、どのような優位性・独自性を発揮しているのか、改めてご説明いたします。

1

企業理念・企業文化 —— 世界一を目指す価値観

創業以来変わらない理念の下、
世界最高のコンテンツを「大阪から世界へ」

「ゲームは嗜好品であり人生に不可欠なものではない。だからこそ、ユーザーが面白いと思う世界トップクラスのブランドでなければならない。」私のこの考えは、エンターテインメント業界に飛び込んだ50年前から変わっていません。

カプコンは、ゲームというエンターテインメントを通じて「遊文化」をクリエイトし、人々に「笑顔」や「感動」を与える「感性開発企業」を基本理念としています。これはつまり、世界一面白いゲームを創出し、人々を幸せにすることで心豊かな社会づくりに貢献する、ということです。

1983年、私は「創意工夫」をモットーに、世界トップクラスの品質のゲームを開発したいという想いから創業しました。

その背景には、ゲームはグラフィックの進化や世界観の深耕により、やがてディズニー映画と同じように全世界に感動を与えることができると考えていたからです。

それから36年、私の志に共感し集った仲間は今や2,800名を超えていますが、この価値観は「大阪から世界へ」を合言葉として企業文化となり、(1) 常に新しいことに取り組むチャレンジ精神、(2) 常に世界トップクラスを目指す自負心、が社員一人ひとりに刻み込まれています。

当社から、「ストリートファイター」や「バイオハザード」、「モンスターハンター」などの、世界に通用するユニークなゲームが頻繁に創出されるのは、長年培われてきたこの企業文化が土壌にあるからです。

2

ビジネスモデル —— グローバルIPを軸とした競争優位性

高品質なコンテンツを創出し、最大限に活用するビジネス展開

当社の強みは、(1) 世界最高品質のゲームを生み出す開発力・技術力、(2) 世界に通用する、ブランド化された多数の人気IPを保有していること、の2点です。

加えて2011年度より、内作中心の開発を見据え新卒開発者を毎年100名以上採用し、開発人員を約2,100名まで増やしたことで、更に強みを伸ばしています。

ゲームの市場特性や競争要因分析から、コンシューマ事業には高い参入障壁があり、上述の強みに、当社の資本力やハードメーカーとの信頼関係を合わせると、大きな競争優位性(=収益性)を築いていると考えます。その背景には、コンシューマ市場は、ハードウェアサイクル毎に技術水準と開発費が上昇した結果、ブランド化された人気タイトルに、ユーザーのお金と時間が集中するモデルになったことが挙げられます。

また、コンシューマ以外の事業は、人気IPを活用したマルチユース展開により、安定した収益源として貢献しています。これは、当社IPが100%自社開発のオリジナル作品であることに加え、グローバルIPを多数保有していることが、マルチユースの効果を増幅させているからです。更に、他の領域への展開により、ブランド価値が向上し、ゲームへ新規ユーザーが流入する効果も期待できます。特にハリウッド映画を活用したマーケティング展開は当社IPのグローバルでの競争優位性(=ブランド力)を更に高めており、優れた相乗効果を発揮しています。

近年では、このような継続的なブランド化施策の結果、イベント会場などで親子二世代で楽しむユーザーの姿も見られるほど、長く親しまれるIPとして定着しています。

3

重要経営指標(KPI) —— 5年10年先を見据えた安定成長へのこだわり

仕組み化による骨組み作りと、指標改善による筋肉質化

1. 2019年3月期 経営成績の分析(要約)

当期(2019年3月期)の業績は、6期連続の営業増益、かつ営業利益以下の利益項目は過去最高となりました。ここで注目するポイントは、(1) 『モンスターハンター:ワールド』の成功を踏まえ、世界最高水準を念頭において開発した『バイオハザード RE:2』および『デビル メイクライ 5』の2タイトルが確実な成功を収めたこと、(2) 『モンスターハンター:ワールド』のPC版がコンシューマ版に続きグローバルブランドとして成功したこと、(3) カタログ販売(過去作、移植・HD化含む)も続伸し、収益基盤の厚みが増したこと、(4) ダウンロード本数比率が61%まで上昇したこと、です。この4点は、いずれも成長戦略で掲げていた項目であり、これまでの取り組みが奏功したことを表しています。

2. 中期経営目標の前提と指標(KPI)

