INTERVIEW

2024年11月29日

サウンドツールプログラマーのお仕事紹介

タンタンです!
ゲームサウンド制作の裏側でその品質や効率を支える、サウンドツールプログラマーというお仕事があるようです。
今回は、現場で活躍するサウンドツールプログラマーに、サウンドプログラマーとの違いやその具体的な役割、魅力などについてインタビューしました!

仕事の概要

タンタン
今日はよろしくお願いします!
「サウンドツールプログラマー」ってそもそもどういうお仕事なんですか?
サウンドツール
プログラマー
(以下ツールPG)
こちらこそ、よろしくお願いします!
簡単に言うと「サウンドデザイナーやコンポーザーなどの開発者が仕事をやりやすくなるようなワークフローを整えたり、必要なツールを開発する仕事」です。
タンタン
うーん…わかったような、わからないような…?
同じプログラマーでもサウンドプログラマーとはどう違うんですか?
ツールPG
サウンドプログラマーは、ゲーム内でお客様が実際に耳にする音を組み込んだり、その再生方法を調整したりする役割です。
例えば、ゲーム内でキャラクターが走ったときの足音や、BGM、エフェクト音などを再生するための仕組みを作ります。
ですので、サウンドプログラマーの仕事は「最終的に商品として形になり、お客様に届く」のが特徴ですね。
タンタン
今までタンタンもインタビューしたことあるので想像しやすいです!
サウンドプログラマーのお仕事紹介 2023
ツールPG
一方、サウンドツールプログラマーの仕事は、そういったサウンドプログラマーやサウンドデザイナーが使うツールなどを開発して「彼らの仕事を裏側で支える」ことです。
例えば、ゲーム中で使用されるサウンド素材の管理・生成ツールや、自動的に不具合を検出するシステムなどで、これらは商品としてはあまり表に出るわけではありませんが、ゲーム開発にはなくてはならない基盤を提供しているようなイメージですね。
これまではサウンドプログラマーが担当していた仕事でしたが、開発規模が拡大するにつれてこのような需要も大きくなり、専門家が生まれたというわけです。
もう少し補足すると、私たちはゲームエンジンに関連するツールを開発することはありますが、ゲーム内で直接使われる機能そのものを作るわけではありません。
サウンドデザイナーやサウンドプログラマーが効率的に作業できる環境を提供するためのツールやワークフローの開発が主な役割です。

※サウンド開発者の仕事のカバー範囲のイメージ

タンタン
なるほど、ゲームサウンド開発において関わる部分が少し違うことがわかりました!

仕事の具体的な事例

タンタン
それでは具体的にどんなツールを開発しているのか、詳しく教えてほしいです!
ツールPG
もちろんです!
まずはゲーム中で使用される、キャラクターボイス関連の事例を紹介します。
プロジェクトの初期段階では、キャラクターの台詞に仮音声をつけて、動きやタイミングの確認をすることがよくあります。
サウンドツールプログラマーの開発したツールの一つに、既存の音声合成ソフトを利用して自動生成した仮音声を、ゲーム中のキャラクターに組み込むものがあります。
これを使えば、サウンドデザイナーが簡単に仮音声を差し替えたり、テストに活用したりできるんです。
タンタン
なるほど、音声を扱うところがサウンドっぽいです!
仮音声を素早く作れると、いろんなテストがしやすくなりそうですね。
ツールPG
そうなんです。
従来は仮音声を作成するために社内外で数百、数千の音声を収録し、収録した音声を編集し、ゲーム内に組み込み…と様々な工程を経てようやくテストができるといった状態でした。
こういったツールを開発することで、効率的にゲームサウンドの実装作業を進められるようになり、ゲーム開発の試行回数を増やすことができるようになるんです。
結果として、より良いゲーム品質に繋げられ、お客様に面白いゲームをお届けできるわけですね。

※仮音声のワークフロー改善イメージ

タンタン
最近のゲームはたくさんのセリフと音声がありますよね。
完成したゲームの裏側にはこういった作業効率化のお仕事があるんですね。
ツールPG
はい、ツールを開発することでワークフローを構築し、開発の効率化に貢献するといったお仕事は多いですね。
一方、効率化ばかりではなく、時にはゲームに直接実装される素材(アセット)を作成することもあるんですよ。
ある場所の音の響きを再現するためのデータ、Impulse Response (以下、IR)の収録・生成・組み込みツールはその一例です。
タンタン
どういったツールなんでしょうか?
ツールPG
ゲームでは環境音の響きなどをリアルに再現するために、IRを利用することがあります。
IRは通常、市販のライブラリを利用することも多いですが、カプコンのサウンドチームは、響きを得られそうな場所に実際に出向いてIRを収録し、ゲームに組み込みます。
従来はIRをステレオチャネルで収録していましたが、響きの「方向感」を強化するために、マルチチャネルのIRを収録できるツールを開発しました。
特に、空間音響を表現する際に汎用性の高さから利用されることの多い、アンビソニックスのIRも収録できる機能は目玉の一つです。
これまでできなかったことを技術的に実現できるようにするのも私達のお仕事です。
そしてそのように生成されたIRを一括で編集して、ゲーム中に組み込むのです。

※IR収録~ゲーム中への組み込みまでのイメージ

タンタン
音にこだわっているカプコンならではの機能ですね!
ツールPG
カプコンはアクションゲームを始め、多種多様なジャンルのサウンドを扱うため、幅広い要望が寄せられます。
サウンドのデバッグ機能もそういった要望の一つですね。
タンタン
デバッグ機能ってどういうものなんでしょう?
ツールPG
例えばゲーム中の発音情報や、音をつけるための各種情報をわかりやすく表示する機能ですね。
どういった事象がゲーム中で発生していて、サウンド再生のきっかけとなっているのか?
どの位置でどの音が鳴っているのか?
近年、ゲームサウンドの開発はますます複雑化しているため、こういった機能が無いと、ゲーム中に音を実装したり、実装した音が正しく再生されているかを把握することが、とても大変なんです。

※発音中の位置と情報を表示するデバッグ機能

タンタン
なるほど、デバッグは大変というイメージはありましたが、ツールプログラマーのおかげでゲーム開発が効率化されているんですね!

