CEOコミットメント

辻本 憲三

CEO COMMITMENT

確固たる理念のもと、
世界レベルの開発力と経営基盤で、
持続的に企業価値を創出します。

代表取締役会長
最高経営責任者(CEO)

辻本 憲三

世界的な困難と戦う皆様へ

2022年現在、新型コロナウイルスに対しては、官民の懸命な対応とリスク評価の進展により、社会経済活動の再開および平常化に向けた動きが進んでいますが、いまだ各所に影響が及んでいます。また、2022年2月にはロシアがウクライナに侵攻を開始するなど世界は様々な問題を抱え、社会はこれからも様々な困難との戦いを強いられることでしょう。ワクチンなどの医薬品やネットワークのようなインフラと違い、エンターテインメントというコンテンツは生活必需品ではありません。しかし、このような時にこそ、エンターテインメントが人々に楽しさや希望を届けることができると考えています。

我々の事業活動を通じ、世界中の皆様に困難な状況と戦う活力をお届けしたいと思います。

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企業理念・企業文化 ── 創業以来不変の理念

世界一、最高のコンテンツを「大阪から世界へ」

当社の経営理念は「ゲームというエンターテインメントを通じて『遊文化』をクリエイトし、人々に『笑顔』や『感動』を与える『感性開発企業』」であり、創業以来不変のものです。この経営理念こそが当社の社会的な存在意義を示しており、この経営理念に共感し集った社員は今ではグループ企業を合わせ3,500人を超えています。「ゲームは嗜好品であり人生に不可欠なものではない。だからこそ、ユーザーが面白いと思う世界トップクラスのブランドでなければならない。」私のこの考えは、エンターテインメント業界に飛び込んだ50年以上前から変わっていません。

現在、この経営理念のもと生み出された当社のゲームコンテンツは700を超え、今や国連加盟数を超える220以上の国と地域、言い換えれば全世界で楽しまれています。ゲームは生活必需品ではない嗜好品です。にもかかわらず、人々の生活に豊かさと彩りを与えるものとして、世界中で楽しまれているのです。マーケットデータを参考にすると、全世界のゲーム人口はおよそ30億人と言われています。

その一方で、世界には災害や紛争によりゲームを楽しむどころではない人々もいます。早く全世界の人々が心置きなくゲームを楽しめる環境が訪れるよう心から願うと同時に、問題の解決に向けて当社も微力ながら貢献していきたいと考えています。

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経営方針 ── コンテンツの創出と継続的な多面活用による持続的な成長

今後のゲーム業界の見通し

市場では、技術の進歩も絶え間なく続いていきます。それに伴い、ゲーム開発、プロモーション、インフラ、様々なものが進化していきます。当社の強みである「高品質なゲーム開発」を引き続き可能にするためには、進化を続ける業界において常に最先端を走り続け、新技術、新サービスへ遅滞なく対応できる体制の構築が不可欠です。2022年4月、人材投資戦略の一環として人事関連組織の再編や報酬制度の改定を実施したように、当社は将来に向けた投資を着実に行い、市場と共に成長を続けていきます。

経営の方向性 ─ 世界的なデジタルシフトへの対応
企業経営においては常に先の先を見据えて物事を考えることが重要です。例えば10年近く前、私はビジネス誌の取材を受けた際に、「世界屈指のクオリティを持つ商品を低価格でデジタル販売することができれば、業績は更に向上する」とお話ししました。当時はディスク販売が主流であり、デジタル版を購入するユーザーはほんの一握りでしたので、多くの人には信じ難い考え方だったかもしれません。またディスク販売が主流であることから、新興国では多くの海賊版が出回っていましたが、それも「長い目で見ればブランドを浸透させるプロモーションになる」とお話ししました。結果、デジタル販売が一般化した現在では、創業来生み出してきた700タイトルのうち300以上のタイトルを、国連加盟数を超える220以上の国と地域に向けて販売しています。

トップクラスのコンテンツを生み出すことは、今の業績を作るだけでなく、将来を切り開くための武器にもなります。だからこそ①世界トップクラスの面白いコンテンツ(IP)を創り出し、②その豊富なIPを多面的に活用し、収益を最大化するとともに、③これらを継続することで、持続的に成長する企業になることを経営方針として掲げています。

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経営戦略 ── 持続的な成長を可能にする体制の構築

世界トップクラスのゲームを作るための人材・開発設備への投資

業界で50年経営をしてきた私が痛感しているのは、「世界一面白いゲームを生み出すためには、最高水準の技術が必要不可欠である」ということです。我々は、来るゲーム市場の拡大と技術進化を見据え、新卒開発者の採用を強化してきました。また、クリエイターの能力を最大限発揮できるよう開発設備に積極的に投資しており、事業所内外には世界最先端の開発設備を備えています。こうした取り組みが奏功し、我々はここまで9期連続の増益を達成していますが、毎年上がる増益へのハードルを乗り越え、引き続き成長を続けていくためには人材への投資をさらに加速する必要があります。

