COOが語る成長戦略

デジタル戦略を加速し、
長期ではゲームを超えた
デジタルコンテンツ企業を目指します。

代表取締役社長
最高執行責任者 (COO)

辻本 春弘

COOが語る成長戦略

私がゲームの世界に携わって35年以上、常に日進月歩の日々でしたが、近年のグローバルにおけるゲームソフト市場の成長は特に顕著であり、その成長率は過去5年間で140%、更に今後5年で39%増が見込まれます。この背景には、コンシューマでのデジタル販売の伸長と、モバイルコンテンツを含めた市場のグローバル化があり、当社もコンシューマを中核として積極的な成長戦略を推進し、「毎期営業増益10%」を中期的な経営目標としています。

中期目標の達成に向け、当社では2010年代前半からデジタル戦略を採用し、販売チャネルとしてのインターネットを最大限活用することで、ゲームソフトのグローバルでの長期販売を強化しています。近年は、販売データの蓄積により、新作の動向予測や価格施策の精度が向上し、より効率的な収益獲得が実現しつつあります。また、忘れてはならないのは、ゲームのビジネスが従来のB to BからB to Cへと変化してきているということです。自社WebサイトやSNSを活用したデジタルマーケティングを通じてユーザーニーズに寄り添うことで、ビジネスの成果が大きく変化するのです。

そして今後、デジタル戦略が結実し、グローバルで当社ゲームの年間販売本数規模が新たな領域に到達したその先、私が見据えているのは、当社のコンテンツがゲームの枠に留まらず、グローバルでeスポーツや映像作品、商品化の展開などを通じ定番ブランドとして幅広く親しまれ、当社がデジタルコンテンツによって世界をリードする企業となる姿です。

その少し先の当社像に向け、今私達が進もうとしている道筋をお伝えします。

図表:デジタル戦略の効果

成長戦略1

デジタルコンテンツ

主力IPを活用しデジタル戦略を推進、
年間ソフト販売は3,000万本超の水準へ

中核のコンシューマでデジタル比率を更に向上、グローバルでの長期販売を実現

私達のビジネスの中核であり、コンテンツ創出の源泉でもあるのは、やはりコンシューマです。近年デジタル販売を積極的に推し進めてきたことで、収益性の改善とビジネスのストック化が進捗した結果、過去一桁台に留まったこともある営業利益率は段階的に改善し、2021年3月期では50%を超えています。また、年間のソフト販売本数は、近い将来の目標としていた3,000万本を、当期に前倒して達成することができました。

今後、市場は2025年までに706億ドルへと65%成長し、デジタルシフトも更に進む見通しです。この環境下、当社としても、次期以降も世界トップレベルの開発体制を基盤として、高クオリティのコンテンツを引き続きコンシューマに優先的に投入していきます。

更に、価格施策やデジタルプロモーションを深化させ、ユーザーニーズを広範かつ長期間獲得することで、年間のソフト販売本数は次期も過去最多を更新する3,200万本を計画し、次の節目に向け着実に成長することを目指しています。

施策 1 主力IPをグローバル市場に安定投入

デジタル化、グローバル化とビジネス構造を進化させるにあたり、その前提として高いクオリティの新作を毎期安定的に投入することが必要です。当社では、2013年の構造改革以降、中期的なタイトルポートフォリオマップ「60ヵ月マップ」を運用するとともに、開発者の年間アサイン管理「52週マップ」を併用し約2,450名(2021年6月末時点)の開発者を適時必要なタイトルへ配属する仕組みを整えています。

また、当社ブランドは「バイオハザード」や「ストリートファイター」に代表されるように、市場の9割を占める海外でも人気が高いことが強みでしたが、2018年に「モンスターハンター」シリーズのグローバル化戦略タイトルとして投入した『モンスターハンター:ワールド(以下MH:W)』は、広く世界で支持され、当社歴代最高の1,730万本(2021年6月末時点)を達成しました。更に、以降に投入した主力ブランドの多くも、『MH:W』同様の徹底的なクオリティの追求とデジタル戦略の採用により、グローバルで好調な販売を記録しています。

図表:デジタル化における長期販売・グローバル化

しかしながら、この先の更なる成長に向けて、開発者数はまだ十分とはいえません。今後も、100名以上の新卒採用と重点分野での中途即戦力の採用を併用することで、既存IPに加え、休眠IPの活用、そして2020年6月に発表した『プラグマタ』のような完全新規IPを創出していくことが、長期にわたる成長に必要です。

