CEOコミットメント

CEOコミットメント

確固たる理念のもと、
世界レベルの開発力と経営基盤で、
持続的に企業価値を創出します。

代表取締役会長
最高経営責任者 (CEO)

辻本 憲三

世界的な困難と戦う皆様へ

2021年現在、新型コロナウイルスは昨年に続きいまだ猛威を振るっています。また、コロナ禍に乗じたサイバー犯罪も頻発しました。当社も2020年11月に不正アクセスの被害を受けました。情報システムについては人一倍力を入れてきました。個人情報が流出する結果を招き、ご迷惑・心配をおかけした皆様には改めて心よりお詫び申しあげます。

社会は引き続き、コロナをはじめ様々な困難との戦いを強いられることでしょう。ワクチンなどの医薬品やネットワークのようなインフラと違い、エンターテインメントというコンテンツは生活必需品ではありません。しかし、このような時にこそ、エンターテインメントが人々に楽しさや希望を届けることができると考えています。

我々の事業活動を通じ、世界中の皆様に困難な状況と戦う活力をお届けしたいと思います。

世界一面白いゲームの創出で持続的な成長を実現

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企業理念・企業文化  ——  創業以来不変の理念

世界一、最高のコンテンツを「大阪から世界へ」

「ゲームは嗜好品であり人生に不可欠なものではない。だからこそ、ユーザーが面白いと思う世界トップクラスのブランドでなければならない。」私のこの考えは、エンターテインメント業界に飛び込んだ50年以上前から変わっていません。

カプコンは、ゲームというエンターテインメントを通じて「遊文化」をクリエイトし、人々に「笑顔」や「感動」を与える「感性開発企業」を基本理念としています。これはつまり、世界一面白いゲームを創出し、人々を幸せにすることで心豊かな社会づくりに貢献する、ということです。

1983年、私は「創意工夫」をモットーに、世界トップクラスの品質のゲームを世に送りたいという想いから創業しました。

その背景には、ゲームはグラフィックの進化や世界観の深耕により、やがてディズニー映画と同じように全世界に感動を与えることができると考えていたからです。

それから38年、カプコンの旗の下に共感し集った仲間は今や3,000名を超えましたが、この価値観は「大阪から世界へ」を合言葉として企業文化となり、①常に新しいことに取り組むチャレンジ精神、②常に世界トップクラスを目指す自負心、が社員一人ひとりに刻み込まれています。

当社のゲームが国連加盟数を超える200以上の国と地域、言い換えれば全世界で楽しまれているのは、長年培われてきたこの企業文化が土壌にあるからです。

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ビジネスモデル  ——  創造力と強力なIP資産

高品質なコンテンツを、広範なマーケットで最大限に活用

当社の強みは、①世界最高品質のゲームを生み出す開発力・技術力、②世界に通用する、ブランド化された多数の人気IPを保有していること、の2点です。

加えて2013年度より、内作中心の開発を見据え戦略的に新卒開発者を毎年100名以上採用し、開発人員を約2,450名(2021年5月末時点)まで増やしたことで、更に強みを伸ばしています。

ゲームの市場特性や競争要因分析から、コンシューマ事業には高い参入障壁があり、上述の強みに、当社の資本力やハードメーカーとの信頼関係を合わせると、大きな競争優位性(=収益性)を築いていると考えます。更に、PCを用いたゲームプラットフォームの普及およびインターネットを通じてソフトを販売するデジタル販売の一般化により、かつては一部の先進国のみであった家庭用ゲーム市場は今やグローバルに拡大しています。

当社ではこの市場拡大を好機と捉え、2010年代半ばより、新作のPC対応および旧世代機向けに発売した主要タイトルの現行機・PC移植を推進し、継続的な業績成長を果たしています。

また、コンシューマ以外の事業は、人気IPを活用したマルチユース展開により、安定した収益源として貢献しています。これは、当社IPが100%自社開発のオリジナル作品であることに加え、グローバルIPを多数保有していることが、マルチユースの効果を増幅させているからです。加えて、他の領域への展開によりブランド価値が向上し、ゲームへ新規ユーザーが流入する効果も期待できます。特にハリウッド映画を活用したマーケティング展開は当社IPのグローバルでの競争優位性(=ブランド力)を高めており、優れた相乗効果を発揮しています。近年では、このような継続的なブランド化施策の結果、イベント会場などで親子二世代で楽しむユーザーの姿も見られるほど、長く親しまれるIPとして定着しています。

