CHO兼CFOが語る人材・財務戦略2025
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人材視点を活かした持続的成長への取り組み
当社グループは、ユーザーをはじめとするステークホルダーの皆様のご理解とご支援により、2025年3月期においても着実な成長を遂げることができました。この成果は、日々の事業活動に真摯に取り組む従業員一人ひとりの努力と、皆様からの継続的なご支持の賜物であり、心より感謝申しあげます。
企業を取り巻く環境が大きく変化する中、当社はこれまで人材の確保と育成を中心とした戦略を推進し、組織の力を高めてきました。同時に、持続的な成長とキャッシュ創出の両立を目指す財務戦略へと進化を遂げ、事業の安定性と柔軟性を高める取り組みを続けています。ネットキャッシュの蓄積を背景に、将来に向けた事業再投資の選択肢が広がる中、企業価値の向上に資する資源配分のあり方が、これまで以上に重要なテーマとなっています。
当社は、人材と財務の両面から企業の可能性を引き出すことを目指し、組織の力を最大限に活かす視点を経営判断に反映させながら、持続的な企業価値の創造に一層努力してまいります。今後の事業展開においても、変化を前向きに捉え、柔軟かつ力強く対応していく姿勢を持ち続けることで、皆様の期待に応えられる企業であり続けたいと考えています。
人材投資戦略により従業員の生産性、組織力を強化する
人的投資の重要性
CEOが述べているとおり、当社グループの持続的な成長をさらに進展させるためには、優れた人材への継続的な投資が不可欠です。経営目標である「毎期10%以上の営業利益増益」や、中長期的な目標である販売本数1億本の達成に向けた高品質なゲームの開発継続のためにも、優秀な開発人材の確保が求められます。2025年3月期の開発職社員数は2,846名となり、2021年3月期の2,285名からおよそ24.6%の増加となりました。
当社を取り巻く課題
開発人員は着実に増加していますが、必要な人材の確保に関しては、社内外において依然として課題があると認識しています。社内的には、プラットフォームの進化に伴いゲーム開発は年々規模が拡大し、開発期間も長期化しています。世界に通用するゲームの創出には、最先端の技術力が必要不可欠であり、技術革新に対応できる体制の強化が求められます。これに伴い、開発人員のさらなる充実と、従業員のスキル向上が今後ますます重要になると考えています。
また、1993年から1995年に定期採用された社員の多くが50代半ばを迎え、ゲーム開発の第一線で活躍しています。これまでに蓄積された知見や技術を、次世代へ円滑に継承していくことも、今後の重要な課題です。
一方、社外環境に目を向けると、国内の少子化により労働人口が減少傾向にあり、採用市場の競争が激化しています。若年層には幼少期からゲームに親しんできた人材が多く、今後も積極的な採用を進めていく方針ですが、当社のゲーム開発に求められる水準を満たした優秀な学生を獲得するハードルは、年々高くなっています。

これまでの取り組みと成果
当社ではこれらの課題に対応するために、「将来を担う人材の確保と育成」と「従業員が能力を最大限に発揮できる職場環境の再整備」の2点に重点を置き、人材投資戦略に取り組んでいます。
将来を担う人材の確保と育成
昨年の統合報告書でも触れたように、①当社正社員の報酬平均30%増、②利益に連動した賞与制度の導入、③従業員向けの株式報酬制度の導入、などの報酬制度の見直しを行いました。これらの制度により、従業員の努力が業績や株価の向上に直結し、それが自身の報酬に反映されるという好循環が生まれています。その結果、2025年3月期の従業員の平均年収(単体)は9,185千円となり、2021年3月期の6,034千円から52.2%の増加を達成しました。株式報酬についても、株価の上昇に伴い付与株式の価値が高まり、会社の成長に対する従業員の意欲向上に繋がっています。
さらに、報酬面での競争力強化に加え、採用ブランディングの推進や、海外有名大学からのインターン受け入れなど、採用チャネルの多様化を進めています。中途採用では着実な成果を上げており、単体での中途採用人数は約120名規模に拡大しました。新卒採用では、2025年より初任給を業界でも高水準の月額30万円に引き上げ、より優秀な人材の獲得を目指しています。
