COOが語る成長戦略

辻本 春弘

COO GROWTH STRATEGY

デジタル戦略を加速、
年間ソフト販売本数は1億本を目指す。

代表取締役社長
最高執行責任者(COO)

辻本 春弘

当社は2010年代の中盤からデジタル戦略に本格的に着手しました。その大きな狙いは当社コンテンツの世界拡大であり、安定的な収益基盤の確立です。またその戦術転換の主たるものがダウンロード販売への移行です。これまでゲームパブリッシャーは主に小売店を介してゲームユーザーにディスクでコンテンツを届けてきました。しかし、小売店販売は、①小売店の店舗立地に依存すること、②国によってはプライスプロテクション=コンテンツの店頭販売において値下げをする際には引下げ額はパブリッシャー負担=であり価格プロモーションの判断を当社が政策的にできないこと、の主に2点が世界展開の制約になりつつありました。またディスク販売においてはコピー・海賊版対策に意を注ぐ必要もありました。

これらの課題を乗り越え、全世界のゲームユーザーにゲームコンテンツを届ける方法としてダウンロード販売への転換に着手したのです。

この結果、2013年3月期対比で、販売国・地域は167カ国・地域から219カ国・地域に拡大し、当社の収益基盤は新作販売から旧作販売にシフトしつつあります。

ここ10年間で企業のビジネスモデルは、B2BからB2Cへ、さらに近年ではD2C(Direct to Consumer)へと変化しつつあります。当社のこの10年間の戦術転換は、この流れに沿ったものでもあり、私はD2CをDigital to Consumerと読み替え、さらにデジタル戦略を加速し、そのために人材投資戦略を再構築しています。

成長戦略 デジタル戦略の加速

2022年3月期 家庭用ゲームソフト国別販売本数実績

施策1 グローバル市場拡大の加速

ディスク販売時代、ゲームコンテンツの主たるマーケットはゲーム先進国である欧米主要先進国でした。それがゲームデバイスを常時ネットワークに接続することが常態となりました。

デジタル販売は自ずとコピー対策強化と相俟って長期販売が可能となり、この10年間で販売国・地域の拡大とともに年間タイトル数では300を超えるタイトル数の販売に至っています。

当社にこの拡大をもたらした要因は主に2点あると考えています。

①当社創業時のアーケード基板ビジネスの時代から当社は世界に展開し、一定のブランド形成を為し得ていたこと

②当社の開発陣の努力により、高品質タイトルを安定的に投入する技術力・開発力を有していること

ゲームコンテンツは時間の経過とともに価値が減耗し価格は低下していきます。一方でこの価格低下により、様々な所得水準の国・地域のゲームユーザーにもゲームコンテンツが届けられるようになっています。

当社のゲームコンテンツ販売国を2013年と比較してみると、年間販売本数で100本未満の国・地域から100本以上、1000本以上、10万本以上、100万本以上の国・地域に徐々にシフトしています。それぞれの国・地域の経済成長による所得水準の上昇が更なる当社マーケットの拡大に資する戦術展開を行っていきます。

施策2 世界最高のコンテンツを生み出し続ける

2016年度以降の新作は、当社の販売想定を上回る実績を上げ、さらに拡大途上にあります。

この背景には、世界最高品質の開発力と技術力が支えになっていることは言うまでもありません。漫然とゲーム制作に着手するのではなく、綿密な事前準備とユーザー動向把握を行い試作を繰り返し、品質チェックを行いながら制作に着手する工程になっています。

特に品質チェックは発売直前まで繰り返し行います。加えて、基礎技術研究を担う技術研究部門や開発管理部門、開発人事部が制作を支える体制の下で、当社内製の「REエンジン」やコンテンツ制作の自動化など生産性の向上という課題に取り組んでいます。

2017年1月発売の『バイオハザード7 レジデント イービル』以降発売したタイトルは、メタクリティックスコアやユーザー評価において当社想定を上回り、販売実績を上げています。

以下にお伝えする「コンテンツの長期販売」を可能にしているのは、この世界トップクラスのコンテンツであることによるものと言えます。

すでに全世界にファンを持つ「バイオハザード」や「モンスターハンター」「ストリートファイター」に続く既存IPのブランド強化に加え、新規IPの創出にチャレンジしていきます。そのためには安定的な開発部門人員の増加を図る必要があり継続的に新卒や中途採用に積極的に対応します。

  • 上場以来の1株当たり配当金(円)
  • 株主総利回り(TSR)

施策3 グローバル市場での長期販売と収益性の改善

当社では、ゲームの制作にあたって5年間で販売を最大化することを一つの判断基準としています。この背景には過去の販売データを約2年間かけて再整備し、今後の販売想定に生かせる状況になってきたことがあります。

