vol.01 原 美和

開発者インタビュー2016

原 美和/ CS第一開発統括 第一開発部 第四ゲーム開発室 室長/ デザイナーとして「鬼武者」シリーズを担当。04年に出産、育児休暇を経て『ロスト プラネット』『エクストルーパーズ』では背景セクションリーダーを担当。15年よりプロジェクトマネージャーを務める。

INTERVIEW 01: スマホで擬似恋愛体験 女性中心で開発した新しい女性向けゲーム

原 美和/ CS第一開発統括 第一開発部 第四ゲーム開発室 室長/ デザイナーとして「鬼武者」シリーズを担当。04年に出産、育児休暇を経て『ロスト プラネット』『エクストルーパーズ』では背景セクションリーダーを担当。15年よりプロジェクトマネージャーを務める。

「囚われのパルマ」開発までの長い道のり

まず初めに、原さんの経歴を簡単に教えていただけますか?
1999年にアルバイトとして入社しました。専門学校で3DCGを学んだのですが、その技術を活かせるということでゲーム会社に興味を持ちました。当時はゲームも3Dへの移行期で需要も高かったと思います。入社後は、「鬼武者」シリーズ、「ロストプラネット」シリーズを経て『エクストルーパーズ』チームに所属し、基本的には背景セクションを担当していました。

そして『囚われのパルマ』(以下、『パルマ』)の開発チームに加わりますが、原さんがカプコンにとっての新ジャンルに挑戦したきっかけは何だったのでしょうか。
元々は、現ディレクターの白鳥が持っていた企画でした。そして、当時のモバイル事業部の新作として開発が進行していたところに、『エクストルーパーズ』の開発が終わってたまたま手が空いていた私が素材の制作を手伝ったという流れです。ただ、その後諸事情により開発は中止になってしまいました。
そこから、どのようにして開発が再開されたのでしょうか?
諦めきれない気持ちでいたところに、丁度、社内で企画の公募が行われたので、迷わず『パルマ』を応募しました。すると、150ほどの企画案の中から『パルマ』が最終案に残ったんです。
「これで、正式に開発が出来る!」とチームメンバーは、全員湧き立ちましたが、女性向けゲームのノウハウは開発、販売展開共に少なく、その後も何度か開発は凍結状態におかれることがありました。その度に、何とか開発を再開しようと知恵を振り絞り、企画や配信プランを練り直しました。その苦労の甲斐があってGOサインが出て、2015年の7月、やっと本格的に開発を始めることが出来ました。

ありのままの自分を受け入れてくれるキャラクター ‐今までにない恋愛ゲームの魅力とは

ゲーム内容についてお聞きします。まず、開発当初はどのようにゲームの大枠を決めていったのでしょうか。
「自分達の作りたいものを作ろう」というところから始まっています。そう考えたのは、女性ユーザーは好みの幅が比較的広く、どんなジャンルでも興味を持ってくれると感じていたからです。例えば女性って少年漫画も青年漫画も読みますよね。ですので、本当に良いものを作れば、分け隔て無く楽しんでくれるのではないかなと思いました。
開発メンバーが女性中心のプロジェクトになったのは偶然なのでしょうか。
最初から女性メンバーを募った訳ではなく、たまたま集まってきたという部分はあります。前述のとおり、元々ディレクターが持っていた企画が「女性向け恋愛ゲーム」だったので、フィットするメンバーを探したら女性になったという。勿論プログラマーには男性もいますし、協力してくれるメンバーにも男性は多かったです。ただ、シナリオやテキストに関しては、やはり最終的に細かい機微やニュアンスのところで女性ならではの感覚が必要な場面は多かったですね。

『パルマ』のゲーム内容と特徴について教えてください。
スマートフォン向けの恋愛ゲームで、自分自身がキャラクターと恋愛をするというコンセプトです。孤島に囚われたキャラクター「ハルト」と「アオイ」の相談員として連れて来られた「自分」が、それぞれの謎や背景に迫りつつ、その孤島の中で彼と愛をはぐくみながらストーリーが進みます。ゲームの主人公として「決められた設定のキャラクターを演じる」のではなく、あくまで自分の思うままに行動することで、相手の言動も変わって来るという点が特徴です。
今までの女性向けゲームとは異なる特徴ですね。
そうですね。『パルマ』では、キャラクター数は限られているのですが、キャラクターの設定や好みに合わせて自分を作るのではなくて、自分の思うままに行動することでキャラクターと「自分」のコミュニケーションが変わっていくという点が非常に画期的だと思います。最初は冷たかったり心を開いていなかったりするキャラクターと、会話を通じて仲を深めていくのですが、『パルマ』ではゲーム中に選択した情報を蓄積して反映したり、ユングのタイプ論を応用して性格を分析しているので、自分の発言がそれ以降の会話に影響します。例えば紅茶が好きだとか、こういう行動をしたということを覚えていてくれたり。いつのまにか、自分だけの「ハルト」や「アオイ」が、自分のことを意識して寄り添ってくれる感じだと思います。
スマートフォン向けタイトルならではの特徴はありますか。
基本的に囚われている彼とは面会室での会話になるのですが、スマートフォンの液晶を面会室のガラスに見立ててキャラクターと対面します。手のひらを合わせたり、指のタップ以外でも、例えばおでこや唇でアクションすることもあります。他にも、普段スマートフォンで使うSNSと同じように、メッセージを使って彼と会話することが出来ます。ストーリーの核心に迫る話題もありますが、とりとめのない雑談を彼とやり取りすることで、本当に彼と会話しているような気分になります。

