CFOが語る財務戦略

野村 謙吉

CFO COMMITMENT

持続的成長への財務・投資戦略
~財務基盤強化を図りつつ
成長戦略投資を拡大

取締役専務執行役員
最高財務責任者(CFO)

野村 謙吉

  • 財務戦略の概要
  • 中期経営計画の進捗状況

    当社は「毎期10%の営業利益増益」の経営目標を掲げ、全世界でユーザーの拡大に取り組んでおり、ゲームソフトの年間販売本数1億本の実現を目指しています。2022年3月期、デジタルコンテンツ事業のゲームソフト年間販売本数実績は3,260万本で前年比8.3%増加しました。このうち2021年3月以前に発売した旧作タイトルの販売本数は2,400万本で全体の73.6%を占めています。また旧作タイトルの販売本数は前年比17.1%増加となり、旧作タイトルの販売本数増加が全体の増加に大きく寄与しています。

    同様に営業利益面でも、旧作タイトルの販売増加を主因としてデジタルコンテンツ事業の営業利益が前年比22.6%増加し、同事業全体の営業利益率は50%を超え、連結業績全体の牽引役を果たしました。

    利益率の高い旧作販売が着実に増加し連結収益の岩盤となる収益構造が安定してきました。

    新作タイトルの販売実績に拘わらず安定的に営業利益の拡大を目指すという点で着実な進捗状況と自己評価しています。

財務基盤の状況
~特にキャッシュ・フローについて

  • 昨年の統合報告書では、近年の当社の収益構造が変化し、財務基盤が強化されたことをご報告しました。2023年3月期の実績を踏まえた5年前との比較は表の通りです。

    今回は、運転資金影響を除いた営業キャッシュ・フローとキャッシュの状況、開発部門のROIを新たに加えています。

    まず、2022年3月期の財務状況においてポイントとなるのが現預金残高とネットキャッシュが1,000億円を超えたことです。私の重要な仕事の一つはキャッシュを安定的に確保し、成長投資の原資を確保することです。当社のキャッシュを産み出す力について私は以下のように考えています。

  • 財務基盤の状況

注視しているキャッシュを産み出す力

財務諸表における営業キャッシュ・フローは、会計上の利益とは異なり会計ルールに基づく運転資金の収支ずれ(売掛金、買掛金、ゲームソフト仕掛品等の収支差額)等の変動に影響を受けます。運転資金のうち、売掛金に関しては期末月の売掛金が期末月の売上高により大きく変動します。例えば3月に新作タイトルの発売等があると売掛金が大きく増加し、利益は増加するものの現預金には反映されません。一方、当社の売掛金はデジタル販売による売掛金が主であり、その取引先は限られていて債権管理上も問題なく、ほとんど翌月~翌々月には回収が完了します。2022年3月期には貸借対照表上の現預金残高は360億円増加しました。営業キャッシュ・フローで見ると、会計ベースでは469億円ですが、このうち主に売掛金の回収に伴う運転資金の減少から、約117億円のプラス影響があり、これを除いた352億円が2022年3月期のキャッシュ創出の実力と考えています。ここから納税や配当金支払いを行い、残りがその期の事業により産み出した投資原資確保となります。

  • 他方、2022年6月期(2023年3月期第1四半期決算)における会計上の営業キャッシュ・フローは△55億円と減少しましたが、同様に運転資金影響を見ると売掛金の増加を主因として158億円がマイナスに影響しており、これを除くと実力は103億円の増加と捉えられます。ここから、第1四半期は納税と配当金支払いを112億円行いました。

    このように、私は運転資金の影響を除いたキャッシュ・フローの動向を常に注視しています。

  • 運転資金を除いた営業キャッシュ・フローの推移(億円)

キャッシュの増加と成長投資強化の両立を目指す

  • 当社のビジネスの原点はヒットビジネスであることです。近年、開発陣の努力により新作タイトルは市場とユーザーの予想を上回り業績面で大きく貢献しています。これが5年前と比較したROIの改善に見られます(ここでのROIはコンテンツ制作に投下した資金に対する営業利益の比率です)。しかし、特に市場全体を巻き込む大きな事業環境変化の中では、CFOとしては発売してみないとわからない、というスタンスが必要と考えています。2022年度の年間開発投資予定額は420億円ほどです。これに後程述べる成長のための必要投資を加えると、さらにキャッシュ残高を確保する必要を感じています。

  • キャッシュの増加と成長投資強化の両立を目指す

今後のキャッシュ残高見通し

2023年3月期の公表業績予想は、売上高1,200億円、営業利益480億円、当期純利益345億円としています。税金の詳細な加減算を考慮しなければ、当期純利益から配当金支払を行い、計算上では240億円ほどのキャッシュ増加となります。実際には、期中における投資や計画外の費用支出等がありこの通りにはいきませんが、キャッシュ増減の中期傾向をつかむ参考にしています。

この見方をすれば、「毎期10%の営業利益増益」という経営目標は当期純利益と着実なキャッシュ増加につながるはずであり、その金額を念頭に投資管理、支出管理等を行っていきます。言い換えれば、年間のキャッシュ創出力を注視しキャッシュ増加のトレンドを確保しながら成長のための投資を中期目線で行っていきます。