そこで、さらなる人材投資戦略の一環として、2022年4月に報酬制度の改定とCHOの新設、人事関連組織の再編を行いました。詳細はCHOより説明いたしますが、就業環境のさらなる整備により、年間150人以上の採用を継続し、これまで以上に創造性を発揮できる体制の構築に努めたいと考えています。

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ビジネスモデルと中期経営目標 ── 強みを生かした戦略の推進

創業以来の強力なIP資産と高品質なコンテンツを作り続ける開発力

当社は、22年3月期で9期連続営業利益増益を実現し、直近5期で最高益を更新しています。

当社が掲げる「毎期10%の営業利益増益」を今後も当社の経営目標とし更なる企業価値を創出します。

当社では、大型ヒットタイトルの翌期は反動減となるボラティリティの大きい業界構造に対し、株主や投資家の皆様、当社の事業に関わってくださるステークホルダーの皆様の期待に応えるには、安定的に毎期増益を果たすことが重要な課題であると位置付けました。

その対処として、近年、企業活動による環境負荷への問題提起もなされる中、当社ではコンテンツのグローバル展開強化の観点から、ディスク販売を主とするビジネスモデルからダウンロード販売を主とするビジネスモデルに転換を図りました。

その結果、当社の販売地域は、一部の特定の国や地域を除きほぼ全ての国・地域に拡大し、年間販売タイトル数も300を超える状況になりました。

当社の強みは、①全世界でブランド化された多数の人気IPを保有していること、②世界最高品質のゲームを継続して生み出す開発力・技術力の2点と自認しています。

持続的成長に向けての課題
様々な外部機関の調査によれば、ゲーム市場は引き続き拡大していくとみられていますが、業界内で実際に事業を行っている当社はそれを肌で感じています。先述の通り、当社は220を超える国や地域でゲームソフトを販売していますが、社内の販売データを見る限り、ユーザーは今後さらに増えていくのが確実と考えています。

1.人材投資戦略
近年、当社の収益基盤は、その期に発売される新作タイトルから過去に発売した旧作タイトルに移行しつつあります。

このサイクルを持続的に拡大していくためには何が必要かという議論の中から、何より人材投資戦略を見直し再構築を図ることが必要だと結論づけました。

この人材投資戦略は、報酬制度の改定にとどまらず今後も良質な人材を確保し育成していくためには何が必要かという議論に基づいています。

2021年度には、まず報酬制度改訂に着手しました。当社では従来から開発部門におけるインセンティブ賞与など業績に応じた報酬体系としていましたが、旧制度故に一人当たり社員の平均年収の伸び悩み等が顕在化してきました。このため報酬制度を改定し結果として年間30%の報酬増額に至ったものです。今後は開発部門だけでなく事業・販売・管理部門においても働き方改革を進める必要があります。

未来に目を転じると、優れたコンテンツを生み出し、全世界のユーザーにさらに広げていくためには、当社全体を真のグローバル企業に革新し全世界から当社に集う社員のことを考えねばなりません。福利厚生制度やさまざまな外国籍社員のニーズに応えられる組織体制にする必要があると考えています。

2.ユーザー志向の変化、技術革新への対応
市場が拡大する中、今後ゲームユーザーには多種多様な遊び方が提案され、ゲームの購入チャネルも多様化していきます。ここで重要なことは様々なユーザーの皆さんへの遊び方提案に際して、ユーザーの皆さんが何を選好するかということです。そのためには、過去の販売データというマクロ的なデータに加え、ユーザー一人一人の皆さんの動向を知ることが重要になってきます。

また、ゲーム業界は最新技術の宝庫で、オンライン対戦にはじまりVRやAR、3Dなど、常に先端技術を活用したエンターテインメントを世の中に提供しています。

この傾向はGAFAの市場参入により更に勢いを増しており、ゲーム市場は今、かつてないほどの変革を迎えています。このような状況において、世界中でヒットするゲームを作るには、最先端の技能を持った人材を集結させ、最先端の技術開発の流れを読み解き積極的に対応していくことが必要になります。

3.年間販売本数1億本への挑戦、全世界ブランドの拡充・強化
2022年11月には全世界人口は80億人を突破すると言われ、現在でもすでに30億人のゲームユーザーが存在すると言われています。