施策 2 販売チャネルのデジタル化による、収益性の改善とグローバルでの長期販売

私達の成長戦略における最重点部分である、デジタル戦略の詳細についてご説明します。私達が考えるデジタル販売の主なメリットは、①パッケージ製造コスト削減や在庫リスク回避による1本あたり収益の改善、②小売店で販売機会が得られなかった過去作の販売による収益機会の増加・長期販売の実現、③ゲームソフトのパッケージの流通に課題があった新興地域の市場化、です。これらは、ゲームビジネスに大きな転換をもたらしました。

図表:2020年3月期における主要ブランドの海外販売比率

原点は2013年、当時の新型機(プレイステーション4など)の発売を控え、これらのゲーム機がインターネットへの常時接続を前提としていることを知った私は、ゲームビジネスに大きな転換が訪れると考え、「デジタル対応の強化」を重点戦略に掲げました。それから8年、2013年3月期に52億円であった当社のデジタル売上高は、2021年3月期には480億円と9倍以上に成長し、この間、コンシューマの収益性は大きく改善しました。

デジタル化により、1本当たり収益は上述のように向上しましたが、更なるメリットは、長期販売とグローバル化の実現でした。かつては、コンシューマにおける新作ヒットタイトルの有無で当社の業績は大きく変動していましたが、一たび良質な新作を投入すれば、3〜5年以上に渡って継続的に収益貢献することに加え、パッケージ販売では中古流通が独占していた過去36年に渡る当社のコンテンツ資産への需要が、ダウンロード販売を通じ当社が直接提供することで、安定的な収益源となったのです。その結果、今では約300のコンテンツ資産が収益に貢献しています。また、ユーザーとして「ほしい時にすぐ手に入る」デジタルのメリットは大きく、新作においてもデジタル比率は年々向上し、最新の『バイオハザード ヴィレッジ』では発売後早い段階でデジタル比率が50%を超えています。

そして、近年デジタル販売において貢献度が高まっているのが、PCプラットフォームを通じた販売です。従来のコンソール機の市場を大きく上回る200超の国と地域での販売が実現し、アジア、南米、東欧や中東など、新興地域での拡販に強みがあると分析しています。私はこの領域に伸びしろが大きいと考え、PCを今後の重点プラットフォームに定めています。

次期も、これらのデジタル戦略を更に推し進めることで、デジタル売上高は、過去最高の515億円を計画しています。パイプラインの拡充、販売の長期化、グローバル化のいずれにおいてもまだ成長余地があることから、デジタル売上比率は中期的に80〜90%程度への上昇が見込まれ、コンシューマの収益性向上とストックビジネス化を進展させると考えています。

施策 3 ビジネスのデジタルシフトによる、効率化と機会の最大化

次にデジタルがもたらした、ゲームビジネスの効率化についてご説明します。DXへの関心が高まる昨今ですが、私達はかねてよりデジタル技術のビジネスへの活用に着目してきました。ゲームは嗜好品であり、また世界のデジタルネイティブ世代が今後の消費の主役になると想定すれば、デジタルでのコミュニケーションを通じユーザーニーズに寄り添うことが、非常に重要になるからです。

まず初期の段階では、デジタル施策へのグローバルでの社内認識を一致すべく、四半期ごとに経営とグローバルの事業幹部によりマーケティングプランを構築する「グローバルマーケティング会議」を設置しました。その結果、2018年に投入した『MH:W』以降、経営、開発、事業が一体となって、自社WebサイトやSNSを活用し、ユーザーニーズを踏まえたタイトルのクオリティ調整や、デジタル版購入への適切な導線の設定により、販売拡大を図る体制が確立しています。

図表:価格戦略

図表:グローバル・マーケティング

次に、長期販売、グローバル化の観点から、地域やユーザー属性ごとのニーズを踏まえた期間限定セールなどによる、きめ細かく機動的な価格施策を推進してきました。その成果として、2019年、2020年の年末の商戦期には、いずれも前年以上のデジタル売上を記録しています。

