COOが語る成長戦略

辻本 春弘

COO COMMITMENT

デジタル戦略を継続、
カプコンユーザーの拡大の先に、
年間ソフト販売1億本を目指す。

代表取締役社長
最高執行責任者(COO)

辻本 春弘

ステークホルダーの皆様に支えられ、当社は2023年6月に創業40周年を迎えました。心より感謝申しあげます。

当社は1983年の創業以来、世界屈指のクオリティのコンテンツを創出し続け、世界でも有数のゲームメーカーとして成長を続けてきました。そして、コンテンツの更なる拡販および安定した収益基盤の確立を目指し、2010年代の中盤より、デジタル販売への転換をはじめデジタル戦略に本格的に着手しました。これまでゲームパブリッシャーは主に小売店を介してゲームユーザーにカセットやディスクなどの物理媒体でコンテンツを届けていました。しかし、小売店による販売では、①置ける商品に限りがあること、②国によっては販売価格の主導権を小売店が握っており、価格プロモーションを行いにくいことなどが世界展開において制約となっていました。またディスク販売においてはコピー・海賊版対策にもコストがかかります。これらの課題を乗り越え、全世界のゲームユーザーにゲームコンテンツを届ける方法としてデジタル販売への転換に着手してきました。

この結果、我々のコンテンツの販売国は2013年3月期の184ヵ国・地域から今や230ヵ国・地域にまで拡大し、当社の収益構造は新作販売に左右される体質から旧作販売による安定基盤にシフトしてきました。この旧作拡販により、我々の業績は10期連続の営業増益を達成しています。

しかし、これからの10年、さらなる変化が予想されるゲーム市場において持続的な成長を続けるためには、より一層の体制強化が必要であると感じています。それは開発体制だけでなく、市場の状況を把握・分析する力、ブランド力まで多岐にわたるでしょう。組織や環境、そして人材を継続して強化することで、より多くのユーザーに当社のゲームをお届けします。

そして当社コンテンツを楽しむ方々を増やすことで、その先に当社の目標である年間販売本数1億本が見えてくると確信しています。

次に、これまでの取り組みと今後の具体的な施策についてご説明します。

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これまでの取り組み

~デジタル化によるグローバルでの市場拡大~

2023年3月期 家庭用ゲームソフト国別販売本数実績

インフラの進化による追い風

ゲームソフトのディスク販売時代、ゲームコンテンツは主にゲーム専用機によって遊ばれていました。そしてゲーム機の進化とインターネットの普及により、ゲーム機を常時ネットワークに接続することが常態となりました。

これにより、家庭用ゲームにおいて遠隔地のユーザーとのネット対戦や協力プレイが可能になったことに加え、ゲームコンテンツを直接ダウンロードするデジタル販売が可能になりました。デジタル販売では、実店舗の営業時間や売り場面積に影響されることなく、いつでも、多種多様なコンテンツが販売されています。デジタル販売はユーザーの利便性を上げると同時に違法コピー対策にもなります。インフラの進化により、当社のグローバルでの販売拡大の下地が整いました。

PCプラットフォームへの対応強化

当社ではデジタル戦略の強化においてPCプラットフォームへの展開にも力を入れました。

ゲーム専用機での展開はどうしてもインフラの整った主要先進国に限定されてしまうため、より多くのユーザーを獲得するために、新興国にも訴求できるPCプラットフォームへ積極的にコンテンツを展開することにしたのです。

これにより、従来のコンソール機の市場を大きく上回る230の国・地域での販売が実現しました。現在、当社のソフト販売におけるPC版ソフトの販売本数比率は40%前後に達していますが、まだまだ伸びしろは大きいと分析しており、PCを今後の重点プラットフォームに定めています。

デジタル戦略を後押しする要因

上記の通り、販売エリアや展開ラインナップが拡大したことでコンテンツの長期販売が可能となり、この10年間で販売国・地域の拡大とともに年間300を超えるタイトル数の販売に至っています。
当社にこの拡大をもたらした要因は主に以下の3点です。
① 当社創業時のアーケード基板ビジネスの時代から既に世界に展開しており、一定のブランド形成を為し得ていたこと
② 当社の開発陣の努力により、高品質タイトルを安定的に投入する技術力・開発力を有していること
③ 戦略的な価格設定により旧作タイトルの長期販売が可能となったこと
カプコンとしてのブランド価値と、それに勝るコンテンツ自体の面白さがあったからこそ、ここまで市場を切り開くことができたのです。

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これからの10年を見据えて

~コンテンツの長期販売による持続的な成長の加速~

成長戦略 デジタル戦略の加速

世界最高のコンテンツを安定して生み出す開発力

当社では拠点である大阪に開発機能を集約しており、ノウハウを蓄積することでクオリティの高いコンテンツを生み出す体制を整えています。

加えて、当社内製の「RE ENGINE」の運用や世界屈指の開発環境の構築など生産性の向上という課題に取り組んでいます。

更に2023年7月には、開発体制強化を目的に、3DCG制作技術を強みとする開発スタジオを子会社化している通り、当社の開発体制の強化をより一層加速していきます。こうした姿勢の下、2017年1月発売の『バイオハザード7 レジデントイービル』以降に発売したタイトルは、メディアによる外部評価やユーザー評価が非常に高く、その結果、当社想定を上回る販売実績を上げています。

