CEOメッセージ

健全な関係構築と仕組みづくりで
企業価値を向上
代表取締役会長
最高経営責任者(CEO)

1. ゲーム会社が取り組むESG

令和元年に内閣府が日本人を対象に実施した世論調査では、「物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい」と答えた方の割合が62.0%に上るなど、近年、物質より精神的な豊かさを追求する人が増加しているそうです。
ゲームは人々に笑顔や感動をもたらし、新たな文化を生み出してきました。
また、コロナ禍においては在宅時のエンターテインメントとして、WHOからゲームが推奨されるなど、健全な社会の運営にも寄与しています。私は、事業活動を通じて、ステークホルダーとの健全な関係を構築することが企業価値の向上に繋がると考えています。そこで、ESGのうち特にS(社会)、G(ガバナンス)に該当する(1)開発者数、(2)ダイバーシティ、(3)教育支援、(4)社外取締役比率、を重要課題と認識しています。今後もSDGsが掲げる持続可能な社会づくりの目標を踏まえ、ESGへの取り組みを推進し、ステークホルダーの皆様との信頼関係を構築しながら、持続的な成長を図っていきます。

2. ゲーム会社の環境対策

当社は以前よりゲーム販売のデジタル化を推進しています。この取り組みは収益性の改善という経済的な面だけでなく、パッケージ製品の製造や梱包、輸送など、環境への負担軽減という側面もあります。また、当社では従業員のワークライフバランス推進のため、社宅や駐輪場を手配することで職住近接を推奨していますが、これも遠方からの通勤に伴う温室効果ガスの排出量削減が期待できます。デジタルコンテンツの販売という業態は、環境への負荷は低いですが、気候変動への対応は地球に住む全ての人々が協力すべき課題であり、今後も環境保全につながる取り組みを推進していきます。

3. ゲームと社会との健全な関係構築

ゲームは社会に必要とされる一方で、「未成年者の高額課金」や「ゲーム依存」といった課題も存在します。ゲームを通じて人々を幸せにすることが私達の目的であり、ゲームによってユーザーが不幸になることは望むところではありません。そこで私達はこれらを業界全体の問題と認識し、業界団体を中心に各社が連携し、(1)ガイドラインの制定・啓発、(2)加盟各社間の課題・事例の情報共有、(3)保護者・教育関係者・消費者団体・行政等との定期的な情報交換、などに取り組んでいます。

加えて、当社単独では、2004年よりゲームに対する社会的不安を取り除くための取り組みとして、ゲームに関する教育支援活動を継続して実施しています。

また、モバイルゲーム開発では、ガチャ要素は原則的に控えるなど、幅広いユーザーに安全・平等に遊んでいただけるよう心がけています。

更に、パチスロ市場においては、業界団体を通じ、ぱちんこ依存問題相談機関「リカバリーサポート・ネットワーク(RSN)」などの活動に賛同・協力しています。

4. 地域社会との関わり

基本戦略「ワンコンテンツ・マルチユース」の推進により、広く社会に貢献していきます。具体的には、当社の人気コンテンツを活用した地方創生活動として、(1)経済振興の支援、(2)文化啓蒙の支援、(3)防犯啓発の支援、(4)選挙投票の啓発支援、を行っています。これらの共通課題である「若年層の集客や訴求」への解決手段として、定量的な社会的成果をあげています。

上記4つの活動は、I.イベント参加による既存ユーザーの満足度向上、II.ゲームに関心の低い層からのゲームへの好感度向上等、当社にも恩恵があります。当社の人気コンテンツが社会へ貢献すると同時に、当該コンテンツへ関心を持っていただく、両者Win-Winのサステナブルな活動として継続していきます。

5. 従業員との関わり

ゲームの開発費は約80%が人件費で占められており、ゲーム産業は「労働集約型産業」ならぬ「知識集約型産業」として、人材が極めて重要な経営資源です。

私は、世界で通用するコンテンツを創出するにはダイバーシティが重要と認識しており、性別・人種にこだわらず優秀な人材の確保・育成を推進しています。また、優秀な人材がその能力を最大限に発揮できるよう、世界最先端の開発機材を備えていることは前述の通りです。
更に報酬面では、能力に応じたメリハリのある給与体系に加え、タイトル別インセンティブやアサイン手当制度を導入し、モチベーションの向上を図っています。

