COOが語る成長戦略

COOが語る成長戦略

代表取締役社長
最高執行責任者(COO)

辻本 春弘

カプコンの中長期ビジョン

拡大する市場に向け
デジタル戦略を強化し
IPからの収益最大化を追求します。

当期のゲーム市場は、コンシューマでの各プラットフォームの隆盛や、モバイルでの新ジャンルゲームの流行、eスポーツビジネスの更なる発展など、引き続き活況を呈しました。また、2019年7月時点においては、次世代移動通信システム「5G」の実用化を控え、巨大IT企業がクラウドゲーミングを活用した新規プラットフォームのサービス開始を予定するなど、ゲームビジネスの構造変化が模索され始めています。

この状況下、私達が着目している市場のポイントは、1当社の基幹ビジネスであるコンシューマにおいて、デジタル販売の普及によりグローバル化とプラットフォームの拡大が顕著であることに加え、ビジネス面でのデジタル化がユーザーニーズへの直接的なアプローチを可能にしていること、2「5G」が本格的に実用化されれば、モバイルコンテンツのあり方が大きく変わる可能性が高いこと、3eスポーツは、収益機会としての可能性に加え、ゲームの社会的価値をも変える可能性があること、です。

日進月歩のゲーム市場において、当社は、強みである「豊富な自社IP」をグローバルに向け多メディア展開するワンコンテンツ・マルチユース戦略に、開発・販売・マーケティング面でのデジタル戦略を掛け合わせ、当社のブランドを信頼して支持いただけるユーザー数をグローバルで拡大することで、「毎期営業増益」を継続します。

成長戦略 1

コンシューマ

デジタル戦略の展開による主力IPの更なる徹底活用

デジタル販売を通じ、価格と地域の選択肢を拡大し
新作・過去作をグローバルで長期販売

コンシューマ市場は、2023年までに479億ドル(2018年比60.2%増)へと成長が予測され、当社としてコンシューマ事業は引き続き成長のドライバーと位置づけています。かねて取り組んできた新作のラインナップ拡充とデジタル販売の強化により、新作からの収益性の向上と、過去作の拡販を含めた長期販売の実現に伴うストックビジネス化は着実に進展しています。更に近年伸長するPCプラットフォームの活用による新興市場での販売増も相まって、2019年3月期は概ね30%程度の利益率を達成しました。

次期以降も、世界最高レベルの品質を実現する開発体制を基盤としてデジタル戦略とグローバル化を更に推し進め、業績の一層の成長と安定化を目指します。

施策 1 主力IPをグローバル市場に安定投入

2013年3月期の構造改革以来、中期的な戦略マップ(60ヵ月マップ)を本格的に運用し、安定成長に向けたタイトルポートフォリオを形成するとともに、開発者の年間アサインマップを運用し2,000名以上を適時必要な開発チームへ配置する仕組みを整えました。その結果、毎期大型タイトルの安定的な投入が可能となっています。

並行して、私達は、コンシューマ市場の85%以上を占める海外での成長余地が大きいと考え、既に海外で人気の「バイオハザード」や「ストリートファイター」に加え、「モンスターハンター」のグローバル化に向けた戦略タイトルとして2018年1月に『モンスターハンター:ワールド(以下MH:W)』を投入し、当社歴代最高の1,310万本(2019年6月30日現在)を達成しました。

図:グローバル展開の進展

更に、当期に投入した『バイオハザード RE:2』と『デビル メイ クライ 5』も、『MH:W』同様の徹底的なクオリティの追求と、デジタルマーケティング・プロモーションでのノウハウ活用により、計画に対し好調な販売を達成しています。

今後も、グローバル市場に向けた新作パイプラインを拡充するため、開発体制の強化および仕組み化を更に推進します。

なお、当面は現主力IPからの収益最大化を優先しますが、休眠IPの活用にも積極的に取り組んでいます。

また、中長期的な成長への源泉として新規IPの創出も並行しています。

施策 2 デジタル販売の強化

デジタル販売のメリットは、(1)パッケージ製造コスト削減や在庫リスク回避などによる収益性向上(本編デジタル)、(2)小売店での販売機会確保が難しかった過去作の配信による収益機会の増加(本編デジタル)、(3)継続配信によるユーザーの長期プレイおよび追加収入の獲得(追加DLC)、などです。

当社はこれまで、新作・過去作における本編デジタル販売を強化してきており、当期のデジタル売上高は410億円と、中期目標にしてきたコンシューマでの売上比率50%を超える53.3%となりました。この間にコンシューマの収益性は大きく向上し、長期販売の実現に伴うストックビジネス化の進展により、業績のボラティリティは抑制されてきています。

