2020年8月14日
深世海 Into the Depths
音のちょっとだけ深い話
其ノ参 音楽 後編
其ノ参 音楽 後編
2019年9月にApple Arcadeより配信され、2020年3月にNintendo Switchでも発売された新進気鋭のプロジェクト”深世海 Into the Depths“(以下:深世海)、
そのサウンド制作の裏側やちょっとした小話を
現場のクリエイターを交えてシリーズで紹介していきます。
その名も“深世海 Into the Depths 音のちょっとだけ深い話”
其ノ参 音楽 後編です。レコーディングについて。ここでしか聞けない裏話をお楽しみください。
そのサウンド制作の裏側やちょっとした小話を
現場のクリエイターを交えてシリーズで紹介していきます。
その名も“深世海 Into the Depths 音のちょっとだけ深い話”
其ノ参 音楽 後編です。レコーディングについて。ここでしか聞けない裏話をお楽しみください。
深世海 Into the Depths 音のちょっとだけ深い話
其ノ壱 音制作 全体編
其ノ弐 効果音 前編
其ノ弐 効果音 後編
其ノ参 音楽 前編

ウサミ)
様々な規模で数多くのレコーディング、楽器や音の収録等を行ってきましたよね。少しお話いただけますか?
青島)
簡単に弾けるギターやピアノは私が弾いています。その楽器ならではの音や奏法を駆使した収録に関しては各楽器専門のプレイヤーにお願いしています。ウサミさんにもギターを弾いてもらいましたね。

ウサミ)
常世守戦の“Excubitor Eternus”のギターソロですね!前衛的?な感じで弾いてくださいというディレクションだったので、程よくスケールアウトしたり、普段あまり弾き慣れていないスケールも少し登場するので楽しかったです。音的にはファズを主体に、ユラユラしているボスの動きをイメージしてリズムも少しルーズにフリーに弾いております。ちなみに本曲の微細なアレンジ版はクリアー後に開放される臨時潜水でも聴くことができますが、そちらはフレットレスギターを使っています 笑 こちらのバージョンは青島さんにパーカッションのソロを叩いてもらっていて、どのインプロビゼーション的なソロ(厳密には用意されたいずれかの波形が再生するのでインプロじゃないけど)が流れるかは毎回のループによって異なるという仕様です。
青島)
ギターでいうと、もう1名のアレックスさんに”One After Another”で弾いてもらっています。彼はアメリカ出身で、大学時代のルームメイトでした。ジャズからクラシック、そしてエフェクトを駆使したエレクトロニックな楽曲まで弾きこなす素晴らしいギタリストです。
森本)
“One After Another”のギターはとにかく色気がありましたね!ついつい口真似してしまいます。
ウサミ)
あのワウ的な音は癖になります。気持ち良いギターです。
森本)
“Break Out”では一転、たまらなくノイジーで緊張感たっぷり。そして暴れる青島さんのパーカッション。いやー、生楽器が入ると一気に音に立体感が出て、臨場感が増しますよね。思った以上に生で録られている楽器が多くて驚きました。パッドやグリッヂ、リバースなどを多用するエレクトロなサウンドの中にも、有機的な響きや人間らしさが根幹にはあって、それがとても心地よく感じます。
青島)
そうですね。アコースティックの音があることでエレクトロな音も活きてきて、またその逆も然りだと思います。これは偶然ですが、私の作る音楽そのものが、元々アコースティックとエレクトロが混ざっているものが多いです。これは深世海の世界感と共通する点が存在します。なぜ有機質と無機質に共通点があるかは実際にゲームをプレイするとわかってくるので、是非プレイして欲しいです。ちなみに”Break Out”のギターは私が弾いています。また前述したようにタップダンサーのクリスさんもですが、一部のピアノでは奥田梨恵子さんが担当してくださいました。とても素敵なピアニストでベルリンでも時々演奏でご一緒させてもらっています。”Ancient Ruins”ではとりわけ特徴的な打楽器をフィーチャーしたかったのでバラフォンをハンガリーの方のベンさんに、ハングドラムをコウジマツモトさんにそれぞれ担当いただいております。ナターシャさんという素晴らしいドイツのチェロ奏者にお願いした曲もあります。
森本)
青島さんの、そもそも生で録るべき楽器の選択が秀逸だったと思います。その楽曲で一番の核となる楽器や、周りで空気を作っている楽器は録られていますよね。中でもエンディングのチェロは、あれは絶対に録ってよかったです!素晴らしくて、今も曲を思い出して感動しています。
ウサミ)
大規模なレコーディングといえば、やはり”The Decision”とメインテーマの”Shinsekai”、そして“New World -Tsuki nu Kaisha-”のボーカルレコーディングでしょうか。大阪のカプコンの開発ビルとドイツのスタジオ”Teldex Studio Berlin”とソースコネクトを用い、リモートでコミュニケーションを取りながらレコーディングを進めました。


