CEOコミットメント

CEOコミットメント

確かな経営基盤と成長戦略で
世界最高のコンテンツを創出し、
心豊かな社会づくりに貢献します。

代表取締役会長
最高経営責任者 (CEO)

辻本 憲三

新型コロナウイルス感染症と戦う皆様へ

新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方々にお悔み申しあげると共に、被患されている方々に心よりお見舞い申しあげます。

これまでの経営者人生を振り返ると、私自身も被災した阪神淡路大震災や東日本大震災、リーマン・ショックなど、数多くの危機に直面してきました。しかし、これまでの災害や危機と異なり、今回のコロナ禍は局地的な問題ではなく、全世界のあらゆる領域に影響が及ぶ問題として我々の前に立ちはだかっています。エンターテインメントというコンテンツは生活必需品ではありません。しかし、このような時にこそ、エンターテインメントが人々に楽しさや希望を届けることができると考えています。我々の事業活動を通じ、世界中の皆様に新型コロナウイルスと戦う活力をお届けしたいと思います。

当社の持続的成長の源泉となる5つの要素について、
どのような優位性・独自性を発揮しているのかご説明いたします。

世界一面白いゲームの創出で持続的な成長を実現

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企業理念・企業文化 —— 創業以来不変の理念

目指すは世界一、最高のコンテンツを「大阪から世界へ」

「ゲームは嗜好品であり人生に不可欠なものではない。だからこそ、ユーザーが面白いと思う世界トップクラスのブランドでなければならない。」私のこの考えは、エンターテインメント業界に飛び込んだ50年以上前から変わっていません。

カプコンは、ゲームというエンターテインメントを通じて「遊文化」をクリエイトし、人々に「笑顔」や「感動」を与える「感性開発企業」を基本理念としています。これはつまり、世界一面白いゲームを創出し、人々を幸せにすることで心豊かな社会づくりに貢献する、ということです。

1983年、私は「創意工夫」をモットーに、世界トップクラスの品質のゲームを開発したいという想いから創業しました。

その背景には、ゲームはグラフィックの進化や世界観の深耕により、やがてディズニー映画と同じように全世界に感動を与えることができると考えていたからです 。

それから37年、カプコンの旗の下に共感し集った仲間は今や3,000名に届こうとしていますが、この価値観は「大阪から世界へ」を合言葉として企業文化となり、①常に新しいことに取り組むチャレンジ精神、②常に世界トップクラスを目指す自負心、が社員一人ひとりに刻み込まれています。

当社から、「ストリートファイター」や「バイオハザード」、「モンスターハンター」などの、世界に通用するユニークなゲームが頻繁に創出されるのは、長年培われてきたこの企業文化が土壌にあるからです。

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ビジネスモデル —— 創造力と強力なIP資産

高品質なコンテンツを、広範なマーケットで最大限に活用

当社の強みは、①世界最高品質のゲームを生み出す開発力・技術力、②世界に通用する、ブランド化された多数の人気IPを保有していること、の2点です。

加えて2011年度より、内作中心の開発を見据え新卒開発者を毎年100名以上採用し、開発人員を約2,300名(2020年6月末時点)まで増やしたことで、更に強みを伸ばしています。

ゲームの市場特性や競争要因分析から、コンシューマ事業には高い参入障壁があり、上述の強みに、当社の資本力やハードメーカーとの信頼関係を合わせると、大きな競争優位性(=収益性)を築いていると考えます。更に、パソコンを用いたゲームプラットフォームの普及およびインターネットを通じてソフトを販売するデジタル販売の一般化により、かつては一部の先進国のみであった家庭用ゲーム市場は今やグローバルに拡大しています。

また、コンシューマ以外の事業は、人気IPを活用したマルチユース展開により、安定した収益源として貢献しています。これは、当社IPが100%自社開発のオリジナル作品であることに加え、グローバルIPを多数保有していることが、マルチユースの効果を増幅させているからです。加えて、他の領域への展開によりブランド価値が向上し、ゲームへ新規ユーザーが流入する効果も期待できます。特にハリウッド映画を活用したマーケティング展開は当社IPのグローバルでの競争優位性(=ブランド力)を高めており、優れた相乗効果を発揮しています。

