INTERVIEW 01 土屋 和弘

開発者インタビュー2018

『ロックマン 11 運命の歯車!! 』
プロデューサー

土屋 和弘

Kazuhiro Tsuchiya

1992年入社後、プログラマーとして『ロックマン 7』などを担当。
ディレクターを経てプロデューサーとなり、『ロックマン クラシックス コレクション』や最新作『ロックマン11 運命の歯車!!』では、プロデューサーとしてタイトル全般を統括している。

INTERVIEW 01: 30年を超えて愛される名作シリーズ   今も変わらないアクションゲームの面白さを未来へつなぐ

クリエイターとしての原点のタイトル、開発責任者として8年ぶりの完全新作を目指して

初めに、ロックマンとの出会いについて教えてください。
私が当社に入社した1992年当時から、ロックマンはカプコンを代表するゲームでした。ですので、入社前から名前は知っていましたし、プレイしたこともありました。プログラマーとして入社したのですが、当時はいわゆる師弟制度のようなものがあり、そこで自分の師匠となった人がロックマン担当でした。師匠の作ったロックマンのアクション部分のソースコードを見ながらプログラムを勉強する、ということが、開発者としてのロックマンとの出会いでしたね。
その後、どのような経緯でプロデューサーとなったのですか?
『ロックマン 7』には開発スタッフとして参加し、その後のタイトルでディレクターを経てプロデューサーとなりました。プロデューサーとしては『ロックマン クラシックス コレクション』の『1』と『2』に携わっています。
約8年振りの新作として発表された『ロックマン11 運命の歯車!!(以下『ロックマン11』)』ですが、何が開発のきっかけだったのでしょう?
2016年の春頃、ディレクターの小田より、「(その当時に)担当しているタイトルが完成したらロックマンを開発したい」と申し出がありました。

その時、小田ディレクターはどんな思いだったのでしょうか。
実はそれまで、小田自身は「ロックマン」の開発には関わっていませんでした。『超魔界村』や『ストライダー飛竜(2014年版)』『バイオハザード0』など、アクションゲームの制作経験が豊富にあり、あえて未踏の境地に挑戦しなくても、活躍の場に困らない開発者です。そんな彼が「ロックマンを待っている人がこんなに大勢いるのだから、メーカーとして応えるべきではないのか」と熱弁するのを聞き、自分のやりたいことを推しがちなクリエイターが、会社の責任という言い回しをしたことに、ただごとではないとすぐに感じました。もちろんマーケットへのチャンスも見出していたと思います。
そこからすぐに開発がスタートしたのでしょうか。
実際に開発がスタートするまでは、そこからまたしばらく時間が空きます。私は、その当時担当していたタイトルと並行して、「ロックマン」新作に向けたマーケット調査を行っていきました。
どのようなマーケット調査だったのですか?
「ロックマン」のファンがどう思っているか、ファンではないが「ロックマン」を知っている人はどう思っているか、といったところを入念にリサーチしました。その結果、ファンの方を中心に、シリーズの新作、なかでも初代シリーズと言われる「ロックマン」本編の新作が望まれていることがわかりました。そこで、『ロックマン11』の開発を決めました。

古くからのファンにも、新しいファンにも愛される「ロックマン」を作るために最適な開発チームを作りあげる

久々の新作として『ロックマン11』を作る上で、特に意識したことはありますか。
シリーズの歴史が長いが故に、過去シリーズのエピソードなどが豊富にありますが、それありきで設定を作らないように心がけました。おじさんがおじさんのために作ったゲームではいけません。全てにおいて、「はじめまして」のつもりでもう一度組み立て直しましょう、と開発メンバーには伝えました。
難しいミッションですね。
条件は守りつつ、どう理解してアレンジするかは自由です、と伝えました。あまり縛りたくもないですし、開発メンバーはみんなプロであり、お題を自分にしかできない方法で返したいという人ばかりです。私が想像していなかった面白いアイデアで応えてくれることを期待してお願いしました。
具体的に「これは期待以上だな」と思ったアイデアはありましたか?
色々ありますが、特に良かったのは、本作独自の新システム「ダブルギア」です。開発メンバーが、古参ファンと新規ユーザーのスタートラインを揃える、という私のメッセージを受け取ってゲームの要素として組み込んでくれました。
サブタイトルの「運命の歯車!!」とは、どのような意味なのでしょうか。
「ロックマン」シリーズには伝統的に味方と敵の2人の老博士が登場しますが、今回は新技術「ギア」に関して対立します。それは実際にプレイヤーが使うゲームの新システム「ギア」でもあり、副題にある「運命の歯車」はストーリーとシステム面の両方に絡むダブルミーニングになっています。

その開発には、何人程度が関わっているのでしょうか。
約40人です。昨今のゲーム開発の規模でいうと少ない方ですね。
確かに、最近のゲーム開発には100人単位のイメージがあります。
大規模開発にはもちろん良い面もたくさんありますが、人数が多いことでゲームの全貌に触れられていないメンバーもいる、という面もあるのではないでしょうか。30人前後だと一人ひとりの担当する区分が具体的で、明確に目的と責任を持てるギリギリの規模感だと思っていて、今作の開発にはこのくらいの規模がちょうど良いと感じています。
「ロックマン」はカプコンの中でも古株のシリーズですが、開発メンバーもベテランばかりなのでしょうか。
私自身も望んだことですが、ベテランと若手のミックスです。ベテランであるロックマン経験者だけで作ると、昔関わっていたときにやり残したことを実現しようとして、そればかりになってしまうものです。過去にロックマンに関わったベテラン、関わらなかったベテラン、そして中堅、若手もバランス良く開発メンバーに組み入れました。プロデューサーの私やディレクターの小田が気づいていない課題に目を向ける能力を持ったチームにするためでもありますし、上手く機能したと思っています。
こだわりのあるチーム構成なのですね。
はい。小田は最初にコアメンバーを集めるところにとてもこだわっていて、自分の掲げる思想や考え方が理解できるスキルレベルや思考力を持った人間を探すのに非常に苦労していました。苦労と言えば、作業量が膨大な開発終盤もそうではありますが、コンセプト固めという意味で最初のうちが大変でしたね。初期段階で「本当にできるんだろうか」を「本当にできます」に裏返させるまでが、やはり一番悩ましかったと思います。