2021年度の当社の年間販売本数は3,260万本でした。全世界マーケットシェアはわずか1.1%です。全世界のほぼ全ての国々に当社のゲームコンテンツが販売されているとは言え、国・地域によっては当社のゲームブランドが浸透したとは言えない状況にあります。我々が年間販売本数を1億本に到達させるためには、これらの国々へコンテンツブランド・コーポレートブランドを浸透・強化していくことが重要になります。当社では3年前にマーケティング戦略に関わる部門を再構成して販売部門から切り離し、企画戦略部門として位置づけました。この部門の中にデータ分析室を設置し当社の過去販売データ整理に着手させ、今後の販売本数シミュレーションに活用するなど概ね所期の成果を上げています。これは当社なりのデジタルトランスフォーメイション(DX化)取組の一例です。この取り組みを進めることにより、全世界のそれぞれの国・地域の販売動向を把握し、施策展開に活用していきます。

また、全世界へのブランド強化のために、eSportsや映像、ライセンス事業というゲームコンテンツの周辺ビジネスとの連携を強化していきます。

当社業績推移

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サステナビリティ ── 持続可能な成長に向けた取り組み

健全な関係構築と仕組みづくりで企業価値を向上

1.ゲーム会社が実現する持続的な成長
私は、事業活動を通じて、ステークホルダーとの健全な関係を構築することが企業価値の向上に繋がると考えています。そこで、ESGのうち特にS(社会)、G(ガバナンス)に該当する①開発者数、②ダイバーシティ、③教育支援、④社外取締役比率、を重要課題と認識しています。

また、当社は近年の業績成長により、企業として新たなステージに意識を移し始めています。今後もSDGsが掲げる持続可能な社会づくりの目標を踏まえ、ESGへの取り組みを推進し、ステークホルダーの皆様との信頼関係を構築しながら、持続的な成長を図っていきます。

2.ゲーム会社の環境対策
当社が取り組むゲーム販売のデジタル化は収益性の改善だけでなく、パッケージ製造の解消など、環境への負担軽減という側面もあります。また、当社では従業員のワークライフバランス推進のため、社宅や駐輪場を手配することで職住近接を推奨していますが、これも遠方からの通勤に伴う温室効果ガスの排出量削減が期待できます。そして2022年6月からは、関西圏の自社所有ビル等に対して、再生可能エネルギー由来のCO2フリー電力を導入しました。デジタルコンテンツの販売という業態は他業種と比較して環境への負荷は低いですが、やれることがあれば取り組んでいくべきでしょう。気候変動への対応は地球に住む全ての人々が協力すべき課題であり、今後も環境保全につながる取り組みを推進していきます。

3.ゲームと社会との健全な関係構築
ゲームは社会に必要とされる一方で、「未成年者の高額課金」や「ゲーム依存」といった課題も存在します。ゲームを通じて人々を幸せにすることが私達の目的であり、ゲームによってユーザーが不幸になることは望むところではありません。そこで私達はこれらを業界全体の問題と認識し、業界団体を中心に各社が連携し、①ガイドラインの制定・啓発、②加盟各社間の課題・事例の情報共有、③保護者・教育関係者・消費者団体・行政等との定期的な情報交換、などに取り組んでいます。

加えて、当社単独では、2004年よりゲームに対する社会的不安を取り除くための取り組みとして、ゲームに関する教育支援活動を継続して実施しています。

4.地域社会との関わり
基本戦略「ワンコンテンツ・マルチユース」の推進により、広く社会に貢献していきます。具体的には、当社の人気コンテンツを活用した地方創生活動として、①経済振興の支援、②文化啓蒙の支援、③防犯啓発の支援、④選挙投票の啓発支援、を行っています。これらの共通課題である「若年層の集客や訴求」への解決手段として、定量的な社会的成果をあげています。また、今後はさらなる社会貢献として、社会福祉やスポーツ、技術、文化の振興に対しても積極的な支援を行っていきます。

5.従業員との関わり
私は、世界で通用するコンテンツを創出するにはダイバーシティが重要と認識しており、性別・人種にこだわらず優秀な人材の確保・育成を推進しています。就業環境の改善にも継続して取り組んでおり、2017年度には事業所内保育所「カプコン塾」を設置し、子供を持つ従業員がより安心して働けるよう環境を整備したほか、報酬面では2022年4月に種々の改革を行い、平均基本年収30%の引き上げや自社株式を従業員に交付する株式付与ESOP信託の導入を決定し、モチベーションの向上を図っています。