近年では、このような継続的なブランド化施策の結果、イベント会場などで親子二世代で楽しむユーザーの姿も見られるほど、長く親しまれるIPとして定着しています。

かつて私が志向したディズニーは、アニメ映画からスタートし、テーマパーク事業に至るまでエンターテインメントの世界で圧倒的な存在感を得るに至りました。世界に通用するオリジナルコンテンツを持ち、eスポーツやモバイル、ライセンスビジネスでの成長可能性もある当社は、来るデジタル時代において、エンターテインメントを牽引する存在になれると確信しています。

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重要経営指標(KPI) —— ヒットビジネスにおける安定成長へのこだわり

先を見据えた体質改善と、新たな指標

1. 2020年3月期 経営成績の分析(要約)

当期(2020年3月期)の業績は、7期連続の営業増益、かつ営業利益以下の利益項目は過去最高となりましたが、私が今期の業績で主張したいのは「減収増益」だということです。当期においては、期初の時点で①大型新作が『モンスターハンターワールド:アイスボーン(MHW:I)』のみであること、②『MHW:I』は完全な新作タイトルでなく、前作『モンスターハンター:ワールド』の大型拡張コンテンツであるため販売単価が低い、ことから減収計画としていました。しかし、①『MHW:I』を中心に収益性の高いデジタル販売比率が前期比で向上したこと、②デジタル販売を中心に、カタログ販売(過去作、移植・HD化含む)が伸長したこと、により、減収ながら、期初計画通り7期連続の増益を達成することができました。従前はどうしてもその期における大型新作の投入数に市場の予測が左右されがちでしたが、この結果により我々が以前より進めてきたデジタルシフトやカタログタイトルの積み上げモデルの成果が証明できたと自負しています。

2. 中期経営目標の前提と指標(KPI)

(1) 経営の方向性 —— 先の先を見据えて考える
私は、経営にあたり常に先の先を見据えて物事を考えています。例えば10年近く前、私はビジネス誌の取材を受けた際に、「世界屈指のクオリティを持つ商品を低価格でデジタル販売することができれば、業績は更に向上する」とお話ししました。当時はパッケージ販売が主流であり、デジタル版を購入するユーザーはほんの一握りでしたので、多くの人には信じられない考え方だったかもしれません。またパッケージが主流であることから、新興国では多くの海賊版が出回っていましたが、それも「長い目で見ればプロモーションになる」とお話ししました。結果、デジタル販売が浸透した現在では、200種類以上のゲームソフトを、国連加盟数を超える国と地域に向けて販売しています。

トップクラスのコンテンツを生み出すことは、今の業績を作るだけでなく、将来を切り開くための武器にもなります。だからこそ①世界トップクラスの面白いコンテンツ(IP)を創り出し、②その豊富なIPを多面的に活用し、収益を最大化するとともに、③これらを継続することで、持続的に成長する企業になることを経営方針として掲げています。

(2)経営目標
2018年3月期より、持続可能な中期目標として、「毎期、営業増益」を掲げてきました。大型タイトルの発売時期を無理やり調整して達成するのではなく、タイトルラインナップの拡充などにより自然体で安定成長する「積み上げモデル」を志向することで、年金を運用する機関投資家や、年金で生活する個人投資家の方々が、安心して長期保有できるようにするためです。これまで、具体的な増益率は掲げていませんでしたが、デジタルシフトの成果が明確化した今、「毎期10%の利益成長」を設定しました。

(3) 重視する指標(KPI)と株主価値創造実績
私は経営にあたり、企業の稼ぐ力の基本となる「営業利益」(成長指標)と収益性の基本である「営業利益率」(効率性指標)に加え「当期純利益」、そして「キャッシュ・フロー」を重視していますが、財務面の詳細は、CFOよりご説明いたします。

