INTERVIEW 02: 清水 信彦

開発者インタビュー2019

執行役員 eSports推進統括

清水 信彦

Shimizu Nobuhiko

ソーシャルゲームのプロデュースやマネジメント職を経てカプコンに入社。eスポーツにおけるビジネス戦略とイベント運営を一体化し、eスポーツビジネスのエコシステム(収益環境)構築を推進する。

INTERVIEW 02
急成長するeスポーツ市場
「ストリートファイター」で挑む新たな遊文化の振興とエコシステムの確立

急成長するゲーム市場の新分野「eスポーツ」
新規事業としての立ち上げに臨む

はじめに、入社の経緯についてお聞かせください。
経営トップからeスポーツの事業化を目指したいという話を聞き、私の経験を生かせたらと思い入社しました。2018年にeスポーツ事業部が新設され、翌年4月にeスポーツ推進統括に就任しました。
新規事業には困難が付き物ですし、プレッシャーも相当ではないでしょうか?
歴史ある企業で新しいことを始めるのは、確かにハードルが高いと思います。ですが、辻本会長、辻本社長をはじめとした周囲のサポートのおかげで、無事、新規事業としてスタートが切れました。プレッシャーを感じることもありますが、前進することに集中しています。

「eスポーツ」が誕生する前から
ゲームプレイを”観戦”する楽しさに着目

eスポーツは、年々盛り上がりを見せていますね。
海外では2010年代からeスポーツの盛り上がりが加速し、日本にその波が来たのは2016年頃からでしょうか。2018年は一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)が設立され、当社でもeスポーツ事業部が新設されるなど、「eスポーツ元年」とも呼ばれており、今後さらなる盛り上がりが期待されています。
海外で先にeスポーツに火がついたのはなぜでしょうか?
海外では、一部のファンの間でユーザー同士のプレイを観戦するイベントが盛り上がっていました。次第にその規模が大きくなり、出場する選手やその選手を取り巻くチーム、そしてチームをマネジメントする団体や企業へと、枠組みが発展しマーケットも成長していきました。もともと海外ではPCユーザーが多く、オンライン対戦の敷居が低かったことも早くから人気が拡大した理由だと考えられます。

頻繁に見聞きするようになってきた「eスポーツ」ですが、カプコンは随分以前に「ストリートファイター」の大会を開催していますね。
「eスポーツ」という言葉がまだ存在していなかった1992年に、両国国技館で『ストリートファイターII』の大会を開いています。会長(当時は社長)が、自ら賞品を授与する写真も残っています。28年も前にeスポーツの原型があったということは、対戦格闘ゲームとeスポーツに親和性があるのだと感じます。
その後、カプコンはeスポーツにどのように関わってきたのでしょうか?
「ストリートファイター」は、国内だけでなく、全世界で人気のある対戦格闘ゲームです。当社は2014年から海外で「ストリートファイター」を使って「CAPCOM Pro Tour」を米国子会社主催で実施してきています。
最近では、国内のメーカーも大会運営などで携わり始めていますね。
当社も国内での取り組みを本格化しています。eスポーツ市場全体で見ると、日本は海外と比べて遅れをとってはいますが、選手とメーカーが向き合って仕組みを作り、うまく成長させていきたいところです。

国内のeスポーツ市場の裾野拡大のために
個人戦から団体戦まで

国内でのeスポーツ事業の進捗について教えてください。
まだeスポーツ部門を立ち上げて2年弱ですが、収益化へ向けて、大会運営の枠組み構築など、リサーチを行いながら進めています。例えば、サッカーや野球のプロリーグは、選手、会社、運営、ファンなど、それぞれがうまく作用するエコシステム(収益環境)が確立しています。eスポーツでもそのような好サイクルが実現する枠組みを目指しています。
壮大な構想ですが、具体的にはどのようなことから始めているのでしょうか?
まずは、コミュニティ醸成のために当社アミューズメント施設にeスポーツクラブを新設したほか、海外を中心に実施している「CAPCOM Pro Tour」のプレミア大会を、2018年には東京ゲームショウの会場で開催しました。

2019年の東京ゲームショウでも盛り上がっていましたね。
ありがたいことに、前年に引き続き大盛況となりました。2019年はグローバルからの参加を促すべく、アジア各国の選手を招いた大会も同時開催しました。
アジアというと具体的には?
韓国や香港のほか、シンガポールやマレーシアなど東南アジア地域での予選ランキング上位国の選手を招待しました。
そのほかに新たな取り組みはありますか?
チーム同士で対戦する、当社初の公式リーグ「ストリートファイターリーグ」を2019年2月に開催しました。「CAPCOM Pro Tour」がプロ選手の個人戦であるのに対して、同リーグはアマチュア選手を含む3人対3人のチーム対抗戦としました。その後、プロ選手もさらなる高みを目指せるよう、チーム戦によるプロリーグを日米で開催しました。
個人戦とは別にチーム戦を始めた理由はなんでしょうか。

ずばり、日本のeスポーツ人口を増やすためです。裾野を広げるためには、大会への参加者だけでなく、eスポーツ自体に興味を持つ人を増やすことが不可欠です。ゲームをプレイするのは好きだけどeスポーツには参加したことがない方、あるいは、プレイはしないけど観戦してみたい方、など様々な方が実際にeスポーツに触れて魅力を感じ、自身も大会に参加したくなるような機会を創る必要があります。

また、3人対3人というチーム戦にすることで、対戦自体に深みが出ると考えました。初回のリーグではチームメンバーを、(1)プロ (2)ハイレベルなアマチュア (3)一般レベルのプレイヤー、の構成にしましたが、メンバー同士のチームワークや育成競争など、個人戦とは異なる見どころが生まれました。アマチュア選手や一般レベルの枠を設けたことで、潜在的なプロ選手を幅広く発掘するという狙いもありました。

