INTERVIEW 01: 辻本 良三

開発者インタビュー2019

常務執行役員 CS第二開発統括 兼 MO開発統括

辻本 良三

Tsujimoto Ryozo

2007年発売の『モンスターハンターポータブル 2nd』以降、一貫してシリーズのプロデューサーを務める。最新作『モンスターハンターワールド:アイスボーン』でもプロデューサーとしてタイトル全般を統括。

INTERVIEW 01
チームの力で達成したグローバル化
15周年を超えてさらに進化し続ける狩猟体験

累計販売本数1,500万本を突破
世界に”モンハン現象”を起こした『モンスターハンター:ワールド』

最新作『モンスターハンターワールド:アイスボーン(以下アイスボーン)』についてお伺いする前に、ベースである『モンスターハンター:ワールド(以下MH:W)』についてお聞きします。『MH:W』は、世界に打って出るタイトルとして「ワールド」と名付けたと聞きました。結果的に大成功となり、一息ついたところでしょうか。
『MH:W』発売直後も『アイスボーン』の開発を並行していたので、「やっと開発が終わった!」という感じはなかったですね。今もプロモーションは続いていますし、一息つくにはまだ早いです。ただ、以前から500万本は一つの壁だと感じていたので、それを大幅に超えられたことは本当にうれしいです。世界にはまだまだ『MH:W』を知らない人もいますし、プロデューサーとしては引き続き販売本数を伸ばしていきたいです。

『MH:W』発売以前、「モンスターハンター」は日本国内を中心に人気のあるコンテンツというイメージでした。海外で受け入れられた理由は、何だったのでしょうか?
前提として、本能的に「おもしろい」と感じるところはどの国の人も同じだと考えています。ゲームとは、そうあるべきだとも思っています。『MH:W』の発売にあたり、従来からのコンセプトを変えたりはしていません。海外のユーザーの様々な意見を聞き、フォーカステストの実施などを経て、世界同日で発売できるよう調整したくらいです。他にも強いて言うなら、キャラクターの音声を、どの国の言語でもない従来の「モンハン語」だけではなく、日本語や英語などにも対応させたことでしょうか。
モンスターに与えたダメージの数値を表示したのは、大きな変化だと感じます。
あるフォーカステストで「アクションゲームなのに、どの攻撃が効果的なのか分かりにくい」という意見がありました。自分の攻撃が正解なのか不正解なのか、判別できないプレイヤーがある割合でいると分かったのです。解決策としてモンスターの体力の残値を表示するという提案もありましたが、モンスターの状態を見て弱っているとか怒っていると判断することもシリーズの醍醐味です。与えたダメージの数値を表示したのは、攻撃の正解や不正解を示すためであって、モンスターの状態を見極めるという本質は残しています。これは、海外のプレイヤーから出た意見だからではなく、初めてこのシリーズに触れるプレイヤー誰しもが感じる可能性があると判断したので、変更しました。

国を問わず、初めてプレイする誰もが楽しめるように配慮したということですね。
今までももちろんそうでしたが、全世界で初めてシリーズに触れる人が増えるので、より初心者の立場を意識しました。
販売本数は1,000万本を大きく超えましたが、地域別ではどの国でより本数が伸びているのでしょうか。
各地域好調ですが、特に北米を中心に伸びているイメージです。そして同時に、日本で従来からの販売本数を維持できた、ということも大きな成果です。発売前からお伝えしていたことですが、初めて「モンスターハンター」に触れる人を大切にしつつ、国内の既存プレイヤーに違和感を与えることは避けたかったので、日本と海外の両方で受け入れられてほっとしています。

ゲームはダウンロードで購入する時代へ
ニーズを逃さないため挑戦したダウンロードコンテンツ

そうしたチームの努力が実り、カプコン史上初の1,000万本を突破できたんですね。その流れをくむ『アイスボーン』はどのようなゲームなのでしょうか?
『アイスボーン』は、従来のシリーズでいう「G」にあたります。もともとGは、「このタイトルをより深く遊んでほしい」というコンセプトで作っていて、無印の発売後のプレイヤーの意見も踏まえ、様々な追加要素を加えたタイトルです。可能な限りゲーム内のシステムの名称をグローバルで統一したかったので、今までの「G級」という呼び名ではなく「マスターランク」に変更しました。また、新アクション「クラッチクロー」や新フィールド「渡りの凍て地」の追加、新たな調査拠点の追加やマルチプレイでの2人用難易度の追加といった数々の新要素を実装し、ワクワクしながらも快適に”モンハン”らしい狩りが楽しめるようにしています。
今作は『MH:W』の超大型ダウンロードコンテンツとしての発売ですね。どのような経緯で決定されたのでしょうか。
今まで、Gはパッケージとして発売していましたが、ネットワークの普及によって据え置き機のネット接続率が大幅に向上し、ゲームをダウンロードで購入することも一般的になってきました。『MH:W』でも、デジタル版を購入したユーザーの割合はグローバルで大きく増えています。拡大したニーズに応えるべく、追加要素だけ購入できるダウンロードコンテンツ(DLC)として提供することを決定しました。もちろん、今作から初めてプレイする人向けに『MH:W』と『アイスボーン』がセットになったパッケージ版も用意しています。
プレイヤーに楽しんでもらいたい部分はどこですか?
アクション面では、「クラッチクロー」ですね。全ての武器で使える、分かりやすい新たなアクションです。腕のスリンガーからカギ爪状のものを射出してモンスターにしがみつき、傷をつけることで攻撃を通りやすくしたり、モンスターの向きを変えて罠や壁に誘導することもできます。ストーリー面では、『MH:W』のエンディング後の物語が楽しめます。従来シリーズの人気モンスターも登場しますよ。『MH:W』では過去作に登場したモンスターはあまり出ておらず、要望の声も多く上がったので、できる範囲で応えようと取り組みました。
その他に前作から強化した部分はありますか?
アクション面はもちろんのこと、調査拠点の利便性も向上しています。また、今まで難易度は1人用と4人(マルチプレイ)用だけでしたが、実は夫婦などの2人組でプレイするケースが多いことが分かり、2人用の難易度を追加しました。せっかく2人組で遊んでいるなら、2人でクリアしたいというニーズにも応えました。
そういった情報はどのように収集するのでしょうか。
SNSをはじめとしたプレイヤーの声や、社内など色々なところから集めています。開発メンバーだけでなく、非開発社員の意見を聞くことも参考になります。海外の意見も海外拠点からのレポートだけでなく、ローカライズチームにネット上の意見をまとめてもらうなどして確認しています。
辻本さんは、海外のイベントにも積極的に参加されていますね。日本のファンとの違いを感じたことはありますか?
インタビュー続きでなかなかインタビュールームを出られないこともありますが、実際に現地のメディアやプレイヤーの話を聞くと肌感覚や嗜好が分かったりします。関心の向く先もそれぞれ違いますね。個人的な印象ですが、海外のメディアの方はかなり直接的に質問するので、日本との違いがおもしろいです。また、どの国に行っても感じますが、モンハンを知っていただいている人がとても増えました。他には、アジアでの知名度は大きく上がったと思います。意外かもしれませんが中国やマレーシア、韓国や台湾など、様々な国や地域で知名度が向上しています。

