COOが語る成長戦略

デジタル戦略の先、
ゲームを超えたデジタルコンテンツ企業を目指します。

代表取締役社長
最高執行責任者 (COO)

辻本 春弘

COOが語る成長戦略

私がゲームの世界に携わって35年以上、常に日進月歩の日々でしたが、近年のグローバルでのゲームソフト市場の成長は特に顕著であり、その成長率は過去5年間で141%増、更に今後5年で37%増が見込まれます。この背景には、コンシューマでのデジタル販売の伸長と、モバイルコンテンツを含めた市場のグローバル化があり、当社もコンシューマを中核として積極的な成長戦略を推進し、「毎期営業増益」を中期的な経営目標としています。

中期目標の達成に向け、当社ではデジタル戦略を採用し、販売チャネルとしてのインターネットを最大限活用することで、ゲームソフトのグローバルでの長期販売を強化しています。その際忘れてはならないのは、ゲームのビジネスが従来のB to BからB to Cへと変化してきているということです。自社WebサイトやSNSを活用したデジタルマーケティングを通じてユーザーニーズに寄り添うことで、ビジネスの効率が大きく変化するのです。

そして今後、デジタル戦略が結実し、グローバルで当社ゲームの販売本数を拡大したその先、私が見据えているのは、eスポーツやライセンスビジネスの活用を含め、当社のコンテンツがゲームを超えたブランドとしてグローバルで支持され、世界をリードするデジタルコンテンツ企業となる姿です。

その少し先の当社像に向け、今私達が進もうとしている道筋をお伝えします。

成長戦略1

デジタルコンテンツ

主力IPを活用しデジタル戦略を推進、
年間ソフト販売3,000万本が射程圏に

中核のコンシューマでデジタル比率を更に向上、グローバルでの長期販売を実現

私達のビジネスの中核であり、コンテンツ創出の源泉でもあるのは、やはりコンシューマです。近年のデジタル販売の普及に積極的に対応してきたことにより、収益性の改善とビジネスのストック化が進んだ結果、過去一桁台に沈んだこともある営業利益率は、段階的に改善し、2020年3月期では40%台に達しています。

市場は今後も、2024年までに532億ドルへと52%成長し、デジタル販売比率も更に向上する見通しです。この環境下、当社としても、次期以降も世界トップレベルの開発体制を基盤として、高クオリティのコンテンツを投入していきます。更に、戦略的な価格施策により、ユーザーニーズを広範かつ長期間獲得することを通じ、年間のソフト販売本数3,000万本を近い将来に突破し、更に伸ばしていくことを目指しています。

図表:デジタル戦略の効果

施策 1 主力IPをグローバル市場に安定投入

デジタル化、グローバル化といったビジネス構造転換の前提となるのは、高いクオリティの新作を安定的に投入することです。当社では、2013年の構造改革以降、中期的なタイトルポートフォリオマップ「60ヵ月マップ」を運用するとともに、開発者の年間アサイン管理「52週マップ」を併用し約2,300名(2020年6月末時点)の開発者を適時必要なタイトルへ配属する仕組みを整えました。これにより、毎期安定成長に向けた、大型タイトルの投入が実現しています。

また、当社ブランドは「ストリートファイター」や「バイオハザード」に代表されるように、海外でも人気が高いことが強みでしたが、市場のグローバル化を見据え、2018年に「モンスターハンター」シリーズの戦略タイトルとして投入した『モンスターハンター:ワールド(以下MH:W)』は、広く世界で支持され、当社歴代最高の1,610万本(2020年6月30日現在)を達成しました。更に、以降に投入したタイトルの多くも、『MH:W』同様の徹底的なクオリティの追求とデジタル戦略の採用により、好調な販売を記録しています。

図表:2020年3月期における主要ブランドの海外販売比率

しかしながら、この先のさらなる成長に向けて、開発者数はまだ十分とはいえません。今後も、100名以上の新卒採用と重点分野での中途即戦力の採用を併用することで、既存IPに加え、休眠IPの活用、そして2020年6月に発表した『プラグマタ』のような完全新規IPを創出していくことが、長期にわたる成長に必要です。

