- まず初めに、ジョーさんのプロフィールとカプコンバンクーバーでの役割を教えてください。
- もともと同業他社で18年間働いていたのですが、カプコン入社後は『デッドライジング4』のエグゼクティブ・プロデューサーを経て、2015年夏にカプコン・ゲーム・スタジオ・バンクーバー(以下CV)のスタジオディレクターになりました。スタジオ全体のビジョンや方向性を考える、運営上の責任者という役割です。創造性を損なうことなく、いかに効率よくゲームが開発できる環境を整えるか…そして、たくさん売れるだけでなく、ユーザーから愛されるゲームを作ることが私の使命です。
- 『デッドライジング4』の特徴を教えてください。
- 『デッドライジング4』は、シリーズ初作の主人公として人気のあるフランク・ウェストを主人公に据えました。数百種類の武器やアイテム、おびただしい数のゾンビなど、究極のゾンビ撃退ゲームになっています。また、フランクが彼のトレードマークというべきカメラを用いて謎を解く調査モードや、走ったり跳んだり爪でひっかく新たなゾンビ、強力なEXOスーツの登場、生存者たちがゾンビや政府軍、時には生存者同士で戦うリアルな世界観など、かつてないほどの多様性と中毒性を持った作品です。
- 盛りだくさんですね!これらのアイデアはどのように生まれたのですか?
- 我々は皆ゲーマーです。その目線で、ゲーム内でフランクに何をさせたいかを話し合ったんです。できるできないといった問題は置いておいて、従来のファンを満足させつつ、昨今のプレイヤーに受け入れてもらうために、我々は何をしたいのか。フランクをどのように変えるのか、徹底的に話し合いました。
- 初めからアイデアを持っていたんですね。
- 企画は全て、「それができたらクールだよね」ということから始まります。まずは、それが本当に面白いかを考え、それから実現するための方法を探りました。
- 開発する上でこだわった点はありますか?
- 前作を超えるため、ビジュアルとフレームレートでは一切の妥協を許しませんでした。どちらも『デッドライジング4』の方が優れていますよ。私たちはこれらのパフォーマンス確保に多くの時間を費やしました。フレームレートと解像度を高次元に保ちながら、何百ものゾンビを同時に画面に表示する。今回はそこが肝でしたね。
- そのパフォーマンスを実現するための苦労話などはありますか?
- そうですね。開発を始めたときに、プレイヤーめがけて走ったり跳んだり、壁を登ったりする新種のゾンビを出したいと決めましたが、そのためには特別なアニメーションセットが必要で、当初はゾンビの大群のうち1、2体しか出せなかったんです。しかし、開発チームの頑張りや効果的なアニメーション、メモリの管理により、プレイヤーを追いかける数十体のゾンビが表示できるようになりました。大量のゾンビを同時に表示するために、画面外や遠くのゾンビはAIをオフにしています。プレイヤーが近付いたタイミングでAIが稼働しますが、周りのゾンビと同じような細かい動きをさせているため、AIのオンオフはプレイヤーにはわかりません。
- 「デッドライジング」はなぜ欧米ユーザーから支持されるのでしょうか。
- 「デッドライジング」がオープンワールド形式のゾンビゲームの原点ともいえる作品だからでしょうか。楽しみ方は人それぞれですが、ゾンビを倒す楽しみが広がる「コンボ武器」は評判がいいですね。時間をかけて探索したり、ストーリーをなぞるのも自由です。自分のペースで遊ぶことができるのも人気の秘訣でしょうか。
- なるほど。では一般的に欧米のユーザーはどのようなゲームを好むのでしょうか。
- 欧米のゲーマーはゲームに価値と奥深さを要求します。また、彼らは高品質なグラフィックや物語を求めますが、何よりも優先されるのはゲームプレイのクオリティです。更に、彼らは発展性のある強力なIPを求めるため、継続させられるタイトルやIPを創り出すことが重要です。 オンライン要素も、我々が引き続き注力すべき分野ですね。
- ゲームプレイの品質とは具体的にどのようなことでしょうか。
- ここでの品質とは、ゲームにおけるアニメーションやレスポンス、AIの挙動などです。ユーザーは、ゲーム操作と思考の両面が試されるゲームを求めています。そのうえで、ある程度の予想や想像を持ってゲームを遊びます。重要なのは期待を裏切らないことと、裏切ることです。ゲームの操作方法や敵キャラクターの行動パターンなど、いわゆるゲームのセオリーは守らなければなりませんが、二転三転するストーリーや、爆弾で壁を壊した先の隠し通路といった、予想外の出来事を提供することで、ユーザーに楽しさが提供できるんです。
- 欧米向けタイトルを欧米の拠点で開発するメリットは何でしょうか?
