CFOが語る財務戦略

CFOが語る財務戦略

進化する市場に向け機動的な成長投資を実現するために、安定した財務基盤構築に努めています。

取締役専務執行役員
最高財務責任者 (CFO)

野村 謙吉

財務戦略の概要

ご自身の役割について教えてください
経営戦略に基づく投資の最適化を実現し、事業活動を財務面から支えます

CFOとして当社の財務戦略の立案から執行までを担う責任者であることに加え、専務執行役員として管理部門全体を管掌しています。また、事業構造が大きく変わる状況下、2020年4月から新たに企画戦略部門も管掌しています。この役割のもと、CEOとCOOが要となって策定する当社の成長戦略の推進に向け、デジタル強化をはじめとする各戦略の構築にも携わることで、機動的かつ無駄のない投資を実現し、業績の拡大および資本効率の向上を図っています。

CFOとしては、従来からの財務戦略である、安定的なキャッシュの確保に基づく強固かつ柔軟な財務基盤の構築と、資本効率の向上に努めています。そして新たに、経営企画、マーケティング戦略を管掌することで、経営と事業のさらなる連動に取り組んでいます。

新型コロナ感染症等による事業環境の変化を受け、財務戦略に変化はありますか
変化はありません、今後もキャッシュ重視の財務基盤で成長投資を支えます

当社は成長戦略の結実に向け、デジタルコンテンツ事業を中心に毎期300億円規模の開発投資を行っています。売上計画比で約36.5%におよぶ研究開発費を安定的に投じるには、強固かつ柔軟な財務基盤を構築する必要があります。当社は「ネットキャッシュの改善」をベースとして積極的な開発投資を実現することで、成長戦略を推進、高い資本効率性のもとでの業績成長に取り組んでいます。

2020年3月期は、成長のための投資がコンシューマ事業で歴代最高の販売本数として結実し、過去最高益を更新してネットキャッシュは142億円増加、売上高営業キャッシュフロー比率は27.3%に達しました。新型コロナ禍に対しては、幸い当社はゲーム販売のデジタル化により大きな影響を回避することができ、また年間開発投資額に対する現金及び預金残高は約2.2年分と財務面での懸念は生じていません。しかしながら、他業態における様々な影響を目の当たりにして、キャッシュの重み、また事業特性に応じた財務基盤を構築することの重要性を、改めて肝に銘じています。

図表:売上高・営業活動によるキャッシュ・フロー

これまで当期純利益が7期連続で増益した期間、当社の収益構造は、販売チャネルのデジタル化や収益期間の長期化により大きく変化してきましたが、築き上げてきた財務基盤のもと、成長投資を適切に支えることができました。しかし、更にこの先10年の市場に目を転じれば、新技術や新ハード、新たなサービスの登場により、未だかつてなかった大きな変化が予想されます。投資の選択肢は一層広がる見通しであり、そのための財務面での備えが必要です。

私はCFOとして、引き続き投資の選択と集中に努めるとともに、原価・販管費などのコストを継続的に見直し、一層筋肉質な財務基盤の構築を図ります。また、蓄積したキャッシュにより、大型タイトルへの開発投資や、デジタル強化に向けた投資、新技術や新サービスへの対応、eスポーツやモバイルなど戦略案件への機動的かつ最適な投資配分を実現し、成長戦略の結実および資本効率性のさらなる向上を目指します。

重視する財務KPIとその向上策について教えてください
「毎期営業増益10%」に加え、資本効率(ROE)を重視しています

当社は、投資家の皆様へ向けた中期経営目標として、本業からの収益である営業利益を「毎期10%増益」することを掲げています。同時に、事業の効率性の指標として「営業利益率」、最終利益である「当期純利益」、株主還元やさらなる成長の源泉として「フリーキャッシュフロー」も向上させることを目指しています。変化の激しいゲーム業界において、常に先を見据えた経営を行うにあたり、これらの指標や「売上比・前年比・計画比」のマトリックス比較などで変化をチェックし、早期に課題に対応してきたことで、直近5年における営業増益率は+116%、営業利益率の改善度は+11.5ポイントと、同業内比較でも上位に位置しています。また、この間における当期純利益の増益率は+141%、フリーキャッシュフローも大幅に改善しています。

営業利益・営業利益率の改善率
(2015年3月期との比較)

営業利益 営業利益率
カプコン +116% +11.5 points
コナミHD +114% +5.2 points
スクウェア・エニックスHD +99% +2.8 points
セガサミー HD +57% +2.5 points
バンダイナムコ HD +40% +0.9 points

注) 2015年3月期と2020年3月期実績の比較
出所) 各社決算短信、決算発表資料をもとに当社作成

そして、資本効率性の指標として重視しているROE(自己資本利益率)は、当期において16.9%となりました。業績成長とともに7期連続で安定的に向上し、株主価値を創出しています。

ROE

ROE
カプコン 16.9%
コナミHD 7.3%
スクウェア・エニックスHD 10.0%
セガサミー HD 4.6%
バンダイナムコ HD 13.1%
東証一部平均 6.6%