施策 2 デジタル化を通じた、収益性の向上とグローバルでの長期販売

私達の成長戦略における最重点部分である、デジタル戦略の詳細についてご説明します。私達が考えるデジタル販売の主なメリットは、①パッケージ製造コスト削減や在庫リスク回避による収益性の向上、②小売店で販売機会が得られなかった過去作の販売による収益機会の増加・長期販売の実現、③ゲーム機の流通が難しかった新興地域の市場化、です。これらは、ゲームビジネスに大きな転換をもたらしました。

図表:デジタル化における長期販売・グローバル化

原点は2013年、現世代機(プレイステーション4など)の発売を控え、これらのゲーム機がインターネットへの常時接続を前提としていることを知った私は、ゲームビジネスに大きな転換が訪れると考え、「デジタル対応の強化」を重点戦略に掲げました。それから7年、2013年3月期に52億円であった当社のデジタル売上高は、2020年3月期には426億円と8倍以上に成長し、この間、コンシューマの収益性は大きく改善しました。

デジタル化により、1本当たり収益は上述のように向上しましたが、さらなるメリットは、長期販売とグローバル化の実現でした。かつては、コンシューマにおける新作ヒットタイトルの有無で当社の業績は大きく変動していましたが、一たび良質な新作を投入すれば、3~5年に渡って継続的に収益貢献することに加え、パッケージ販売では中古流通が独占していた過去35年に渡る当社のコンテンツ資産が、オンライン上で低価格で提供することにより安定的な収益源となったのです。今では毎期200本程度のコンテンツがコンシューマの収益を構成しています。一方で、ユーザーに目線を転じれば、「ほしい時にすぐ手に入る」デジタルのメリットは大きく、新作においてもデジタル比率は年々向上し、最新の『バイオハザード RE:3』では発売初動にもかかわらずデジタル比率は50%に迫りました。

そして、近年デジタル販売において貢献度が高まっているのが、PCプラットフォームを通じた販売です。従来のコンソール機の市場を大きく上回る国と地域での販売が実現し、アジア、南米、東欧や中東など、新興地域での拡販に強みがあると分析しています。私はこの領域に今後の伸びしろが大きいと考え、PCを重点プラットフォームに定めています。

次期も、これらのデジタル戦略を更に推し進めることで、デジタル売上高は、過去最高の450億円を計画しています。パイプラインの拡充、販売の長期化、グローバル化のいずれにおいてもまだ成長余地があることから、デジタル売上比率は中期的に80~90%以上への上昇が見込まれ、コンシューマの収益性向上とストックビジネス化を更に進展させると考えています。

施策 3 デジタルマーケティングにもとづく価格施策で、需要を創出

次にデジタルがもたらした、ゲームビジネスの効率化についてご説明します。私達はかねてより、先端のネット技術の活用に着目してきました。ゲームという嗜好品では、デジタルでのコミュニケーションを通じ、ユーザーニーズに寄り添うことが、デジタルネイティブが消費の主役となる今後の世界をイメージした時に、非常に重要だからです。

そこで、マーケティングのデジタル化とともに、社内での意思疎通を強化すべく、四半期ごとに経営とグローバルの事業幹部が一堂に会しマーケティングプランを構築する「グローバルマーケティング会議」を設置しました。その結果、2018年に投入した『MH:W』以降、経営、開発、事業が一体となって、自社WebサイトやSNSを活用し、ユーザーニーズに即したタイトルのクオリティ向上やデジタル版購入への適切な導線の設定により、販売を拡大する体制が確立できました。

図表:グローバル・マーケティング

図表:価格戦略

また足元では、長期販売、グローバル化の観点から、地域やユーザー属性ごとのニーズを踏まえた期間限定セールなどによる、きめ細かく機動的な価格施策を重要視しています。その成果として、2019年末には、その前の期に投入した大型タイトルを戦略的に50%以上プライスダウンした結果、前年同時期比で2倍以上の売上を記録しています。