近年デジタル販売において貢献度が高まっているのが、PCプラットフォームです。従来のコンソール機の市場を大きく上回る200超の国・地域での販売が実現し、アジア、南米、東欧や中東など、新興地域での拡販に強みがあると分析しています。現在、PCをゲームデバイスとする販売本数比率は40%前後に達していますが、まだ伸びしろが大きいと分析しており、PCを今後の重点プラットフォームに定めています。

2022年度も、これらのデジタル販売を更に推し進めることで、デジタル売上高は、過去最高の734億円を計画しています。未来に向けてのパイプラインの拡充、販売の長期化、グローバル化のいずれにおいてもまだ成長余地があることから、デジタル比率は、売上・本数ともに長期的には90%程度への上昇が見込まれ、デジタルコンテンツ事業での増益を持続させると考えています。

一つの好例が『モンスターハンター:ワールド(MH:W)』の長期販売です。最初はゲーム専用機向けに投入し、その後PC版を投入、さらに大型拡張コンテンツの『モンスターハンターワールド:アイスボーン』に繋げました。2018年1月の初回発売から既に4年以上が経過していますが、コンテンツの鮮度を保ちながら、段階的に価格を引き下げ販売拡大に努めてきた結果、累計販売本数は2,000万本を超えています。その初回の『MH:W』の販売の半数以上が2年目以降の販売によるものです。現在までのセールでの最低販売価格は約5ドルですが、既に開発コストは回収し終えていますから、十分に利益貢献してくれます。このように高品質の旧作タイトルは、発売後早期に回収を終えており、年間販売本数に占める旧作タイトルの販売本数は70%を超え、旧作販売収益はデジタルコンテンツ事業収益の半分以上を確保しています。

これがこの10年間で安定的な収益構造を確立するに至った大きな要因です。

※『モンスターハンターワールド:アイスボーン マスターエディション』を含む

施策4 ビジネスのデジタルシフトによる販売施策の多様化と効率化

既に多くの企業がネット情報を活用し自社製品の販売拡大に努めています。当社でもダウンロード販売の拡大により従来の広告宣伝やプロモーション手法を進化させています。ポイントは当たり前のことですが、コンテンツの最新情報をいかにユーザーの皆さまに早く効率的に届けるかという点にあります。

そのために社内の組織を再編成し、ビジネスインフラの革新を図っていくことに着手しました。

まず海外拠点(子会社)はこれまで販売会社としての位置づけにありましたが、今後は情報拠点の役割が重要になります。本社の事業・販売部門と連動させ、それぞれの国・地域のゲームユーザーがどのように当社のゲームコンテンツを楽しんでいるか、が今後のゲーム制作だけでなく販売施策の展開に欠かせなくなると考えています。

また、情報発信強化策の一つとして、これまでの公式Twitter等に加え、デジタルイベント「カプコンショーケース」の提供を始めました。このイベントを核としてデジタルプロモーションの強化を進め販売施策の多様化・効率化を進めていきます。

ゲームユーザーの皆さんは、新作ゲーム情報だけでなくすでに購入されたゲームの情報にも高い感度を持っています。こうしたユーザーの皆さんの期待に応える有益な情報をお届けすることも当社コンテンツのユーザー拡大に必須のことと位置づけています。

2022年3月期 家庭用ゲームソフト国別販売本数実績

施策5 ブランド拡大①~周辺事業との連携強化

世界を見渡すと持続的成長のためには、当社のコーポレートブランド、コンテンツブランドをさらに拡大・浸透させていくことが不可欠です。

財務基盤も強化され、今後はこれまで以上にブランドの拡大・浸透施策に取り組んでいきます。2022年5月以降に発表した日本バレーボール協会やサッカークラブ「セレッソ大阪」、東京国際映画祭へのスポンサー協賛、大阪万博への出展参加はそうした世界でのブランド強化に資するものとして対応を始めました。これらの対応により「大阪から世界へ」の発信を強化していきます。

また、アミューズメント(AM)施設事業やアミューズメント(AM)機器事業は独自に収益を拡大するとともに、日本国内での当社のゲームコンテンツのブランド拡大に連動させて事業の存立基盤の拡充を図ります。

AM施設事業は、当社の事業の中で直接顧客接点を有するという重要な位置づけにあります。具体的には、店舗店頭に於ける各種施策やコンテンツ・ブランド拡大に資する有益な情報を得てそれを様々な顧客分析と連動させることで存在意義を発揮してきました。当社と一般消費者を含めたユーザーとのリアルにおける貴重なタッチポイントであるとともに、ゲームソフトの体験会の開催などを通じ、コンシューマビジネスとのシナジーを図る場となっています。デジタル戦略の加速の中で一層の強化を図っていきます。

