CEOコミットメント

CEOコミットメント

世界一面白いゲームの創出のために――― 経営の仕組み化とコンテンツのブランド化で、安定成長を目指します。

代表取締役会長
最高経営責任者(CEO)

辻本 憲三

企業価値の持続的向上に必要な6つの要素

私がカプコンを創業して35年が経過しました。しかし、私は過去の成功に興味はありません。過去最高益を更新した今もなお、常に5年後、10年後、50年後の世界を見据え、何を目指し、どのような仕組みを作れば持続的な成長に繋がるのかを考えています。

しかし、そのためには6つの要素、1創業の志や共通の価値観を醸成する「企業理念・企業文化」2競争優位性のある「ビジネスモデル」3定量的な道標となる「重要経営指標」4強みに集中した「経営戦略」5「社会との関わり」6リスクを低減し持続可能性を高める「社会との関わり」と「ガバナンス」があり、それぞれの連関が必要です。株主の皆様には、当社が企業価値を持続的に向上するための6つの要素について、どのような優位性・独自性があるのかをご説明いたします。

図:世界一面白いゲームの創出で持続的な成長を実現

1 企業理念・企業文化 ——世界一を目指す価値観

「大阪から世界へ」を合言葉に、世界に挑戦し続けるDNA

「ゲームは嗜好品であり人生に不可欠なものではない。だからこそ、ユーザーが面白いと思う世界トップクラスのブランドでなければならない。」私のこの考えは、エンターテインメント業界に飛び込んだ50年前から変わっていません。

したがって、カプコンは、ゲームというエンターテインメントを通じて「遊文化」をクリエイトし、人々に「感動」を与える「感性開発企業」を基本理念としています。これはつまり、世界一面白いゲームの創出を通じて「遊文化」を生み出し、心豊かな社会づくりに貢献する、ということです。

1983年、私は「創意工夫」をモットーに、世界トップクラスの品質のゲームを開発したいという想いから起業しました。

その背景には、ゲームはグラフィックの進化や世界観の深耕により、やがてディズニー映画と同じように全世界に感動を与えることができると考えていたからです。

それから35年、私の志に共感し集った仲間は今や2,900名を超えていますが、この価値観は「大阪から世界へ」を合言葉として企業文化・DNAとなり、(1)常に新しいことに取り組むチャレンジ精神、(2)常に世界トップクラスを目指す自負心、が社員一人ひとりに刻み込まれています。

当社から、「ストリートファイター」や「バイオハザード」、「モンスターハンター」などのユニークなゲームが頻繁に創出されるのは、長年培われてきたこの企業文化が土壌にあるからです。

2 ビジネスモデル——グローバルIPを軸とした競争優位性

開発・技術力とブランドの優位性を活かしたビジネス展開

当社の強みは、(1)世界トップレベルの品質の高いゲームを生み出す開発力・技術力、(2)世界に通用する、ブランド化された多数の人気IPを保有していること、の2点です。

加えて、6年前から新入社員を毎年100名以上採用し、開発人員を2,100名以上に増やしたことで、更に強みを伸ばしています。

ゲームの市場特性や競争要因分析から、コンシューマ事業には高い参入障壁があり、上述の強みに、当社の資本力やハードメーカーとの信頼関係を合わせると、大きな競争優位性(=収益性)を築いていると考えます。その背景には、コンシューマ市場は、ハードウェアサイクル毎に技術水準と開発費が上昇した結果、ブランド化された人気タイトルだけが長期間売れ続け、ユーザーのお金と時間が集中するモデルになったことが挙げられます。

また、コンシューマ以外の事業は、人気IPを活用したマルチユース展開により、安定した収益源として貢献しています。これは、当社IPが100%自社開発のオリジナル作品であることに加え、グローバルIPを多数保有していることが、マルチユースの効果を増幅させているからです。また、ハリウッド映画を活用したマーケティング展開は当社IPのグローバルでの競争優位性(=ブランド力)を更に高めており、相乗効果を発揮しています。

3 重要経営指標(KPI)——5年10年先を見据えた安定成長へのこだわり

仕組み化による骨組み作りと、指標改善による筋肉質化

1. 2018年3月期 経営成績の分析(要約)