人材育成に関しては、2013年以降、毎年100名以上の新卒採用を継続しており、その育成が大きな課題となっていました。この課題に対し、若手社員の早期育成を目的としたメンタートレーニング研修を導入し、のべ1,000名の開発社員が参加するなど、現場主導での取り組みが進んでいます。加えて、経営側でもオンライン学習を活用した自学の促進など、従業員が自ら考え成長できる環境づくりを進めています。若手社員がその感性を活かしながら、現場で活躍する先輩クリエイターの貴重なノウハウを継承し、次世代のゲーム開発を担う存在となるよう、今後も育成に力を入れていきます。
また、総合職においては若手社員の早期選抜を促すアセスメントに加え、中核となる管理職層の強化を目的として、新任役職者を対象としたマネジメントスキル向上のための研修等に取り組んでいます。
こうした多様な施策を並行して進める中で、採用や育成などの開発人事施策を個別ではなく、統一された方向性で実施することが重要となりました。そこで、開発職社員が共有すべき価値観と行動基準を明文化した開発人材ポリシー「CAPCOM-SHIP」を、2024年に制定・周知しました。
開発人事ポリシー「CAPCOM-SHIP」
この「CAPCOM-SHIP」は、世代や組織を越えて選抜されたメンバーが議論を重ねて作り上げたもので、開発職社員が目指す共通のゴールとして「最高の情熱、個性、仲間で世界のすみずみまで、カプコンクオリティの体験を。」を掲げています。そのゴールに向かうための行動基準として、「クリエイターシップ(面白いをつくる)」「オーナーシップ(周囲を巻き込む)」「フェローシップ(仲間と目指す)」の3点を設定しました。
現在は、組織マネジメントやチームビルディングの指針として導入を始めた段階ですが、ゲーム開発に直接関わるメンバーが主体となって生み出したものであり、経営としても重要な価値観と捉えています。今後も、社内文化として定着させるべく、丁寧に浸透を図っていきます。
従業員が能力を最大限に発揮できる職場環境の再整備
今後、開発人員のさらなる拡充を進めていくにあたり、外国籍従業員や育児・介護により短時間勤務を必要とする従業員など、「多様な事情を抱える人材が、それぞれの力を十分に発揮できる環境づくり」も重要だと考えています。そのため、外国籍従業員向けの一時帰国特別休暇制度や日本語教育の導入、大阪エリアでの社内保育所の開設、介護に関するセミナーの開催、パートナーシップ制度の導入、生理休暇の有給化など、個々の状況に応じた制度整備を進めています。
加えて、管理職層を対象としたハラスメント・ラインケア研修の実施に加え、近年社会的関心が高まっているカスタマーハラスメントへの対応にも着手し、従業員が安心して働ける職場環境の構築を推進しています。さらに全社員を対象としたニーズ調査や、経営層による従業員向け説明会の実施を通じて、現場の声を施策に反映する取り組みも行っています。
こうした施策の結果、従業員のエンゲージメントは高水準を維持しており、離職率も目標とする3%以下を達成しています。
今後の課題と取り組み
持続的な成長のためには、さらなる人材の確保が重要です。新卒採用においては、大学や専門学校との連携を強化し、教育機関との協働による人材育成を推進していきたいと考えています。先行事例として近畿大学との連携により、自社開発エンジン「RE ENGINE」を活用した体験型授業を提供しています。また産学連携の一環として、当社では、『CAPCOM GAMES COMPETITION』を開催しています。これは「RE ENGINE」を実際に使用し、世界に通用する若手クリエイターの早期発掘・育成を目的とし、参加者同士の競争だけでなく、当社のプロクリエイターとの交流の場も設けることで、技術力と発想力の向上を支援しています。当社の次世代のゲーム開発を支える人材の発掘と育成、さらには優秀な人材との出会いの機会創出につなげていきたいと考えています。
「RE ENGINE」を活用した体験型授業を学生に実施
