開発責任者が語る技術開発

辻本 良三

対戦格闘ゲームの
新時代
幕を開ける

取締役専務執行役員
開発部門副管掌

辻本 良三

RYOZO TSUJIMOTO

第二開発統括として「モンスターハンター」や「ストリートファイター」など当社の代表的なシリーズ開発にて指揮を執る。2022年6月に取締役開発部門副管掌に任命し、開発全体の戦略とマネジメントに注力。

第二開発統括として「モンスターハンター」や「ストリートファイター」など当社の代表的なシリーズ開発にて指揮を執る。2022年6月に取締役開発部門副管掌に任命し、開発全体の戦略とマネジメントに注力。

IPのポテンシャルを最大化するため、
遊び方の定義を見直す

「対戦格闘ゲームなのに、対戦しないとは?」

5年ほど前、開発メンバーの松本と中山から出された『ストリートファイター6』の構想をまとめた企画書は、これまでのタイトルの固定概念を覆すさまざまなアイデアで埋め尽くされていました。「対戦しなくてもいい」、「闘う前に、師匠から闘い方を学ぶ」など驚きを隠せない面もありましたが、この発想こそタイトルを次のステージへ押し上げる原動力だと直感しました。

「ストリートファイター」は、1987年に業務用ゲーム機として登場し、シリーズ累計5,000万本を超える、対戦格闘ゲームの代名詞ともなっているカプコンを代表するIP。eスポーツとの相性もよく、自らプレイするだけでなく、観戦しても楽しめるタイトルとしてその地位を確立。しかし、対戦格闘というジャンルは、シューティングやアクション、RPGなどと比較するとゲーム人口はそう多くはありません。対戦するため必ずどちらかが負けます。負けがモチベーションになるのか、ストレスとなって遊ばなくなるのか…。そうした特徴を踏まえつつ、新しい楽しみ方を新生「ストリートファイター」で提案し、その魅力をより多くの方に知っていただく。そして、このジャンルをもう一度盛り上げていきたいという意気込みに共鳴し、開発にGOサインを出しました。

IPのポテンシャルを最大化するため、遊び方の定義を見直す

新旧の挑戦者が集い、楽しめる
3つの“遊び場”を用意

『ストリートファイター6』の開発チームは、松本、中山を中心としたバランスのよい統制のとれたチームです。社内だけでも300名という大規模の体制で、世界最高峰の対戦格闘ゲームをつくるという目標に向かって全力で進んでいきます。私は全体をマネジメントする立場から、必要なリソースを経営陣に説明し承認を得たり、国内外の販売会社とプロモーション戦略を進めたりして、チームが動きやすいよう努めました。

今作で開発チームが最も重視したのは、格闘ゲームのハードルを解消しながら、新規ユーザーもコアファンも楽しめるようにすることでした。新規ユーザーが参入しやすいように、新規キャラクターの追加をはじめ、複雑な操作を覚えなくても技を繰り出せる「モダンタイプ」という操作方法を導入するなど、新鮮な要素を取り入れました。

特徴的なのは、ユーザー視点に立ち、3つのゲームモードを用意したことです。1つは、ユーザーがアバターを作成し、自分の分身が師匠に入門して技を学びながら、「ストリートファイター」の世界を自由に旅するシングルプレイモード「ワールドツアー」です。闘い以外にも楽しめる要素がたくさん、ゲームスタイルに慣れる第1ステップ。2つめは、ワールドツアーで鍛えたアバターで、全世界のプレイヤーとコミュニケーションやバトルを楽しむモード「バトルハブ」。ゲームセンターで誰かを誘って対戦する感覚でゲームを楽しめるモードです。そして3つめの「ファイティンググラウンド」は、最新の技術でコアファンをも唸らせる、格闘対戦プレイモードです。このモードをエンドコンテンツと位置づけ、逆算してそこに至るまでに必要な要素を肉付けしていきました。さながら3本分というボリュームのあるコンテンツを「RE ENGINE」をフル活用して効率的に開発しました。

その結果、『ストリートファイター6』は2023年6月の発売から約1ヵ月で、全世界で200万本を突破*。多くのユーザーにその新しい楽しみ方が受け入れられた成果だと思います。この先も新鮮さを保ち、関心を引き続けるために、定期的にコンテンツを提供しつつ、8月からは年間賞金総額200万ドル以上*のeスポーツ大会「CAPCOM Pro Tour 2023」も開催。対戦格闘ゲームの新たな火蓋は切られたばかり。挑戦はまだまだ続きます。

* 2023年7月7日時点

新旧の挑戦者が集い、楽しめる3つの“遊び場”を用意

全人類に遊んでもらえる、世界最高峰の対戦格闘ゲームを目指す

  • 少年時代、ゲームセンターで『ストリートファイターII』に熱中したふたりが、あの歓喜を再び巻き起こそうと、今こうしてシリーズ最新作を開発しています。コンセプトは『ストリートファイター7』をつくる担当者が困るほどの対戦格闘ゲームの最高峰をつくること。世界観がぶれないよう、ブランディングチームを立ち上げ、グラフィックからサウンド、プロモーションまで方針を固め進めていきました。カプコンUSAのスタッフとも連携し、最大の市場である北米のカルチャーが表現できているかもチェック。全人類に遊んでもらえるよう、わかりやすいUIに加え、視覚障害者のeスポーツプレイヤーにも協力いただき、効果音などのサウンドアクセシビリティも向上させています。海外の販売会社とも連携し、SNSやグッズ、イベントなど、ゲームをしない人の日常にも「ストリートファイター」が身近に感じられるよう、プロモーション活動を行っています。