当期(2018年3月期)の業績は、5期連続の営業増益、かつ営業利益以下の利益項目は過去最高となりました。ここで注目するポイントは、(1)『モンスターハンター:ワールド』がグローバルブランドとして成功したこと、(2)カタログ販売(過去作、移植・HD化含む)も続伸し、収益基盤の厚みが増したこと、(3)ダウンロード本数比率が53%まで上昇したこと、です。この3点は、いずれも成長戦略で掲げていた項目であり、これまでの取り組みが奏功したことを表しています。

2. 中期経営目標の前提と指標(KPI)

(1) 経営の方向性——次の5年で何を目指すかを考える
私は、経営にあたり次の5年で何を目指すかを常に考えています。そうすれば、2年先の小さな変化にも早く気付くことができるのです。そして、現在は、(1)世界トップクラスの面白いコンテンツ(IP)を創り出し、(2)その豊富なIPを多面的に活用し、収益を最大化するとともに、(3)これらを継続することで、持続的に成長する企業になることを経営方針として掲げています。

(2) 経営目標——毎年、安定的に成長する
上記を達成するための指標として、「毎期、営業増益」を掲げています。大型タイトルの発売時期を無理やり調整して達成するのではなく、タイトルラインナップの拡充等により自然体で安定成長する「積み上げモデル」を志向することで、年金を運用する機関投資家や、年金で生活する個人投資家の方々が、安心して長期保有できるようにします。毎期成長することを重視しており、具体的な増益率は掲げていませんが、5~10%の利益成長率を念頭においています。

(3) 重視する指標(KPI)と株主価値創造実績
私は、経営にあたり、企業の稼ぐ力の基本となる「営業利益」(成長指標)と収益性の基本である「営業利益率」(効率性指標)、そして「キャッシュ・フロー」を重視しています。

変化の激しいゲーム業界において、常に5年先を見据えた経営を行うにあたり、これらの基礎的指標や、「売上比・前年比・計画比」のマトリックス比較などで異常がないかをチェックし、早期に問題点を見つけ対応してきたことで、直近10年における営業増益率は+204%、営業利益率の改善度は+9.3ポイントと、同業他社比較でも上位につけています。

営業利益・営業利益率の改善率(2010年3月期との比較)

  営業利益 営業利益率
カプコン +204% +9.3 points
コナミ HD +167% +12.9 points
スクウェア・エニックス HD +6% -3.6 points
セガサミー HD -43% -4.2 points
バンダイナムコ HD +3085% +8.7points

注) 2010年3月期と2019年3月期予想の比較
出所) 決算短信、決算発表資料

また、これらの指標を改善すれば、ROEなど関連する指標も向上し、株主価値を創出することになります。具体的には、利益率の改善に伴い、ROEは5年連続で向上しています。更に、2019年3月期のエクイティスプレッド(ROE-資本コスト)は、+8.46%と企業価値を創造することに加え、東証平均(+3.28%)や同業他社を上回る見込みです。

ROE・エクイティスプレッド

  ROE エクイティスプレッド
カプコン 14.05% +8.46%
コナミ HD 12.61% +6.35%
スクウェア・エニックス HD 10.90% +5.97%
セガサミー HD 3.90% -2.34%
バンダイナムコ HD 11.12% +5.91%
東証平均 9.39% +3.28%

注) 2019年3月期予想
出所) 決算短信、ブルームバーグ

加えて、私は、当社を信頼して中長期で当社株式を保有し応援する株主の皆様に報いることは重要と考えており、持続的な業績成長と後述の積極的な株主還元を行ってきました。その結果、この5年間のキャピタルゲインと配当を合わせた株主総利回り(TSR)は+27.85%であり、TOPIX (+12.91%)を上回るとともに、同業他社比較でも上位に位置しています。

株主総利回り(TSR)

  5期間(年率)
カプコン +27.85%
コナミ HD +25.56%
スクウェア・エニックス HD +39.17%
セガサミー HD -0.08%
バンダイナムコ HD +18.82%
東証平均 +12.91%

