- 早速ですが、まず最新作『バイオハザード7 レジデント イービル(以下バイオハザード7)』について教えてください。今作はサブタイトルがついていますね。
- はい。シリーズが20周年という大きな節目を迎えるにあたり、なにができるかを考えたときに、ユーザーからの「昔のバイオは怖かった」という声が最初に頭に浮かびました。そこで、「バイオハザード」に1から取り組むという思いを込めて、国内版、海外版それぞれ第1作のタイトルをサブタイトルとしてつけたんです。
- 昔の方が怖かったといわれるのはなぜでしょうか。近年のタイトルもホラーゲームとして完成されていると思うのですが。
- やはり一番最初に出会った物が、鮮烈にイメージとして残るからだと思います。特に初代の『バイオハザード』は、初めてゲームにサバイバルホラーを持ちこんだエポックメイキングなタイトルだったというのも大きいでしょうね。今回のスタッフも、「バイオハザード」の文法に則ってどうリニューアルするか、第1作と同じような衝撃をどうやったら与えられるか、驚いてもらえるかに注力して作っています。
- 前作は色々な国が舞台でしたが、今作の舞台はどこでしょうか。
- 今作はルイジアナの農園が舞台です。取材で実際に現地に行ったのですが、家に入ってふと玄関の横を見ると普通にショットガンが立てかけて置いてあるんですよ。古い建物も多くて、夜になると一面に広がるトウモロコシ畑と相まって非常にいい雰囲気でしたので。
- 今作の主人公はどのようなキャラクターですか?
- 主人公は完全な新キャラクターで、一般人です。農園のとある家に足を踏み入れてしまったために、恐怖の体験に巻き込まれるというストーリーです。
- ゾンビは登場するのでしょうか?
- 確かに、「バイオハザード」はゾンビブームの火付け役になったタイトルですが、いざホラーを作ろうというときに、現世代のハードで可能な表現や、本当に怖いものは何かを考えて、今作では「人」に注目しています。もちろんゾンビは怖いんですが、それだけだと映画でも2時間もたないんですよ。1時間もすると、人間のエゴや心の闇にフォーカスされて物語が進んでいくことが多いですしね。
- 怖いのはむしろ人間であると。
- まさしくその通り、一番怖いのは人間が持つ狂気なんですよね。自分が一番よく知っている、安心できると思っていた人間が、そうではなくなっていく。気軽にゾンビを撃って、カジュアルに倒していくゲーム性もいいのですけれど、撃つ時に一瞬引っかかってほしかったんです。この人を撃っていいのか?この一瞬の躊躇がすごい恐怖を産むんです、一瞬躊躇したばかりに、目の前でとんでもないことが起こってしまう。現行のゲーム機はそれを表現できるようになってきたので、作り手としてはとても楽しいですね。
- 今作はVRに対応していますね。
-
はい。PlayStationVRが無くても楽しめますが、使用すると臨場感は格段に違いますね。
体験した方は、すぐにゲームを進めようとしないで、まず周りを見渡したり、しゃがんで地面の質感を見たり、初めて触れるゲームの中の世界に興味津々でした。今回はVRへの対応を含めて、REエンジンという新しい開発エンジンを用いて挑んだ、カプコンとしても本気のタイトルです。
- REエンジンとはどのようなものでしょうか。
- 北米では数年前から主流になっている、アセットベースエンジンと言われるゲーム開発環境です。これまでのゲーム開発では、プログラムで全体の情報を管理していたんですが、アセットベースエンジンの場合、キャラクターや背景などのモノ毎に情報が詰まっているので、細かい修正や管理が部品単位になり、効率的にできるようになりました。次世代機のゲーム開発に必要な要件もすべて盛り込んでいて、VRゲームの制作にも最適化しています。
- 効率的とのことですが、どのような部分で役に立っているのでしょうか。
- たとえば、VRに対応する場合にも役立ちます。VRのゲームを作る場合、プレイヤーに酔いを起こさせないために、最低でも毎秒60フレーム以上で描画しないといけません。そうすると毎秒60回のコンピューターの処理を維持するために、細かくゲーム中のクオリティをコントロールする必要があるんです。これが従来のエンジンだと、問題となるポイントを1つ1つ見つけて全体への影響を考慮しながら修正をかけていくんですが、これではプログラマーの負荷が大きくなってしまいます。アセットベースにしたことで、処理が重い箇所を低処理なものに置き換えるだけで済みます。モノごとにコントロールできるのは、大きな利点ですね。