(1) 経営の方向性 —— 次の5年で何を目指すかを考える
私は、経営にあたり次の5年で何を目指すかを常に考えています。そうすれば、2年先の小さな変化にも早く気付くことができるのです。そして現在は、(1) 世界トップクラスの面白いコンテンツ(IP)の創出、(2) 豊富なIPを多面的に活用し当社を支持いただくユーザー数および収益を最大化することで、持続的に成長する企業になることを経営方針として掲げています。

(2)経営目標 —— 毎年、安定的に成長する
上記を達成するための指標として、「毎期、営業増益」を掲げています。大型タイトルの発売時期を無理やり調整して達成するのではなく、タイトルラインナップの拡充等により自然体で安定成長する「積み上げモデル」を志向することで、年金を運用する機関投資家や、年金で生活する個人投資家の方々が、安心して長期保有できるようにします。毎期成長することを重視しており、具体的な増益率は掲げていませんが、5~10%の利益成長率を念頭においています。確かに、ヒットビジネスであるゲーム業界で毎期安定して成長する目標は挑戦的でしょう。しかし、ここ数年は販売とマーケティングのデジタル化により、我々の収益構造に変化が起きています。実際、デジタル化にいち早く取り組んだ当社のデジタルコンテンツ事業の利益率は右肩上がりで上昇しています。

(3) 重視する指標(KPI)と株主価値創造実績
私は、経営にあたり、企業の稼ぐ力の基本となる「営業利益」(成長指標)と収益性の基本である「営業利益率」(効率性指標)、そして「キャッシュ・フロー」を重視しています。

変化の激しいゲーム業界において、常に5年先を見据えた経営を行うにあたり、これらの基礎的指標や、「売上比・前年比・計画比」のマトリックス比較などで異常がないかをチェックし、早期に問題点を見つけ対応してきたことで、直近5年における営業増益率は+66%、営業利益率の改善度は+7.9ポイントと、同業他社比較でも上位につけています。

営業利益・営業利益率の改善率(2016年3月期との比較)

  営業利益 営業利益率
カプコン +66% +7.9 points
コナミ HD +90% +7.5 points
スクウェア・エニックス HD -8% -3.3 points
セガサミー HD +53% -1.8 points
バンダイナムコ HD +41% +1.1points

注) 2016年3月期と2020年3月期予想の比較
出所) 各社決算短信、決算発表資料をもとに当社作成

また、これらの指標を改善すれば、ROEなど関連する指標も向上し、株主価値を創出することになります。具体的には、利益率の改善に伴い、ROEは6年連続で向上しています。更に、2020年3月期のエクイティスプレッド(ROE-資本コスト)は、+10.5%と企業価値を創造することに加え、東証平均(+2.5%)や同業他社を上回る見込みです。

ROE・エクイティスプレッド

  ROE エクイティスプレッド
カプコン 15.8% +10.5%
コナミ HD 10.9% +6.1%
スクウェア・エニックス HD 8.3% +4.1%
セガサミー HD 5.0% -0.8%
バンダイナムコ HD 11.7% +7.0%
東証一部平均 8.4% +2.5%

注) 2020年3月期予想
出所) 決算短信、ブルームバーグ

加えて、私は、当社を信頼して中長期で当社株式を保有し応援する株主の皆様に報いることは重要と考えており、持続的な業績成長と後述の積極的な株主還元を行ってきました。その結果、この5年間のキャピタルゲインと配当を合わせた株主総利回り(TSR)は+22.5%であり、TOPIX( +8.0%)を上回るとともに、同業他社比較でも上位に位置しています。

引き続き、骨組みとなる経営の仕組みを作り上げ、基本的な指標を改善することで筋肉質な企業体質を目指してまいります。

株主総利回り(TSR)

  5期間(年率)
カプコン +22.5%
コナミ HD +16.7%
スクウェア・エニックス HD +14.4%
セガサミー HD -8.4%
バンダイナムコ HD +19.4%
TOPIX +8.0%