注) 2014年3月期~2018年3月期の5期間
出所) ブルームバーグ

引き続き、骨組みとなる経営の仕組みを作り上げ、基本的な指標を改善することで筋肉質な企業体質を目指してまいります。

4 経営戦略——強みに集中した開発・マーケティング戦略

独自の開発・マーケティング戦略で、ブランドを強化しユーザー層を拡大

1. 世界トップクラスのゲームを作るための人材・開発設備への投資

「進化を追わずして、世界トップクラスは成し得ず。」業界で50年経営してきた私が言い続けていることは、「世界トップのゲームとは、面白いだけでなく、技術水準が高いものでなければならない。」ということです。このことは、ハードの進化や参入企業のレベル上昇が証明しています。したがって、プログラムや映像技術などの能力が高い人材を集結させる必要がありますが、既に手は打っています。

私は、ゲーム市場の拡大と技術進化を見据え、6年前から新入社員を毎年100名以上採用してきました。彼らのほとんどが幼い頃からゲームを遊んできた「ゲームネイティブ」であり、20年間のゲームの進化を全て把握しています。しかも、彼らは、「自分の才覚で市場を切り拓きたい。」という思いを持って、世界市場を目指すDNAが根付いたカプコンに入社してきており、気概に溢れています。

このゲームネイティブ集団の能力を最大限発揮できるよう、人材育成の仕組みを作るとともに、世界最先端の研究開発棟や開発設備に積極的に投資しています。

2. 世界ブランドのIPにするためのマーケティング戦略

もう1つ重要なことは、マーケティングからのアプローチで、ヒットした作品の認知度を高めブランド化することです。

ゲームソフトの開発は3年程度を要するため、開発期間中は認知度が低下し続けることが課題でした。私は、ゲームタイトル名を継続的にメディアに露出させる最も効果的な方法はハリウッド映画による世界的な展開と考え、1994年には40億円全額出資して、「ストリートファイター」のハリウッド映画化を決断しました。当時、「辻本さんは道楽で映画を始めた。」と言われたものですが、結果として150億円のリターンと「ストリートファイター」の世界ブランド化に成功しました。成功の要因は、ゲームのメディアへの露出はせいぜい発売前後の2週間ですが、ハリウッド映画化により(1)劇場公開、(2)ブルーレイ、DVD販売、(3)ケーブル放送、(4)ホテルや飛行機での放送、など何年も何十年も世界中で繰り返し放送され続けて、タイトル認知度の維持・向上に繋がったからです。

このマーケティングアプローチは、「世界トップクラスの品質のゲーム」であることが条件であり、当社では既に「バイオハザード」のブランド化でも同様の成功を収めており、引き続き、その他のIPのブランディングで活用していきます。

3. IP毎の「ユーザー数の拡大」を図る成長戦略

私が創業経営者として、次世代メンバーへの継承にあたり大事にしていることは仕組み作りです。何でも仕組み=土台を作ることが一番難しいのですが、5年前から取り組んできたことでようやく形が整ってきました。成長戦略を確実なものとし、企業価値を更に向上させるためには2つのリスク対応が重要ですが、まずここでは安定成長の仕組み(収益変動リスクのコントロール)についてお話しします。

中長期的な収益変動リスクを低減し、持続的成長を可能にする対策は、(1)コンシューマにおいて、従来の売り切り型(フロービジネス)から継続型(ストックビジネス)へとビジネスモデルを根底から変更すること、(2)当社の基本戦略である「ワンコンテンツ・マルチユース」展開を徹底することで、事業ポートフォリオを構築し収益リスクを分散すること、の2つと考えています。

中長期の成長イメージ

まず、私達が中核事業とするコンシューマビジネスは、歴史的にヒット作の有無により収益が変動してきました。過去にも複数のヒット作を分散して発売することで、一定の成果(収益の変動抑制)は得ているものの、私が目指す安定成長とまでは言えませんでした。