ここでは、毎期10%成長を達成するため重要な指標と位置付けている、ゲームソフトの販売本数についてご説明します。デジタルシフトにより当社の営業利益率は2017年3月期以降、4期連続で向上していますが、徐々に上限に近づきます。今後、増益を達成し続けるには、販売本数を拡大し、売上そのものを引き上げていく必要があります。

当社が本格的なデジタル戦略に取り組み始めた2017年3月期まで、販売本数は大型新作の有無によって大きく変動していました。しかし、近年では①デジタル販売の強化、②主力タイトルの長期販売、③デジタルマーケティングの推進などにより、販売本数を安定的に伸長しています。今後、デジタル販売がより浸透すれば、中古ソフトの流通も減り、販売本数は引き続き上昇基調で推移できるでしょう。これらの取り組みを進めることで、将来的なビジョンとして年間5,000万本の販売もいずれ視野に入ってくると私は考えています。

図表:ゲームソフトの販売本数(千本)

更に私は、事業活動を通じて世界で活躍できる人材の育成や先端技術による新たな市場を創出し、社会的・経済的価値を生み出す(共通価値の創造)と同時に、ステークホルダーとの健全な関係を構築することが企業価値の向上に繋がると考えています。そこで、ESGのうちS(社会)、G(ガバナンス)を中心に①開発者数、②ダイバーシティ、③教育支援、④社外取締役比率、を重要課題と認識しています。ゲーム開発という事業では、一般的な製造業と比べて環境への負荷は低いため、特にE(環境)の指標はありませんが、当社の推進するデジタル化が浸透すれば、輸送や包装など、環境への負担も軽減されるでしょう。

収益を生み出す事業戦略、事業を支えるESG戦略の両輪で安定成長を実現します。

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経営戦略 —— 安定成長実現に向けた開発・マーケティング戦略

強みを伸ばす開発体制・ブランド戦略の改革

1. 世界トップクラスのゲームを作るための人材・開発設備への投資

業界で50年経営をしてきた私が痛感しているのは、「世界一面白いゲームを生み出すためには、最高水準の技術が必要不可欠である」ということです。ゲーム業界は最新技術の宝庫であり、オンライン対戦、VRやARなど、常に最新技術を活用したエンターテインメントを世の中に提供してきました。この傾向はGAFAの市場参入により、更に勢いを増すと考えられます。したがって、世界中でヒットするゲームを作るには、最先端の技能を持った人材を集結させる必要があります。私は、ゲーム市場の拡大と技術進化を見据え、新卒開発者の採用を強化してきました。昨今の若者は幼い頃からゲームやITに親しんできた「デジタルネイティブ」です。そのため、資質が高いスタッフであれば、若手のうちから大型タイトルや、ゲーム開発の根幹をなすゲームエンジンの開発チームに配属することもあります。

また、クリエイターの能力を最大限発揮できるよう開発設備に積極的に投資しており、事業所内には世界最先端の開発拠点を備えています。

2. 世界ブランドにするためのマーケティング戦略

もう一つ重要なことは、ヒットした作品の認知度を高めブランド化することです。

ゲームソフトの開発は3年程度を要するため、発売後は認知度が低下し続けることが課題でした。私は、ゲームタイトルを継続的に露出させる効果的な方法はハリウッド映画による世界的な展開と考え、1994年には40億円全額出資して、「ストリートファイター」のハリウッド映画化を決断しました。当時、「辻本さんは道楽で映画を始めた」と言われたものですが、結果として約150億円のリターンと「ストリートファイター」の世界ブランド化に成功しました。ゲームの露出は発売前後の長くて2週間ですが、映画化により①劇場公開、②パッケージ販売、③VOD、など何年も何十年も世界中で繰り返し放送され続け、認知度の維持・向上に繋がったのです。

このマーケティングは、「世界トップクラスのゲーム」であることが重要であり、当社では既に「バイオハザード」でも同様の成功を収めています。2021年には「モンスターハンター」の映画化を予定しています。同シリーズは既に世界で6,300万本を販売する人気ブランドですが、映画化での成功体験を活用し、真のグローバルブランドへと押し上げます。