当期のデジタル販売の躍進を大きくけん引したのは、新たに投入した『MH:W』PC版に象徴されるPCプラットフォームでの販売増です。従来のプラットフォームに対し、アジア、南米、東欧や中東など、新興市場での拡販に強みがあると分析しており、当社ビジネスのグローバル化推進と新規ユーザーの獲得において、継続的な貢献が期待できます。また、新作購入時のユーザーの選択も徐々にパッケージからデジタルへシフトしてきており、当期の大型2タイトルのデジタル販売本数比率は、いずれも40%を超えています。

次期は、デジタル販売比率が75.4%と更に向上する計画です。この主要因は、新作大型タイトル『モンスターハンターワールド:アイスボーン』を、従来のような独立した1本(フルプライス)の新作としてではなく、『MH:W』の超大型拡張コンテンツ、すなわち新作並みにボリュームのある追加DLCとしてデジタル販売を中心に投入することです。グローバルでのユーザー動向を踏まえ、新たな販売方法にチャレンジすることで、全体の販売単価は低下し、次期のコンシューマは減収となる見通しですが、同時に利益率は一段の上昇を見込んでいます。

図:コンシューマビジネスの営業利益率(%)

これらの方針を推し進めることによって、中長期的にはデジタル売上比率は80~90%以上への上昇が見込まれ、コンシューマの収益性向上とストックビジネス化を更に進展させると考えています。

施策 3 ゲームビジネスのデジタルシフト

私達はかねてより、ゲームビジネスは最先端のネット技術を活用することによって、更に効率化できると考えてきました。

図:グローバル・マーケティング

そこで、社内の意識改革を提唱するとともにグローバルマーケティング統括本部を設置し、四半期毎に経営とグローバルの事業幹部が一堂に会する「グローバルマーケティング会議」を開催し意識統一を図るなど、改善に取り組んだ結果、2018年1月に発売した『MH:W』では、経営、開発、事業が一丸となって、初めてインターネットをフル活用し、販売拡大とクオリティ向上を実現しました。例えば、オンライン体験版の配信を通じて得たグローバルユーザーの嗜好の分析は、記録的なヒットの一因となり、当期に投入した大型2タイトルにもこの手法を適用し、成功を収めています。大切なことは、「ゲームという嗜好品ではユーザーの満足度が極めて重要である」という観点からデータの抽出と分析を行うことです。物心がついたころからインターネットやSNSに慣れ親しんでいるデジタルネイティブがゲームユーザーの中核層に育ちつつある中、その重要性は今後更に高まるでしょう。

グローバルに拡大する市場において、きめ細かくIPのブランド戦略を展開することは不可欠です。IPごとにユーザー属性やプラットフォームの活用状況、価格感応度などを総合的に分析するため、海外拠点の機能を販売からマーケティング・プロモーションへシフトしています。また、成長著しいアジアへ事業リソースを注ぐべく、当期から、日本・アジアを一体化して統括しています。更に、異業種からの招聘を含むキーパーソンも積極的に登用し、新たな知見やノウハウによる化学反応を起こすことで、組織の進化を図っています。

施策 4 クラウドゲーミングやサブスクリプションなど、新サービスへの対応

「5G」の実用サービス開始に歩調を合わせ、コンシューマゲームの分野でも、既存のプラットフォーマーおよびグローバルIT企業が、クラウドゲーミングやサブスクリプション(定額課金)モデルなどの新サービスを次々に発表しています。当社はマルチプラットフォーム戦略を採っており、新たなサービスの誕生によりユーザーを取り巻くゲーム環境が充実することは常に歓迎しており、例えばクラウドゲーミングの普及(=様々なハードでアクセスが可能となり、ゲームを遊ぶための初期費用が低下)によりゲーム人口が拡大する可能性など、今後の進展に注目しています。

他方、実際に提供される新サービスに対してユーザーはどのようなメリットを見出すのか、プラットフォーマーとのビジネスに変化は生まれるのか、今後の推移を冷静に分析することも必要でしょう。

当社が最優先すべきことは、これまでもこれからも変わらず、一貫してきた、当社のコンテンツを世界最高レベルへと徹底的に磨きあげることに尽きると考えており、それがしっかりと実行できていれば何時いかなるプラットフォームのもとでもユーザーに選択していただける。当業界の第一線を走り続けてきた経験則から、私達はそう確信しています。

