CHOが語る人材戦略

宮崎 智史

CHO COMMITMENT

人材投資戦略の再構築=持続的成長を実現する人材投資

取締役副社長執行役員
最高人事責任者(CHO)

宮崎 智史

新たな人事機能の概要

拡大を続けるゲーム市場の中で存在感を発揮するカプコン

私は前職の銀行時代からいろいろな企業を見る機会がありましたが、その中でゲーム業界は、デジタル化によりグローバルで市場が広がっているという印象でした。中でもカプコンは強力なIPと高い開発力を持つことから非常に伸びしろがある企業と認識していました。

そして2021年にカプコンに入社しましたが、入社後もこの認識が変わることはなく、内部から見ることで改めて経営や会社のレベルが確実に上がっていると実感できました。

ただ、どれだけ好調な企業にも課題はあります。

当社は2013年以降、毎年100名以上の新卒採用を行い、加えて即戦力人員として中途採用にも積極的に対応してきました。その結果、2022年6月末には連結で3,350名、単体で3,052名の社員数となり、そのうち開発部門の社員数は2,494名です。近年、若手社員の就業意識は多様化していますが、これらの社員の価値観を的確に捉え、ニーズに対応していくことが必須になっています。加えて当社には世界33ヵ国(本社在籍)から有為の人材が集まっており、国内社員の意識の多様化に加え、外国籍社員のニーズにも対応していくことが持続的成長には不可欠と言えます。

当社は直近5年間では最大234の国・地域にコンテンツを販売しており、ビジネスベースではすでにグローバル企業の仲間入りをしたと考えていますが、世界の隅々までさらに当社のビジネスを拡大していくためには当社自身が真のグローバル企業に転身していくことが求められます。

持続的成長のための人材投資戦略再構築

今、カプコンはデジタル戦略という成長戦略が奏功し、9期連続の営業利益増益を達成しています。当社の強いIPと開発力に加え、近年では過去の販売データを活用して販売拡大に取り組んでいますが、いろんなシミュレーションを行った結果、さらなる持続的成長は十分可能と判断しています。

当社の強いIPと開発力を支えているのが開発部門ですが、当社の財務諸表に表れる人件費はコストであるとともに成長に向けた投資でもあります。また、事業・販売・管理の各部門においても現在の仕事をデジタル化させ、当社の課題を浮かび上がらせ、事業環境の変化に即したソリューションの提示に向かってもらわなければなりません。

持続的成長を続けていくためには人材投資を見直し、再構築する必要があるとの課題認識から今般人材投資戦略を再構築するに至りました。現在進めている人材投資戦略の主なものをご紹介します。

1.報酬制度の改定と株式報酬制度の導入

当社では以前から業績への貢献度合いに応じた報酬制度を設けていました。しかし、2020年度は前年比51.6%、2021年度は24.0%の大幅な営業利益増益を達成したものの、これまでの制度体系では報酬面で十分報いることができませんでした。そこで制度の制約を超えて検討した結果、報酬制度そのものを改定し、2022年度は結果的に年間で30%の報酬増加に至ったという背景があります。加えて社員の努力が会社の市場での評価向上につながり、それが報酬に反映されることを実感してもらう目的で、株式報酬制度を導入しました。

「毎期10%の営業利益増益」を持続的に実現するため、会社業績の拡大が自らの報酬増加につながり、社員一人一人の報酬も業績寄与に応じてそれに報いる仕組みとしました。新たな報酬制度は、今後も経営環境や社員の意識変化を踏まえて磨きをかけていきます。

2.人事関連組織の再編

①開発人事部
組織面では、これまで人事部が開発部門を含む全社の人事業務を担当していました。とくに社員数の7割超の開発部門の業務は、事業・販売・管理系の業務とは異なり、永年培ってきた独特の体制となっています。組織図的には、プログラムやグラフィックなど業務の特性に応じた組織体制としていますが、実際にコンテンツ制作を進めるには一種のプロジェクトチームの様相を呈しておりダイナミックにコンテンツを制作していきます。

これらの業務運営において、開発部門におけるさまざまな課題に対応するには、開発部門に特化した人事組織が必要と考え、開発人事部を開発管掌取締役の下に設置しました。

②健康経営推進部
次に、社員の就業意識やニーズの多様化を吸い上げ、課題解決を図る組織として健康経営推進部を設置しました。社員の健康管理だけでなく、様々な悩みや時間外管理など労務問題やハラスメントの問題にも対応できることを目指していきます。まずその仕組みとして、健康経営推進部内に日本語対応と外国語対応の2つの相談窓口を設置し、現場の問題意識や課題が経営に直接伝わるようにコーポレート経営管掌下に配置しました。

③経営企画部人材戦略チーム
続いて、採用や報酬制度など人事企画的な役割を担う部門として経営企画部内に人材戦略チームを配置しました。制度上の問題をはじめ、中長期にわたる人材確保に関わる課題抽出と対応方針の策定などを速やかに行い、経営に直結する経営企画部が課題対応を行う仕組みとしました。

④人事業務部
人事業務の中で、主にオペレーション業務と社員サービスの向上を担うのが人事業務部です。人事関係のデータを取りまとめ他の部署と連携して、教育研修、採用、退職対応、人事ローテーション等の実務を着実に遂行する中で、人事実務に関する課題抽出と対応を他の人事関係部とともに遂行していきます。