注) 2015年3月期~2019年3月期の5期間
出所) ブルームバーグ

4

経営戦略 —— 強みに集中した開発・マーケティング戦略

IPを更に磨く開発体制・ブランド戦略と新たな領域への挑戦

1. 世界トップクラスのゲームを作るための人材・開発設備への投資

「進化を追わずして、世界トップクラスは成し得ず。」業界で50年経営してきた私が言い続けていることは、「世界トップのゲームとは、面白いだけでなく、技術水準が高いものでなければならない。」ということです。このことは、ハードの進化や参入企業のレベル上昇が証明しています。したがって、プログラムや映像技術などの能力が高い人材を集結させる必要がありますが、既に手は打っています。

私は、ゲーム市場の拡大と技術進化を見据え、2011年度から新卒開発者を毎年100名以上採用してきました。彼らのほとんどが幼い頃からゲームを遊んできた「ゲームネイティブ」であり、20年間のゲームの進化を全て把握しています。しかも、彼らは、「自分の才覚で市場を切り拓きたい。」という思いを持って、世界市場を目指すDNAが根付いたカプコンに入社してきており、気概に溢れています。資質が高いスタッフであれば、若手のうちから「バイオハザード」や「デビル メイ クライ」といった主要ブランドの開発に配属することもあります。指導役の社員から教わりながら実績を上げ、担当範囲を広げていくことで、その社員もまた将来的に指導役として成長していくのです。

また、世界トップに伍するクリエイター集団の能力を最大限発揮できるよう、事業所内に高さ7メートルのモーションキャプチャースタジオや約100台のカメラを備えた3Dスキャンスタジオ、効果音を収録するためのフォーリーステージなど、世界最先端の研究開発棟や開発設備に積極的に投資しています。

2. 世界ブランドのIPにするためのマーケティング戦略

もう一つ重要なことは、マーケティングからのアプローチで、ヒットした作品の認知度を高めブランド化することです。

ゲームソフトの開発は3年程度を要するため、開発期間中は認知度が低下し続けることが課題でした。私は、ゲームタイトル名を継続的にメディアに露出させる最も効果的な方法はハリウッド映画による世界的な展開と考え、1994年には40億円全額出資して、「ストリートファイター」のハリウッド映画化を決断しました。当時、「辻本さんは道楽で映画を始めた。」と言われたものですが、結果として約150億円のリターンと「ストリートファイター」の世界ブランド化に成功しました。成功の要因は、ゲームのメディアへの露出はせいぜい発売前後の2週間ですが、ハリウッド映画化により(1) 劇場公開、(2) ブルーレイ、DVD販売、(3) オンライン/ケーブル放送、(4) ホテルや飛行機での放送、など何年も何十年も世界中で繰り返し放送され続けて、タイトル認知度の維持・向上に繋がったからです。

このマーケティングアプローチは、「世界トップクラスの品質のゲーム」であることが条件であり、当社では既に「バイオハザード」のブランド化でも同様の成功を収めており、引き続き、「モンスターハンター」や「ロックマン」などその他のIPのブランディングでも活用していきます。

3. 収益変動リスクを低減するコンシューマのビジネスモデル改革

私が創業経営者として、次世代メンバーへの継承にあたり大事にしていることは仕組み作りです。何でも仕組み=土台を作ることが一番難しいのですが、6年前から取り組んできたことでようやく形が整ってきました。成長戦略を確実なものとし、企業価値を更に向上させるためには収益変動と経営判断との2つのリスク対応が重要ですが、まずここでは安定成長の仕組み(収益変動リスクのコントロール)についてお話しします。

【CEOコミットメント】 6. ガバナンス(G) ——次世代への仕組みづくり「経営の見える化」

中長期的な収益変動リスクを低減し、持続的成長を可能にするために必要なことは、(1) コンシューマにおいて、従来の売り切り型(フロービジネス)から継続型(ストックビジネス)へとビジネスモデルを根底から改革すること、(2) 当社の基本戦略である「ワンコンテンツ・マルチユース」展開を徹底することで、事業ポート フォリオを構築し収益リスクを分散すること、の2つと考えています。

図:中長期の成長イメージ

まず、私達が中核事業とするコンシューマビジネスは、歴史的にヒット作の有無により収益が変動してきました。過去にも複数のヒット作を分散して発売することで、一定の成果(収益の変動抑制)は得ているものの、私が目指す安定成長とまでは言えませんでした。しかし、2013年以降、ゲーム機の本格的なオンライン機能の実装により、デジタルを主軸とした成長戦略の策定が可能となりました。