かつて私が志向したディズニーは、アニメ映画からスタートし、幅広い商品化からテーマパーク事業に至るまでエンターテインメントの世界で圧倒的な存在感を得るに至りました。世界に通用するオリジナルコンテンツを持ち、eスポーツやモバイル、ライセンスビジネスでの成長可能性もある当社は、来るデジタル時代において、エンターテインメントを牽引する存在になれると確信しています。

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中期経営目標  —— ヒットビジネスにおける安定成長へのこだわり

中期目標として、「毎期10%の利益成長」を設定

1. 2021年3月期 経営成績の分析(要約)

当期(2021年3月期)の業績は、8期連続の営業増益、かつ営業利益以下の利益項目は過去最高となりました。当期は新型コロナウイルスの感染拡大影響により社会活動全般が制限されましたが、主要タイトルである『モンスターハンターライズ』および『バイオハザード RE:3』がともに好調に推移したことに加え、収益性の高いデジタル版を中心に旧作も好走したことで、前期比50%超の増益という大きな成長を遂げました。

この結果に対し、株式市場の皆様から「外出制限によって大きく需要の後押しを受けたのではないか?」という質問をいただきました。確かにコロナ禍による外出制限は、普段ゲームを遊ばない方にゲームに触れていただく絶好の機会になりました。皆さんがご心配されているのは「この需要は一過性のもので、コロナ問題が解消した後は反動が来るのではないか」ということでしょう。この点について、2022年3月期の業績を20%の増益計画としている通り、私は全く心配していません。当社の主要タイトルはコアゲーマー向けのコンテンツが多く、同業他社比でライトユーザー流入の恩恵は小さいだろうと考えていますし、むしろ、今回初めてゲームに触れた方々には、今後リピーターとして継続的にゲームを遊んでもらえる機会を得たと捉えています。

私には、当社はこれからもゲーム市場・新規ユーザーを拡大し続け、将来的に年間1億本以上のゲームを販売する未来が見え始めています。

2. 中期経営目標の前提と指標

(1) 経営の方向性 ——  世界的なデジタルシフトへの対応
企業経営においては常に先の先を見据えて物事を考えることが重要です。例えば10年近く前、私はビジネス誌の取材を受けた際に、「世界屈指のクオリティを持つ商品を低価格でデジタル販売することができれば、業績は更に向上する」とお話ししました。当時はパッケージ販売が主流であり、デジタル版を購入するユーザーはほんの一握りでしたので、多くの人には信じられない考え方だったかもしれません。またパッケージが主流であることから、新興国では多くの海賊版が出回っていましたが、それも「長い目で見ればプロモーションになる」とお話ししました。結果、デジタル販売が浸透した現在では、創業来生み出してきた300以上のタイトルを、国連加盟数を超える200以上の国と地域に向けて販売しています。

トップクラスのコンテンツを生み出すことは、今の業績を作るだけでなく、将来を切り開くための武器にもなります。だからこそ①世界トップクラスの面白いコンテンツ(IP)を創り出し、②その豊富なIPを多面的に活用し、収益を最大化するとともに、③これらを継続することで、持続的に成長する企業になることを経営方針として掲げています。

(2)中期での経営目標
2018年3月期より、持続可能な中期目標として、「毎期、営業増益」を掲げてきました。大型タイトルの発売時期を無理やり調整して達成するのではなく、タイトルラインナップの拡充などにより自然体で安定成長する「積み上げモデル」を志向することで、年金を運用する機関投資家や、年金で生活する個人投資家の方々が、安心して長期保有できるようにするためです。これまで、具体的な増益率は掲げていませんでしたが、デジタルシフトの成果が明確化した2021年3月期より、「毎期10%の利益成長」を設定しています。

(3)重視する指標(KPI)と株主価値創造実績
私は経営にあたり、企業の稼ぐ力の基本となる「営業利益」(成長指標)と収益性の基本である「営業利益率」(効率性指標)に加え「当期純利益」、そして「キャッシュ・フロー」を重視していますが、財務面の詳細は、CFOよりご説明いたします。