6.安定成長のため、不正対策を継続
データを扱う企業として、それらの価値や権利を守ることも重要です。インターネット上の海賊版や違法動画に対しては、常時から検知・削除を行うなど、継続した対応を行っています。また近年では、デジタルネットワーク技術の浸透に伴いサイバーアタックのリスクも高まっています。当社では2020年に受けた不正アクセスの経験を踏まえ、セキュリティ監督委員会の設置など継続的に対策強化を進めています。

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ガバナンス ── 客観性を重視し、持続可能な仕組みを作る

ガバナンス体制の強化

前項にてお話ししたサステナビリティ実現のためには、健全なガバナンス体制も必要不可欠です。特に、当社は創業者の私がCEO、長男がCOOですので、社外取締役の監督機能を十分に発揮させ、取締役会が透明性・合理性の高い意思決定を行う独自の仕組みを構築し、「経営判断リスク」を回避しています。

仕組み1 数字を主体とした「経営の見える化」

私は、一貫した経営を行うため、経営判断する材料(資料)を原則数値化、いわゆる「経営の見える化」を行っています。資料は売上比、前年比、計画比など比較対象を示し、複合的にチェック可能にすることで問題点を見つけ出しやすくしています。

仕組み2 継続的なガバナンス改革

当社は、これまで23年間にわたり、諸種のガバナンス改革を断行してきました。

2002年3月期の社外取締役制度導入を皮切りに、取締役の社外比率を46.7%まで向上させています。社外取締役の選任基準は導入当初から現在も変わらず、一言で言えば、「良識があり、ゲーム以外の各分野で最高レベルの専門家に、当社の経営・事業活動を冷静に判断していただくこと」です。事業投資リスクを回避することを優先課題として、「特に業績が思わしくない時、創業者にも物怖じせず、正論を意見できる方々」を選任し、一般社会の視点で妥当性を判断していただきます。なお、2022年6月には、経営人材力および取締役会の監督機能のさらなる強化のため社外取締役2名を増員しています。

仕組み3 経営管理の仕組みづくりと後継者育成

私は39年間、自身の経営哲学に基づいてカプコンなりの仕組みづくりを行ってきましたが、この仕組みを後継者に理解させ、実行できるようにすることもまた、創業経営者の務めです。後継者計画に関する議論は指名・報酬委員会への諮問を通じて行われますが、後継を鍛え上げ、「企業理念」、「仕組みの整ったガバナンス」がかみ合えば、持続的な成長が実現できるでしょう。

上場以来32年連続配当と過去最高配当で長期株主に報いる

  • 上場以来の1株当たり配当金(円)
  • 株主総利回り(TSR)

最後に、株主の皆様との関係において重要な資本政策に関する私の考えをお話しします。

1.配当に関する基本方針
私は、変化することが当然のゲーム産業において、「企業として安定的な成長を遂げるとともに、長期株主には安定的な増配で報いたい。」という信念で、創業以来39年間経営を行ってきました。

持続的な企業価値向上のための要諦は前述しましたが、株主の皆様への利益還元についても経営の重要課題の一つと考えており、将来の事業展開や経営環境の変化などを勘案のうえ、配当を決定しています。一方で、事業環境が大きく変化する中、持続的成長に向けての投資にも配意する必要があります。

それらの点を踏まえて、株主還元方針を、①投資による成長などにより企業価値(時価総額)を高めるとともに、②連結配当性向30%を基本方針とし、かつ安定配当の継続に努め、③機動的な自己株式の取得により1株当たり利益の価値を高めること、としています。

私が配当性向だけでなく安定配当を大切にする理由は、例えば年金生活で配当を生活費の一部として生計を立てている方にとっては、急な無配・減配はリスクになるからです。定期的な収入は、将来の安定した生活設計につながります。年金を運用する長期投資家の方からも配当の安定性を求めるご要望をいただきます。

多様な株主の皆様の中にも、このような方々がおられるからこそ、1990年の上場から32年間、一度も無配にしたことはありません。また、2022年3月期は分割を考慮すれば5年連続の増配を達成しています。

この結果、この5年間の株価の上昇を含めた株主総利回り(TSR)は+572.0%であり、TOPIX(+144.3%)を大きく上回るとともに、同業他社比較でも上位に位置しています。

2.次期の配当
次期(2023年3月期)の配当は、配当性向28.5%となる年間46円を予定しています。なお、配当性向が30%を下回っていますので、次期の連結業績の見通しが確定した際に、配当額を見直します。

私は、ゲーム業界を長年走り続けた経営者として、過去39年間を超える更なる企業成長を図り時価総額を増大させることで、株主や投資家、ステークホルダーの皆様のご期待に応えていきます。

代表取締役会長
最高経営責任者(CEO)

辻本 憲三

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