しかし、2013年以降、ゲーム機の本格的なオンライン機能の実装により、デジタルを主軸とした成長戦略の策定が可能となりました。

具体的には、新作において、(1)毎期、大型作品を3タイトル前後投入すること、(2)当該タイトルを追加コンテンツや価格政策で長期間(3~4年)販売すること、(3)市場の約85%を占める海外への展開強化により、成長ドライバーとしての役割を果たします。

次に、カタログタイトルとして、(1)過去作品のダウンロード販売、(2)過去ヒット作の現行機移植版の投入により、ユーザー数を拡大し、継続型ビジネスとしての基盤となる利益を生み出します。

また、「ワンコンテンツ・マルチユース」はこれまでコンシューマの変動を補完するほどの規模ではありませんでした。しかし、「G(通信速度)」と「K(解像度)」の技術進化により、モバイルコンテンツにおいても、我々の強みであるIPを徹底的に活用するとともに、内作・協業・M&Aなどあらゆる可能性を追求して、更なる成長のオプション(第2の柱)として事業基盤を構築します。

加えて、5年後のeスポーツ市場の拡大を見据えて、タイトルブランドの強化とeスポーツビジネスの事業化を図っていきます。

私は、ヒットビジネスと呼ばれるゲーム産業において、いまだどの企業も成し得ていない「持続的成長が可能な経営体制と戦略」を確立し、企業価値を高めていきます。

5 社会との関わり(S)——世界に通用する人材と新たな市場の育成

ゲーム開発を通じてグローバル人材を育て、社会に貢献する

私は、事業活動を通じて、世界で活躍できる人材の育成や先端技術による新たな市場創出などの社会課題を解決し、ゲームメーカーならではの視点からステークホルダーとの健全な関係を構築すると同時に、社会的・経済的価値をもたらすこと(共通価値の創造)が、企業価値の向上に繋がると考えています。

1. ゲームと社会との健全な関係構築

これまで、ゲームは笑顔やストレス解消などを提供してきた一方、近年はモバイルゲームの増加に伴い、「未成年者の高額課金」や「リアルマネートレード(RMT)」、「ゲーム依存症」など新たな課題が現れています。これらは業界全体の大きな問題と認識し、業界団体を中心に各社一丸となり、(1)ガイドラインの制定・啓発、(2)加盟各社間の課題・事例の情報共有、(3)保護者・教育関係者・消費者団体・行政等との定期的な情報交換、などに取り組んでいます。

加えて、当社単独では、教育支援活動としてゲームとの正しい付き合い方を啓蒙するリテラシー教育やキャリア教育を実施しています。これは、ゲームに対する青少年の健全育成面での社会的不安を取り除くための取り組みです。

2. 地域社会との関わり

基本戦略「ワンコンテンツ・マルチユース」の推進により、広く社会に貢献していきます。具体的には、当社の人気コンテンツを活用した地方創生活動として、(1)経済振興の支援、(2)文化振興の支援、(3)治安向上のための啓発支援、(4)選挙投票の啓発支援を行っています。これらの共通課題である「若年層の集客や訴求」への解決手段として、定量的な社会的成果をあげています。

上記4つの活動から当社にもたらされる価値は、(1)イベント参加による既存ユーザーの満足度向上、(2)中高年層のゲームへの好感度向上、です。特に(2)は、現在ユーザーとして取り込めていない層であり、当社の人気コンテンツが地元へ貢献する中で、身近なスマートフォンのアプリゲームなどを通じて、新たなゲームユーザーになる可能性があります。

3. 従業員との関わり

ゲームソフトの開発費の約80%が人件費(原価)で占められていることからも分かるように、ゲーム産業は「労働集約型産業」ならぬ「知識集約型産業」として、人材がとりわけ重要な経営資源です。

私は、グローバルで通用するコンテンツを創出するには、ダイバーシティが重要と認識しており、性別・人種にこだわらず優秀な人材の確保・育成を推進しています。その結果、女性中心で開発したゲームが、新たなジャンルでヒットを放つなど効果が出ています。また、人材の育成が開発力の強化に直接繋がることから、各種の育成プログラムを実施しています。加えて、世界最先端の開発設備や技術を取り揃えるだけでなく、企業内保育所「カプコン塾」を設置するなど、開発者が業務に集中できる充実した環境を整備しています。報酬面では、通常の賞与に加え、タイトル別インセンティブやアサイン手当制度を導入し、モチベーションの向上を図っています。