これからも高品質なタイトルを生み続けるため、すでに全世界にファンを持つ「バイオハザード」や「モンスターハンター」、「ストリートファイター」に続く既存IPのブランド強化に加え、新規IPの創出にチャレンジしていきます。そのためには安定的な開発部門人員の増加を図る必要があり、継続的に新卒や中途採用に積極的に対応するとともに、我々が必要とする技術力の獲得にはM&Aも選択肢の一つとして開発体制の拡充を図ります。

長期販売による収益性の改善

前述の通り、ゲーム販売はデジタル化により、開発費用の償却と共に販売価格のディスカウントが可能になりました。当社では価格施策として、発売から期間が経過したゲームソフトを対象にセールを実施することで、段階的に様々な所得水準の国・地域のゲームユーザーにゲームコンテンツを届けています。

当社のゲームコンテンツ販売国を2018年と比較してみると、年間販売本数で100本未満の国・地域から100本以上、1,000本以上、10万本以上、100万本以上の国・地域に徐々にシフトしているように、それぞれの国・地域の経済成長による所得水準の上昇が更なる当社マーケットの拡大を後押ししてくれるでしょう。

こうした背景から、当社ではゲームの制作にあたって5年間で販売を最大化することを一つの判断基準としています。一つの好例が『モンスターハンター:ワールド(MH:W)』の長期販売です。2018年1月の発売から既に5年以上が経過していますが、コンテンツの鮮度を保ちながら、段階的に価格を引き下げ販売拡大に努めてきた結果、累計販売本数は2,200万本を超えています※。

※『モンスターハンターワールド:アイスボーン マスターエディション』を含む

その初回の『MH:W』の販売の6割以上が2年目以降の販売によるものです。現在までのセールでの最低販売価格は約5ドルですが、既に開発コストは回収し終えていますから、十分に利益に貢献しています。このように高品質なタイトルは、発売後早期に開発コストの回収を終えており、年間販売本数に占める旧作タイトルの販売本数は70%を超え、同販売収益はデジタルコンテンツ事業収益の半分以上を確保しています。これがこの10年間で安定的な収益構造を確立するに至った大きな要因です。

これからの10年は様々な経済情勢の国々においてゲームソフトを更に拡販するため、旧作タイトルの価格施策を一層強化していきます。販売データや市場分析を参考に、より柔軟な価格設定を行うことで価格感応度の高いユーザーへの販売を促進します。

コンシューマを核としたグローバルでのブランド力強化

社外団体との取り組みによるブランド力の向上

これまで、デジタル化によって当社のコンテンツは多くの国や地域にその販路を広げることができました。しかし、販売ボリュームはまだ国や地域によって濃淡があります。これから世界中でより多くの方々にカプコンユーザーになっていただくためには、当社のコーポレート・ブランド、コンテンツ・ブランドを更に拡大・浸透させていくことが不可欠です。

財務基盤も強化され、今後はこれまで以上にブランドの拡大・浸透施策に取り組んでいきます。2022年5月以降に発表した日本バレーボール協会やサッカークラブ「セレッソ大阪」、東京国際映画祭へのスポンサー協賛、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)への出展参加はそうした世界でのブランド強化に資するものとして対応を始めました。これらの対応により「大阪から世界へ」ブランドの発信を強化していきます。進捗として、2023年はセレッソ大阪のサポーティングマッチにおいて『ストリートファイター6』コラボシャツの制作、バレーボール協会とはコラボイラストを活用したノベルティの提供など、ゲームファンとは異なる属性の方々へのブランド露出も進めています。

既存事業を活用したブランド力の向上 国内

自社ブランド力向上のため、既存の社内事業を活用することも重要です。

アミューズメント(AM)施設事業やアミューズメント(AM)機器事業は独自に収益を拡大するとともに、日本国内での当社のゲームコンテンツのブランド拡大に連動させて事業の存立基盤の拡充を図ります。

AM施設事業は、当社の事業の中でも直接顧客接点を有するという重要な位置づけにあります。具体的には、店舗店頭における各種施策やコンテンツ・ブランド拡大に資する有益な情報を得てそれを様々な顧客分析と連動させることで存在意義を発揮してきました。当社と一般消費者を含めたユーザーとのリアルにおける貴重なタッチポイントであるとともに、ゲームソフトの体験会やシニアツアーの開催などを通じ、コンシューマビジネスとのシナジーを図る場としています。

またAM機器事業は、ゲームコンテンツと遊技機の相性が良くライセンス事業から自社製作にシフトして事業規模を拡大してきました。

近年のグローバル市場における成長に伴い、日本市場での販売はユーザー分布からおのずと世界市場での成長に比べ劣位にあります。しかしながらゲーム産業はもともと日本で生まれ世界に羽ばたいた歴史があります。我々のホームである日本市場での持続的な拡大に向けて、引き続き両事業を推進、活用していきます。