- 言葉を学ぶ時と同様、ある市場に向けて開発する際には、その国や文化に浸ることが重要です。また、我々は日本のカプコン(以下CJ)から最高の支援とIPを提供されています。現地開発と強力なIP、この2点はゲームを開発する上での大きなアドバンテージですね。私はこのCVは、ターゲットとなる顧客や市場とカプコンのコンテンツをすり合わせるために開設された戦略拠点だと思っていますし、その責務は間違いなく成し遂げられるとも考えています。
- 離れた地域で共に働くうえでの方法論はあるのでしょうか?
- CVの親会社であるCapcom USA(以下CUSA)を通して、やり取りしています。CUSAには、翻訳やコミュニケーションなどで助けてもらい、文化の橋渡し的な役割をしてくれていますね。定期的なビデオ会議や出張により、常にCJと連絡を取り合っています。CJの本社がある大阪出張の際にも、温かい歓迎とパートナーシップを感じます。もちろん、スタジオ間でゲームの映像や開発の成果をやりとりすることは、とても役に立ちますね。どの国にいても、ゲームは我々の共通言語ですから(笑)
- カプコン・バンクーバーの従業員数を教えてください。
- 250人です。(2017年1月5日 時点)
- 開設から比べるとずいぶん増えましたね。開発チームはどのように管理しているのですか?
- 私たちは、世界でも通用するゲーム開発用フレームワークを構築しています。このシステムにより、予算から品質まですべての項目を、マイルストーン到達時だけでなく常時一定の基準で測定できます。また、人事担当者は、従業員のパフォーマンス評価と動機づけのための包括的な計画もまとめています。 長、短期での目標を測定し、その達成を支援するために多くの時間を使っています。従業員が新しいスキルを習得したり、既存のスキルを上達させることができる研修も定期的に開催していますよ。
- スキルアップに力を入れているのですね。
- そうですね。全従業員のスキルアップのため、講座などは常に提供しています。例えば会社にモデルを呼んでデザインの講習を開いたりしましたね。また、研究用のVR機器などもありますので、就業時間外に試してみた結果を開発中のゲームに活用することもできます。何よりも私たちは従業員の声をスタジオ運営に反映させています。従業員の声に耳を傾けることが、彼らを理解し導くうえで一番大切なことです。
- そうした取り組みにより、CVのクリエイターたちは最先端に立てているのですね。
- はい。ほかにも、外に目を向けることも重要です。社外からゲストスピーカーを呼んで専門知識を学ぶ「ランチ勉強会」の定期開催や、月に数回、全スタッフで他社ゲームの分析会なども行っています。
- 今、CVにとって最も重要なことは何でしょうか?
- まず、現在のようにCJや協力会社とオープンでクリアな関係にあることが重要だと感じています。次に、成長のためにリスクを取ることも必要だと考えています。平均的な仕事ばかりしていては、成長は望めません。リスクを取ることが、仕事だけでなくキャリアを成長させることや、創造的かつ効率的な方法を見つけることにつながります。そして最も重視しているのは、CVを北米で1番の開発拠点に成長させることですね。
- 北米で一番…とても大きな野望ですね!
- 今、カプコンが今後も偉大なエンターテイメント企業であるために貢献しようとしています。エキサイティングな新製品やサービスで世界をリードするカプコンの成長のために、CJに近いところで働くことはすごく楽しみです。
- ジョーさん、あなた自身の強みは何でしょうか。
- 私は社内での文化やビジョン構築など、商品開発のための組織作りが得意だと思います。個々人のキャリアやCVを成長させるために、人々を指導し、刺激することに多くの時間を割いています。ですが、全ては結果次第です。チームのメンバーと協力した結果、将来CVがものすごいゲームを創造できるよう導ければうれしいですね。
- 最後に、今後に成し遂げたいことを教えてください。
- ユーザーとよりよい関係を構築するために、これからのゲームは従来よりも深くユーザーとつながる必要があります。顧客が自社タイトルをどのように遊んでいるかを知るために分析と観測が必要ですが、それと同時に迅速なアップデートやサービス対応により、競争力を維持することも重要です。我々が現在取り組んでいる新製品はとてもエキサイティングで、より多くの人々がつながります。これからのCVの動向にぜひ注目してください!