また、私は、「カプコン塾」を単なる保育だけでなく学びの場として子供達を中学受験まで面倒を見る施設にしたいと考えています。カプコンに一番投資をしているのはゲームを買ってくれる子供達です。だから、子供達にきちんとその恩を返していかないといけません。日本は、AIやIT分野において米国などに押されていますが、人材は世界で戦っても負けないレベルになるように応援していきます。そのため、中学受験まで支援し、当社に入社する人は世界に通用する企業人やゲームクリエイターになるまで育成する。これが一番の恩返しになるのではないかと考えています。

加えて、私は人材育成で最も重要なのは、新しいことに挑戦できる環境を与えることだと考えています。どんどん挑戦させて、「上手くいったこと」は放っておき、「上手くいかないこと」にエネルギーを費やして対策を練るのが経営者の役割です。そうすれば従業員も失敗を恐れることなく、世界一面白いゲーム開発や新たな事業に挑戦することができ、それがビジネスチャンスを生み出す好循環になります。

6 ガバナンス(G)——次世代への仕組みづくり「経営の見える化」

経営判断リスクを低減するための制度設計と次世代経営層の育成

成長戦略を加速させるほどリスクは比例して高まりますが、このリスクの回避もしくは低減に有用なのがガバナンスであると私は考えています。特に、創業者の私がCEO、長男がCOOですので、社外取締役を含む取締役会の監督機能を十分に発揮させ、透明性・合理性の高い意思決定を行う独自の仕組みを構築し、「経営判断リスク」を回避しています。

ガバナンスの仕組み

仕組み1 数字を主体とした「経営の見える化」

私は、企業規模や事業環境が変化したとしても、柔軟かつ一貫した経営を行うために、経営判断する材料(資料)を原則数値化させています。具体的には、資料は売上比、前年比、計画比など比較対象を示し、複合的に組み合わせてチェック可能にすることで問題点を見つけ出しやすくしています。

更に、当該資料は、社外取締役による監督にも活用してもらうことに加え、IR活動で投資家にも活用していただく、この一連の仕組みを私は、「経営の見える化」と呼んでいます。業務の可視化に基づく経営判断に、二重の社会の目でジャッジを加えることで、経営の透明化を図る仕組みです。

また、私は、開発者と話す時も数字を共通言語にしています。定性的な言葉や文章だけでは担当者の恣意性が入る余地が大きいのに比べて、数字は様々な角度から照合できるのでリアルな状況として判断できるからです。

今、私が注力するリスクコントロールの仕事は、創業者として培ってきた経営ノウハウを次世代メンバーに実戦で教えるとともに、経営を「仕組み化」して、将来にわたって会社を確実に機能させることですが、形は出来上がりつつあります。

仕組み2 社外取締役の監督機能を発揮できる機関設計

当社は、これまで19年間にわたり、諸種のガバナンス改革を断行してきました。

2002年3月期から社外取締役制度を導入したのを皮切りに、取締役の社外比率を45.5%まで向上させています。これは、ある投資家の方から「創業オーナー企業は、経営の意思決定の迅速さや環境変化への対応について優位性がある一方で、独断専行のリスクがあるのではないか?」と指摘されたことが契機です。

社外取締役の選任基準は導入当初から現在も変わらず、一言で言えば、「良識があり、各分野で最高レベルの専門家に、当社の経営・事業活動を冷静に判断していただくこと」です。事業投資リスクを回避することを優先課題として、「特に業績が思わしくない時、創業者にも物怖じせず、正論を意見できる日本トップクラス(経営危機管理・法令・行政)の方々」を選任し、一般社会の視点で妥当性を判断していただきます。