青島)
歌のパートに関しては、前述したエイドリアーネさん、ノラさんをはじめ、コーラス部隊としてスティーヴンさん、ベンさん、キキさん、マリアさんにお願いしました。エイドリアーネさん以外はベルリン近郊に滞在するミュージシャンです。レコーディングは2日間に及び、エンジニアとしてヴォルフガングさんにお願いしました。彼の仕事は早いだけでなく、丁寧で、エンジニアーとしてだけでなくミュージシャンとしても耳が大変素晴らしく頼りになりましたね。
森本)
時差の関係で日本では夕方~深夜にかけてのレコーディングになりましたが、とても楽しい収録でした!ドイツの現場の和気藹々な声がスカイプから聞こえてきていて、あーそっちに行きたいなーって思いながらも、時間に追われてバタバタしていました。収録あるあるですね。皆さん、とても仲が良さそうで微笑ましかったです!現場の様子は公開されているサウンドメイキング動画で見ることができますね。
深世海 Into the Depths サウンド制作MV



青島)
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、歌もののすべてが深世海言語という創作言語の歌詞となっているので、やはり発音の部分では幾ばくかシンガー陣は苦労されていました。
ウサミ)
歌詞の制作に関しては、カプコンの坂口さんが担当していて、深世海言語という架空の言語を使っています。もともとセリフの無い本作ではあったのですが、言葉という概念は失われていないということを象徴したかったのです。一人で生活をしている潜海者にとっては言葉は不要で、ある意味近くて遠い存在なのです。この近くて遠いというのは終始すごく意識していて、それもあって架空の言語ではあるけど、完全0ベースで言語を作っているのではなく、あえてあるルールの中で既存の言語や方言を織り交ぜて作っています。サウンドチームの中でも一時期深海言語で会話することが流行りました。この言語をメインで作っていたのは既にお伝えしたようにサウンドデザイナーの坂口さんなのですが、最終的に一番言葉を操っていたのは森本さんという。次に僕ですね。イーコシミク!(ihchosimiku!)

青島)
坂口さんから届いた深海言語を、コーラスのリーダーのスティーヴンさんと共に言語の発音について事前に擦り合わせしましたね。日本語にはない音が西洋の言語にはあるので、ローマ字でいただいた発音指示書も、実際歌ってみると何通りも発音のオプションがあったので、1つに統一する必要がありました。またメロディーにそぐわない、もしくは歌いにくい歌詞を修正したり等、スティーヴンさんに引き受けてもらいました。満ち引きの唄では、メインシンガーのノラの歌詞に合わせて母音でコーラスを入れるアレンジを提案してくれました。母音をUにするのか、はたまたドイツ語などにあるウムラウト付きのüにするのかなど、細かい議論がありましたね。そんな大役を引き受けて頂いた功績を讃えて、スティーヴンは深世海サウンドチームからはクラゲコーラス隊のクラゲ大臣と呼ばれていました 笑