ここでは、中期目標を達成するための重要な指標と位置付けている、ゲームソフトの販売本数についてご説明します。デジタルシフトにより当社の営業利益率は2017年3月期以降、5期連続で向上していますが、徐々に上限に近づきます。今後、増益を達成し続けるには、販売本数を拡大し、売上そのものを引き上げていく必要があります。

当社が本格的なデジタル戦略に取り組み始めた2016年3月期まで、販売本数は大型新作の有無によって大きく変動していました。しかし、近年では①デジタル販売の強化、②主力タイトルの長期販売、デジタルマーケティングの推進などにより、販売本数を安定的に伸長しています。今後、新興国などの市場拡大とともにデジタル販売がより浸透すれば、販売本数は引き続き上昇基調で推移できるでしょう。これらの取り組みを進めることで、現実的なビジョンとして年間5,000万本の販売が近い将来の目標であると考えています。

図表:ゲームソフトの販売本数(千本)

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経営戦略  ——  安定成長実現に向けた開発・マーケティング戦略

創業来の蓄積が、中期目標の達成を後押し

1. 世界トップクラスのゲームを作るための人材・開発設備への投資

業界で50年経営をしてきた私が痛感しているのは、「世界一面白いゲームを生み出すためには、最高水準の技術が必要不可欠である」ということです。ゲーム業界は最新技術の宝庫であり、オンライン対戦、VRやARなど、常に最新技術を活用したエンターテインメントを世の中に提供してきました。この傾向はGAFAの市場参入により、更に勢いを増すと考えられます。したがって、世界中でヒットするゲームを作るには、最先端の技能を持った人材を集結させる必要があります。私は、ゲーム市場の拡大と技術進化を見据え、新卒開発者の採用を強化してきました。昨今の若者は幼い頃からゲームやITに親しんできた「デジタルネイティブ」です。そのため、資質とモチベーションが高いスタッフであれば、若手のうちから大型タイトルや、ゲーム開発の根幹をなすゲームエンジンの開発チームに配属することもあります。また、クリエイターの能力を最大限発揮できるよう開発設備に積極的に投資しており、事業所内には世界最先端の開発拠点を備えています。

2. 世界ブランドにするためのマーケティング戦略

もう一つ重要なことは、ヒットした作品の認知度を高めブランド化することです。

ゲームソフトの開発は3年程度を要するため、発売後は認知度が低下し続けることが課題でした。私は、ゲームタイトルを継続的に露出させる効果的な方法はハリウッド映画による世界的な展開と考え、1994年には40億円全額出資して、「ストリートファイター」のハリウッド映画化を決断しました。当時、「辻本さんは道楽で映画を始めた」と言われたものですが、結果として約150億円のリターンと「ストリートファイター」のグローバルブランド化に成功しました。ゲームの露出は発売前後の長くて2週間ですが、映画化により①劇場公開、②パッケージ販売、③VODやサブスクリプション系映像配信サービス、など何年も何十年も世界中で繰り返し放送され続け、認知度の維持・向上につながったのです。

ここで獲得した認知度の高さは現在、新たに広がる新興国市場でのゲームソフト拡販という成果にもつながっていますが、このマーケティングは、「世界トップクラスのゲーム」であることによって初めて可能になります。当社では既に「バイオハザード」でも同様の成功を収め、2020年には「モンスターハンター」のハリウッド映画化も実現しました。こうした成功体験を活用し、引き続き新たなグローバルブランドの創出に注力していきます。

3. 中長期での段階成長

私はこれまで、毎期営業増益を達成し続けるために必要なことは①コンシューマにおいて、売り切り型から継続型へとビジネスモデルを改革すること、②「ワンコンテンツ・マルチユース」を徹底し、コンシューマに続く新たな収益の柱を構築すること、の2つであるとお伝えしてきました。ここではまず、①の成果をこれまでの成長ステージと合わせて振り返りながら解説します。

中長期の成長イメージ

第1ステージ(’90/3〜’98/3)は、『ストリートファイターⅡ』が世界的な大ヒットとなり当社の開発力を世界中に周知させたものの、その後ヒット作の不在や在庫処理などで収益が大きく変動する課題を抱えた9年間でした。