- 開発体制やチーム体制について教えてください。
- 『バイオハザード7』の開発体制は、REエンジンと切っても切れない関係にあります。エンジンと言っていますが、実際のところREエンジンはただのツールではなく、開発環境全般をサポートしているといっても過言ではありません。作り方、考え方までエンジン側が提案している、大きなシステムになっています。ですから開発チームも、従来のようにデザイン、サウンド、プログラムといった役割ではなく、ゲームの場面ごとに制作するグループで分けました。このグループ単位は、開発の進捗に合わせて機動的に変化していきます。
- なるほど。
- 今作はエンジンからVRまで初めてだらけですので、2014年頃の開発当初から、全て試行錯誤しながら進めています。ただ、REエンジンはカプコンの開発を熟知している石田氏のおかげで設計段階から割とスムーズに開発できました。そのおかげで、3Dスキャンシステムなど、カプコンのモノづくりにマッチする仕組みが作れたと思っています。クリエイターの作りたいものが作れる環境作りはとても重要です。面白いことに挑戦できる環境が、カプコンの離職率の低さの要因の1つでもあると思います。
- お話を聞いていると、ゲームの作り方が変わってきているという印象をうけます。
- そうですね。特にグラフィックなどは随分と変わっています。最近はだいぶ映画的になりましたね。実は、今作ではキャラクターはほとんどデザインしていません。モデルの一覧からイメージに合いそうな人をオーディションで選んで、3Dスキャンシステムを使ってキャラクターを作ったんです。服装なども、以前はリアルに見せるために、デザイナーが労力をかけていたんですが、今では実際に作った衣装を着せて撮影しています。
- 意外にアナログな作り方をしているんですね。
- ええ。必要な時は特殊メイクもしてもらって。それで、そのまま撮ってキャラクターがほぼ完成します。ゲームの作り方が劇的に変わっています。スタッフもこの作り方に慣れるまでは大変でしたね。
- 万能に思える3Dスキャンシステムですが、大変なことはありますか?
- 一度で撮りきれない大きなものを撮影するときですね。部品に分けてスキャンするので大変でした。現在のゲーム作りでは、とにかく密度の高い素材が必要なんです。タンス1個と簡単に言っても、タンスの扉を開けたり、引き出しも出せるので、タンス、扉、引き出しのパーツが必要になります。
- それだけのクオリティにしないとVRでは通用しないということでしょうか。
- しないですね。”そこにいる”という感じにならないです。引越しする時に、こんなに物あったっけって思うじゃないですか? あの感覚にそっくりですよ。シンプルに見える部屋でも、思った以上に多くのもので構成されているんです。
- 開発の過程で最も苦労したのはどんなところでしょうか。
- 新しい作り方になじむというところが一番大変でした。ゼロベースで全く新しい作り方を模索したので、作り方を議論する中でお互いの価値観がぶつかり険悪なムードになることもありました。それでも、1年通して開発を続けていくと、メンバーも意図を理解してくれて。その瞬間は泣きそうなくらい感動しましたね。
- 組織が1つになった瞬間ですね。
- 他にも、そもそもこのゲームは本当に怖いのか?と不安になることもありました。「わからない」ことが我々開発にとって一番の恐怖なんですが、作っている側は全部わかっているので怖さになれちゃうんですよ。なので、2015年のE3で『KITCHEN』が評価されたことはとても励みになりましたね。自分自身、恐怖は世界共通だという考えで作っていたんですが、改めて「バイオハザード」とは異なるアプローチの『KITCHEN』で怖がってもらえたことで、ホラーは言語がなくても通用する、人間として原始的な部分にうったえるんだと確信が持てました。
- では逆に、『バイオハザード7』の開発で楽しかったことはありますか?