もう一つの好例が『MH:W』の長期販売です。2018年1月の発売から既に3年以上が経過していますが、段階的に価格を引き下げながら販売を維持した結果、累計販売本数は1,700万本を超え、その半数以上が2年目以降の販売によるものです。現在までの最低価格は約10ドルですが、既に開発コストは償却し終えていますから、10ドル、極端に言えば5ドルで販売しても利益に貢献してくれます。この先も販売動向を見極めながら価格施策を行うことで、まだ手に取っていただいていない世界中のユーザーに訴求し、シリーズ次回作に向けユーザーベースを拡大していきます。将来の単価下落圧力になるのでは? という指摘をいただくこともありますが、私はその心配はないと考えています。嗜好品の世界では、オンリーワンの高クオリティコンテンツをしっかりと提供できていれば、「高くても早く遊びたい」というニーズは必ずあるからです。価格施策により、ユーザーに様々な価格を提示し、それぞれが納得する価格で購入いただけるということは、販売側と購入側の双方にとって大きなメリットです。

次期に向けた取り組みとして、①価格施策の精度向上により、ユーザーニーズに最適化したセール時期および価格の策定を推進しているほか、②デジタルプロモーションの強化により、ユーザーがタイトルを認知してから購入に至るプロセスの更なる可視化を進めており、ビジネスの一層の効率化と収益機会の最大化を図っていきます。

施策 4 クラウドゲーミングなど新サービスや、モバイルコンテンツへの対応

ここまで述べてきたデジタル戦略を通じた当社の成長は、この先も当面は継続できると見込んでいます。他方、「クラウドゲーミング」や「5G」など新サービス・新技術の登場により、ゲームビジネスはこの先10年で更に急激な変化をする可能性があります。当社はマルチプラットフォーム戦略を採択しているほか、VRなど新技術へのいち早い対応実績などもあり、当然ながらこれらの新領域へも関心を抱き技術的な検証を行っています。

図表:ゲームプラットフォームとサービス形態

歴史的にも、このような新サービス・新技術がゲームの楽しさを拡げてきたというのが実感であり、今回もゲームの世界の更なる進化に期待しつつ、今後ユーザーにとって実際にどのようなメリットが生じるのか、現時点ではその推移を大きな関心を持って見守っていきたいと考えています。

また、モバイルコンテンツについては、現状は大きな成功を掴むに至っていません。課題は、モバイルに特有の、継続的なサービスを通じマネタイズするノウハウを習得できていないことだと分析しています。現時点では、優先してコンシューマでの成長にリソースを投入していますので、成果を急ぐところではありません。しかしながら、「5G」あるいはその次の「6G」といった通信規格において、当社の迫力のあるアクションコンテンツが、いずれモバイル端末上でも遜色なく遊べるようになるでしょう。例えば、軽量化された次世代のVR端末との掛け合わせでブレイクスルーが起きるかもしれません。来るべき機会をしっかりとものにできるよう、技術研究を開発部門に指示しているところです。

締めくくりとしてお伝えしたいのは、ビジネスの形態が変わろうとも、当社が最優先すべきことは変わらないということです。それは、これまでも一貫してきた、当社のコンテンツを世界最高レベルへと徹底的に磨きあげることであり、それがしっかりと実行できていれば何時いかなるプラットフォームやサービスのもとでもユーザーに選択していただける。反対にそれができなければ、たとえ一時時流に乗ったとしても、中長期での成長は叶わない。当業界の一線を走り続けてきた経験則から、私はそう確信しています。

成長戦略2

eスポーツ・アミューズメントビジネス

IPの認知度を向上、ファン層を拡大しコンシューマの収益に還元

事業収益の追求と、当社ブランドの価値向上に向けた側面支援を両立

デジタルコンテンツ以外のビジネスには、①事業収益の追求、に加え、②当社ブランドの価値向上に向けた側面支援、という2つの役割があります。

まず、事業収益の追求という観点では、eスポーツは将来の成長オプションとして、急速に成長する市場のもと、「ストリートファイター」を活用しリアルおよびオンラインでの興行のノウハウ獲得と収益化に向けた取り組みを進めています。また、アミューズメント施設、アミューズメント機器の2事業は、安定事業と位置づけ、当社収益の下支えに貢献しています。加えて、当社全体の長期安定成長を実現していく観点から、これらのビジネスを通じ当社IPおよびコーポレートブランドの認知拡大、ロイヤルユーザーの育成を図ることが、主力事業であるコンシューマでの販売増につながり、収益への還元サイクルが生まれることを重視しています。

eスポーツとは

「エレクトロニック・スポーツ」の略で、コンピューターゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉えた名称です。1990年代後半頃から欧米で盛んになり、現在ではアジアや日本を含め様々なゲームのイベントが多数開催され若年層を中心に世界中で人気を博すとともに、ゲームビジネスにおける新分野として注目を集めています。