図:ゲームプラットフォームとサービス形態

ヒット事例の分析『バイオハザード RE:2』

成長戦略 2

モバイル

5G実用化を視野に中・長期のフェイズ別施策を展開

次世代モバイルコンテンツに向けたノウハウ蓄積を推進

当社は、モバイルの領域では引き続き同業他社に水をあけられる状況であり、当期は、ガチャを用いたビジネスモデルに頭打ち感が出てきた市場の見極めを含め、一部タイトルの投入を延期したことから、売上高は減少しました。一方、次世代移動通信システム「5G」の実用化が目前に迫っており、通信速度の大幅な向上が低遅延と同時多接続を実現すれば、本格的なアクションゲームのIPを多数保有する当社がモバイル分野で大きな成長を実現する可能性が高まると分析しています。今後もグローバルで高い成長率が見込まれる当分野での成長を図るべく、当社は、現行技術下と新技術下、それぞれのフェイズでの施策を推進しています。

中期施策 国内外での協業の推進

「5G」の本格的な実用化に備え、当社は、モバイルビジネスにおける成功の要件であり当社に不足している、ゲーム内容の改善やゲーム内イベントを適時実施する運営ノウハウを蓄積する必要があります。その為に、当社のIPを活用したモバイル専業会社との協業などに2期前から注力しています。国内外でヒットの実績を持つ複数の相手先との協業により、2019年7月時点で国内外において2作品を投入済み、更に2020年3月期中に自社タイトルを含め複数作を投入する計画です。

図:モバイルコンテンツの中・長期施策

長期施策 次世代規格への布石

「5G」は既に海外の一部地域で試験サービスが開始されており、今後、4Gの100倍とも言われる通信速度の実現により、IoTを活用したサービスの劇的な進化や、端末の進化に伴うコンテンツのリッチ化が予想されています。ゲームにおいても、当社が得意とする高精細グラフィックのアクションゲームをモバイル端末へ展開できる可能性が拡がると考えられます。

なお、現時点では「5G」の本格的な実用時期とサービスレベルには見定めの余地があり、当社として来たる成長の機会を必ず掴めるよう、「5G」の実用状況の分析に並行して、開発部門において技術研究や開発ノウハウの収集に努めています。

成長戦略 3

eスポーツ

新たなコンテンツ文化の普及に注力

専門部署が本格稼働
将来の収益化を視野に市場の裾野拡大を推進

eスポーツとは

「エレクトロニック・スポーツ」の略で、コンピューターゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉えた名称です。1990年代後半頃から欧米で盛んになり、現在ではアジアや日本を含め様々なゲームのイベントが多数開催され若年層を中心に世界中で人気を博すとともに、ゲームビジネスにおける新分野として注目を集めています。

eスポーツの収入成長の動向

2018年は、日本で「eスポーツ元年」と呼ばれ、発展に向けた分岐点となる1年でした。統一競技団体として一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)が発足し、ビジネス面での可能性に注目した異業種企業や団体の参画がメディアで連日報道されるなど、社会的関心は益々高まっています。私達は、eスポーツを一過性のブームととらえるのではなく、ゲーム市場における新たなビジネス領域、言い換えると、新たに誕生しようとしているコンテンツ文化として、5年10年の中長期的な目線で育成することが重要だと考えています。当社は、その実現に向け、サッカーなどと同様、トッププロが活躍する舞台を充実させるだけでなく、若年層やアマチュアの新規参加を促すなど、市場の裾野拡大に取り組んでいます。

施策 プレイヤーと観衆、そして地域がWin-Winとなるエコシステムの確立を目指す

当期から次期にかけ実施する施策の要点は3つ、(1)チーム戦「ストリートファイター」リーグの創設による更なる魅力向上、(2)プレイヤーおよび観衆の新規参加を呼び込むための徹底的な動向分析、(3)各地域の企業や地方自治体との連携による地域展開の推進、です。

(1)に関しては、従来の個人戦に加え、チームの絆やチームプレーなどの人間ドラマが描かれることで、リアルスポーツ同様の魅力を感じてもらえると考えています。(2)については、各イベントの参加選手や視聴者(観衆)のデータを徹底的に分析し、何がどの層に支持いただいているのかを把握し、クリティカルな施策を積み上げることで参加人口の拡大を図ります。(3)では、2020年以降における各地域でのプロチームのフランチャイズ化を視野に入れ、大都市部以外への普及推進と地域活性化への貢献を目指します。

現在、当期初に設置したeスポーツの専門部署の陣容を強化し、施策の実現に積極的に取り組んでいます。また、国際スポーツイベントへの採用などにより、eスポーツが一般社会に広く認知、理解されることで、IPの価値向上に留まらず、ゲーム業界の地位向上や社会的貢献にも繋がると考えます。

オンライン統合報告書(アニュアルレポート)バックナンバー