CFOが語る財務戦略

CFOが語る財務戦略

進化を続ける市場に対応するため、強化された財務基盤を背景に成長投資を積極化

取締役専務執行役員
最高財務責任者(CFO)

野村 謙吉

財務戦略の概要

中長期成長戦略の進捗状況

事業環境の変化

図表:事業環境の変化

当社はグローバルでのユーザー拡大、即ちゲームソフトの年間販売本数の拡大に取り組んでいます。近年ではデジタル化に伴う販売チャネルの多様化により、販売対象の国や地域を200以上にまで拡大し、2021年3月期はゲームソフトの年間販売本数が3,000万本を超えました。

これは販売のデジタル化に伴いゲームコンテンツがこれまでの流通網を超えて全世界的な広がりを見せていること、ユーザーの購買行動が大きく変化していることに加え、ゲーム専用機だけでなくPCやスマートフォンなど、デバイスの多様化に対し、当社がかねてより掲げてきた「マルチプラットフォーム戦略」が効果的に作用しているためです。

PCやサブスクリプションなど流通チャネル拡大への対応や購買動向の収集・分析といったデジタル戦略の推進による、当社ユーザーの広がりについてはCEO、COOメッセージにてお伝えした通りですが、一方で財務面、当社の収益構造、財務構造についても大きく変化し、今なおその変化の途上にあります。

図表:2020年3月期における主要ブランドの海外販売比率

直近5年間の収益構造の変化

まず、この5年間で当社が特に重要と考えてきた財務面の指標についてご説明します。上表は2016年3月期と2021年3月期を比較したものですが、売上高の増加に比して利益の増加が顕著に表れています。これはグローバルユーザーの拡大(=販売本数の増加)に加え、財務的には原価率、販管費率の低下というコスト管理の進展が奏功している結果と言えます。

具体的には、①コンシューマゲーム部門においてユーザーの期待に沿ったコンテンツを開発・提供することで、計画を上回る売上高・販売本数を実現し、想定ROIを上回る実績を計上していること、②開発手法・技術の進化により効率化が進みコスト増加の吸収力として機能していること、が挙げられます。特に近年では開発部門における進捗管理とコスト管理手法が進化し、コンテンツ制作における問題点や課題の掌握と早期の対応が可能な体制が整っています。

加えて毎年安定した新人の採用と早期戦力化により、ゲームデバイスの進化に伴う開発コストの増加を吸収しています。これらの成果として、ゲームソフト仕掛品は5年前に比してほぼ同水準で推移しています。このことは稼ぐ力を示す営業キャッシュフローの改善に寄与しています。

更に、デジタル戦略の進展に伴い販管費にも変化が生じています。従来型の販売促進手法からデジタルメディアを活用した情報発信へと進化しつつあり、事業・管理面においてもデジタル化を促進することでコストの削減を実現しています。

また、当社では、タイトルの販売期間長期化を目指しており、発売後もタイトルアップデートやイベント実施などでタイトルの鮮度を保ちながら、ユーザー数を拡大させています。発売後の開発コストの回収完了が早くなり、特に前年度以前に発売したリピートタイトルの収益性は非常に高く、リピートタイトルの販売拡大が、タイトルのROI向上とともに利益率上昇の主要因となっています。

図表:売上高・営業活動によるキャッシュフロー

強化された財務基盤に根ざしたこれからの成長戦略投資

以上のデジタル戦略強化により、当社の財務構造・収益構造が大きく変化し、ステージアップしたことがご理解いただけると思います。

この結果、資本効率の向上の指標として注目しているROEとROAも大きく改善しました。

図表:ROE

また、2021年3月期の同数値は同業内の比較でも上位に位置しています。このことからも当期の好業績は新型コロナウイルスの感染拡大による巣ごもり需要の後押しを受けただけでなく、従前より進めてきた当社の成長戦略が順調に進行したことが主要因であり、中期経営目標である毎期の安定増益は次期以降も継続して達成可能であると考えています。

