開発責任者が語る技術開発

技術開発
竹内 潤

タイトルの本質を研ぎ澄まし、
クリエイティブ力と技術力で
かつてない体験を提供。
大阪から世界へ、
独自コンテンツで挑み続ける

専務執行役員 CS第一開発統括 兼 技術研究統括

竹内 潤

JUN TAKEUCHI

「バイオハザード」シリーズなどに長年携わり、第一開発統括および技術研究統括として指揮を執る。2022年4月より現職。グローバル戦略や開発マネジメント、技術開発に注力。

不可能を可能にする自社開発ゲームエンジン「RE ENGINE」

「RE ENGINE」の「RE」には「reach for the moon(月に触れる)=実現不可能なこと」をこのエンジンで可能にしていく思いなどが込められています。表現力の向上やVRをはじめとする先端技術、マルチプラットフォームへの開発に対応しており、ゲーム開発とエンジン開発のチームが連携し、各タイトルに合わせて常にバージョンアップ。「高度な技術をより簡単に、開発しやすいエンジン」を目指し、世界で戦うタイトルを開発するために常に進化しています。

  • REエンジンの可能性

    REエンジンの可能性

    「RE ENGINE」は、それ一つで全ての開発タイトルに対応することを目標に開発されたエンジン。タイトル毎に異なる機能をモジュール化することで、互換性を保てるよう設計されている。

  • 自社開発のメリット

    自社開発のメリット

    カプコンとして開発したいコンテンツを、よりスピーディーかつ容易に実現できるようエンジンをカスタマイズ。クラウド化することで、容量を一時的に増強することも可能にし、複数タイトルの開発に対応。今後増加するプラットフォームにも、柔軟に対応できる。

    難解な技術を、開発者が扱いやすいよう簡便化することで、よりスムーズな開発環境を実現している。

  • 最先端グラフィックス

    最先端グラフィックス

    実写さながらのフォトリアルな描写を実現。レイトレーシングやラジオシティ効果など、光の拡散や反射といった煩雑な工程もシミュレーション技術により繊細に再現。変化に先駆けて対応できるよう、様々な先端技術を研究開発および導入している。

“カプコンらしさ”を持つタイトルをグローバルに展開

「グローバルで通用するタイトルを生み出す」。このことを強く意識して、私たちは開発を行っています。現在、当社では世界200以上の国と地域でソフトを販売していますが、私が統括する第一開発では、「バイオハザード」や「デビル メイ クライ」シリーズといった海外での人気が高いタイトルを数多く輩出するなど、以前からグローバルでの展開に力を入れてきました。

累計販売本数1億2,700万本(2022年6月30日時点)を誇る「バイオハザード」シリーズは、ありがたいことに世界中のユーザーに愛され昨年25周年を迎えましたが、同シリーズが求められていることは変わらず「圧倒的な恐怖体験」です。エンターテインメント性やそのほかの付加価値も大切ですが、長期販売の鍵となるのは、タイトルの本質を追求すること。世界共通の感覚である“恐怖”こそがこのシリーズの本質だと考え、2017年発売の『バイオハザード7 レジデント イービル(以下、『バイオハザード7』)』では原点回帰をテーマに、つくり手である私たちが「バイオハザード」の本質と今一度向き合い、開発に取り組みました。その結果、没入感溢れる恐怖体験が世界中のユーザーに高い評価をいただき、発売以来6年間、毎期100万本以上の販売を継続するヒットタイトルとなりました。また、同作では将来を見据えた先端技術研究の一環としてVRに積極的に対応するなど、多様な方法で“恐怖”を体験できるよう取り組みました。

また、2019年発売の『バイオハザード RE:2』では、往年の人気作である『バイオハザード2』を単にリメイクするのではなく、臨場感やドラマ性など、シリーズが持っている本質を、現在の技術を用いてどのように新たな恐怖体験として提供できるのかに挑戦しました。開発は苦難の連続でしたが『バイオハザード7』で得た経験も活かし、ユーザーの評価を得て累計販売本数は全世界で1,000万本を突破しています。

「バイオハザード」シリーズは、作品毎に完結しながらも、ストーリーは全体で繋がっています。そのため、リメイク作品を提供することで、従来のファンだけでなく、新しく始めるユーザーにシリーズのストーリーの大きな流れを知ってもらうことも狙いにしています。『バイオハザード7』の続編である『バイオハザードヴィレッジ』も、2021年の発売から世界で高評価をいただき、上記の2作に続き、グローバルタイトルとして長期販売を目指せるタイトルであると考えています。

販売面でも、デジタル販売がグローバルで普及したことで、国や地域、発売時期を越え、遊びたいときに遊べる環境が整いました。更に、マルチプラットフォーム戦略の推進により、各ハードでの発売タイミングを揃えることで、ユーザーが所持しているハードに関係なく発売日にゲームプレイできるよう心掛けています。

時代とともに変化する価値観や技術に合わせてコンテンツも進化させ続けることで、今後も世界に通用するタイトルを生み出していきます。

クリエイターの感覚をフルに生かし、新たなゲームを世界へ

開発の要は「人」です。カプコンでは、社員一人ひとりの才能や力を発揮できる環境にするため、タイトル毎に必要な人材を臨機応変に割り当てるアジャイル型の開発体制を採用しています。柔軟な組織であることが、ゲーム開発の面でも社員のモチベーションの面でもメリットが大きいからです。また、育成方法も、個性に合わせて変化させ、より個人の強みを伸ばすことができる体制を目指しています。例えば、現在開発中の新作『プラグマタ』は、若手社員が果敢にチャレンジし、制作しているタイトルです。予告映像で登場する少女は、3Dスキャンを用いた従来の制作方法に囚われず、若手社員が全く異なるアプローチでゼロベースから作画したものです。デジタルネイティブの感覚が新たな風をカプコンに吹き込んでくれていると感じています。

そして、ものづくりに没頭することも大切ですが、ビジネスとしてタイトルを成功に導くためには、全体を客観的に捉えるバランス感覚も重要です。私が若手社員に伝えている3つの掟は、「誰も見たことがない一見の価値があるゲーム」、「世界中の人 が面白いと感じるゲーム」そして「実績をつくることで自分の作りたいゲームが作れる」です。ユーザー目線でカプコンらしいゲーム開発を行うことを意識してほしい。

また、人材投資戦略のもと、従業員の健康を第一に考え、福利厚生の充実や労務管理を徹底するなど、働きやすい環境づくりも推進しています。開発メンバーの外国人比率も上がっており、多様な価値観のもと、よりよいゲーム開発を行える環境があると自負しています。多様性を持ちながらも、日本発のゲームメーカーとして、カプコンの強みを活かしたゲームを世界に提供する、それが開発部門の役割だと考えています。

今後のゲーム開発の方向性として「ゲームコンテンツの中でユーザー同士が楽しめること」があります。何かのテーマに向かって人が集まってくる。その空間で暮らすようにゲームを楽しむ。そんな、コンテンツファーストなゲームです。それに限らず、ユーザーから「これからカプコンはどのような楽しみを提供してくれるのか」そう待ち望まれるような開発を目指していきます。

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