第2ステージ(’99/3~’07/3)は、前出の課題「特定のヒット作への依存」と「海外での在庫管理」に取り組みました。「バイオハザード」や「デビル メイ クライ」、「モンスターハンター」など複数の大型タイトルをシリーズ化し、毎年大型タイトルを発売できる体制を整えました。加えて、日本と異なる海外の商習慣を徹底的に分析し、直販体制の導入や在庫数を販売数量の10%以下に抑える仕組みを作りました。その結果、安定収益の基盤を構築することができました。一方、ゲーム市場のグローバル化に伴い、開発部門主導のタイトル戦略に限界が出てきたことから、試作・本開発の2段階承認制度の確立など、経営主導に切り替える構造改革を実施しています。

第3ステージ(’08/3~’16/3)は、経営体制の強化のためのガバナンス改革とコンシューマでのデジタル戦略に取り組んだ期間です。ガバナンス体制については後述しますが、コンシューマ事業では、主要タイトルの安定投入に向け、5年先までの投入タイトルを示した中期的な戦略マップである60ヵ月マップ、1年間の開発人員の稼働を最適化する52週マップの運用徹底に加え、新卒100人採用を開始しました。また、来るゲーム業界のデジタルシフトに備え、大型タイトルのPCプラットフォーム対応および旧作の現行機・PC向け移植に注力しました。この結果、第2ステージの構造改革との相乗効果もあり、前ステージに比較して利益水準は大きく成長しただけでなく、デジタル比率の向上等、次のステージにつながる下地を作りました。

そして、現在が安定成長を実現する第4ステージです。第3ステージにて実施したPC対応や、旧作の移植が奏功し、主要タイトルは複数年にまたがり収益に貢献、パッケージでは販売する機会さえ得られなかった旧作がデジタル販売により販売本数と収益を伸ばし、8期連続の増益を達成しています。GAFAの参入や新世代ハードの浸透などにより今後更なる成長ステージに入るゲーム業界において、我々はこれまでに培った組織体制やノウハウを最大限活用することに加え、Ⅰ.地域ごとのニーズを見極めるデジタルマーケティングの強化、Ⅱ.既に開発コストの償却を終えた旧作タイトルの低価格販売、Ⅲ.クラウドゲーミングをはじめとした新たなプラットフォームへの対応など、先を見据えた手を打ち続け、毎期営業増益を継続していきます。

なお②の「新たな収益の柱」について、我々のモバイルコンテンツは、主要IPとモバイル端末との相性などの問題もあり、苦戦を強いられています。しかし、通信規格等の進化により、将来的に飛躍の機会が訪れると考えています。そのため、現在では次世代を見越した研究開発を進めています。eスポーツにおいても、将来的な市場の拡大を見据えて、投資を促進しています。

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ESG  ——  持続可能な成長に向けた取り組み

健全な関係構築と仕組みづくりで企業価値を向上

1. ゲーム会社が取り組むESG

令和元年に内閣府が日本人を対象に実施した世論調査では、「物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい」と答えた方の割合が62.0%に上るなど、近年、物質より精神的な豊かさを追求する人が増加しているそうです。ゲームは人々に笑顔や感動をもたらし、新たな文化を生み出してきました。また、コロナ禍においては在宅時のエンターテインメントとして、WHOからゲームが推奨されるなど、健全な社会の運営にも寄与しています。私は、事業活動を通じて、ステークホルダーとの健全な関係を構築することが企業価値の向上に繋がると考えています。そこで、ESGのうち特にS(社会)、G(ガバナンス)に該当する①開発者数、②ダイバーシティ、③教育支援、④社外取締役比率、を重要課題と認識しています。今後もSDGsが掲げる持続可能な社会づくりの目標を踏まえ、ESGへの取り組みを推進し、ステークホルダーの皆様との信頼関係を構築しながら、持続的な成長を図っていきます。

2. ゲーム会社の環境対策

当社は以前よりゲーム販売のデジタル化を推進しています。この取り組みは収益性の改善という経済的な面だけでなく、パッケージ製品の製造や梱包、輸送など、環境への負担軽減という側面もあります。また、当社では従業員のワークライフバランス推進のため、社宅や駐輪場を手配することで職住近接を推奨していますが、これも遠方からの通勤に伴う温室効果ガスの排出量削減が期待できます。デジタルコンテンツの販売という業態は、環境への負荷は低いですが、気候変動への対応は地球に住む全ての人々が協力すべき課題であり、今後も環境保全につながる取り組みを推進していきます。