図表:ROE

なお、毎期の営業増益に伴い、近年継続して増加している当社の現預金ですが、当社では現預金残高1,000億円の達成を当面の目標にしています。これは年間開発投資発生額の約3倍を確保する狙いに基づくものです。当社のビジネスの本質はヒットビジネスであり、絶えず様々な変化とリスクにさらされています。この変化に万一即応できないリスクを考慮し、3年分の開発投資資金を確保したいと考えているからです。2020年度末の現預金残高は712億円、期末直前の新作タイトル販売による売掛金計上分を考慮した正味のネットキャッシュは870億円と、現預金残高1,000億円の達成が視野に入ってきました。

これからも「キャッシュ重視」「稼ぐ力の強化」「資本効率の強化」という基本的なスタンスは変わりませんが、今後さらに大きな変化が想定されるデジタルコンテンツ事業をはじめ、事業環境変化を想定しながら中長期戦略のもと、迅速かつ効果的な戦略投資を行います。

Ⅰ.先端技術への研究開発投資

ゲームを取り巻く環境は、益々変化することが確実です。通信環境の進化に加え、ゲームの周辺技術まで含めて様々な先端新技術の研究開発にこれまで以上の取り組みが必要になると捉えています。こうした新技術に関する研究開発を一層進化させることが今後の重要な経営課題になり、積極的に対応していく必要があります。このために従来にも増して新たな人材を確保し、新技術の研究・開発への投資を積極的に行っていきます。

図表:正味キャッシュの推移

Ⅱ.ビジネスインフラへの投資

また、事業構造の変化にも対応する必要があります。近い将来年間販売本数1億本の達成に向けて、全世界のゲームユーザーがどのようにしてゲームに関する情報を収集し購入意思決定をしているか、を分析していく必要があります。また2020年11月、皆さまにご迷惑とご心配をおかけした外部からの不正サイバー攻撃への対応強化を含め、ビジネスインフラへの投資も加速する予定です。

Ⅲ.人材確保・育成への投資

研究開発やコンテンツ制作は、いうなれば人材への投資です。グローバルにおける一層の拡販のためには、多様性のある人材の確保と育成が不可欠です。

今後の中長期戦略推進のためにダイバーシティを重要課題と認識し、女性のほか外国籍人材の採用にも引き続き注力していきます。

また人材育成の観点から、高いモチベーションを持った人材には積極的に経営課題にふれる機会を与え、今後の新たな経営課題を共有し、その中から新しい提案と対応力を強化するなど、ベテラン・若手を問わず、経営会議レベルの課題認識の推進なども始めています。

Ⅳ.ESG・SDGsへの対応

全世界の一人でも多くの人々に当社のゲームコンテンツを楽しんでいただきたいと考えていますが、そうした点からも今後もESG・SDGsに積極的に対応していきます。当社が5年前にデジタル販売の拡大・強化の方針を打ち出した際には、販売のデジタル化によるプラスチックの使用縮減等資源の有効活用に資すると考えてきました。現在、気候変動に関する企業の対応が注目を集めていますが、この問題にも当社として何ができるか積極的に考え続けていきます。

また、基本的な社会貢献の一つとして、毎年一定規模の寄付活動を行っていますが、今後もこうした活動を強化していく所存です。

図表:設備投資・開発投資額

企業成長に伴う株主還元の考え方

株主還元について、「連結配当性向30%を基本方針として安定配当に努める」という基本方針に変更はありません。21年3月期まで株式分割を考慮すれば5期連続の増配を達成しましたが、安定した業績成長を継続することで、配当の安定的な増額を実現したいと考えています。また、自己株式の取得も還元に資する重要な方針の一つであると認識していますので、従来同様株式価値の向上に資すると判断できる場合は機会に応じ適切な対応を図ります。一方で自己株式の具体的な使途についても現在検討を進めています。

また、当社の試算では、2021年3月期末時点での資本コスト(WACC)は3.52%となりました。当社は自己資本比率が高く借入金が少ないことからROICではなくROEを重視していますが、同期のROE(22.6%)はこれを大きく上回っています。これからも中期目標である毎期営業増益を安定して達成することで、高い水準を維持し、引き続き株主の皆様へのご期待に応えてまいります。

図表:総還元性向

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