3.就業環境の改善

社員の就業意識や価値観の変化・多様化には積極的に対応していく必要があります。当社でも厚生労働省が定めたストレスチェックを行っていますが、その回答結果を各部門や現場での諸問題の吸い上げに活用しています。

また2023年3月期には、ハラスメント防止に関する役員部長研修会を開催し、その中でも近年の若手社員の意識変化やその対応に関する問題意識を共有しました。ともすれば企業風土の問題と片付けられかねない問題ではありますが、社員の就業意識の変化に対応できない企業風土には時間がかかっても積極的に改善していきます。

当社の退職率は、ここ数年4%前後で推移していましたが、昨年度は5%台と増加しました。この背景には、近年の就業意識の変化やヘッドハンティング、社内体制への不満など様々な要因が輻輳していると考えています。当社では、退職者が発生した場合、人事担当部門による退職者面談を行っています。その面談の中でも当社の課題抽出を行って施策に反映させてきており、報酬もその要因の一つでした。また例えば外国籍社員の方から当社の福利厚生や日本での生活サポートに関して改めて課題認識をさせられた事例も数多くあります。こうした対応をさらにスピードアップして改善に努めていきます。

4.人材の多様化

当社のコンテンツが全世界に広がる中で、社員構成においても国籍の多様化は必須のことであり当社を支える社員構成もさらに多様化を進める必要があります。当社のゲームコンテンツが全世界の隅々まで行き渡るためには、当社自体が世界の国々の状況をより積極的に収集することが必要です。こうした面から外国籍社員の多様化という課題に直面します。また現在のゲームユーザーのデータを見ると、性別・年齢構成などその個人属性は大きく変化しています。

  • なお、2022年3月末の女性社員数は637名(構成比21%)で5年前に比べ42%増加しました。一方、外国籍社員は191名(同6.3%)で93%の増加です。このうち女性管理職は女性社員数の5.5%、外国籍社員の管理職は外国籍社員数の3.7%です。この5年間で人材の多様化に積極的に取り組んできましたが、現在の諸課題を考えるとまだまだ不十分と考えており、さらに多様化の進展に取り組んでいきます。

  • 女性・外国人社員数および構成比

5.最高人事責任者(CHO)の新設

これまで申し上げた事例は経営レベルで対応する必要があり、さらに4つの人事関係部は管掌取締役・担当執行役員も異なることから、会社としての人事に関わる諸問題を取りまとめる職位が必要であり、最高人事責任者(CHO)を新設しました。当社の持続的成長のために対応すべき課題に対し、着実に変革を進めていく所存です。

当社のデジタルトランスフォーメーション(DX化)について

デジタル戦略の要となるのが、データ分析です。

当社では3年前にマーケティング戦略部内にデータ分析室を設置し、現システムで遡及できる2000年代後半からのデータ整理に着手しました。今では世界の200を超える国・地域のコンテンツ販売状況を国・地域別、タイトル別に把握できるようになりました。有能なデータアナリストやシステム担当者を外部採用して進める方法もありましたが、当社ではゲーム業界ならではの取引慣習やコンテンツ特性、サービス内容を把握していることがデータ整理・分析に必要と判断し当社の社員の中から適任と判断した人材を活用し現在に至っています。今後さらにデータが蓄積されますが、このデータの分析・活用をさらにレベルアップさせ、業績シミュレーションの精度向上に期待しています。このほか事業・販売・管理部門においてもビジネスモデルの変化に伴い業務フローを見直す必要があります。

時流にそぐわなくなった業務を廃し、課題に即応できる効率的な業務フローを構築していくためにシステム化を推進し、業務変革を進めていきます。

社員への情報共有の強化

私は様々なデータからこの10年間で当社は確実にステージアップしていることを実感しています。

当社ではCEOの経営方針の下、経営情報を数値化し、そこから課題抽出と対応策を展開する仕組みが構築されています。この数値化したデータは、職位によりますが社員にも共有されています。しかし、変化の速い現在の状況下では、数値を読み取る力において社員の間に差が出てくることは避けられません。

そうした問題意識の下、2023年3月期より当社の事業概況に関する社員向け説明会を実施しています。この説明会では、この10年の経営方針に基づく成長の軌跡とその要因・課題を共有し、経営からのメッセージだけでなく、質疑応答や意見交換も行いました。これまで3回開催し、合計で385名の社員が参加してくれ、経営レベルの問題意識共有に手応えを感じています。社員の皆さんの要望もあり、今後定期的に開催していく予定です。

人材投資戦略が目指すこと

  • 当社では積極的な採用方針の下で、開発陣の強化に努めてきました。持続的成長を実現するために今後も継続していきますが、ゲーム業界・市場の変化により当社が必要とする人的リソースも変化していくと考えており、これに対応していく必要があります。人材確保も多様化させ、コンテンツの制作力を強化するとともに生産性の向上を図り、またデータを活用した数値経営を進化させていくことが求められています。これからの10年はこれまでのゲーム業界の歴史と比べ、より大きな変化が待ち受けており、それに即応していくための基盤作りとして人材投資戦略を推進していきます。

  • 宮崎 智史

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