もう一つの好例が『MH:W』の長期販売です。2018年1月の発売から既に2年以上が経過していますが、段階的に価格を引き下げながら販売を維持した結果、累計販売本数は1,600万本を超え、その半数以上が2年目以降の販売によるものです。現在までの最低価格は約15ドルですが、既に開発コストは償却し終えていますから、10ドル極端に言えば5ドルで販売しても利益に貢献してくれます。この先も販売動向を見極めながら価格施策を行うことで、まだ手に取っていただいていない世界中のユーザーに訴求し、シリーズ次回作に向けユーザーベースを拡大していきます。将来の単価下落圧力になるのでは? という指摘をいただくこともありますが、私はその心配はないと考えています。嗜好品の世界では、高いクオリティのコンテンツをしっかりと提供できていれば、「高くても早く遊びたい」というニーズは必ずあるからです。価格施策により、ユーザーに様々な価格を提示し、それぞれが納得する価格で購入いただけるということは、販売側と購入側の双方にとって大きなメリットです。

施策 4 クラウドゲーミングなど新サービスや、モバイルコンテンツへの対応

ここまで述べてきたデジタル戦略を通じた当社の成長は、この先も当面は継続できると見込んでいます。他方、「クラウドゲーミング」や「5G」など新サービス・新技術の登場により、ゲームビジネスはこの先10年で更に急激な変化をする可能性があります。当社はマルチプラットフォーム戦略を採択しているほか、VRなど新技術へのいち早い対応実績などもあり、当然ながらこれらの新領域へも関心を持ち技術的な検証を行っています。

図表:ゲームプラットフォームとサービス形態

歴史的にみても、このような新サービス・新技術がゲームの楽しさを拡げてきたというのが実感であり、今回もゲームの世界のさらなる進化に期待しつつ、今後ユーザーにとって実際にどのようなメリットが生じるのか、現時点ではその推移を大きな関心を持って見守っていきたいと考えています。

また、モバイルコンテンツについては、現状は大きな成功を掴むにいたっていません。課題は、モバイルに特有の、継続的なサービスを通じマネタイズするノウハウを習得できていないことだと分析しています。現時点では、優先してコンシューマでの成長にリソースを割いていますので、成果を急ぐところではありません。しかしながら、「5G」あるいはその次の「6G」といった通信規格において、当社の迫力のあるアクションコンテンツが、いずれモバイル端末上でも遜色なく遊べるようになるでしょう。例えば、軽量化された次世代のVR端末との掛け合わせでブレイクスルーが起きるかもしれません。来るべき機会をしっかりとものにできるよう、技術研究を開発部門に指示しているところです。

締めくくりとしてお伝えしたいのは、ビジネスの形態が変わろうとも、当社が最優先すべきことは変わらないということです。それは、これまでも一貫してきた、当社のコンテンツを世界最高レベルへと徹底的に磨きあげることであり、それがしっかりと実行できていれば何時いかなるプラットフォームやサービスのもとでもユーザーに選択していただける。反対にそれができなければ、例え一時時流に乗ったとしても、中長期での成長は叶わない。当業界の一線を走り続けてきた経験則から、私はそう確信しています。

成長戦略2

eスポーツ

新たなエンターテインメント分野の育成に向け、長期視点で投資を継続

プレイヤーと観衆、地域と参画企業がWin-Winとなるエコシステムの確立を目指す

eスポーツとは

「エレクトロニック・スポーツ」の略で、コンピューターゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉えた名称です。1990年代後半頃から欧米で盛んになり、現在ではアジアや日本を含め様々なゲームのイベントが多数開催され若年層を中心に世界中で人気を博すとともに、ゲームビジネスにおける新分野として注目を集めています。

図表:eスポーツの収入成長の動向

初めに、私達がeスポーツに取り組む理由をご説明します。私達は、eスポーツは人々に新たな楽しみを与える新時代のエンターテインメントに育つ可能性があると注目しています。市場も近年大きく成長し、2023年には約16億ドルへと67%成長する見通しです。そして、eスポーツの発展に向け、プレイヤー、地域、また参画企業がWin-Winとなるエコシステムを構築するうえで、競技に用いるコンテンツを知り尽くし進化させられる私達だからこそ、果たせる役割があると考えています。

