戦国BASARA特集2:『戦国BASARA4 皇』開発秘話

戦国BASARA特集2:「戦国BASARA」開発秘話

シリーズ10周年記念作品として2015年7月にリリースした最新作『戦国BASARA4 皇』は、シリーズ最大級のストーリーとアクション、初のプレイステーション4対応と新要素を多く含んでいる。それ故、開発には数々の困難が待ち受けていた。開発者達の挑戦とは…。

試練は覚悟の上。総力を結集して、いざ、勝負!

写真:ディレクター 山本 真

CS第三開発統括 第四開発部 第一開発室 ディレクター 山本 真

デザイナーとして入社後、「戦国BASARA」のディレクターに抜擢され立ち上げに関わる。以降、シリーズを通してディレクターを務め、ゲームだけでなく、漫画やTVアニメ、舞台の監修も行う。

デザイナーとして入社後、「戦国BASARA」のディレクターに抜擢され立ち上げに関わる。以降、シリーズを通してディレクターを務め、ゲームだけでなく、漫画やTVアニメ、舞台の監修も行う。

ディレクターから見た開発「ユーザーに楽しんでもらいたい」という思いがチームの原動力

新作の価値、意義を訴え、開発承認を得る

「どうすれば、経営層の開発承認が下りるんだ…」

山本は焦っていた。それは、『戦国BASARA4』の開発ラストスパートで奮闘中の2013年の夏のことだった。山本はプロデューサーの小林、門脇とともに、『戦国BASARA4』に続く次回作の開発承認会議に臨んでいた。2015年7月に「戦国BASARA」はシリーズ10周年を迎える。そこに照準を合わせ、記念タイトルにふさわしい大作をリリースしたいと考えていた。プレイヤー武将を増やし、カジノ要素も入れた規格外の大ボリュームでユーザーに楽しんでもらいたい、と。コンセプトや売上目標、開発コストなどをまとめた企画書を作成して会議で提案したが、経営層の表情は硬い。それもそのはず、ゲーム市場は激動の時代。前作『戦国BASARA4』の受注本数も計画を下回り、見込みや熱意だけで開発承認が下りるほど容易い状況ではない。

でも、そこで引き下がる山本達ではなかった。
「もう一度、考えてみてください。『戦国BASARA』の新作が継続して出ることで、アニメや関連書籍、グッズ、舞台、自治体とのコラボ、パチスロなど多彩に広がるんです。その原資となる次回作なんです!」
確かに「戦国BASARA」が拓いた「歴史ブーム」や「地方自治体とのコラボ」は目を見張るものがあり、マルチユースによって利益に寄与してきたことに疑う余地はない。経営陣の姿勢も徐々に軟化。
「承認された時は、正直ホッとしました。同時に、10周年を飾るにふさわしいタイトルにすべく不退転の決意で臨みました」


「戦国BASARA」は拡張性があるコンテンツ。「アニメや漫画、舞台、遊園地と、様々なエンターテインメントを経験できた」と山本は語る。

開発チームを編成、時間との戦いが始まった

まずは開発体制づくりからだ。山本は、混乱を極めた前作『戦国BASARA4』の開発体制を猛省し、意思疎通を図りながらアイデアが生まれる体制づくりを行った。これまで「戦国BASARA」に携わってきたメンバーを中心に、プランナー、デザイナー、サウンドクリエイター、プログラマー達を招集。初めてセクションリーダーを任せるスタッフもいた。
「このタイトルに思い切りチャレンジしてもらおうと、若手を起用しました」
チームを組織してからは、時間との戦いだ。発売日は2015年7月と決まっていたからだ。

しかし着手早々に、大きな仕様変更が必要となった。それは、次世代機プレイステーション4(以下、PS4)への対応だった。販売店もユーザーの空気もすでにこの新しい流れに乗っていた。
「予定していたプレイステーション3版に加え、PS4版も開発しなければダメだ!ユーザーはそれを待っている!」
もう一刻の猶予もない。開発スケジュールを引き直し、メンバーに発破をかけた。


メンバーにゲームの構想を全て伝え、共有する。
密なコミュニケーションをとり、常に意思疎通を図ることが重要になる。

チーム力を結集し10周年にふさわしいタイトルを

リーダーを中心に開発スタッフ達は、山本の期待に応え、アクションもボリュームも納得のいくクオリティまでつくり上げた。そして、2015年7月。今作のメイン武将である皇帝の足利義輝をイメージし「皇」と銘打ったタイトル『戦国BASARA4 皇』が完成した。過去最大の40名のプレイヤー武将に新要素「合戦ルーレット」、爽快感あるアクションとノリの良さはそのままに、壮大な戦国ストーリーが楽しめるゲームに仕上がった。
「開発メンバーには限りある時間で最大限の要素を詰め込むよう指示したので、かなり苦労をかけたと思いますが、それぞれが自ら動き、完成に向けて歩を進めてくれました。チームの心が1つになり『ユーザーに楽しんでもらいたい』と本気で思っていたからこそ乗り越えられたと思います」