「監視システム」も大きな話題となりましたね。
これはかなり独特だと思いますが、彼の部屋に設置された監視カメラを通じてプレイヤーは彼の様子を覗くことが出来るので、差し入れたものが部屋の中に飾られたり、彼がどのようにメッセージの返信をしているのか眺めることもできます。
シナリオなどのアイデア出しは、どのような形式で進めるのですか?
基本的な大枠はチームのメンバーで議論しながら決めています。その中で、シナリオはディレクターが最終的な仕上げをしています。
開発において苦労した点を聞かせてください。
とにかくカプコンとしてノウハウが蓄積されていない遊び方が多く、さらに多くのメンバーにとっては初めてのスマートフォン向けゲームの開発だったので、かなり手探り状態でした。一番大変だったのは、監視中のキャラクターがメッセージを送る動作と実際のメッセージの受信を連動させたりする部分や、膨大なメッセージやテキストを数名でチェックしていくことでしたね。本当に大変でした(笑)
新規IPの開発ならではの苦しみですね。チーム内で揉めたりすることはなかったですか?
基本的に言いたいことをすべて言い合ってアイデアを広げていたので、意見はどんどん出てきました。揉めるということはなかったですが、「広げたい派」と「収集つかなくなるからゲームに収まる部分で留める派」はいましたね。
想定しているターゲット層は、どのような層ですか?
十代後半から四十代まで、幅広い年代の女性を想定していました。メインは、仕事に就いているような、少し大人の女性です。中でも映画やドラマ、アニメなどサブカルチャーに詳しい女性がターゲットだと思います。その観点から、最近の乙女ゲームでアニメ調の絵柄やデザインが数多く溢れている中で、差別化を図るためにグラフィックをクールで洗練された方向性にしています。
カプコンでは今まで少なかったジャンルですが、カプコンらしさを活かせた部分はありますか?
品質管理の段階で色々と意見をもらって作り直しを続けているうちに企画の精度がどんどん上がっていくという流れは、とてもカプコンらしかったと思います。新規IPですので、ゲームサイクル(遊び方、ゲーム性)がしっかり成立していなければなりません。最初の企画の段階では、もっとシンプルなものでしたが、そこから「散策場所にもNPCを置いて話題を広げよう」とか「つながりのあるアイテムを差し入れたら、部屋が賑やかになるだけじゃなく楽しくなりそう」とかいうように、遊ばせ方が広がっていったと思います。

開発者として、マネージャーとして、家庭との両立。カプコンにおける女性活躍の機会

開発者の女性比率を教えてください。
開発者の約2割が女性です。まだまだ少ないですね。ただ今後女性比率は上がるだろうと思います。

カプコンにおける女性の働き方について教えてください。
働きやすいというか、男だからとか女だからという概念はあまりないと思います。面白いものを作れるのであれば結果次第で評価されます。逆にいえば、特に女性に対して優しさはないですね。ほしいです(笑) ただ、それは開発者としては当然のことだと思います。
では逆に大変なこともある、と。
そうですね。私自身子育てをしながらの仕事ですが、やはり時間の制限など辛い部分はあるかもしれません。ただ、制限があっても結果を出せば関係なく評価されるということはモチベーションになります。自身の立場に沿ったやり方を考え、いかに結果に繋げるかということだと思います。
カプコンは託児所を整備中です。何か社内の制度を利用していますか?
今はもう、子供も少し大きくなっていますので。子供が小さな頃は、時短制度を利用して、早く出社して早く帰るというスタイルでした。今も、時短制度を利用している女性社員は多いと思います。それから、私の出産の頃はまだ多くはなかったのですが、最近では産後の復職率もかなり高くなってきています。
家庭と仕事の両立をどのように実現していますか?
夫が家事を「手伝う」ではなく本当に自分の役割としてやってくれているので、とても有難いです。息子もそんな父を見て将来自分もやるものと考えているようですね。チームにも小さなお子さんがいるメンバーもいるので、そういうメンバーへは気がついたことを伝えています。
ゲーム開発において、女性の人数が多いことでプラスになることはありますか?
基本的に女性は協調型の仕事の進め方なので、皆意見を出しやすくなる印象はあります。ユーザーが多様化しているので、声の小さい人の意見も全員に浸透することが大事なのですが、上の人間が押さえつけてしまうとその小さな意見が埋もれてしまうんです。その点、女性が多く入っていると色々な意見が出てきやすいように感じます。ただ、全て女性でもやはり考え方が偏ってしまうので、チームの男女比は半々が理想だと思っています。
それでは最後にユーザーへのメッセージをお願いします。
『囚われのパルマ』は、ゲームというよりも実際にハルトやアオイと恋愛をしてくださいというコンセプトのコンテンツです。休み時間や寝る前にキャラクターに会いたくてつい開けてしまう、そんな魅力が本当にたくさん詰まったゲームになっていますので、ぜひプレイしていただければと思います。
ありがとうございました。

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