3. 中長期での段階成長

毎期営業増益を達成し続けるために必要なことは、①コンシューマにおいて、売り切り型から継続型へとビジネスモデルを改革すること、②「ワンコンテンツ・マルチユース」を徹底し、コンシューマに続く新たな収益の柱を構築すること、の2つです。この内 、コンシューマでの改革は次ページでお話しするように、成果が顕在化しています。そこで、次なる成長の柱となるのが、モバイルとeスポーツです。

中長期の成長イメージ

我々のモバイルコンテンツは、家庭用ゲーム機で創出したIPとモバイル端末との相性などの問題もあり、苦戦を強いられています。しかし、通信速度と解像度の技術進化により、将来的には我々のIPも十分に活用できると考えています。そのため、現在では5G、6G時代を見越した研究開発を進めています。

eスポーツにおいても、将来的な市場の拡大を見据えて、投資を促進しています。

収益変動リスクを低減するコンシューマのビジネスモデル改革

ここでは、毎期営業増益という中期経営計画を達成するため、 私が取り組んできたコンシューマのビジネスモデル改革について振り返ります。

売り切り型から継続型への転換のため、 2017年3月期より以下5つの取り組みを進めていますが、 2020年3月期時点で連結営業利益は年平均13.7%で成長を続けています。

1 大型タイトルの安定投入

積極的な新卒開発者の採用など開発組織の拡充により、毎期大型新作タイトルを安定的に投入。2021年3月期は複数の大型タイトルの投入を見込んでいます。

大型新作の投入数(本)
2 大型タイトルの長期販売

ゲーム内容の継続的なアップデートや、デジタルでのシーズンセールなどの価格施策により、『バイオハザード7 レジデント イービル』以降、多くの大型タイトルは、発売期以降も毎期100万本以上を販売しています。

3 海外展開の強化

全世界に向けて販売可能なPCプラットフォームの本格活用により、海外販売本数の水準は向上しています。

4 過去のヒット作の資産活用

根強い人気を誇り、長期的な貢献が見込めるため、過去ヒット作の移植タイトルを積極的に市場に投入しています。その結果、旧作販売本数が大きく増加しています。

5 デジタル販売本数拡大

14により商品展開が豊富になったことに加え、価格施策との相乗効果により、デジタル販売本数は右肩上がりで成長しています。

今後の方針

次世代ハードの発売を控え、新たな成長ステージに入るゲーム業界において、我々は引き続き上述の5施策を推し進めます。加えて、①地域ごとのニーズを見極めるデジタルマーケティングの更なる強化、②既に開発コストの償却を終えた旧作タイトルの低価格販売、③クラウドゲーミングをはじめとした新たなプラットフォームへの対応など、常に先を見据えた手を打ち続けます。

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ESG —— 持続可能な成長に向けた取り組み

健全な関係構築と仕組みづくりで企業価値を向上

1. ゲームと社会との健全な関係構築

これまで、ゲームは人々に笑顔や感動をもたらし、新たな文化を生み出してきました。また、コロナ禍においては在宅時のエンターテインメントとして、WHOからゲームが推奨されるなど、健全な社会の運営にも寄与しています。

しかしその一方で、「未成年者の高額課金」や「ゲーム依存症」など新たな課題が現れています。企業理念の項目でもお話しした通り、ゲームを通じて人々を幸せにすることが我々の目的であり、ゲームによってユーザーが不幸になることは我々の望むところではありません。こうした社会課題に対して真摯に対応していかなければ、業界としても企業としても、社会の一員として信頼を得て成長を続けていくことはできません。

【CEOコミットメント】 1. 企業理念・企業文化 —— 創業以来不変の理念

そこで我々はこれらを業界全体の大きな問題と認識し、業界団体を中心に各社一丸となり、①ガイドラインの制定・啓発、②加盟各社間の課題・事例の情報共有、③保護者・教育関係者・消費者団体・行政等との定期的な情報交換、などに取り組んでいます。

加えて、当社単独では、2005年よりゲームに対する青少年の健全育成面での社会的不安を取り除くための取り組みとして、ゲームとの正しい付き合い方を啓蒙するリテラシー教育やキャリア教育支援活動を継続して実施しています。