リーグの様子は動画でも閲覧できるので、より幅広い層へアプローチできますね。

リーグの動画配信を通じて、1対1の対戦とは違った楽しみを訴求できたと思います。チームの連帯感やアマチュア選手の成長過程など、継続して見たいと思わせるドラマ性が伝わったのではないでしょうか。

さらに、チームメンバーの練習風景など関連動画も配信することで、より継続して興味喚起ができますし、エンターテインメントとしても魅力や深みが増します。このような構図を作り上げ、リアルスポーツのレベルにまで仕上げること。これが長期的なゴールです。

初心者層の発掘からプロ選手が活躍できる場の創出まで

初心者やアマチュア選手の出場枠を設けたとのことですが、どのように参加したらいいかわからない方も多かったのではないでしょうか。

私たちも課題だと認識していたので、今後の選手発掘の一環あるいは、ビギナー・アマチュア選手にプロ選手へステップアップしてもらう登竜門として、次のような各種大会を設けました。

アーケードリーグ 全国のゲームセンターでの大会
大学リーグ 学生が参加できるオンライン大会
ルーキーズキャラバン 当社アミューズメント施設「プラサカプコン」等でのビギナー向けの大会

「アーケードリーグ」は全国のアミューズメント施設で、「大学リーグ」は学生向けに、いずれも3対3のチーム戦によるトーナメント大会を行い、「ルーキーズキャラバン」については、2019年は全国6都市(北海道・岩手・埼玉・広島・大阪・熊本)で実施しました。

各大会を勝ち抜いたプレイヤーはその後どうなるのでしょうか。

各大会の勝者が集まる決勝戦として「トライアウト」を実施しました(下表参照)。その後、チームリーダーであるプロ選手が、自チームに入れたいプレイヤーを選抜する「ドラフト会議」を行い、「プロリーグ」へと進みます。これを毎年定期開催していく予定です。

なお、2019年末ロサンゼルスで開催した「カプコンカップ」では、初めて日米のプロリーグの上位2チーム同士が対戦したのですが、日本チームが米国チームをくだし、優勝する結果となり大いに盛り上がりました。

「初」がつく取り組みが非常に増えているのですね。
部門設立初年度は、国内外それぞれで一歩前進できたと感じる1年でした。今後は日本や米国以外の国も強化していきます。例えばアジアでは、招待選手が決まるまでの過程を現地メディアにドキュメンタリーとして取り上げてもらい、大会出場までの道筋を知ってもらう。欧州でも「CAPCOM Pro Tour」の開催実績があるので、各国でのeスポーツ展開に弾みをつけていきたいです。
5Gなど通信環境が年々改善されているのも追い風になりそうですね。また、新たな企業内コミュニケーションツールとして社内eスポーツ大会も開催しました。
これも初めての試みでしたが、本社での社内eスポーツ決勝大会は、社員やその家族など約500名の観客が集まり大盛況となりました。その様子を見て、開発部門や管理部門など部署の壁を越えて一緒に盛り上がることができるのもeスポーツならではだと実感しました。社員の一人一人がeスポーツに直に触れ、その魅力や可能性に気づくことで、全社をあげた新規事業であるという意識改革にもつながったと思います。
事業を進めていく中で、開発部門とも連携しているのですか?
開発部門の協力なしでは、ここまで進められませんでした。キャラクターの技が映える演出などゲームコンテンツを活かした大会運営のノウハウだけでなく、初心者向け解説ページの制作やeスポーツ会場での応援指南に至るまで、日々密にコミュニケーションをとっているからこそ、一体感を持ってプロジェクトを進められている実感があります。
作る・売る、の縦割りではなく、連携して進めているのですね。
eスポーツというビジネス自体が新天地なので、綿密にやらなければという意識が双方にあります。事業に対する厳しい意見を受けてぶつかることもありますが、健全な議論だと感じます。良いものを作りたい、しっかり届けたい、という思いは、カプコンは特に強いですね。

未来のエンターテインメントとして
楽しみや利益が享受しあえるビジネスへ

今後、どのような方針で収益化を図っていくのでしょうか?
eスポーツを取り巻く環境には、選手・視聴者・ゲームメーカー・スポンサー・運営など様々な方が関わってきます。運営側としては、大会の観戦チケット料やライセンス料、グッズ販売などが収入源になりますが、運営側だけでなく、映像の配信料や放映権をはじめ、関わるそれぞれの方が楽しみや利益を享受できる仕組みであることが重要です。
大会に出場しないゲームユーザーもeスポーツのエコシステムに入るのでしょうか?
ゲームを楽しんでいただいている方にもeスポーツの魅力を伝えることで、ゲーム体験では得られない感動を届けられたと思っています。ぜひ大会を会場で実際に見たり、動画を視聴したりしていただきたいですね。
そのためにも一過性のブームで終えてはならないということですね。
最後に、今後の抱負を聞かせてください。

社長の辻本もよく話していますが、eスポーツは単なるブームに留まらない可能性を秘めています。リアルスポーツほど身体能力を必要としませんし、性別やハンディキャップを問わず参加でき、競うことができます。1990年代から国技館で大会を開催し、「ストリートファイター」でeスポーツに取り組んできた当社としては、eスポーツの魅力を広く文化として定着させ、産業としても発展させる責務があると考えています。

まだまだ整備すべきことは山積みですが、経営トップも情熱を持って事業を後押ししてくれています。北米、欧州、日本、アジア地域を中心に、eスポーツの可能性を探りながら、世界規模のeスポーツイベントが開催できるよう挑戦を続けていきますので、是非ご期待ください。

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