前述の「多様な事情を抱える人材が力を発揮できる環境づくり」に関しても、さらなる改善が必要だと認識しています。現在、当社には36ヵ国・地域から200名以上の外国籍社員が在籍していますが、働き方の違いや言語の壁といった課題は依然として存在しています。男女間の待遇格差是正や、男性育休取得率等については一定の成果を上げているものの、今後を見据えたさらなる取り組みが求められます。当社では、2028年度までに男女間賃金格差をOECD平均並みの88%以上に、男性育休取得率を2030年度の政府目標である85%以上に、それぞれ引き上げる目標を掲げています。さらに、今後増加が見込まれるシニア層の社員に対しては、研修などを通じてキャリアの棚卸しと定年前後のライフデザインを支援し、若手への知識・技術の継承を促します。定年後の再雇用においても、貴重な戦力として活躍してもらうための支援制度の整備が必要だと考えています。
現在当社では、人材投資戦略の推進を通じて、結果として、社内の多様性が高まり、従業員のエンゲージメントも向上するという好循環が生まれています。私はCHOとして、各人事組織が抽出した課題に対して経営レベルで議論を行い、方針を示すことで、この好循環をさらに加速させていきます。
ユーザー拡大と持続的な成長のための投資をさらに強化
各セグメント展開と利益・資本の進化
過去10年間における財務状況の改善
当社グループは2025年3月期において、営業利益が12期連続で増益となり、8期連続で全項目において過去最高益を更新することができました。右表のとおり、過去10年間で営業利益は6.2倍、ネットキャッシュは7.6倍に増加したほか、営業利益率は22ポイント上昇し38.8%に達し、直近期のROEは23.0%と、5期連続で20%を超える水準を維持しています。
これらの成果は、デジタル販売強化への方針転換により販売国・地域が拡大し、過去に発売したリピートタイトルの長期販売が可能となったこと、またタイトルの経過年数に応じた適切な価格施策により販売本数が増加したことなどが主な要因です。
加えて、パッケージにかかる製造・販売コストを大幅に削減できたことで、売上高の成長を上回るペースで費用項目(売上原価+販売管理費)の増加を抑制できた結果、原価率が低下し、営業利益率の大幅な改善につながりました。
さらに、アミューズメント施設およびアミューズメント機器のビジネスがそれぞれの課題を克服し、安定した成長フェーズに移行したことも、継続的な利益の確保とキャッシュ創出に貢献しています。
ネットキャッシュの状況
当社は近年、従業員の報酬制度を見直し、総人件費を増加させながらも、2024年度末には前年比422億円のネットキャッシュ増加を実現しました。直近10期にわたり営業利益は年率10%の成長を継続しており、キャッシュは着実に積み上がっています。
事業投資においては、連結および主要事業の両面でROICの推移を把握・評価しており、直近3年間は連結ROICが50%を超える水準を維持し、主要3セグメントでも改善が進んでいます。また、個別タイトルのROI(営業利益÷開発投資額)を用いて収益性を管理しており、リピート販売の拡大により、各タイトルのROIも向上していることがネットキャッシュ増加に貢献しています。
さらに、当社は自己資本比率が高く借入金が少ないことからROEを重視しており、2025年3月期末時点ではCAPMによる株主資本コスト7.3%に対し、ROEは23.0%と、安定的なエクイティ・スプレッドを確保しています。
持続的な成長に向けた投資強化
ネットキャッシュの増加に伴い、当社グループでは持続的な成長を実現するための事業再投資の選択肢が広がっており、今後は「何に、どのように」投資していくかが、これまで以上に重要な経営判断となります。
事業環境の変化によりリスクも高まる中、キャッシュの活用においては、①事業再投資、②株主の皆様への還元、③従業員報酬の3要素のバランスを重視しています。なお、③の従業員報酬に関する取り組みについては、前述の人材戦略で述べたとおりです。
キャッシュの活用について
~現時点での事業再投資の状況
事業再投資には、事業拡大に向けた直接的な投資に加え、生産性向上に資する従業員の働く環境整備や福利厚生制度の充実、さらには販促費を活用した拡販施策なども含まれます。これらは、持続的な成長を支える重要なキャッシュの活用手段であり、当社グループの中長期的な成長戦略においても重要な戦略のひとつと位置づけています。
開発投資額増加への対応
近年、開発投資額は年々増加しており、この10年間で1.9倍となり、2025年度計画では500億円を超える見通しです。当社の開発陣は、タイトル開発の効率化・生産性向上に不断の取り組みを行っていますが、ユーザー満足度の向上やゲームデバイスのスペック高度化への対応などを背景に、開発投資額の増加は避けられない状況です。