また、モバイルゲーム開発の際には、ガチャ要素は原則的に控えるなど、幅広いユーザーに安全に平等に遊んでいただけるよう心がけています。

更に、パチスロ市場においては、業界団体を通じ、ぱちんこ依存問題相談機関「リカバリーサポート・ネットワーク(RSN)」などの活動に賛同・協力しています。

2. 地域社会との関わり

基本戦略「ワンコンテンツ・マルチユース」の推進により、広く社会に貢献していきます。具体的には、当社の人気コンテンツを活用した地方創生活動として、①経済振興の支援、②文化啓蒙の支援、③防犯啓発の支援、④選挙投票の啓発支援、を行っています。これらの共通課題である「若年層の集客や訴求」への解決手段として、定量的な社会的成果をあげています。

上記4つの活動から当社にもたらされる価値は、①イベント参加による既存ユーザーの満足度向上、②ゲームに関心の低い層からのゲームへの好感度向上、です。特に②は、ユーザーとして取り込めていない層であり、当社の人気コンテンツが地元へ貢献する中で、当該コンテンツへの関心を喚起し、モバイルアプリなど気軽にアクセスできるサービスを通じて、新たなゲームユーザーになる可能性があります。

3. 従業員との関わり

ゲームソフトの開発費の約80%が人件費で占められていることからも分かるように、ゲーム産業は「労働集約型産業」ならぬ「知識集約型産業」として、人材が極めて重要な経営資源です。

私は、グローバルで通用するコンテンツを創出するにはダイバーシティが重要と認識しており、性別・人種にこだわらず優秀な人材の確保・育成を推進しています。また、優秀な人材がその能力を最大限に発揮できるよう、世界最先端の開発機材を備えていることは前述の通りです。就業環境の整備により、商品のクオリティ向上と同時にクリエイティビティを充足しているのです。更に報酬面では、能力に応じたメリハリのある給与体系に加え、タイトル別インセンティブやアサイン手当制度を導入し、モチベーションの向上を図っています。

加えて、2017年度には事業所内保育所「カプコン塾」を設置し、子供を持つ従業員が業務に集中できるよう環境を整備しています。

私は、人材育成で最も重要なのは、新しいことに挑戦できる環境を与えることだと考えています。どんどん挑戦させて、「上手くいったこと」は放っておき、「上手くいかないこと」にエネルギーを費やして対策を練るのが経営者の役割です。そうすれば従業員も失敗を恐れることなく、世界一面白いゲーム開発や新たな事業に挑戦することができ、それがビジネスチャンスを生み出す好循環になるのです。

4. 継続的なガバナンス強化

成長戦略を加速させるほどリスクは比例して高まりますが、このリスクの回避もしくは低減に有用なのがガバナンスです。

特に、創業者の私がCEO、長男がCOOですので、社外取締役の監督機能を十分に発揮させ、取締役会が透明性・合理性の高い意思決定を行う独自の仕組みを構築し、「経営判断リスク」を回避しています。

仕組み1 数字を主体とした「経営の見える化」

私は、企業規模や事業環境が変化したとしても、柔軟かつ一貫した経営を行うために、経営判断する材料(資料)を原則数値化させています。具体的には、資料は売上比、前年比、計画比など比較対象を示し、複合的にチェック可能にすることで問題点を見つけ出しやすくしています。

更に、当該資料は、社外取締役による監督にも活用してもらうことに加え、IR活動で投資家にも活用していただく、この一連の仕組みを「経営の見える化」と呼んでいます。業務の可視化に基づく経営判断に、外部からのジャッジを加えることで、経営の透明化を図っています。

また、私は、開発者との対話でも数字を共通言語にしています。定性的な言葉では担当者の恣意性が入る可能性がありますが、数字は嘘を付きません。

創業者として培ってきた経営ノウハウを次世代メンバーに実戦で教えるとともに、経営を「仕組み化」して、将来にわたって会社を確実に機能させるため、引き続きリスクコントロールの強化に努めます。