安定した企業運営をしていくためには、リスクマネジメントを徹底できる経営基盤をより一層強化する必要があると判断しました。

また、これら監督の仕組みとモニタリングの結果を積極的に対話で示すようにしています。きっかけは、2013年頃、投資家の方々から「ガバナンス報告書に、取締役会では活発な議論を交わしたとあるが、本当にそうなのか?」と質問されたことです。せっかくの有用な仕組みが認識されていないのは問題と思い、翌年からアニュアルレポートで取締役会の議論内容を掲載するとともに、社外取締役と機関投資家のスモール・ミーティングを開催したことで、双方の理解は深まりました。

仕組み3 経営人材力の強化と後継者育成

企業経営において「人の資質・気質」は重要な経営資源であり、企業価値に大きく影響を与えます。創業経営者としての私の経営哲学や経営力は、統合報告書2016に詳述しましたが、現在、投資家の皆様からの懸念の1つとして、オーナー企業における経営層の薄さ、つまり次世代の経営体制(後継者計画)が準備できているか、を指摘されています。

当社の次世代キーパーソンは、事業・開発トップの辻本春弘(社長)と江川陽一(専務)ですが、両名ともに経営者に必要な気質を持っています。

例えば、後継者として、長男である辻本春弘を選任した理由は、大きく2つあります。1つは「誰よりもゲームを知り抜いていること」です。彼は中学生の頃、まだカプコンが町工場のような小さな会社の時から手伝いに来ていました。その結果、ゲーム機の構造からソフトづくりまで知り尽くしており、40年以上、ゲーム屋としての経験を蓄積しています。

2つ目は、「創業家の一員として逃げない覚悟があること」です。辻本春弘は、学生時代から長男として自分が家業を継ぐという意思と覚悟がありました。新卒で入社した社員とその家族を50年面倒を見る、業績が苦しい時でも一番投資してくれる子供達のために面白いゲームを作り続ける、このようなことは逃げない覚悟をした者しか成し得ず、立場が悪くなったら辞めるかもしれないような気質の人に継承してはいけないのです。

もちろん会社としてのガバナンスは重要であり、組織が公明正大に動いていることが前提ですが、その仕組みづくりは上述の通りです。

江川陽一の資質は昨年お話しした通りであり、このタイプの異なる二人を更に私が厳しく鍛え上げたうえで、長年かけて醸成した「企業文化」と、前述の「経営の見える化・仕組み化」を組み合わせれば、長期投資家の方々が「この人の経営に任せてみたい」と思う厚いマネジメント層が整うと考えています。

上場以来28年連続配当と過去最高配当で長期株主に報いる

1. 配当に関する基本方針

私は、変化することが当然のゲーム産業において、「企業として安定的な成長を遂げるとともに、長期株主には安定的な増配で報いたい。」という信念で、創業以来35年間経営を行ってきました。

持続的な企業価値向上のための要諦は前述しましたが、株主の皆様への利益還元についても経営の重要課題の1つと考えており、将来の事業展開や経営環境の変化などを勘案のうえ、配当を決定しています。

株主還元の方針として、(1)投資による成長などにより企業価値を高めるとともに、(2)連結配当性向30%を基本方針とし、かつ安定配当の継続に努め、(3)自己株式の取得により1株当たり利益の価値を高めること、としています。

私が配当性向だけでなく安定配当を大切にする理由は、例えば年金生活で配当を生活費の一部として生計を立てている方にとっては、急な無配・減配は死活問題になるからです。定期的かつ安定的な収入があることで、将来の生活設計をしっかり立てることができます。年金を運用する長期投資家の方からも配当の安定性を求めるご要望を受けます。

多様な株主の皆様の中にも、このような方々がおられるからこそ、1990年の上場から28年間、一度も無配にしたことはありませんし、配当金は、この10年間で2倍にしました。

上場以来の1株当たり配当金(円)

2. 当期および次期の配当

2018年3月期の配当は、過去最高の年間60円としました。また、次期(2019年3月期)の配当予想である年間30円は、株式分割考慮後であり、実質的には当期と同様に過去最高の配当額となります。

私は、この業界に50年の経験を持つ経営トップとして、過去35年間の成長を上回る企業成長を図り時価総額を増大させることで、株主の皆様のご期待に応えてまいります。

代表取締役会長 最高経営責任者(CEO)

辻本 憲三

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