「戦国BASARA」10周年記念— 今年も”熱い”戦いが繰り広げられそうだ。

攻めるべきは、遊びの面白さと「戦国BASARA」らしさ

写真:メインプランナー 寺西 圭司

CS第三開発統括 第四開発部 第一開発室 メインプランナー 寺西 圭司

プランナーとして中途入社後、『戦国BASARA4』の企画に途中から参加。本作ではメインプランナーとしてチームをまとめる。

プランナーとして中途入社後、『戦国BASARA4』の企画に途中から参加。本作ではメインプランナーとしてチームをまとめる。

プランナーから見た開発 多彩な視点と企画で「戦国BASARA」の世界観を広げていく

「戦国BASARA」らしさを追求し新要素カジノ案をつくり直す

「今作で最も苦労したのは、新要素の”合戦ルーレット”でした」
メインプランナーの寺西はこう続ける。
「ディレクターの山本は、構想段階からカジノの要素を入れたいと考えていたのですが、仕様をどうするか迷っていました」
当初の山本の案は、メダルをベットして稼ぐという一般的なカジノゲームで、稼いだメダルを武器などの景品と交換するというものだった。
「それは開発スケジュールやコストを考慮したディレクターの山本が導き出した最善策だったのですが、仕様書を作成して開発に着手したところ、爽快なアクションが持ち味の『戦国BASARA』らしさが足りないように感じたんです」

本当にこれで面白いのか、単なるルーレットではなくアクション要素と絡めないと、など反発の声が開発チームから上がる中、寺西はメインプランナーとしてメンバーの総意をまとめて山本に進言した。「もう一度、企画を考え直しませんか?」と。今作は、開発期間が通常より短く、内心焦る気持ちはあったが、10周年を彩る面白いゲームをつくりたいという気持ちはみんな同じ。山本もそれを受け入れ、つくり始めていた”合戦ルーレット”の制作を一旦ストップして見直す決断を下した。

多様なしかけが遊ぶ楽しさを広げる”合戦ルーレット”

限られた開発時間で最大限できることを念頭に、セクションリーダー達で何度も議論を重ね、取捨選択の末、戦場に出現するルーレットの出目によって、様々な遊びの要素が加わり、遊びの幅が広がる合戦が楽しめるという案に決まった。ルーレットが回転すると、メダルを大量に獲得できるアタリの目や罰ゲームを受けるハズレの目、プレイヤーが別のキャラクターになる変化の目がランダムに出現。チャンスやピンチが訪れるさまは、まさに、アクションとルーレットが融合した「戦場カジノ」だ。


シリーズ最大のボリューム『戦国BASARA4 皇』。
前作を遊んだ人も”合戦ルーレット”という毛色の違うプレイを楽しめる。

「ルーレットのしかけは、プランナーチームだけでなく、メンバー全員から募集しました。シリーズ10周年の記念タイトルとして、最高のゲームに仕上げたかったので、これまで『戦国BASARA』に関わってきた仲間達の多様な視点が欠かせないと思ったからです」
そこからどんどんユニークな企画が生み出されていった。『戦国BASARA2』に登場した宮本武蔵が追いかけてきたり、カラクリ兵器の暁丸を操作して大量の敵をなぎ倒したり、金ダライが落ちてきたり。
「デザイナーもプログラマーもド派手なアクションをつくってくれて。『戦国BASARA』の世界観に合った”合戦ルーレット”に仕上がっていきました」


面白いと思ったネタはどんどん出し、良し悪しを検討。
自分の案がゲームに反映された時はプランナー冥利につきる。

密なコミュニケーションがゲームをより面白くする

クオリティを保ちながらスピード感ある開発ができた理由は、メンバー全員の「ユーザーに楽しんでもらいたい」というベクトルと的確な進捗管理にあったと寺西は言う。
「重要な決定をしなければならないところは、ディレクター山本の判断を仰ぎます。山本は『戦国BASARA』を、シリーズを通して担当し、このIP(コンテンツ)の世界観を最も理解していますから。でも、ユーザー視点が欠落していたり、遊び方として面白くないと感じるところには反論することもありますよ」
納得いくまで意見を交わし、つくり込める環境がカプコンにはあるのだ。

もう一方で進捗管理をスムーズに行えるよう、デザインやプログラミングなど各リーダー間の情報共有も密に行った。
「毎日終業時間の15分前に集まって、各セクションの進捗状況を確認しました。タスクを書き出してホワイトボードに貼るとか。とにかく”見える化”を徹底しましたね」
これによって日々の業務改善も進んだという。進化する開発の現場。ここからユーザーに選ばれるタイトルが生み出されていく。