具体的には、新作において、(1) 毎期、大型作品を安定的に投入すること、(2) 当該タイトルを追加コンテンツや柔軟な価格施策で長期間(3~4年)販売すること、(3) 市場の約85%を占める海外への展開強化、により中長期の成長ドライバーとしての役割を果たします。

次に、カタログタイトルにおいて、(1)過去作品のデジタル販売、(2) 過去ヒット作の現行機移植版の投入により、ユーザー数を拡大し、新作の端境期においても、継続型ビジネスとしての基盤となる利益を生み出します。

4.中長期で新たな収益の柱を構築

現在、我々のモバイルコンテンツは同業他社に大きく水をあけられています。これは、家庭用ゲーム機で創出した当社のIPとモバイル端末との相性によるものですが、「G(通信速度)」と「K(解像度)」の技術進化により、数年後にはモバイルコンテンツにおいても、我々の強みであるIPが十分に活用できると考えています。また、足元においても内作・協業・M&Aなどあらゆる可能性を追求し、更なる成長のオプション(第2の柱)としてモバイルの事業基盤を構築します。

加えて、今後のeスポーツ市場の拡大を見据えて、タイトルブランドの強化とeスポーツビジネスの収益化を図っていきます。

私は、ヒットビジネスと呼ばれるゲーム産業において、いまだどの企業も成し得ていない「持続的成長が可能な経営体制と戦略」を確立し、企業価値を高めていきます。

5

社会との関わり(S) —— 世界に通用する人材と新たな市場の育成

ステークホルダーとの良好な関係を築き、事業を通じて社会に貢献

私は、ゲームメーカーならではの視点からステークホルダーとの健全な関係を構築すると同時に、事業活動を通じて、世界で活躍できる人材の育成や先端技術による新たな市場を創出し、社会的・経済的価値を生み出すこと(共通価値の創造)が、企業価値の向上に繋がると考えています。

1. ゲームと社会との健全な関係構築

これまで、ゲームは人々に笑顔や感動をもたらし、新たな文化を生み出してきた一方、近年はオンラインゲームの増加などに伴い「未成年者の高額課金」や「ゲーム依存症」など新たな課題が現れています。企業理念の項目でもお話しした通り、ゲームを通じて人々を幸せにすることが我々の目的であり、ゲームによってユーザーが不幸になることは我々の望むところではありません。こうした社会課題に対して真摯に対応していかなければ、業界としても企業としても、社会の一員として信頼を得て成長を続けていくことはできません。

【CEOコミットメント】 1. 企業理念・企業文化 —— 世界一を目指す価値観

そこで我々はこれらを業界全体の大きな問題と認識し、業界団体を中心に各社一丸となり、(1) ガイドラインの制定・啓発、(2) 加盟各社間の課題・事例の情報共有、(3) 保護者・教育関係者・消費者団体・行政等との定期的な情報交換、などに取り組んでいます。

加えて、当社単独では、2005年よりゲームに対する青少年の健全育成面での社会的不安を取り除くための取り組みとして、ゲームとの正しい付き合い方を啓蒙するリテラシー教育やキャリア教育支援活動を継続して実施しています。

また、モバイルゲーム開発の際には、ガチャ要素は原則的に控える、家庭用ゲーム開発においても、小規模・少額の追加要素は配信しつつも、ゲーム本編を楽しむうえで必須となるようなコンテンツは基本的に無料で配信するなど、幅広いユーザーに安全に平等に遊んでいただけるよう心がけています。

2. 地域社会との関わり

基本戦略「ワンコンテンツ・マルチユース」の推進により、広く社会に貢献していきます。具体的には、当社の人気コンテンツを活用した地方創生活動として、(1) 経済振興の支援、(2) 文化振興の支援、(3) 防犯啓発の支援、(4) 選挙投票の啓発支援、を行っています。これらの共通課題である「若年層の集客や訴求」への解決手段として、定量的な社会的成果をあげています。

上記4つの活動から当社にもたらされる価値は、(1) イベント参加による既存ユーザーの満足度向上、(2) 中高年層のゲームへの好感度向上、です。特に(2) は、ユーザーとして取り込めていない層であり、当社の人気コンテンツが地元へ貢献する中で、身近なスマートフォンのアプリゲームなどを通じて、新たなゲームユーザーになる可能性があります。