時間をかけて新人を育てる
15周年を迎え、さらなる未来を見据えて

昨今、ゲーム開発が大規模化していると感じます。『アイスボーン』は何人くらいで開発しているのでしょうか?
時期によりますが、300人以上は関わっています。カプコンの開発部門は大きく2つの統括に分かれていて、当チームが在籍する第二開発統括が700人ほどなので、『MH:W』チームの規模が分かるのではないでしょうか。
それだけの人数を率いるポイントはありますか?
1人で管理しているわけではなく、各セクションでのマネジメント担当が管理しています。段階的に人が育っていく環境も整いつつあります。開発部門には毎年100人以上の新卒が入社しますので、各セクションのリーダーが育成しています。

100人というと大きな数字ですね。
将来も見据えて開発力を強化しています。もちろん育てるのには時間がかかるかもしれませんが、これからのカプコンを支える大事な人材なので、数年単位でしっかりと育てていきます。
この大規模化は業界全体の流れなのでしょうか?
そうだと思います。技術の進歩によって昔より表現の幅が広がっていますし、当然の流れではないでしょうか。技術研究開発部門との密な連携も当社の強みなので、新しい技術は積極的に取り入れるようにしています。
世界で見ると、ゲーム業界の市場規模は40兆円に成長すると言われています。GAFAも参入するというニュースを受け、戦国時代が訪れるという見方も出てきています。生き残りに自信はありますか?
※GAFA:巨大IT企業であるGoogle・Amazon・Facebook・Appleの4社の頭文字を取って総称する呼称。
カプコンなら可能ではないでしょうか。技術開発は積み重ねが重要で、5年遅れれば取り戻すのに10年かかります。カプコンでは、自社エンジンの開発も行っており、最新技術などに触れやすい環境だと感じます。
このシリーズは辻本さんが長くプロデューサーを担当されていますね。やっとここまで育てられた、というような実感はありますか?
チームで作っていったものなので、自分だけで育てたわけではありません。1人では作れませんし、売ることもできません。おかげさまで「昔モンハンをしていました」という若い世代が入社してくれています。彼らはこのシリーズのことをよく知っていますし、そうした世代が作る「モンスターハンター」はまた新しいものになるかもしれません。シリーズ15周年を迎えましたが、いつまでも進化し続けるゲームでありたいと思っています。
15年間を振り返ってみて、印象に残ったことはありますか?やはり『モンスターハンターポータブル 2nd G(以下P2G)』の爆発的ヒットでしょうか。
そうですね、『P2G』と、あとは『MH:W』です。『P2G』では、知名度や注目度、プレイヤー層の広がりなど、日本ではここで明らかにステージが変わりました。日本のプレイヤーに「どのタイトルが一番心に残っているか」を聞いても『P2G』が多く挙がるのではないでしょうか。グローバルでステージが変わったのは『MH:W』ですね。
これからのモンハンをどう成長させていきたいですか?
モンハンは、カプコンの他のメジャーIPと比較するとまだ歴史の浅いシリーズです。『MH:W』、そして『アイスボーン』が全世界の人に知ってもらえたとは思っていません。日本でも、これからゲームユーザーになる若い世代がいます。自分が関わり始めてから一貫して、ゲーム以外にもモンハンを展開して世の中に浸透させていきたいと考えています。この15年間もそうなるよう努力してきましたが、ゴールはまだ先です。今後もイベントや映画など、様々な展開を進めていきます。

最後に、今後について一言お願いします。
『アイスボーン』は、『MH:W』を土台としつつ、その世界をより深く楽しんでもらえるゲームに仕上がっています。そして、さらに長く遊べるよう、複数回のアップデートも予定しています。ユーザーの皆さまのご期待に応え、世界中でもっと多くの人にプレイしてもらえるよう、これからも様々な施策を考えていきますので、応援のほどよろしくお願いいたします。

  • INTERVIEW 01 モンスターハンター ワールド:アイスボーン/『常務執行役員 CS第二開発統括 兼 MO開発統括/辻本 良三
  • INTERVIEW 02 急成長するeスポーツ市場 「ストリートファイター」で挑む新たな遊文化の振興とエコシステムの確立/執行役員 eSports推進統括/清水 信彦

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