CFOが語る財務戦略
取締役専務執行役員
最高財務責任者(CFO)
野村 謙吉
財務戦略の概要
戦略 1
ネットキャッシュの改善
タイトル別投資回収状況(ROI)と運転資本効率化の徹底
戦略 2
資本効率の向上
株主資本利益率(ROE)を安定的に向上させる
- 過去最高益の達成を受け、財務戦略には変化がありますか
- 引き続き「資本効率の向上」と「ネットキャッシュの改善」に取り組みます
当社は中長期的な企業価値の向上を目指す成長戦略を遂行しており、中核となるデジタルコンテンツ事業において開発環境の整備とタイトルラインナップの拡充を推し進めるため、毎期約300億円程度の開発投資を行っています。このような投資を可能にする強固で柔軟な財務基盤を構築するために、「資本効率の向上」と「ネットキャッシュの改善」の2つに取り組んできました。
2018年3月期は、成長戦略に基づく投資が大型タイトルの記録的ヒットとして結実し、過去最高益を更新した結果、足元のキャッシュが増加しました。また、日進月歩の進化が続く当業界においては、数多くの新技術やサービスが登場しており、投資の選択肢は広がっています。
しかしながら、私は引き続き投資判断の基準を緩めることなく、選択と集中に努めるとともに、原価・販管費などのコストを徹底的に見直し、一層筋肉質な財務基盤の構築を図ります。その上で、IPの価値向上に資する大型タイトルの開発や成長分野であるeスポーツなど、戦略的に優先度が高い案件への機動的な投資を実現するため、投資規模に見合う水準での財務基盤の安定的な確保を図ります。
- 資本効率向上の成果を教えてください
- 成長戦略の進捗とともに、ROEは安定的に向上しています
当社は、資本効率性の指標としてROE(株主資本利益率)を重視しており、業績成長とともに安定的に向上しています。ROEの3要素のうち、重点項目としている(1)当期純利益率は、成長戦略の進捗に伴い一段の向上を果たしました。また、総資産および自己資本も適正水準で推移しており、(2)総資産回転率、(3)財務レバレッジも概ね上昇基調を維持しています。
ROEの3要素 | 2016/3 | 2017/3 | 2018/3 | 2019/3(計画) |
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(1) 当期純利益率(%) | 10.1 | 10.2 | 11.6 | 12.5 |
(2) 総資産回転率(%) | 68.1 | 73.3 | 75.3 | – |
(3) 財務レバレッジ(倍) | 1.50 | 1.53 | 1.47 | – |
ROE(%) | 10.6 | 11.6 | 13.4 | 13.4 |
なお、次期のROEは13.4%と当期並を見込んでいます。対売上比、対前年比、対計画比などを複合的にチェックすることで引き続き3要素を改善していきます。
- ネットキャッシュの確保とリスクマネジメントについて教えてください
- タイトル別ROI管理の徹底と、運転資本効率の可視化に取り組んでいます
当社は、ネットキャッシュを効率的に創出するため、キャッシュを生み出すプロセス管理を重視した2つの管理手法を採用しています。1つ目は、「投資回収管理の徹底」として、タイトル別投資回収状況(ROI)をデータベースで管理し、投資収益性を把握・分析しています。2つ目は、「運転資本効率化の徹底」として、回転日数や回転率など更なる可視化の仕組みづくりに取り組んでいます。
なお、当期末のネットキャッシュは367億円と大幅に増加しました。更に当業界特有の、下期での大型タイトル投入に伴う売上債権および債務の期末残高を加減した「正味のネットキャッシュ」も462億円へと増加しました。当期末は大型タイトルの発売や一部残高の評価見直しにより、ゲームソフトの開発仕掛残高が減少したものの、将来の成長に資する資産全体では引き続き安定的に増加しています。
- 内部留保の適正水準と資金調達について教えてください
- ゲーム開発の大規模化や投資回収の長期化に対応できる水準を確保しています
コンシューマゲームソフトの開発費用は、高性能かつ多機能な現行機の登場に伴い増加傾向にあります。また、主力タイトルの開発期間は2年以上を要することに加え、DLC販売の浸透により長期での販売が可能となった結果、投資資金の回収期間も長期化しています。更に、オンラインゲームにおいても、発売後の定期的なバージョンアップやネットワークインフラの維持に継続的な投資が発生するため、ある程度の現預金を保有しておく必要があります。
このような状況下、当社は資金調達を容易にするため、投資計画とリスク対応の留保分を考慮して保有しておくべき現預金水準を年間開発投資額の1~2年分程度と設定し、これを手元現預金465億39百万円とコミットメントライン未実行残高267億円(契約総額267億円)で補完し、適正レンジで維持しています。
- 成長戦略のための投資とは、具体的にどのようなものでしょうか
- 主力のデジタルコンテンツ事業に経営資源の84%を投資しています
中長期的な成長の実現のためには、オリジナルコンテンツを生み出す源泉となるデジタルコンテンツ事業への十分な投資額を確保することが必要不可欠です。具体的には、タイトルラインナップの拡充や新たな技術への対応に加え、開発者の増員や開発環境の整備に 向けた投資が必要です。したがって、2019年3月期は当社の経営資源(開発投資額および設備投資額を合わせた金額345億円)の84%に相当する約290億円をデジタルコンテンツ事業に投資していきます。なお、投資水準の妥当性を計る指標として、開発仕掛資産の回転率を用いています。当期の開発仕掛資産回転率は3.7回であり、前期の2.9回から向上しています。
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カプコンの価値創造 (PDF:3.09MB/14ページ)