3. ゲームと社会との健全な関係構築

ゲームは社会に必要とされる一方で、「未成年者の高額課金」や「ゲーム依存」といった課題も存在します。ゲームを通じて人々を幸せにすることが私達の目的であり、ゲームによってユーザーが不幸になることは望むところではありません。そこで私達はこれらを業界全体の問題と認識し、業界団体を中心に各社が連携し、①ガイドラインの制定・啓発、②加盟各社間の課題・事例の情報共有、③保護者・教育関係者・消費者団体・行政等との定期的な情報交換、などに取り組んでいます。

加えて、当社単独では、2004年よりゲームに対する社会的不安を取り除くための取り組みとして、ゲームに関する教育支援活動を継続して実施しています。

また、モバイルゲーム開発では、ガチャ要素は原則的に控えるなど、幅広いユーザーに安全・平等に遊んでいただけるよう心がけています。

更に、パチスロ市場においては、業界団体を通じ、ぱちんこ依存問題相談機関「リカバリーサポート・ネットワーク(RSN)」などの活動に賛同・協力しています。

4. 地域社会との関わり

基本戦略「ワンコンテンツ・マルチユース」の推進により、広く社会に貢献していきます。具体的には、当社の人気コンテンツを活用した地方創生活動として、①経済振興の支援、②文化啓蒙の支援、③防犯啓発の支援、④選挙投票の啓発支援、を行っています。これらの共通課題である「若年層の集客や訴求」への解決手段として、定量的な社会的成果をあげています。

上記4つの活動は、Ⅰ.イベント参加による既存ユーザーの満足度向上、Ⅱ.ゲームに関心の低い層からのゲームへの好感度向上等、当社にも恩恵があります。当社の人気コンテンツが社会へ貢献すると同時に、当該コンテンツへ関心を持っていただく、両者Win-Winのサステナブルな活動として継続していきます。

5. 従業員との関わり

ゲームの開発費は約80%が人件費で占められており、ゲーム産業は「労働集約型産業」ならぬ「知識集約型産業」として、人材が極めて重要な経営資源です。

私は、世界で通用するコンテンツを創出するにはダイバーシティが重要と認識しており、性別・人種にこだわらず優秀な人材の確保・育成を推進しています。また、優秀な人材がその能力を最大限に発揮できるよう、世界最先端の開発機材を備えていることは前述の通りです。更に報酬面では、能力に応じたメリハリのある給与体系に加え、タイトル別インセンティブやアサイン手当制度を導入し、モチベーションの向上を図っています。

加えて、2017年度には事業所内保育所「カプコン塾」を設置し、子供を持つ従業員がより安心して働けるよう環境を整備しています。

私は、人材育成で最も重要なのは、新しいことに挑戦できる環境を与えることだと考えています。挑戦させ、「上手くいったこと」より、「上手くいかないこと」に着目して対策を練るのが経営者の役割です。そうすれば従業員も失敗を恐れることなく、世界一面白いゲーム開発や新たな事業に挑戦することができ、それがビジネスチャンスを生み出す好循環になるのです。

6. 安定成長のため、不正対策を継続

データを扱う企業として、それらの価値や権利を守ることも重要です。私は、四半世紀以上にわたり一般社団法人コンピュータ著作権協会の理事長として、海賊版対策をはじめ種々の問題解決に取り組んできました。現在ではデジタル販売の浸透により、かつては電気街等でよく見られた路上での海賊版販売は見られなくなりました。一方で、デジタルネットワーク技術の浸透に伴いサイバーアタックのリスクが高まっています。当社では2020年に受けた不正アクセスの経験を踏まえ、セキュリティ監督委員会の設置など種々の対策を整えました。もちろん、セキュリティ対策は「一度整えたら万全」というものではありません。今後も継続的に対策強化を進めていきます。

7. ガバナンス体制の強化

成長へのアクセルを踏む深さに比例してリスクは高まりますが、この回避もしくは低減に有用なのがガバナンスです。特に、当社は創業者の私がCEO、長男がCOOですので、社外取締役の監督機能を十分に発揮させ、取締役会が透明性・合理性の高い意思決定を行う独自の仕組みを構築し、「経営判断リスク」を回避しています。

仕組み 1 数字を主体とした「経営の見える化」

私は、企業規模や事業環境が変化したとしても、柔軟かつ一貫した経営を行うために、経営判断する材料(資料)を原則数値化させています。資料は売上比、前年比、計画比など比較対象を示し、複合的にチェック可能にすることで問題点を見つけ出しやすくしています。

