INTERVIEW, TOPICS

2020年1月28日

『モンスターハンターワールド:アイスボーン』~サウンド制作秘話!~

2019年9月6日に発売されました、 『モンスターハンターワールド:アイスボーン』 今回はこちらのサウンド制作の裏側について インタビューしちゃいました!!

今回は、こちらのお二人にインタビュー!

タンタン
それでは、自己紹介をお願いします!
黒岩
サウンドディレクターを担当しておりました黒岩です!よろしくお願いします。(写真右)
成田
リードコンポーザーを努めました成田です。よろしくお願いします!(写真左)

『モンスターハンターワールド:アイスボーン』のサウンドコンセプトはなんでしょうか!

黒岩
『モンスターハンター:ワールド』(以下、「ワールド」)からの王道進化です!もっと分かりやすく言うと、【ガリガリ君コーラ味】です(笑)。今作では、狩りの楽しさはもちろん、ワールドで深堀りされていなかった人間関係やそれぞれのキャラクターが抱える「課題」とは何かにも触れており、よりドラマティックな面白さも増しています。そういった、ワールドの良さを引き継ぎつつも新しい要素をどう取り込むかがサウンド面での「課題」でもありました。なので、【ガリガリ君コーラ味】を目指そうと!ワールドをソーダ味に仮定したとき、コーンポタージュ味ほどの系列変化はせずに”王道進化”を遂げる、と決めてサウンド制作しました!!
タンタン
とても良いコンセプトですね(笑)。それではここから、BGMとSEに分けてインタビューしていきたいと思います!

BGM(楽曲)制作について

タンタン
それではまず、BGMについて聞いていきたいと思います!BGMにおいて本作で新たに取り組んだ表現などはあるでしょうか?
成田
ワールドではモンスターの強さやレア度によって比例的に曲の鳴る優先付をしていました。そうすると、一度高優先のモンスターと遭遇してしまうと、それより低優先のモンスターが乱入しても曲が全く変わらない。 そこで、アイスボーンでは、サウンドプログラマーとの協業により、強さやレア度が近似しているモンスターらを同一グループとしてくくりそのグループ内ではモンスター楽曲を後着優先させることで、新たなモンスターの介入をしっかり印象付けるようにしているんです。併せて、グループの異なるモンスター間では強さやレア度による比例的な優先付けを従来通り行うことで「曲が適度に切り替わる」ように工夫していました。
タンタン
なるほど…!テーマ曲の雰囲気もワールドとはずいぶん違うようですね。
成田
ワールドのメインテーマは男臭さ、泥臭さ、愚直さ、といったキーワードが当てはまり、楽曲も美しいメロディーはところどころにありつつも土台にあるのは熱い執念と重厚さが感じられる「カッコいい」曲でした。今回(アイスボーン)では登場人物同士の想いなど人間模様が濃厚に描かれているため楽曲はキレイ系に変化しています。作曲担当の小見山氏はそれをピアノ協奏曲というゲーム音楽ではあまり例を見ない形式で表現してくれました。「受け継がれるもの」が楽曲の一つのテーマなのですが、子守唄やおとぎ話のための歌のような極めてシンプルなメロディーを基軸に壮大なオーケストラ楽曲へと昇華してくれました。ここにピアノ協奏曲という形式を執ったことへの合理性が見て取れると思います。
タンタン
新ステージ「渡りの凍て地」が追加されましたね。そこでの狩猟曲についても教えてください!
成田
このステージの狩猟曲をオーケストラ収録で盛り上げるというのが一つの狙いでした。作曲担当の森本は過去『バイオハザード7 レジデント イービル』などで音楽指揮を執った強者ですが、MHの狩猟曲は初めてでした。森本の得意とするシネマティックサウンドにMH特有の温かみのあるテイストが加わったと思います。収録ではフルオケに弦のソロを織り交ぜるなどして凍て地での緊張感ある狩猟体験を表現しています。別途収録したティンホイッスルも凍て地の寒空を印象付けているのではないでしょうか。
タンタン
メインモンスターのイヴェルカーナの楽曲についてはどうでしょうか?
成田
ワールドのメインモンスターであるネルギガンテが男性的で荒々しかったのに対して今回(アイスボーン)のメインモンスター、イヴェルカーナはどこか女性的で繊細、流麗。勿論、メスのモンスターしかいないわけではないとは思いますが(笑)。 こちらもメインテーマ同様、コンセプトはピアノ協奏曲なのですが、ピアノ演奏の難易度がより高い楽曲になっています。収録ではこの点に注力しましたね。フルオーケストラに始まったかと思いきや、一気にオケが静かになりピアノの独奏へ、そして盛り上がりでまたオケが参加してくるドラマチックな展開…。オケからピアノの独奏になったときにゲーム音楽的に寂しくならずに美しさだけが残るようにミックスやゲーム内調整が綿密に行われました。
▼オーケストラ収録の実際の風景!
タンタン
同じく初登場となるネロミェールの楽曲についても聞かせてください!
成田
最初にコンセプトアートや仕様を調べたら「電飾のように発光するイカやクラゲ」がモチーフと聞いて、「エレクトリカルパレード」を意識してノリノリの曲を作ったんです。そうしたらディレクターから「わざとかって言うくらい違う」って言われました(笑)。まあ今となっては笑い話ですけど。最終的には、怪奇と妖艶さを特徴づけるために和音構成がブツかるギリギリのところを模索して作り直しました。
タンタン
今作では「過去作復活モンスター」も登場しますが、思い入れのある楽曲はありますでしょうか?
成田
「モンスターハンターポータブル 2nd G」で初登場時に私が作曲したナルガクルガのセルフアレンジですね。もともとイントロがキャッチーだったのですが、これに「あれ?これナルガっぽいけど何か違わない?」と思わせる目新しさ、良い意味での違和感を新たなイントロとして付与してあります。またワールドから狩猟曲の尺が2分オーバーというのが平均的基準となったため、サビには当時の拠点「ポッケ村のテーマ」のフレーズを盛り込んでボリュームアップを図っています。
タンタン
最後に、 拠点「セリエナ」の音楽はどうでしょうか?今回も昼と夜でシームレスに切り替わる仕様のようですが。
成田
アステラに比べるとややもの悲しい印象を受けるかもしれません。本作で交錯していく登場人物らが海を越えて新大陸や遥か旧大陸に想いを馳せる様子や、思いが届きますようにという願いを込めて作りました。夜の方は、狩りを終えたハンターが酒場でライブ演奏を聴きながら一杯やるような質感を表現するためミキシングエンジニアにも気を遣ってもらいました。
▼オーケストラ収録に参加された皆様の写真!