またAM機器事業は、ゲームコンテンツと遊技機の相性が良くライセンス事業から自社製作にシフトして拡大してきました。

当社のゲームコンテンツ販売における近年の日本市場の販売実績は世界の成長に比べ劣位にあります。ゲーム産業はもともと日本から生まれ世界に羽ばたいた歴史があります。足下の日本市場の拡大に向けて両事業を推進、活用していきます。

さらにブランド拡大・浸透に欠かせないのが、ライセンス事業、eSports事業、映像事業です。

施策6 ブランド拡大②~ライセンス事業、eSports事業、映像事業の強化

ライセンス事業は、新作ゲームの発売時期に合わせたコラボ商品やインゲームコラボ案件の増加により、収益は過去最高の水準にあります。現在ライセンスビジネスは、日本とアジア地域が主体ですが、グローバル展開を念頭に置いた強化策を進めていきます。

eSports事業は、この2年間、新型コロナ感染拡大の大きな影響を受け、予定していたリアルイベントの多くは、プレイヤーや観客の皆様の安全を考慮し、開催方式の変更を余儀なくされました。一方で、オンラインで代替開催し配信できることはeスポーツの大きな利点です。eスポーツ普及拡大への取り組みを途切れさせないため、当社は、取り組みの2本柱のうち、① 個人戦については、年間世界ツアーである「CAPCOM Pro Tour」を、2020年に続き2021年においてもオンラインで開催しました。また、②チーム戦についても、国内で「ストリートファイターリーグ: Pro-JP2021」を実施し、参加を8チームに拡大、企業オーナー制を初採用することで、将来の地域フランチャイズ化や、育成機関の設置に向けた布石としています。米国でも「Street Fighter League:Pro-US 2021」をオンラインで開催しています。

2022年においても、「CAPCOM Pro Tour 2022」にて新カテゴリー「ワールドウォリアー」を追加するなど規模を拡大し、大会開催地域と参加者の多様化施策を講じていきます。チーム戦の「ストリートファイターリーグ」では、「JP」、「US」に続き、10月から「SFL: Pro- EUROPE 2022」を開催し、日・米・欧のチャンピオンを決める最終決戦を実施するなど、実施地域の拡大によりさらなる活性化を図ります。引き続き、新しいエンターテインメントの確立に向け、中長期の視点で振興策や裾野の拡大を推し進め、eスポーツが一般社会に広く認知、理解されるよう取り組んでいきます。

映像事業について、当社は、1990年代初頭の『ストII』ブームをきっかけに、コンテンツの商品化やハリウッド映画化などを積極的に進め、2000年代には全社戦略として「ワンコンテンツ・マルチユース戦略」を採用、多メディア展開において業界をけん引してきました。この中で、コンテンツのブランド化において大きな役割を果たしてきたのが、「バイオハザード」などのハリウッド映画化でした。

今後、グローバルで当社コンテンツのブランド化をより積極的に推進するため、2022年に米国ロサンゼルスに映像制作子会社を設置しました。自社出資により、ゲームと映像事業の連動を強化し、また同水準のクオリティに拘りながら、映画や動画配信サービスへの展開を強化していきます。

施策7 クラウドゲーミングやメタバースなど、新分野への対応

ここまで述べてきたデジタル戦略を通じた当社の成長は、この先も継続できると見込んでいます。他方、「クラウドゲーミング」や「メタバース」など新サービス・新技術の登場により、ゲームビジネスはこの先10年で更に急激な変化をする可能性があります。当社はマルチプラットフォーム戦略を採択しているほか、VRなど新技術へのいち早い対応実績などもあり、当然ながらこれらの新領域へも関心を抱き技術的な検証を行っています。

大事なことは、新技術を活用して新たなゲーム体験をユーザーの方々に提供することです。技術が先行してもゲームとして面白くなければ意味がありません。歴史的にも、このような新サービス・新技術がゲームの楽しさを拡げてきたというのが実感であり、今回もゲームの世界の更なる進化に期待しつつ、今後ゲームユーザーにとって実際にどの時期にどのようなメリットが生じるのか、現時点ではその推移を大きな関心を持って見守りながら、分析と対応を開発および事業部門に指示しているところです。

締めくくりとしてお伝えしたいのは、ビジネスの形態が変わろうとも、当社が最優先すべきことは変わらないということです。それは、これまでも一貫してきた、当社のコンテンツを世界最高レベルへと徹底的に磨きあげることであり、それを販売サイドがしっかりと訴求できれば、プラットフォームやサービスが変わってもユーザーに選択していただける。逆にコンテンツが中途半端であれば、たとえ一時時流に乗ったとしても、成長は持続しない。当業界の最前線を走り続けてきた経験則から、当社はそう確信しています。

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