辻本 憲三 プロフィール
1940年、奈良県に生まれる。畝傍高校(定時制)を卒業後、親戚の経営する食品問屋に就職し、仕事のかたわら経理を学ぶ。22歳で独立し、1966年には大阪市内に菓子店を開業。その後、綿菓子製造機の行商を始める。
1970年ごろ、子供向けパチンコ機との出会いをきっかけにゲーム機の販売を開始。顧客を全国に拡大し、1974年にはゲーム機の製造販売会社であるアイ・ピー・エム株式会社を創立した。インベーダーゲーム機の販売で大成功したが、ブームの終焉によって苦戦を余儀なくされる。
その後ソフト開発に目を向け、1983年に株式会社カプコンを創業。当時は主に業務用ゲーム機器の開発を行っていたが、ファミコンブームの到来に合わせ家庭用ゲームソフト事業にも参入し、「ロックマン」や「ストリートファイター」シリーズをはじめ国内外でヒット作品を次々に生み出す。1990年には株式を公開。数度の構造改革を敢行し、カプコンを世界的なゲームメーカーに育て上げた。2007年、経営に専念するため代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)に就任。
インタビュー - 経営論 –
Question経営者の役割とは?
Answer「企業の歩む方向を決め、永続させる」
第一は企業の歩むべき方向を決めること。企業というものは、お客様のためにあります。お客様に楽しんでいただく商品を作り、適正な価格で提供していくことが当社の使命であり、そのために「何をすべきか」を決断し、実行していくことが経営者には求められます。もう一つは、企業を安定的に存続させること。当社を評価し投資して下さる投資家の方々や、当社を信じて入社してくれた従業員の期待に応え、これに報いていくためには、ミスを極力なくして利益を確保し、ステークホルダーに還元するとともに、従業員が定年まで働ける安定した環境を作らなければなりません。
Question創業者として、現在の使命は?
Answer「次世代メンバーへのバトンタッチ」
現在の私の最大のミッションは、経営を次の世代に確実にバトンタッチすること。私も、いつまでも経営に関与できる訳ではありません。将来にわたって会社が確実に機能するように、創業者として培ってきた経営ノウハウをシステム化して、次の世代に引き継ぐことに注力しています。
長き将来にわたって会社を存続させ、多くの従業員の生活を守っていくためには、キャッシュフローをしっかりと管理し、企業としての体力をさらに強化することが重要です。できるだけ早期に、逆境でも生き残れる体力をつけ、次世代に経営を任せていこうと思います。
Questionカプコンの強みは何ですか?
Answer「創造性を自由に発揮できる風土」
当社の最大の強みは「創造力」。これだけ新しいコンテンツを次々と生み出せる会社は、世界でもそうはないでしょう。そのためには、個々のクリエイターの能力に加え、彼らが持つ創造性を自由に、のびのびと発揮できる風土があることが重要です。
そのための組織作りには、力を入れてきました。まず、新しいことに自由にチャレンジさせる。一方で、失敗したときのセーフティネットも用意しておく。「失敗しても大丈夫」という安心感があるからこそ、皆がチャレンジできるのです。
Question従業員とのコミュニケーション方法は?
Answer「全ての従業員と直接触れ合う」
2,000人を超える従業員が在籍しているので、特に若手とは顔を合わせる機会がなかなかありません。そこで2000年から、誕生月を迎えた従業員を集めて「誕生日会」を開いており、個別に話をする機会を設けています。誕生日は全員に必ずあるので、不公平になることもありませんしね。
誕生日会では、実に色々な話をします。直接話すと各部門の現状や課題などもよく見えてきますし、従業員にも、そういった場を持つことで少しでも励みに感じてもらいたいと思っています。
Questionゲーム業界の将来をどう見ていますか?
Answer「価値観が変わり、我々の時代が来る」
これから20年もすれば我々の時代がきっと来るでしょう。理由は簡単で、生産性が高まり人々の価値観が変わっていくからです。日本が貧しかった頃は、衣食住を中心とした生活を豊かにする「形あるモノ」の価値を追い求めていました。しかし、社会が豊かになるにつれ、より精神的な満足を求めるようになってきました。ゲームを始めとするコンテンツは、「形あるモノ」ではありません。その代わり、楽しさという付加価値を提供します。未来はそういうものを皆が求める世界になるでしょう。まさに当社がこれまで進めてきたことが、当たり前になるのです。
「座右の銘」
01|「創意工夫」
良いものをつくるには、人真似ではだめ。他人にできないから価値があるのです。経営にしても、他にはないものがあるからこそ、勝てるわけです。人と比べるのではなく、自分自身の価値観で考える。何事にも、創意工夫が必要ですね。
「趣味」
02|「ゴルフ」
健康のためにゴルフ場ではカートに乗らず、芝生を歩くようにしています。ゴルフの良いところは、結果が数字で出ることですね。過去20年間のスコアを手帳に記録して、目に見えるようにしています。
「愛読書」
03|「池波正太郎や司馬遼太郎の著作」
ビジネス書は読みだすと色々な思いが浮かんでしまい、なかなか読み進められないのですが、歴史小説などは仕事とは全く違う世界なので、頭を切り替えられます。特に捕物帖のような勧善懲悪の物語は爽快感があり、エンターテインメントとして面白いですね。
「休日の過ごし方」
04 |「家族との時間以外は、常に仕事」
自宅での食事は、家族との時間としてとても大切にしています。それ以外にプライベートな時間はほとんど意識しません。いつでも仕事のような感覚で、私にとってはゴルフも遊びではなく、自分が目標とするスコアを達成するための一種の「仕事」なんです。
「自身の性格」
05 |「整理整頓好き」
年々、自分の本来の性格が前面に出てくるようです。私はもともと整理整頓好きでしたが、年齢とともにいい加減なことがますますできなくなりました。何でもきっちりしていないと気になります。
「親交のある経営者を教えてください。」
06 |「鈴木敏文さん」
ゴルフを通じて多くの経営者と知り合いましたが、中でも株式会社セブン-イレブン・ジャパンの事実上の創設者である鈴木さんとは20年近くのおつきあいがあります。厳しい業界にあって新しいことに次々チャレンジし、成功されていらっしゃる点で、尊敬しています。
「学生時代の過ごし方」
07 |「勤労学生」
早くに父親を亡くし、働きながら高校を卒業しました。勉学と仕事の両立は大変でしたが、大変な状況は今も変わりません(笑)。ただ、スキーや麻雀といった、学生の遊び文化を全く知らないんです。だからゲームを商売にしたのかも知れませんね。
「起業当時の思い出」
08 |「カラオケ」
まだカプコンを創業する以前の話ですが、当時はインベーダーゲーム機の販売と同時に、カラオケ機も扱っていました。商品の性能を調べるため、社長室でカラオケを歌っていたことを覚えています。今でも昔の歌なら100曲ぐらいは歌えますよ。
「従業員へのメッセージ」
09 |「長い目で、創意工夫を続ける事が大切」
人生は長いです。「大器晩成」ではないですが、真面目に取り組んでいれば年をとるほどに自分の完成度は高まります。目先のことばかり追わず、1歩下がって客観的に時代の風景を眺め、創意工夫して歩んでいれば、良い仕事ができ、きっと良い人生が送れます。
「カプコン以外での顔を教えてください。」
10 |「ACCS(一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会)理事」
かつて著作権の問題は企業対企業のものでしたが、最近は個人のレベルで様々な事件が起きます。知的財産を守るための仕組みを今後どう作っていくか、これからの日本の産業にとって大きな課題だと思います。