既存事業を活用したブランド力の向上 海外

更なる市場成長を目指す海外でのブランド拡大・浸透に欠かせないのが、ライセンス事業、eSports事業、映像事業です。

ライセンス事業は、新作ゲームの発売時期に合わせたコラボ商品やインゲームコラボ案件の増加により、収益は過去最高の水準にあります。現在ライセンスビジネスは、日本とアジア地域が主体ですが、グローバル展開を念頭に置いた強化策を進めていきます。

足元の数年間、eSports事業で予定していたリアルイベントの多くは、新型コロナ感染拡大の大きな影響を受け、プレイヤーや観客の皆様の安全を考慮し開催方式の変更を余儀なくされていたものの、2022年度においては「CAPCOM Pro Tour 2022」にて新カテゴリー「ワールドウォリアー」を追加するなど規模を拡大し、大会開催地域と参加者の多様化施策を講じたほか、2023年2月には3年ぶりに世界最強の座を決める「CAPCOM CUP IX」を開催することができました。

映像事業について、当社は、1990年代初頭の『ストリートファイターII』でのブームをきっかけに、コンテンツの商品化やハリウッド映画化などを積極的に進め、2000年代には全社戦略として「ワンコンテンツ・マルチユース戦略」を採用、多メディア展開において業界をけん引してきました。この中で、コンテンツのブランド化において大きな役割を果たしてきたのが、「バイオハザード」などのハリウッド映画化でした。

今後、グローバルで当社コンテンツのブランド化をより積極的に推進するため、2022年に米国ロサンゼルスに映像制作子会社を設置しました。自社出資により、ゲームと映像事業の連動を強化し、また同水準のクオリティに拘りながら、映画や動画配信サービスへの展開を強化していきます。現在、同部門を中心に「ストリートファイター」の新実写映画およびTVシリーズの制作を進めており、ブランドのさらなる飛躍に期待しています。

現地マーケティングの強化

今後当社成長の伸びしろとなるのは、インドやブラジルをはじめとした新興国や途上国、いわゆるグローバルサウスです。

加えて、当社コンテンツの認知拡大および各市場に精通したパートナーとのネットワークづくりのため、現地でのマーケティングを増強します。新興国では何が課題になるのかはまだ明確にはわかりません。だからこそ、実際に社員を現地に派遣し、肌で感じてもらうことが重要になると考えています。各国や地域を担当するマネージャーを設定し、各担当地域で当社のゲームコンテンツがどのように受け入れられるのかを捉え、今後のマーケティング施策に反映していきます。

データ分析による効率の収益機会の最大化

当社では過去の販売データを整備し販売想定に活用していますが、近年では①価格施策の精度向上により、ユーザーニーズに最適化したセール時期および価格の策定を推進、②デジタルプロモーションの強化により、ユーザーがタイトルを認知してから購入に至るプロセスの更なる可視化を進めることで、ビジネスの一層の効率化と収益機会の最大化を図っています。しかしながら、プラットフォーマーとの関係や個人情報保護といった観点から、個人に紐づいた詳細なデータの蓄積は容易ではありません。

そこで今後は、当社が提供するゲームやサービスを利用するための共通IDであるCAPCOM IDを活用し、ユーザーのプレイ動向などの蓄積・分析も進めていきます。

常に進化を続ける市場に対応し、成長を続ける

「クラウドゲーミング」や「メタバース」といった新サービス、AIを活用したコンテンツ開発のような新技術の登場により、ゲームビジネスはこれからも急激な変化をする可能性があります。当社はマルチプラットフォーム戦略を採択しているほか、VRなど新技術へのいち早い対応実績などもあり、当然ながらこれらの新領域へも関心を抱き技術的な検証を行っています。特に、異なるハード間で対戦・協力が可能なクロスプレイには積極的に挑戦する必要があると考えています。

昨今、グローバルでのゲーム人口の増加により、ユーザーがゲームを評価する目は年々肥えてきています。新技術だからといって、それをただゲームに組み込むだけでは決して評価されないでしょう。新しい技術や体験が如何にゲームユーザーにとってメリットになりえるのか。技術の検証とマーケットの分析とをバランスをもって対応することが将来のヒットにつながるでしょう。

ここまで述べてきたように、デジタル戦略を継続的に強化していくことで、当社の成長は、この先も継続できると見込んでいます。

締めくくりとしてお伝えしたいのは、ビジネスの形態が変わろうとも、当社が最優先すべきことは変わらないということです。それは、これまでも一貫してきた、当社のコンテンツを世界最高レベルへと徹底的に磨きあげることであり、それを販売サイドがしっかりと訴求できれば、プラットフォームやサービスが変わってもユーザーに選択していただける。逆にコンテンツやサービスが中途半端であれば、たとえ一時時流に乗ったとしても、成長は持続しない。当業界の最前線を走り続けてきた経験則から、当社はそう確信しています。

世界中の人々に『笑顔』や『感動』を届け続けるために、我々は挑戦を続けます。

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