仕組み2 社外取締役の監督機能を発揮できる機関設計

当社は、これまで21年間にわたり、諸種のガバナンス改革を断行してきました。

2002年3月期から社外取締役制度を導入したのを皮切りに、取締役の社外比率を50%まで向上させています。

社外取締役の選任基準は導入当初から現在も変わらず、一言で言えば、「良識があり、ゲーム以外の各分野で最高レベルの専門家に、当社の経営・事業活動を冷静に判断していただくこと」です。事業投資リスクを回避することを優先課題として、「特に業績が思わしくない時、創業者にも物怖じせず、正論を意見できる日本トップクラス(経営管理・法令・行政)の方々」を選任し、一般社会の視点で妥当性を判断していただきます。

加えて2016年には、更なるガバナンス強化、迅速な意思決定を実現するべく、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行しています。監査等委員会には、取締役、従業員の業務執行への監査や是正勧告などにより、内部統制の強化を担ってもらっています。

仕組み3 経営人材力の強化と後継者育成

私は37年間、カプコンを育ててきましたが、後継者に仕組みをきちんと理解させ、実行できるようにすることもまた、創業経営者の務めです。私は事業・開発トップの辻本春弘(社長)と江川陽一(専務)を次世代のキーパーソンとし、積極的に情報交換やアドバイスを行っています。後継者計画に関する議論は指名・報酬委員会への諮問を通じて行われますが、タイプの異なる二人を厳しく鍛え上げ、「企業文化」と、前述の「経営の見える化・仕組み化」、そして「公明正大なガバナンス」を組み合わせれば、長期投資家の方々が「この人の経営に任せてみたい」と思う厚いマネジメント層が整うでしょう。

最後に、株主の皆様との関係において重要な資本政策に関する私の考えをお話します。

上場以来30年連続配当と過去最高配当で長期株主に報いる

1.配当に関する基本方針

私は、変化することが当然のゲーム産業において、「企業として安定的な成長を遂げるとともに、長期株主には安定的な増配で報いたい。」という信念で、創業以来37年間経営を行ってきました。

持続的な企業価値向上のための要諦は前述しましたが、株主の皆様への利益還元についても経営の重要課題の一つと考えており、将来の事業展開や経営環境の変化などを勘案のうえ、配当を決定しています。

株主還元の方針として、①投資による成長などにより企業価値(時価総額)を高めるとともに、②連結配当性向30%を基本方針とし、かつ安定配当の継続に努め、③機動的な自己株式の取得により1株当たり利益の価値を高めること、としています。

私が配当性向だけでなく安定配当を大切にする理由は、例えば年金生活で配当を生活費の一部として生計を立てている方にとっては、急な無配・減配は死活問題になるからです。定期的かつ安定的な収入があることで、将来の生活設計をしっかり立てることができます。年金を運用する長期投資家の方からも配当の安定性を求めるご要望を受けます。

多様な株主の皆様の中にも、このような方々がおられるからこそ、1990年の上場から30年間、一度も無配にしたことはありません。また、2020年3月期は4年連続の増配を達成しています。

上場以来の1株当たり配当金(円)

この結果、この5年間の株価の上昇を含めた株主総利回り(TSR)は+296.8%であり、TOPIX(+101.8%)を上回るとともに、同業他社比較でも上位に位置しています。

株主総利回り(TSR)

2020年3月期
カプコン 296.8%
コナミ HD 161.6%
スクウェア・エニックス HD 197.8%
セガサミー HD 86.4%
バンダイナムコ HD 247.0%
配当込みTOPIX 101.8%

出所) 各社有価証券報告書

2. 当期および次期の配当

2020年3月期の配当は、株式分割を考慮すれば実質的に過去最高となる年間45円としました。次期も、当期と同額の配当金を予定しています。

私は、この業界に50年の経験を持つ経営トップとして、過去37年間を超える更なる企業成長を図り時価総額を増大させることで、株主の皆様のご期待に応えてまいります。

代表取締役会長
最高経営責任者(CEO)

辻本 憲三

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