注) 2020年3月期実績
出所) 各社決算短信、日本取引所グループHP

この背景にあるのは、2013年以降推進してきたデジタル戦略です。新作大型タイトルだけではなく、過去のコンテンツ資産の販売からの利益獲得を強化することで、資本の拡大に依存せず効率的に収益を成長させています。なお、ROEとともにROA(総資産利益率)の改善にも着目しており、当期は12.0%まで向上しています。 次期においても、引き続きデジタル戦略を推進し各KPIの向上を目指します。営業利益は11.7%増の255億円、当期純利益は12.9%増の180億円、営業利益率は2.0ポイント改善の30.0%と向上を見込み、ROEは16.9%と前年並みを想定しています。これらの計画の達成に向け、経営として上記のチェックを徹底するとともに、効率性を意識したBS(貸借対照表)のマネジメントを実践していきます。

2018/3 2019/3 2020/3 2021/3(計画)
ROE(%) 13.4 14.4 16.9 16.9
当期純利益率(%) 11.6 12.5 19.5 21.2
ROA(%) 8.9 10.1 12.0
財務レバレッジ(倍) 1.46 1.39 1.44
成長戦略のための投資方針と内容はどのようなものでしょうか
主力のデジタルコンテンツ事業に経営資源の80%を投資しています

中長期的な成長の実現のためには、オリジナルコンテンツを生み出す源泉であるデジタルコンテンツ事業への十分な投資額を確保することが必要不可欠です。具体的には、タイトルラインナップの拡充や新たな技術への対応に加え、開発者の増員や開発環境の整備に向けた投資が必要です。2021年3月期は当社の投資額全体(開発投資額および設備投資額を合わせた金額364億円)の80%に相当する約290億円をデジタルコンテンツ事業に投資していきます。なお、投資水準の妥当性を計る指標として、年間開発投資額とゲームソフト仕掛品残高の適切な管理に努めています。貸借対照表に計上されるゲームソフト仕掛品残高について、ゲームの開発期間は一般的に2~3年以上を要する一方、コンテンツの販売期間もデジタル配信に伴い長期化していますので、制作中コンテンツの開発進捗を適切にチェックすることで、資産の健全性維持に努めています。

図表:設備投資¥開発投資額

当社では、開発投資を適切に管理しタイトル収益を向上、ネットキャッシュを効率的に創出するため、2つの手法を採用しています。1つ目は、「投資回収管理の徹底」として、タイトル別投資回収状況(ROI)をデータベース化し、投資収益をプロセス管理しています。タイトルの制作進捗が順調であれば当初想定の投資を継続しますが、問題がある場合は、早期に改善を図った上で投資の継続可能性を再評価します。2つ目は、「運転資本効率化の徹底」として仕掛資産を継続的にチェックし、回転日数や回転率など更なる可視化の仕組みづくりに取り組んでいます。

これらの取り組みを通じ、当期末のネットキャッシュは589億円となり142億円増加しました。また、年度後半の商戦期前後での大型タイトル投入に伴う売上債権および債務の期末残高の一時的増減を考慮した「正味のネットキャッシュ」も690億円へと増加しました。

図表:正味ネットキャッシュの推移〈億円〉

なお、今後の投資額は、パイプラインの拡充に向けた着実な新卒採用と新ハード、新技術への対応に伴い漸増する見通しです。引き続き、投資配分とプロセス管理を適切に行うことで、成長投資を実現していきます。

キャッシュの適正水準と資金調達について教えてください
ゲーム開発の大規模化や販売期間の長期化に対応できる水準を確保しています

コンシューマゲームソフトの開発費用は、ゲームプラットフォームの高性能化および多機能化に伴い増加傾向にあります。また、主力タイトルの開発期間は2~3年以上を要することに加え、デジタル販売の浸透により長期販売が可能となった結果、投資資金の回収期間として定める期間も長期化しています(パッケージ販売が主流だった時代は、発売から1~3ヵ月の期間に大半の需要が集中し、概ねその期間内に開発コストが回収されていました)。

このような状況下、当社はタイトル開発の投資計画とリスク対応の留保分などを考慮して保有しておくべき現預金の水準を年間開発投資額の1~2年分程度と設定していました。しかしながら、この先10年間における当業界のコンテンツの更なる進化、そしてビジネス構造の大きな転換の可能性をふまえると、もう1年分程度キャッシュポジションを高め、より機動的な投資を可能にする体制を作っておく必要が生じてきています。当期末においては、業績の伸長もあり、現預金残高は656億円となりましたが、更なる財務基盤の強化に努めていきます。

株主還元における自己株式の位置づけについて教えてください
総還元性向の観点から配当と並ぶ柱として、機動的な取得を実施しています

当社は、自己株式の取得について、1株当たり利益を高めることで株式価値を高め、株主への還元に資する重要な方針の一つとして考えております。この考えのもと、経営環境の変化や財務内容等を勘案し、株主価値の向上に資すると判断できる場合は、過去から機動的に自己株式の取得を行っています(直近では2017年と2019年に取得)。

配当と合わせた過去10年の平均総還元性向は58%となっており、これからも機会に応じ、最適な対応を図ります。

なお、保有している自己株式につきましては、新技術や事業成長・資本効率向上の観点のもと、取り得る選択肢に対して適切な対応を検討していきます。

図表:正味ネットキャッシュ推移

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