更に、当該資料は、社外取締役による監督にも活用してもらうことに加え、投資家にも有用なIR資料として活用する、この一連の仕組みを「経営の見える化」と呼んでいます。業務の可視化に基づく経営判断に、外部からの評価を加えることで、経営の透明化を図っています。

また、私は、開発者との対話でも数字を共通言語にしています。言葉には担当者の恣意性が入る可能性がありますが、数字は嘘をつきません。創業者として培ってきた経営ノウハウを次世代に実戦で伝えるとともに、経営を「仕組み化」して、将来にわたって会社を確実に機能させるため、引き続きリスクコントロールの強化に努めます。

仕組み 2 継続的なガバナンス改革

当社は、これまで22年間にわたり、諸種のガバナンス改革を断行してきました。

2002年3月期の社外取締役制度導入を皮切りに、取締役の社外比率を45.5%まで向上させています。社外取締役の選任基準は導入当初から現在も変わらず、一言で言えば、「良識があり、ゲーム以外の各分野で最高レベルの専門家に、当社の経営・事業活動を冷静に判断していただくこと」です。事業投資リスクを回避することを優先課題として、「特に業績が思わしくない時、創業者にも物怖じせず、正論を意見できる方々」を選任し、一般社会の視点で妥当性を判断していただきます。

加えて2016年には、更なるガバナンス強化、迅速な意思決定を実現するべく、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行しています。監査等委員会には、取締役、従業員の業務執行への監査や是正勧告などにより、内部統制の強化を担ってもらっています。

更に、2021年3月期より取締役会の実効性評価を実施しています。その結果、実効性は確保されているとの結果や新たな課題が得られました。今後も、課題への理解を深め、更なる機能向上に努めていきます。

仕組み 3 経営人材力の強化と後継者育成

私は38年間、カプコンを育ててきましたが、後継者に仕組みをきちんと理解させ、実行できるようにすることもまた、創業経営者の務めです。私は事業・開発トップの辻本春弘(社長)と江川陽一(専務)を次世代のキーパーソンとし、積極的に情報交換やアドバイスを行っています。後継者計画に関する議論は指名・報酬委員会への諮問を通じて行われますが、後継を鍛え上げ、「企業理念」、「仕組みの整ったガバナンス」がかみ合えば、持続的な成長が実現できるでしょう。

上場以来31年連続配当と過去最高配当で長期株主に報いる

図表:株主総利回り

図表:上場以来の1株当たり配当金 (円)

最後に、株主の皆様との関係において重要な資本政策に関する私の考えをお話しします。

1.配当に関する基本方針

私は、変化することが当然のゲーム産業において、「企業として安定的な成長を遂げるとともに、長期株主には安定的な増配で報いたい。」という信念で、創業以来38年間経営を行ってきました。

持続的な企業価値向上のための要諦は前述しましたが、株主の皆様への利益還元についても経営の重要課題の一つと考えており、将来の事業展開や経営環境の変化などを勘案のうえ、配当を決定しています。

株主還元の方針として、①投資による成長などにより企業価値(時価総額)を高めるとともに、②連結配当性向30%を基本方針とし、かつ安定配当の継続に努め、③機動的な自己株式の取得により1株当たり利益の価値を高めること、としています。

私が配当性向だけでなく安定配当を大切にする理由は、例えば年金生活で配当を生活費の一部として生計を立てている方にとっては、急な無配・減配はリスクになるからです。定期的な収入は、将来の安定した生活設計につながります。年金を運用する長期投資家の方からも配当の安定性を求めるご要望を受けます。

多様な株主の皆様の中にも、このような方々がおられるからこそ、1990年の上場から31年間、一度も無配にしたことはありません。また、2021年3月期は5年連続の増配を達成しています。

この結果、この5年間の株価の上昇を含めた株主総利回り(TSR)は+538.9%であり、TOPIX(+162.3%)を大きく上回るとともに、同業他社比較でも上位に位置しています。

2.当期および次期の配当

2021年3月期の配当は、年間71円としました。次期も、株式分割を考慮すれば6年連続の増配となる36円を予定しています。

私は、ゲーム業界を長年走り続けた経営者として、過去38年間を超える更なる企業成長を図り時価総額を増大させることで、株主の皆様のご期待に応えていきます。

辻本 憲三

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