当社では、従来の60ヵ月マップに基づく開発管理に加え、追加コンテンツ等を含めた中長期ラインナップの作成と進行状況のチェックを行い、投資管理を強化しています。タイトル制作に際しては、過去の販売データを参考に開発規模を検討し、申請→承認という手順の中で、中長期ラインナップとタイトル別ROI・ROICを主要指標として活用し、投資規模に応じた販売計画を策定しています。
こうした投資管理はコントロールの観点にとどまらず、持続的な成長を支えるラインナップの拡充に不可欠な取り組みであると認識しています。また、開発投資を増加しながらも、従業員一人当たりの営業利益は着実に伸びており、企業としての成長を継続している点は、当社の成果のひとつと捉えています。
開発スペース増床への対応
人材投資戦略に基づき、連結全体の従業員数は毎年150名前後の増加が続いており、10年前比で1.4倍、5年前比では1.2倍と、増加のペースは加速しています。なお3年間では開発クリエイターが2023年3月期の2,460名から2025年3月期には2,846名と386名(約15%)増加するなど、執務スペースの狭隘化という課題に直面しており、対応を急いでいます。
建設中の本社隣接の新ビル(2027年竣工予定)
一例として、本社北側に新ビルの建設を進めているほか、中長期的な人員増加を見据えた環境整備も着実に進行しています。今後10年を見据えた開発体制の拡充にも対応可能なスペース確保を目指しており、事業用資産への投資は今後も重要な投資項目のひとつです。
M&Aへの対応
新作コンテンツの安定供給に向けたM&A投資は、開発力強化につながる案件を前提に実施しています。2023年度以降、2件の開発関連会社の株式取得(子会社化)を行い、開発体制の拡充を図ってきました。クリエイター人材の成長には時間を要するため、中途採用の強化と並行して、即戦力となるM&A案件の積極的な検討を進めています。
また、ユーザーの遊び方の多様化や技術進化に対応するため、AIをはじめとする新技術の導入は今後の開発力強化において不可欠であると考え、開発効率や表現力の向上に資する取り組みとして継続的に検証しています。
市場拡大への対策
~映像コンテンツ等の活用
持続的な成長を継続するためには、当社ブランドを全世界に浸透させ、ユーザー層を拡大していくことが重要です。その一環として、当社IPを活用したライセンスビジネスや映像作品への投資を積極的に推進しています。特に映像分野では、今後の投資規模が拡大する見込みであり、当社開発も企画・製作段階から積極的に関与することで、より一層のブランド価値向上を図っていきます。
アニメ作品とゲーム販売の相乗効果については、すでに成果が表れており、IPの認知拡大と販売促進の両面で好循環が生まれています。これに伴い、マーケティング活動の規模も拡大しており、ユーザーが当社IPに触れる機会を多様なチャネルで創出する取り組みが進んでいます。
また、ブランドの浸透には国や地域ごとの特性を踏まえた適切なマーケティングが不可欠であり、ユーザー動向を的確に捉えるための人材・組織体制の強化や、システム・ネットワークの構築への投資も継続しています。
株主の皆様への還元
当社は、株主還元の基本方針に基づき、安定的な配当の継続に努めています。また、株価動向や経営戦略に対する市場の理解状況を注視し、状況に応じて機動的に自己株式の取得を行ってまいります。
2026年3月期の配当につきましては、株主還元の観点から年間40円(配当性向32.8%)を予定しています。
当社の株価は、当期純利益の増加に比例して着実に推移しており、企業価値の向上を実現してきました。今後も株主・投資家の皆様との対話を重ねながら、ご期待に応えるべく努力を続けてまいります。
最後に
ここまで述べてきたとおり、ゲームビジネスの根幹を支えるのは「人」であり、人的資本こそが当社の成長の原動力であると捉えています。こうした人材戦略は、財務戦略と連動して進めることで、企業価値の最大化に直結するものです。
このように、人的資本への継続的な投資とそれを支える財務基盤の強化を両輪として、当社グループは、次の10年に向けた持続的な企業価値の向上に貢献していきたいと考えています。
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