仕事の進め方

タンタン
いろいろなお仕事があることがわかってきました!
ツールPG
はい、音響技術やプログラミングの知識だけでなく、多様な技術に触れる機会が多く、社内外問わず既存のソフトウェアやミドルウェアを活用することも重要です。
カプコンの内製ゲームエンジンのRE ENGINEと、Wwiseなどの社外ソフトウェアを連携させるスクリプトを書くことなども多いですね。
音響学会やCEDECなどのセミナーや勉強会に参加して、最新の知見や技術を理解し、仕事に役立てることもあるんですよ。
タンタン
なるほど、幅広いスキルが求められそうです。
ツールPG
そうなんです。特にカプコンは様々なジャンルのゲームを同時並行で開発しています。
カプコンのサウンドチームは、基本的にカプコンの全てのゲームのサウンドを担当しているので、幅広い需要にお応えできるような広い視点も求められます。
タンタン
だからこんなにお仕事があるんですね!
ツールPG
それぞれのゲーム開発に活用できるものを作りながら、他ゲームの開発でも活用できるようなツールを提供するのは難しいですが、とても面白い部分でもあります。
タンタン
こういったお仕事はサウンドデザイナーやサウンドプログラマーからの依頼を受けて進めているんですか?
ツールPG
基本的にはそういったケースが多いです。
しかし仕様がしっかり固まっているものを依頼されたままに作るというわけではありません。
依頼者とよく対話して、時には彼らと同じワークフローや作業を体験してみることで、彼らが本当に求めているもの理解し、提案・改善しながら、彼らと一緒に作ることを目指しています。
また、似たような問題が複数のプロジェクトで発生している際には、依頼を受ける前に、それらを根本的に解決するような共通手段をこちらから提案することもあります。
誤解を恐れずに言えば、ゲームサウンドに特化したコンサルタントのようなイメージを持っていただくと良いかもしれません。
タンタン
プログラムを書くだけのお仕事じゃないんですね!
ところで、それだけいろいろなお仕事に関わるとなると、結構忙しそうなイメージがあります…。
ツールPG
たしかに、カプコンでは複数のゲーム開発が同時並行で進んでいるため、仕事は定常的に発生しており、忙しいと言えるでしょう。
ただ、ツール開発は前工程の段階から計画的に進められることも多いので、サウンド関連のお仕事でよくある閑散期や繁忙期といったものは少なく、比較的一定のペースで作業ができると感じています。
いろいろな仕事に関わることができるのも楽しさの一つなので、そこはポジティブに捉えています。

※仕事の流れの全体イメージ

タンタン
だんだん理解が深まってきました!

仕事の魅力

タンタン
ここまでにもありましたが、改めて、カプコンのサウンドツールプログラマーの魅力を教えてもらいたいです!
ツールPG
1つは、自分たちが作ったツールをすぐに身近な人たちに喜んでもらえることですね。
ゲーム開発の場合、開発から実際にお客様に喜んでいただけるまでには長い時間がかかります。
一方、私達はたとえば「このツールがあると、とても作業が楽になる」といったフィードバックをすぐに貰えたりします。
このサイクルの早さは特徴的だと考えています。

また多種多様なことに取り組めることも魅力の1つです。
サウンドに関する知識やプログラミングの技術はもちろん、サウンドに関わらないゲーム開発における多種多様なワークフローを理解することも求められます。
多くの開発者たちとコミュニケーションを取りながら課題を見つけ出し、様々な技術を駆使して彼らのニーズを満たしていく仕事は、自身の成長も日々感じられる、魅力的なものだと考えています。
ゲーム開発の規模はますます拡大し、生成AIなどをはじめとした新しい技術もどんどん登場しているため、まだまだ進化・発展し続けられる仕事です。

そしてなによりやっぱり、サウンドとゲームに関わる仕事ということです。
ゲーム開発会社のサウンドの部署に所属する私達は、何らかの形でサウンドとゲームに関する興味を持っています。
今回ご紹介した仕事は目立たないものが多いですが、いずれも、サウンドやゲームに関するものです。
そのような仕事に囲まれているため、日々興味を持って楽しみながら働くことができるのです。
タンタン
ありがとうございます!
なんだかすごく楽しく働いていることが伝わってきました!

おわりに

タンタン
最後に、この記事を読まれている方へ向けたメッセージをください!
ツールPG
普段、お客様からはなかなか見えにくい部分ではありますが、サウンドツールプログラマーの役割や魅力が少しでもお伝えできたでしょうか?
ゲームを遊ぶ際に「この仕組みってどうやって実現しているんだろう?」といった想像をして楽しんだり、ゲーム開発そのものに興味を持つきっかけの一つになれたら幸いです。
タンタン
本日はありがとうございました!
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