図表:eスポーツの収入成長の動向

図表:ゲームプラットフォームとサービス形態

施策 eスポーツにおける裾野拡大の取り組み

新型コロナ禍における情勢を踏まえ、eスポーツとして当期に予定していたリアルイベントの多くは、プレイヤーや観客の皆様の安全を考慮し、開催方式を変更しました。一方で、オンラインで代替開催できることはeスポーツの大きな利点です。eスポーツ普及拡大への取り組みを途切れさせないため、私達は、取り組みの2本柱のうち、①個人戦については、年間世界ツアーである「CAPCOM Pro Tour」を、2020年6月からオンラインで開催しました。②チーム戦についても、国内で2020年9月から「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2020」を実施し、新たに約10社の大会スポンサーを獲得したほか、米国でも「Street Fighter League: Pro-US 2020」をオンラインで開催しています。

2021年においても、「CAPCOM Pro Tour Online 2021」を前年の約2倍の大会数で実施するとともに、チーム戦の「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2021」は参加を8チームに拡大、企業オーナー制を初採用することで、将来の地域フランチャイズ化や、育成機関の設置に向けた布石を打っていきます。引き続き、新しいエンターテインメントの確立に向け、中長期の視点で振興策や裾野の拡大を推し進め、eスポーツが一般社会に広く認知、理解されることで、IPの価値向上に留まらず、ゲーム業界の地位向上や社会的貢献にも繋げられるよう取り組んでいきます。

成長戦略3

ワンコンテンツ・マルチユース

ゲームを超えたデジタルコンテンツ企業へ

安定事業から成長事業への転換

「ゲームコンテンツはいずれ、世界的なアニメキャラクタ-と並ぶようなブランドになる。」私はそう考えています。当社は、1990年代初頭の『ストII』ブームをきっかけに、コンテンツの商品化やハリウッド映画化などを積極的に進め、2000年代には全社戦略として「ワンコンテンツ・マルチユース戦略」を採用、多メディア展開において業界をけん引してきました。そして、業績の成長に伴い当社のユーザーがグローバルで拡大する現在、私は、コンテンツビジネスも大きく成長を図る時期に来たと考えています。また、長期的なビジョンとして、業績のさらなる成長と並行して、当社のコンテンツがゲームの枠を越え、映像作品、グッズ展開、eスポーツなどを通じ定番ブランドとして広く親しまれ、デジタルコンテンツによって世界をリードする企業となることを目指していきます。

図表:ライセンスのビジネスモデル

施策 戦略機能を国内拠点に集約

従来、当社は日米欧それぞれの拠点からコンテンツ展開を行っており、ソフト収益の補完や、認知度の拡大、ロイヤルユーザーの育成に貢献してきました。ただ、成長率では、ゲームの販売本数がこの8年間で80%成長してきたのに対し、コンテンツビジネス(その他事業)の売上成長は12%となっています。私は、この分野での成長余地が大きいと考え、コンシューマのデジタル戦略を国内拠点が全体統括しているように、コンテンツビジネスの戦略機能を国内拠点に集約することとしました。グローバルを日米欧亜の4つにゾーニングし、各地域のソフト販売動向やブランド人気を踏まえ、成長に向けた施策を実施していきます。また、アパレルやテーマパークなど、コラボレーション先の業種も多様化しています。当社IPのブランド力が向上していると手応えを感じており、当ビジネスの飛躍につなげていきます。

施策 ハリウッド映画化・配信動画化の推進

コンテンツのブランド化に際し、ハリウッド映画化の効果は絶大です。既に実績がある「ストリートファイター」と「バイオハザード」に加え、2020年から公開した「モンスターハンター」初のハリウッド映画の成果も上々で、『モンスターハンターライズ』の好調な立ち上げや、『MH:W』が2,000万本を目指す上での側面支援を果たしています。今後は、普及が進む動画配信サービスへも積極的に展開する方針です。

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