ウサミ)
詳細は割愛しますが、なぜクラゲなのか?それはクラゲに似た見た目のキャラクターが歌っている設定(実際はクラゲではない)に寄り添って、クラゲ部隊と呼んでいたんです。
青島)
コーラス隊は男女混声だったので、パンニングなど工夫しています。左に男性色を強めて、右に行くにつれて女性になっているなど声の分離などを抜本的にやっています。コーラスメロディーでないけど、クラゲによるウィスパーボイスが沢山入っています。このウィスパーはカプコンのスタッフにお願いしています。

ウサミ)
それこそ川田Dや森本さん、私の声も入っています。(※子音がきついって坂口さんに怒られた)
森本)
収録曲の1曲である”The Decision”は、最終戦闘につながる導入部の楽曲ですね。意外な展開が待ち受けていて、それを目にする場面で流れるなんとも言えない楽曲です。この曲にはたくさんの声のサンプルに加えて、実は和楽器も入っているんです。拍子木とか、鈴の音とか。まさに歌舞伎の幕開きの時の音のように。そして最後に”Akir Ibari”という言葉がはなたれて最終戦闘曲に遷移します。”Akir Ibari”、ぜひとも言葉の意味の解読をチャレンジしてみてください。
青島)
実はこの曲は組曲になっていて、冒頭のパートは戦闘開始前のイベントきっかけでスタートしています。”Akir Ibari”という言葉の後に、戦闘が始まり、所謂戦闘曲のループに切り替わります。その後の戦闘終了後にまたシームレスに切り替わるという複数のパートで構成された一曲になっています。遊ばれた方は分かると思いますが、戦闘終了後に流れるパートは2種類あって変化します。異なるサビが二つあるというイメージですね。どのように変化するのかはぜひゲームをプレイして体感して欲しいです!
ウサミ)
そして最後にエンドクレジットの曲”Lullaby in the Depths”につながります。このエンドクレジットの曲も制作陣的には”The Decision”の曲の一部、で大ラストパートだと捉えています。
森本)
私は”Lullaby in the Depths”がたまらなく好きなのですが、なぜだか中間のパッドのメロディに“夏”を感じてしまうんです。灼熱ギラギラな夏ではなくて、少し淡くて涼しい雰囲気。夏が開発の佳境だったからなのかな・・・う~ん、私だけでしょうか?笑 この楽曲も、エンディングの選択に応じて終わり方が変化するんです。サウンドトラックには一つのパターンしか収録していませんので、実際にどのような違いがあるのかはゲームの中でのお楽しみです!
青島)
ボーカルのレコーディングに話を戻しますが、“The Decision”やメインテーマ曲の“Shinsekai” は前述したようにリードボーカルをエイドリアーネに歌ってもらったのですが、彼女とも縁が深くて大学時代に一緒に音楽を作っていました。“The Decision”についてはイメージを膨らませていた時に、これを歌えるのは彼女だ!と思い打診しました。スウェーデンからドイツまで収録に来ていただきました。
ウサミ)
エイドリアーネさんは私も間接的ではありましたが知っておりました。縁の多い制作だったなとつくづく。