3. 従業員との関わり

ゲームソフトの開発費の約80%が人件費(原価)で占められていることからも分かるように、ゲーム産業は「労働集約型産業」ならぬ「知識集約型産業」として、人材が極めて重要な経営資源です。

私は、グローバルで通用するコンテンツを創出するにはダイバーシティが重要と認識しており、性別・人種にはこだわらず優秀な人材の確保・育成を推進しています。また、優秀な人材がその能力を最大限に発揮できるよう、世界最先端の開発機材を備えていることは前述の通りです。就業環境整備の一環として、クリエイターの発想を具現化するための機材を導入することで、商品のクオリティ向上と同時にクリエイティビティを充足しています。更に報酬面では、能力に応じたメリハリのある給与体系に加え、タイトル別インセンティブやアサイン手当制度を導入し、モチベーションの向上を図っています。

加えて、2017年度には企業内保育所「カプコン塾」を設置し、子供を持つ従業員が業務に集中できる充実した環境を整備しています。私は、「カプコン塾」を単なる保育だけでなく学びの場として子供達を中学受験まで面倒を見る施設にしたいと考えています。日本は、AIやIT分野において米国・中国などに押されていますが、彼らが世界で戦っても負けないレベルになるように応援していきたい。そのため、中学入学まで支援し、当社に入社する人は世界に通用する企業人やゲームクリエイターになるまで育成することが、当社の、ひいては業界の持続的成長の一助となると考えています。

私は、人材育成で最も重要なのは、新しいことに挑戦できる環境を与えることだと考えています。どんどん挑戦させて、「上手くいったこと」は放っておき、「上手くいかないこと」にエネルギーを費やして対策を練るのが経営者の役割です。そうすれば従業員も失敗を恐れることなく、世界一面白いゲーム開発や新たな事業に挑戦することができ、それがビジネスチャンスを生み出す好循環になるのです。

6

ガバナンス(G) —— 次世代への仕組みづくり「経営の見える化」

経営の透明化と次世代キーパーソン育成で、経営判断リスクを回避

ガバナンスの仕組み

成長戦略を加速させるほどリスクは比例して高まりますが、このリスクの回避もしくは低減に有用なのがガバナンスであると私は考えています。

特に、創業者の私がCEO、長男がCOOですので、社外取締役の監督機能を十分に発揮させ、取締役会が透明性・合理性の高い意思決定を行う独自の仕組みを構築し、「経営判断リスク」を回避しています。

仕組み1
数字を主体とした
「経営の見える化」

私は、企業規模や事業環境が変化したとしても、柔軟かつ一貫した経営を行うために、経営判断する材料(資料)を原則数値化させています。具体的には、資料は売上比、前年比、計画比など比較対象を示し、複合的にチェック可能にすることで問題点を見つけ出しやすくしています。

更に、当該資料は、社外取締役による監督にも活用してもらうことに加え、IR活動で投資家にも活用していただく、この一連の仕組みを私は、「経営の見える化」と呼んでいます。業務の可視化に基づく経営判断に、二重の社会の目でジャッジを加えることで、経営の透明化を図る仕組みです。

また、私は、開発者と話すときも数字を共通言語にしています。定性的な言葉や文章だけでは担当者の恣意性が入る余地が大きいのに比べて、数字は様々な角度から照合できるのでリアルな状況として判断できるからです。

今、私が注力するリスクコントロールの仕事は、創業者として培ってきた経営ノウハウを次世代メンバーに実戦で教えるとともに、経営を「仕組み化」して、将来にわたって会社を確実に機能させることですが、形は出来上がりつつあります。

仕組み2 社外取締役の監督機能を発揮できる機関設計

当社は、これまで20年間にわたり、諸種のガバナンス改革を断行してきました。

2002年3月期から社外取締役制度を導入したのを皮切りに、取締役の社外比率を45.5%まで向上させています。これは、ある投資家の方から「創業オーナー企業は、経営の意思決定の迅速さや環境変化への対応について優位性がある一方で、独断専行のリスクがあるのではないか?」と指摘されたことが契機です。

社外取締役の選任基準は導入当初から現在も変わらず、一言で言えば、「良識があり、ゲーム以外の各分野で最高レベルの専門家に、当社の経営・事業活動を冷静に判断していただくこと」です。事業投資リスクを回避することを優先課題として、「特に業績が思わしくない時、創業者にも物怖じせず、正論を意見できる日本トップクラス(経営危機管理・法令・行政)の方々」を選任し、一般社会の視点で妥当性を判断していただきます。実際、2015年度の買収防衛策再導入(現在は廃止)、2016年度の監査等委員会設置会社への移行といった議題では、社外取締役を中心に厳しい議論が展開されました。