ゲームづくりは部門の垣根を越えて挑む、合戦の場だ

写真:メインプログラマー 重吉 信哉

CS第三開発統括 第四開発部 第一開発室 メインプログラマー 重吉 信哉

2006年にプログラマーとして入社後、『デビル メイ クライ4』『戦国BASARA3』『戦国BASARA4』を担当。『戦国BASARA4』からメインプログラマーを務める。

2006年にプログラマーとして入社後、『デビル メイ クライ4』『戦国BASARA3』『戦国BASARA4』を担当。『戦国BASARA4』からメインプログラマーを務める。

プログラマーから見た開発 「戦国BASARA」を進化させるためのチャレンジを繰り返す

ユーザーが求めるものとは?本質を見極め、提案する

「え? 今から40人全ての武将の技を2つずつ増やして、”合戦ルーレット”の企画も見直すんですか?!」
休暇明けに出社した重吉を待っていたのは、ディレクターからの驚くべき意向だった。

メインプログラマーとしてチームをまとめる立場からすれば、それは無理だとしか言いようがなかった。すでに企画内容に沿ってスタッフの作業割り当てやスケジュールの調整は済んでいる。新たに全ての武将の技を2つずつつくるには、工数がかかり過ぎるし時間もない。ディレクターの山本に掛け合っても、「ボリュームが足りない。もっと遊びの要素を増やしたいんだ。これまでの素材を継ぎ接ぎしてもいいから、とにかくやってほしい」と言われるばかり。ディレクターの意図も理解できるが、自分の中では納得がいかなかった。「クオリティを下げて技を増やしたところで、果たしてユーザーは喜ぶだろうか? それが本当にこのゲームに求められていることだろうか?」重吉は悩んだ。ここは踏ん張りどころ。どうすれば一番良い方法を導き出せるか思案した。

メンバーの協力を得て全40武将の新技が完成

「技を1つに絞る代わりに、斬新でキャラクターの個性を活かせるものをつくろうと思ったんです」
重吉は『戦国BASARA4』のユーザーから「もっと新しい発見や驚きのあるプレイをしたい」という声が上がっていることを知っていた。

そして、技が1つならなんとかできるとも考えた。新しいプレイ感を与えられる技なら、1つであっても、ユーザーは納得してくれるはずだと重吉は確信していた。

まずはディレクターの賛同を得る必要がある。そこで、捨て案として従来の延長線上にある技と、全く新しい派手なアクション技のデモを作成し、どちらがいいかと提案した。重吉の提案した斬新な新技をプレイしたディレクターは、クオリティに驚き、これまでにないプレイ感を評価した。重吉の提案は採用となり、そこから新たな技づくりが始まった。

メイン業務であるプログラムのリーディングや企画・デザインチームとの調整、工程管理等の合間で時間をつくり、温めてきたアイデアやひらめきをもとにアクションを作成。しかし、40人分の固有の技をつくるのは一筋縄ではいかない。
「そんな僕の姿を見て、まわりのメンバー達も手伝ってくれたんです。みんなの協力を得て全ての技が完成した時は、達成感と感激でいっぱいになりました」
重吉は笑顔でこう振り返った。


キャラクターや技だけでなく、メニュー遷移や操作感も改良。
ユーザビリティを高め、より没頭して遊べるようプログラムを組んだ。


チーム内の連携は密に。
実際に動作させながらリアルタイムでプログラムを調整する。

プレイステーション4という未知の世界のプログラミングに挑戦

今作では、もう1つチャレンジしなければならない大きな山があった。それは、プレイステーション3(以下、PS3)プレイステーション4(以下、PS4)向けに同時に開発し、発売することだった。

開発は、カプコン独自のゲーム開発エンジン「MTフレームワーク」を使って進めていたが、このエンジンはXbox 360、 PS3、Windows PCに対応したもの。当時、PS4向け開発は未知の世界だった。まずPS3向けを仕上げ、そこからPS4向けの開発に着手。高画質フルHD1080pに対応した美しい映像を表示するために腐心した。ぎりぎりのスケジュールの中、次世代機向けエンジンを開発するチームと協力しあうことで、フルハイビジョンで安定した動作を実現。さらに、2人プレイモードが30fps(30コマ/秒)で動いていたところを、PS4版では60fpsで動かせるようになり、1人プレイモードと同じテンポで操作できるようになった。飛躍的に滑らかに美しくなった映像画面を見た時の達成感は、苦労が大きかった分格別なものだった。

ゲームづくりは、面白いものを生み出す挑戦の場。そこは部門の垣根を越えて挑む、合戦の場なのかもしれない。