森本)
エイドリアーネさんの歌唱には、もう何も言うことはないです。この楽曲、この作品に欠かせない素晴らしいボーカリストでした。声のキャラクターも、発声の特徴も、ピッチの安定感も、何もかも。
“New World -Tsuki Nu Kaisha-”ではノラさんが歌ってくれたのですが、ノラさんの声は対称的で、とても優しく包み込まれるという感じがします。二人とも特徴の異なる声色ですが、それぞれ曲に彩りを与えてくれた大変良いレコーディングになりました。
ノラさんの声も唄に素晴らしくマッチしていましたね!優しさと厳しさと、どこか懐かしさもあって、それが唄の位置付けにばっちりはまっていました。“New World -Tsuki Nu Kaisha-”を作る以前、開発中に川田Dから「世海のある重要な地点から音楽のようなものを受信して、それを足掛かりに進めていきたい」というアイデアを聞いたんです。その“重要な地点”は所謂「月」がモチーフとなっている。つまり、月に導かれるように潜海者と先導は深部へと進んでいくんですね。でも、この世海には本物の「月」はありません。かつて、人々が地上で暮らしていた時には空に浮かぶさぞ美しい「月」を眺めて、唄をうたったことでしょう。その憧憬なのです。“New World -Tsuki Nu Kaisha-”の原曲「月ぬ美しゃ」は八重山地方に伝わる民謡なのですが、今から100年以上も前に作られたといわれています。私たちからしても、この曲を聴くとはるか昔の人々に想いを巡らせてしまいます。そんな気持ちで、この曲を“深海文明=かつての人々の暮らし”の象徴として使わせてもらおう、と思いました。余談ですが、開発中はこの曲を「導きの唄」と呼んでいて、つまり、月の引力によって発生する潮の満ち引きにかけて「満ち引きの唄」という意味を込めていました。アレンジの際にはメロディだけを忠実にして、逆に日本的な響きにならないように、とお願いしました。5番までありますが、それぞれにアレンジのコンセプトが違います。同じメロディに対して、様々な音楽的な表情が楽しめますね。

青島)
そうですね。意識的に色々変更しています。2コーラス目はブルガリアコーラスの二度ハーモニーを重点しています。3コーラス目はカノンとか対位法です。5番目は天界をイメージしています。
ウサミ)
普通なら上空のはるか先に月があって、考えようによってはある種水面から反対方向の遥か先にある海底というのは真逆の位置で、そこに月のようなものを作っていたのは、中々粋です。この曲は90パーセント優しさの中に10パーセントの狂気を感じてしまいます、私には。残念ですが、そろそろ時間になりました。
青島さん、本日は長い時間対談にお付き合いいただきましてありがとうございました。最後にゲームを遊んでくれている方や本稿読んでいただいている方にコメントをお願いします。
青島)
今回Switch版と共にオリジナルサウンドトラックがリリースされる運びとなったことを、大変嬉しく思っております。ゲームを実際プレイした事がある方、ない方問わずに楽しんでいただけたら幸いです。僕は前述の通り、製作前に一度カプコンを訪れました。そこでプロトタイプのゲームをプレイしたのですが、ディレクターの川田さんの世界観に一瞬で虜になってしまいました。あの時の感覚は初めてスーパーファミコンやプレイステーションのソフトをプレイした当時の感覚に近いものがありました。どこかレトロであり最新の技術をうまく踏襲したグラフィックデザインやサウンドデザイン、とても奥深く一筋縄ではいかないストーリーラインなど、ゲームに欠かせない魅力が詰まったゲームだと思います。沢山のプロフェッショナルな方々が携わっており、そんな素晴らしいゲームに作曲家として関わらせて頂き、とても光栄であり感慨深いです。このサウンドトラックを通じて深世海の世界観を少しでも体験していただければ幸いです。是非ご視聴ください。そしてゲームも是非お手に取って開発者の創意工夫やエネルギーに触れてみてください。

ウサミ)
青島さん、森本さん今回もお忙しいところ本当にありがとうございました。 そして相も変わらない長文に最後までお付き合いくださった読者の皆様も本当にありがとうございました。対談記事もいよいよ後半に差し掛かり、残り二回を予定しております。リアンプやミックス等、エンジニアの方から今回の奇特な取り組みについて根掘り葉掘り聞いていきますので、どうか最後までお付き合いくださいませ。
森本)
uribhedehefine!(ウリヴェデフィン)
ウサミ)
あっ!さすが!(笑)
※Special thanks go to Yuhki Oka-san for amazing photo and film shots.
深世海 Into the Depths 公式サイト
深世海 Into the Depths 公式ツイッターアカウント
深世海 Into the Depths サウンド制作MV