- カプコンに25年近く勤めていますが、初めて自分の思うとおりにゲームを作れている感じがします。これまでに担当したタイトルは、いかにシリーズに泥を塗らないようにするか、いかにこれまでのファンに気に入ってもらえるように作るか、を気にしていました。今回のように、ただ自分の望むものを作るという気持ちになれたのは初めてですね。非常に新鮮な気持ちですし、本当に自分が表現してみたかったホラーが素直に表現できているかなと。非常に気持ちのいい仕事をさせてもらってます。
- そうした苦労の結果が表れるのが1月24日ですね。
- はい。欧米では2017年の1月24日、日本では1月26日に発売予定です。
- カプコンの旗艦タイトルである「バイオハザード」。発売後の評価も楽しみですね。
- はい。「バイオハザード」は社内からも市場からも期待の大きいタイトルだと思っています。だからこそ、会社も新たな試みを認めてくれるし、市場からも、カプコンのフラッグシップとして今作では何をやろうとしているのか、どんな技術を使っているのか注目されますね。
- それを続けてきたからこそ、今の「バイオハザード」があるんでしょうね。
-
「バイオハザード」がこれだけ長寿で巨大なシリーズになったのはひとえにユーザーからの支持のおかげです。ただ、巨大になった分ユーザーの嗜好が細分化してきているため、今後はそれぞれの要望に答えられるように開発していきたいと思います。
例えば、『バイオハザード2』のリメイクを発表していますが、『2』に触れたことのない若いゲームユーザーに、今の技術で作ったらこうなるんだぞというのを見せたいですね。『バイオハザード7』は大きくリニューアルしましたけど、ほかにも様々なアプローチでバイオハザードの世界を広げていきます。 - 期待しています。今後「バイオハザード」のようなAAAタイトルを開発するうえで重要な点について、竹内さん自身の考えを教えてください。
- トレンドを読むことや、最近だと、ビックデータを基にしたマーケティングなどが脚光を浴びていますが、私個人が思っているのは、それだけではトップランナーにはなれないということです。エポックメイキングなものを作ろうというのであれば自分自身の感性を表現していくことが重要です。”こんなゲームで遊びたいのになんで市場にないの”というひらめきは何らかの需要を喚起する可能性があります。直感やインスピレーションという”野生”とデータ分析などの”理性”がバランスよく融合している状態が理想的ですね。
- 今のゲーム市場についてはどのようにお考えですか。
- 続編ばかりでさびしいというのが率直な感想です。ですが、VRマーケットが立ち上がってきた今、海外だけでなく、日本からも面白いゲームを生み出すまたとない機会だと思います。ただし、このイノベーションについてこられない企業はおそらく市場から振り落とされていくでしょう。
- カプコンはどうしていくべきでしょうか。抱負を聞かせてください。
- 「バイオハザード」や「モンスターハンター」が大きく展開できるタイミングでVRや新ハードが登場したことは、カプコンにとって大きなチャンスだと思います。市場の変化にいち早く対応し、新たな体験を生み出していくカプコンにこれからもぜひご期待ください。
Virtual Reality
VR技術
VR(バーチャルリアリティ)とは、仮想の世界に自分が入り込んだような体験を提供する技術。「プレイステーションVR」に対応する『バイオハザード7 レジデントイービル』は、カプコン初のVRタイトルとなる。
高原 和啓
Kazuhiro Takahara
技術開発室 プログラマー
2007年に入社。『ロスト プラネット2』の開発などに携わる。その後、ゲームエンジンの基礎開発を担当し、今回はVRの技術開発を担う。
VRにかける「カプコンの本気」を見てほしい
2015年のE3で発表したカプコン初のVRデモ『KITCHEN』。その会場で恐怖に震える体験者たちの反応をみて、ホラーとVRの相性の良さ、そして「バイオハザード」シリーズでのVR展開の成功を確信した。
世界中でVR機器が発売される2016年はVR元年とも呼ばれ、まさにゲーム市場が進化する時期にある。そこで、『バイオハザード7』では、カプコンにしかできないVRコンテンツをつくり、この市場の中心に立つ、ということが目標の1つになった。そのためには、既存のコンテンツにはないリアリティと、カプコンらしいゲームの楽しさを織り交ぜることが重要だ。我々クリエイター陣は、日々新しい挑戦をしながら開発を進めている。
VRの魅力の一つは”コントローラーの壁”を突破できること。これまでは、ゲーム内で視点を移動させたければ、コントローラーで操作する必要があった。つまりプレイヤーは”画面とコントローラーを通したゲーム体験”以上の感覚を得られなかった。だがVRでは、実際に頭を動かせば視界が移動し、覗き込むこともできる。そこに隠されたアイテムがあったらどうだろう。リアルな体感と楽しさの融合。これまで実現できなかったアイデアもVR版では可能になるのだ。
完成した暁には、是非ヘッドマウントディスプレイをかぶり、プレイしてみてほしい。「カプコンの本気」を感じてもらえるはずだ。