その結果として、当社としてもeスポーツからの収益が増加し、更にメインビジネスのコンシューマでのソフト販売への還流、ひいてはコンテンツのブランド価値が向上するサイクルができ上がる。そのようなビジョンを描いています。しかし、これは全く新しい分野です。一朝一夕に成るものではありません。やるからには、5年、あるいは10年の中長期的な視点で投資を継続し、サッカーや野球のように、アマチュア層の参加を含め、市場の裾野からじっくりと拡大していく必要があると考えています。

施策 大会継続と育成の仕組みを構築

新型コロナ禍における情勢を踏まえ、次期にかけ予定していたリアルイベントの多くは、プレイヤーや観客の皆様の安全を考慮し、開催方式を変更しました。一方で、オンラインでの代替開催が可能であることはeスポーツの大きな利点です。ここまで進めてきたeスポーツ普及拡大への取り組みを途切れさせないため、私達は、取り組みの2本柱のうち、①個人戦については、年間世界ツアーである「CAPCOM Pro Tour」を、2020年6月からオンラインで開催しています。②チーム戦についても、国内で2020年8月から「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2020」を実施し、新たに10社以上の大会スポンサーを獲得するとともに、米国でも「Street Fighter League: Pro-US 2020」をオンラインで開催します。また、2021年以降に向けては、コロナ禍の状況を見極めながら、eスポーツチームの地域フランチャイズ化や、女性選手対象のトーナメントの開催、育成機関の設置などの取り組みを進めます。eスポーツが一般社会に広く認知、理解されることで、IPの価値向上に留まらず、ゲーム業界の地位向上や社会的貢献にも繋げられるよう図っていきます。

図表:eスポーツへの取り組み

成長戦略3

ライセンスビジネス

ゲームを超えたデジタルコンテンツ企業へ

安定事業から成長事業への転換

「ゲームコンテンツはいずれ、世界的なアニメキャラクタ-と並ぶようなブランドになる。」私はそう考えています。当社は、1990年代初頭の『ストII』ブームをきっかけに、商品化やハリウッド映画化など、ゲームコンテンツのブランド化において業界をけん引してきました。2000年代には、全社戦略として「ワンコンテンツ・マルチユース戦略」を採用し、全てのブランドの積極的な多メディア展開を図っています。そして現在、デジタルコンテンツ事業が大きく成長し、当社ゲームのユーザーがグローバルで急拡大する状況下、私は、ライセンスビジネスも大きく成長を図る時期に来たと考えています。

図表:ライセンスのビジネスモデル

施策 グローバル展開の強化

従来、当社は日米欧の拠点から、それぞれの地域でライセンス展開を行ってきました。商品化や映像化などを通じ、ソフト収益の補完や、認知度の拡大、ロイヤルユーザーの育成といった貢献を果たしています。しかしながら、成長率という観点では、この5年間でソフトの販売本数が96%成長してきたのに対し、ライセンスビジネス(その他事業)の売上成長は41%に留まっています。私は、ここに伸びしろがあると考え、当ビジネスにおける一段の成長をグローバルの各拠点に促しています。また、アジアでの事業展開として、2016年から日本・アジア事業統括を立ち上げており、日米欧亜の4拠点体制の強化を図っています。この体制により、新興地域を含めたソフト販売拡大の受け皿としていきます。

また、アパレルやモバイルなど、他業種とのコラボレーションも増加しており、この領域からもライセンス収益の底上げを目指します。

施策 ハリウッド映画化の推進

コンテンツのブランド化という観点で、ハリウッド映画化の効果は絶大です。過去に実績がある「ストリートファイター」と「バイオハザード」は、いずれも当社を代表するブランドに成長し、ソフト販売数や長期的なコンテンツ価値を大きく向上させています。現在、当社は新たに「モンスターハンター」のハリウッド映画化を予定しています。同作は公開に向け準備が進んでおり、既に1,610万本を販売している『MH:W』が2,000万本を目指すうえでの側面支援になると考えています。

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