加えて、2017年度には事業所内保育所「カプコン塾」を設置し、子供を持つ従業員がより安心して働けるよう環境を整備しています。

私は、人材育成で最も重要なのは、新しいことに挑戦できる環境を与えることだと考えています。挑戦させ、「上手くいったこと」より、「上手くいかないこと」に着目して対策を練るのが経営者の役割です。そうすれば従業員も失敗を恐れることなく、世界一面白いゲーム開発や新たな事業に挑戦することができ、それがビジネスチャンスを生み出す好循環になるのです。

6. 安定成長のため、不正対策を継続

データを扱う企業として、それらの価値や権利を守ることも重要です。私は、四半世紀以上にわたり一般社団法人コンピュータ著作権協会の理事長として、海賊版対策をはじめ種々の問題解決に取り組んできました。
現在ではデジタル販売の浸透により、かつては電気街等でよく見られた路上での海賊版販売は見られなくなりました。一方で、デジタルネットワーク技術の浸透に伴いサイバーアタックのリスクが高まっています。
当社では2020年に受けた不正アクセスの経験を踏まえ、セキュリティ監督委員会の設置など種々の対策を整えました。

もちろん、セキュリティ対策は「一度整えたら万全」というものではありません。今後も継続的に対策強化を進めていきます。

7. ガバナンス体制の強化

成長へのアクセルを踏む深さに比例してリスクは高まりますが、この回避もしくは低減に有用なのがガバナンスです。特に、当社は創業者の私がCEO、長男がCOOですので、社外取締役の監督機能を十分に発揮させ、取締役会が透明性・合理性の高い意思決定を行う独自の仕組みを構築し、「経営判断リスク」を回避しています。

仕組み1数字を主体とした「経営の見える化」

私は、企業規模や事業環境が変化したとしても、柔軟かつ一貫した経営を行うために、経営判断する材料(資料)を原則数値化させています。資料は売上比、前年比、計画比など比較対象を示し、複合的にチェック可能にすることで問題点を見つけ出しやすくしています。

更に、当該資料は、社外取締役による監督にも活用してもらうことに加え、投資家にも有用なIR資料として活用する、この一連の仕組みを「経営の見える化」と呼んでいます。業務の可視化に基づく経営判断に、外部からの評価を加えることで、経営の透明化を図っています。

また、私は、開発者との対話でも数字を共通言語にしています。言葉には担当者の恣意性が入る可能性がありますが、数字は嘘をつきません。創業者として培ってきた経営ノウハウを次世代に実戦で伝えるとともに、経営を「仕組み化」して、将来にわたって会社を確実に機能させるため、引き続きリスクコントロールの強化に努めます。

仕組み2継続的なガバナンス改革

当社は、これまで22年間にわたり、諸種のガバナンス改革を断行してきました。

2002年3月期の社外取締役制度導入を皮切りに、取締役の社外比率を45.5%まで向上させています。
社外取締役の選任基準は導入当初から現在も変わらず、一言で言えば、「良識があり、ゲーム以外の各分野で最高レベルの専門家に、当社の経営・事業活動を冷静に判断していただくこと」です。事業投資リスクを回避することを優先課題として、「特に業績が思わしくない時、創業者にも物怖じせず、正論を意見できる方々」を選任し、一般社会の視点で妥当性を判断していただきます。

加えて2016年には、更なるガバナンス強化、迅速な意思決定を実現するべく、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行しています。監査等委員会には、取締役、従業員の業務執行への監査や是正勧告などにより、内部統制の強化を担ってもらっています。

更に、2021年3月期より取締役会の実効性評価を実施しています。その結果、実効性は確保されているとの結果や新たな課題が得られました。今後も、課題への理解を深め、更なる機能向上に努めていきます。

仕組み3経営人材力の強化と後継者育成

私は38年間、カプコンを育ててきましたが、後継者に仕組みをきちんと理解させ、実行できるようにすることもまた、創業経営者の務めです。私は事業・開発トップの辻本春弘(社長)と江川陽一(専務)を次世代のキーパーソンとし、積極的に情報交換やアドバイスを行っています。後継者計画に関する議論は指名・報酬委員会への諮問を通じて行われますが、後継を鍛え上げ、「企業理念」、「仕組みの整ったガバナンス」がかみ合えば、持続的な成長が実現できるでしょう。

2021年11月
代表取締役会長
最高経営責任者(CEO)
辻本 憲三