    多彩なキャラクターがたくさん登場し、新しい挑戦者の参加を待っています。幅広いユーザーが楽しめる追加コンテンツを用意していますので、次なる展開に期待してほしいと思います。

  • 全人類に遊んでもらえる、世界最高峰の対戦格闘ゲームを目指す

    ディレクター 中山貴之 プロデューサー 松本脩平

自社構築のゲーム開発エンジン「RE ENGINE」

多彩な開発環境が、
カプコンのものづくりを進化させる

「高度な技術をより簡単に、開発しやすい環境を!」を合い言葉に、
「RE ENGINE」の技術研究をはじめ、ビジュアル、サウンドなど
この開発環境があるからこそ、世界で戦えるカプコンらしいタイトルが創造できる。
ゲームづくりに欠かせない設備や環境が他社に先駆けて整備されている。
クリエイティブと技術がぶつかり合いながら、新たなエンターテインメントが生み出されている。

「RE ENGINE」、「Fighter Tool」で

対戦をエキサイティングに!

「RE ENGINE」のメリットは、自社構築のゲーム開発エンジンゆえに、ニーズに合わせて柔軟に機能拡張できることだと思います。エンジン開発部内には、AIやツールなど分野ごとにグループが分かれており、私はその中でアニメーションのツール開発を担当しています。モーションキャプチャー(現実の人物の動きをデジタル化して記録する技術)で得たデータをCGキャラクターに組み込み、制御によってあたかも生きているように動かすのが私のミッション。タイトル開発チームを技術でサポートしていきます。

今回担当した『ストリートファイター6』は、「RE ENGINE」で開発する初めての格闘ゲーム。開発に最適な機能がなかったため、格闘ゲームのキャラクターのデータ調整に特化したツール「Fighter Tool」をゼロから構築しました。重視したのは作業の効率化です。企画やエフェクト、サウンドなど別々のセクションがキャラクターを同時編集しても、データが競合しないよう設計したり、2体のキャラクターのデータを見比べながら実装できるようにしたり。機能の追加や仕様変更など手探り状態での開発でしたが、ベテランの先輩方に支えられながら、今後のアップデートにも耐えうる、拡張性の高いツールをつくり出すことができました。このツールで調整された魅力的なキャラクターをぜひ楽しんでほしいと思います。

基盤技術研究開発部
基盤エンジン開発室
プログラマー

柳生 大輔

DAISUKE YAGYU

携わったタイトル
『モンスターハンターライズ』
『ストリートファイター6』

柳生 大輔

MOTION CAPTURE 最高峰のゲームグラフィック制作を支える「クリエイティブスタジオ」新設

最高峰のゲームグラフィック制作を支える

「クリエイティブスタジオ」新設

今やゲーム制作に欠かすことのできないモーションキャプチャー。これは、ゲーム上のキャラクターにとらせたいアクションをアクター(人)がスタジオ内で実際に演じ、その動きを赤外線カメラで感知してデジタル情報化する技術。「RE ENGINE」と連携した収録で、人のキャラクターだけでなく、モンスターなどもこの技術で自然かつ大胆に動かせます。『ストリートファイター6』でも、アクターのバレエやストリートダンスなどのパフォーマンスが、ゲームキャラクターの華麗な技に活かされています。

アクションは、カプコンのゲームの生命線。複数のタイトルが並行してスタジオを利用し、アクションを追求していくためスケジュールが混雑。そこで、新たに2つのモーションキャプチャースタジオを備えた最新鋭のスタジオ「クリエイティブスタジオ」を新設しました。国内最大級の撮影範囲に最新型の超高解像度カメラを含む150台を設置し、撮影空間密度を高めることで10人の同時収録やフルパフォーマンス撮影を実現。3スタジオ体制で開発を加速させていきます。

    作業の短縮・高精度化を実現する

    「3Dスキャン」

    約310台のカメラを用いたワールドクラスの「3Dスキャン」スタジオを完備。物体を360°取り囲み撮影することで、人やモノをデータ化し、3DCGとして再現します。従来、手作業だったCGモデリングの工程が大幅に短縮されただけではなく、高精度化したことで、更なるクオリティの追求が可能です。

    「3Dスキャン」

    臨場感を再現する3D音響ブース

    「ダイナミックミキシングステージ」

    映画館でも使用されている最先端音響システム、ドルビーアトモスを採用。まるでその場に居合わせたかのような臨場感を再現できるリアルタイムバイノーラル技術を駆使して音像変化に対応しています。映像だけでなく聴覚にも働きかけることで、ゲームの没入感を高めます。

    「ダイナミックミキシングステージ」

    あらゆる効果音や繊細な音を収録する

    「フォーリーステージ」

    ゲームに実装する様々な効果音を収録・制作する「フォーリーステージ」。多種多様な床面など、多彩なシーンに対応可能な収録道具を取り揃え、昨今のハリウッド映画と同じ手法を用い、より没入感を高めるハイクオリティなゲームサウンドを制作しています。

    「フォーリーステージ」

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