持続的成長への投資

人材投資戦略

当社では、人材投資戦略の再構築の一つとして、年間報酬を平均で30%引き上げることとしました。これは原価と経費のコスト増加に直結します。賞与の支給時期等の要因もありますが、2023年3月期業績への影響は約50億円を見込んでいます。同事業年度の業績予想に織込み済みですが、単にコストの増加要因と捉えるのではなく、これにより社員の皆さんがモチベーション高く各種課題に対応してくれることを考えれば、この報酬増額は人材への投資となり、この投資がさらに利益とキャッシュを産み出していくサイクルにつなげることを狙いとしています。

また、採用面でも年間150名以上の人材確保の方針を継続しますが、働き方改革を進めるとともに、開発スペース拡大のための投資も視野に入れています。

事業環境変化への投資

当社では全世界における販売地域と当社コンテンツユーザーの拡大を進めていますが、ゲームデバイスや販売チャネルも多様化し、ゲームユーザーの選択肢もまた広がっています。ゲームユーザーの好評価を得ることがコンテンツの長期販売につながりますが、そのために開発陣はユーザーの皆様に新しいゲーム体験を届けることを念頭にコンテンツ制作に取り組んでいます。当社の開発陣の技術レベルは既に業界トップクラスですが、ゲームに活用できそうな周辺分野を含め最先端技術の情報の収集を絶えず行っており、こうした投資を柔軟に機動的に行っていきます。

同様に販売面でもゲームユーザーの皆様の動向に注目しており、これまで以上にユーザーの動向を早くつかんで対応策を講じる必要があります。すでにデータ収集・分析のスピードアップのためのAI研究などに着手していますが、さらに収集データを拡大するとともに、より詳細に幅広く捉えていくための投資を積極的に行います。また現在の当社にないスキル・ノウハウの獲得についても外部人材の確保も視野に入れて積極的に取り組んでいます。そうした意味では2020年11月の不正サイバー攻撃被害を忘れることなく、現在もセキュリティレベルの更新に取り組んでいますが、今後も着実にセキュリティ強化対応を継続していきます。

ブランド拡大・浸透への投資

当社のゲームソフト販売はすでに2023年3月期までに200を超える国・地域に拡大し、年間販売タイトル数も300を超えています。持続的成長実現のために全世界への販売を拡大していくことが戦術面の骨子になりますが、今後は現在年間販売本数100本未満の国・地域を1,000本、10,000本以上に、1,000本未満の国・地域を10,000本、100,000本以上に、というように各国・地域の販売本数を増加させていくことが重要になります。

当社は強力なIPを複数有することが強みの一つですが、全世界を国・地域別に見るとまだまだコンテンツブランドとカプコンのコーポレートブランドを浸透・拡大させる必要があります。このブランド拡大の対応策の一つとして世界中を転戦する日本代表チームを支える「公益財団法人日本バレーボール協会」や、サッカークラブの運営においてアジア戦略を展開する「株式会社セレッソ大阪」とのスポンサー契約を締結しました。

さらに、ゲームソフトの販売ビジネスと周辺事業とのシナジー効果をより発揮できる環境整備が重要と考えています。

例えば、当社は4月にCapcom Pictures Inc.を新たに設立し、映像事業を強化すると発表しました。これは、これまでライセンスアウトが主体であった映像ビジネスのモデルに自社制作を加えブランド拡大に活用することが主な狙いです。具体的なことは今後の進捗状況に即してお伝えしていきますが、同様にeSportsやライセンス事業等と連携させていきます。

ESG・SDGsへの対応

当社では全世界の一人でも多くの方々に当社のゲームコンテンツを楽しんでいただきたいと考えていますが、そうした点から今後もESG・SDGsに積極的に対応していきます。当社が5年前にデジタル販売の拡大・強化の方針を打ち出した際には、販売のデジタル化によるプラスチックの使用縮減等に資すると考えていました。近年は、気候変動に関する課題が大きく捉えられています。当社では2022年6月より、開発部門を主とした関西圏の自社所有ビルにおいて、関西電力様のご支援を得て再生可能エネルギー由来のCO2フリー電力を導入しています。これからも企業市民の立場から当社として何ができるかを積極的に考え続けていきます。

企業成長に伴う株主還元について

株主還元について、「連結配当性向30%を基本方針として安定配当に努める」という基本方針に変更はありません。2022年3月期まで株式分割を考慮すれば6期連続の増配を達成しましたが、これからも安定した業績成長を継続することで、安定的な増配を実現したいと考えています。また、自己株式の取得も還元に資する重要な方針の一つであると認識していますので、従来同様株式価値の向上に資すると判断できる場合は機会に応じ適切な対応を図ります。一方で自己株式の具体的な使途についても適時検討を進めており、2023年3月期より正社員を対象に、勤続年数や職位等により一定年数経過時または退職等のタイミングで自社株式を交付する「株式付与ESOP信託」制度を導入したほか、2022年6月に取得した自己株式4,387,353株についてはその全てを消却しています。

また、当社の試算では、2022年3月期末時点での資本コスト(WACC)は4.69%となりました。当社は自己資本比率が高く借入金が少ないことからROICではなくROEを重視していますが、同期のROE(24.4%)はこれを大きく上回っています。これからも中期目標である毎期営業増益を安定して達成することで、高い水準を維持し、引き続き株主の皆様へのご期待に応えてまいります。

  • 設備投資・開発投資額(百万円)
  • 総還元性向(%)

オンライン統合報告書(アニュアルレポート)バックナンバー