仕組み3 経営人材力の強化と後継者育成

企業経営において「人の資質・気質」は重要な経営資源であり、企業価値に大きく影響を与えます。創業経営者としての私の経営哲学や経営力は、統合報告書2016に詳述しましたが、現在、投資家の皆様からの懸念の一つとして、オーナー企業における経営層の薄さ、つまり次世代の経営体制(後継者計画)が準備できているか、を指摘されています。

当社の次世代キーパーソンは、事業・開発トップの辻本春弘(社長)と江川陽一(専務)ですが、両名ともに経営者に必要な気質を備えています。両名をキーパーソンに選んだ理由は、過去のレポートでお話しした通り、創業時からのあらゆる経験を蓄積し、逃げない覚悟と意思を持っているということです。辻本春弘は、創業家の一員として、カプコンが町工場のような小さな会社時代から家業として自覚と責任感を持って手伝うとともに、その後もおごることなく「勤勉・真摯」をモットーにアミューズメント施設事業の立ち上げやコンテンツのマルチユース展開に腐心しました。江川陽一は、創業間もなく入社した後、業務用ゲームの開発やパチスロ事業、モバイル事業の創設など、「どんな困難な状況でも逃げない、あきらめない」姿勢で開発をけん引し、実績を出してきました。しかし、カプコンが36年間で大きく成長した結果、経営の責務はより重く、大きくなっています。私の創業者としての役割は、会社を持続させる仕組みを作り上げ、後継者にもその仕組みをきちんと理解させ、実行できるようにすることです。役職だけ引き継いで終わりでは、変化の激しい時代に持続的な経営はできません。私は体力の限界が来るまでできるだけ長く一緒に走って、背中を押すべきだと考え、役員会議はもちろん、プライベートの時間も共有しながら、積極的に情報交換やアドバイスを行っています。

タイプの異なる二人を更に私が厳しく鍛え上げたうえで、長年かけて醸成した「企業文化」と、前述の「経営の見える化・仕組み化」、そして「公明正大なガバナンス」を組み合わせれば、長期投資家の方々が「この人の経営に任せてみたい」と思う厚いマネジメント層が整うでしょう。

上場以来29年連続配当と過去最高配当で長期株主に報いる

図:上場以来の1株当たり配当金

1.配当に関する基本方針

私は、変化することが当然のゲーム産業において、「企業として安定的な成長を遂げるとともに、長期株主には安定的な増配で報いたい。」という信念で、創業以来36年間経営を行ってきました。

持続的な企業価値向上のための要諦は前述しましたが、株主の皆様への利益還元についても経営の重要課題の一つと考えており、将来の事業展開や経営環境の変化などを勘案のうえ、配当を決定しています。

株主還元の方針として、(1) 投資による成長などにより企業価値を高めるとともに、(2) 連結配当性向30%を基本方針とし、かつ安定配当の継続に努め、(3) 自己株式の取得により1株当たり利益の価値を高めること、としています。

私が配当性向だけでなく安定配当を大切にする理由は、例えば年金生活で配当を生活費の一部として生計を立てている方にとっては、急な無配・減配は死活問題になるからです。定期的かつ安定的な収入があることで、将来の生活設計をしっかり立てることができます。年金を運用する長期投資家の方からも配当の安定性を求めるご要望を受けます。

多様な株主の皆様の中にも、このような方々がおられるからこそ、1990年の上場から29年間、一度も無配にしたことはありません。また、2019年3月期は3年連続の増配を達成し、株式分割を考慮すれば、配当金はこの10年間で実質2倍にしました。

2. 当期および次期の配当

2019年3月期の配当は、株式分割を考慮すれば実質的に過去最高となる年間35円としました。次期も、当期と同額の配当金を予定しています。

私は、この業界に50年の経験を持つ経営トップとして、過去36年間の成長を上回る企業成長を図り時価総額を増大させることで、株主の皆様のご期待に応えてまいります。

代表取締役会長
最高経営責任者(CEO)

辻本 憲三

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