ファンからの熱い支持と期待を背に未来に向けた「ロックマン」が復活する

今回の『ロックマン11』では新システムの採用などに挑戦する一方で、横スクロールアクションのゲームフォーマットは据え置きましたね。そして、グラフィックは馴染みのあるドット絵で作られるのか3Dになるのか、ファンはドキドキしていたかと思いますが…。
この『ロックマン11』は、思い出でアピールするタイトルにする気はありません。8年ぶりに復活する以上、今後も続けられるように、新たな基準を打ち立てたいという目標がありました。ドット絵はたしかに「ロックマン」ファンにはお馴染みですが、若い人は見慣れていない可能性がある。レガシーの良いところである横スクロールは変えずに、さらなる発展のために表現の基盤となる技術は3Dグラフィックスにしました。
今作の技術面での特筆すべきポイントを教えてもらえますか。
横スクロールを3Dグラフィックスで表現するために、細かな調整が必要になりました。真横からの視点で見てキャラクターが画面の端に走って行こうとするとき、メガネの視界の端が少しずつ歪んでいるのと同じように、座標に歪みが出ます。遠くの敵に弾を撃ったとき、自分の場所と敵の場所で画面上での見え方にズレが生まれると、アクションゲームとして成立しませんので、プレイして違和感が出ないよう調整をしています。

どのような調整でしょうか?
完全にフラットな平面にしてしまうと、ベタッとして奥行き感が消えてしまいます。特殊な奥行きの設定を何十回何百回と試して、ロックマンが立っている陸橋と、奥の背景として描かれる壊れた橋には別のパースがかかっているような、現実にはあり得ないだまし絵的な表現になっています。テクニカルな最新技術というより、これはもう手仕事の極みですね。

最新技術を駆使したゲームとは違う良さがあるということですね。
最新技術を使った実写のようなゲームに求められる体験と、「ロックマン」に求められる体験は違うものであり、目指すところが違うと考えています。
新規ユーザーに向けての施策は他にもありますか?
そうですね。これまでシリーズを重ねるうちに、属性の遊びは、前作とのネタ被りを避けるため複雑化し、パッと見ただけでは何か分からなくなってきていました。そこで今回は、子供でも分かる属性を全部そろえなさいと開発メンバーに伝えました。2018年8月から北米でTVアニメシリーズが始まりましたが、そこでロックマンを知ってくれた子供がプレイして、「あ、氷の武器で炎に勝てるんじゃないの?」という想像をしてほしいんです。過去にあったネタだとしても、そこは君たちのアイデアで魅力的にしてくれと(笑)。

シリーズの根幹の面白さこそが、新規層にもアピールする、ということでしょうか。
これは本当に重視していて、子供にでも分かるような、年齢や文化、言葉に依存しないボスの定義にすることを絶対に守ってほしい、と言っていました。古参のファンにも「ちゃんと「ロックマン」だね」、と言ってもらいたいですし、「ロックマン」を知らない人にも、「コアファン向けのゲームだと思っていたけど意外と面白いね」、と言ってもらいたいので。
北米でのTVアニメの話題がありましたが、「ロックマン」はゲーム以外でも色々なところで目にしますね。
「ロックマン」はブランドとしては30周年を迎え、アパレルやグッズなどのライセンス展開も多く、幅広い年代層に親しんでいただいていると思います。さらに未来の「ロックマン」を支えてもらう若いファン層も拡大したいと思っていた矢先に、アニメの話がまとまりました。アニメは単独でも、ロックマンを知らなくても楽しめることを目指して作っています。アニメ以外にも、これまで支えてくださったファンの方にも喜んでいただけるよう新グッズの商品化や、絶版したアイテムの復刻版を発売したり、7月に開催したコンサートのような、一緒に30周年をお祝いするイベントを数多く企画していきます。
最後に、『ロックマン11』を待っているファンに向けてメッセージをお願いいたします。

「ロックマン」シリーズは、30年生き残れるだけの理由を持った、アクションゲームのお手本とも言える上質なゲームだと思います。言葉や文化によらず楽しめるというのは、アクションゲームの本来の良さではないでしょうか。

また、2016年に発売した、ファミコン版の移植である『ロックマン クラシックス コレクション』が全世界累計で100万本以上売れたことは、皆さんがロックマンを求めている、遊びたいんだということの表れだと思っています。「ロックマン」のポテンシャルを皆さんから示していただけたことも、『ロックマン11』開発メンバーにとっては非常に心強かったです。

『ロックマン11 運命の歯車!!』は、このブランドがさらに10年、20年と続いて、私がこの業界を引退してもその時に若い世代にバトンが渡る、ひとつの歯車になればと思って頑張って作っています。上質なアクションゲームに仕上がりつつあるので、ぜひ楽しみに待っていてください。

日本ゲーム大賞2018 フューチャー賞を受賞しました!/『ロックマン11 運命の歯車!!』

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