BGM一曲一曲、こうしたこだわりを持って 制作を行っているのですね!! オーケストラ収録などの様子も垣間見ることができました! ありがとうございました! 次は、SEについて聞いていきましょう!


SE(効果音)制作について

タンタン
続いては、SE(効果音)について伺っていきます!
黒岩
モンスターSEで意識しているのは、「音でモンスターの個性をつくる」ことです。良い音の定義はゲームによって異なりますがワールドやアイスボーンの場合は「モンスターの個性がだせるサウンド」が良い音と考えています。 そこで…

クイズを出題したいと思います!!!!

タンタン
なんと…!みなさんのカプコン愛が試される時ですね!

『クイズ!この音誰でしょう?? Vol.1』【モンスターボイス編】

▼再生して、[1]~[4]の誰のボイスか当ててみてください! [1] バフバロ
[2] ディノバルド
[3] ブラントドス
[4] イヴェルカーナ

それでは引き続き、第2問!!

『クイズ!この音誰でしょう?? Vol.2』【モンスター動作音編】

▼再生して、[1]~[4]の誰の動作音か当ててみてください! [1] ネロミェール
[2] ティガレックス
[3] イヴェルカーナ
[4] ブラキディオス

これは難しいですね…!!!さて、誰の音でしょうか!!それでは答え合わせです!


【モンスターボイス編】 解答!

答えは…イヴェルカーナ!!!

タンタン
それでは、イヴェルカーナのサウンドデザインについて聞かせてください!
黒岩
イヴェルカーナのサウンド上のキーワードはズバリ、「鎖」です!イヴェルカーナは特殊なクリスタルを纏う生態があるので、声も動作音も響きが独特な音にしたく、試行錯誤するうちに鎖というキーワードにたどり着きました。鎖を振り回すイメージと、イヴェルカーナの尻尾を打ち付けるイメージが一致して良いなと!鎖の金属的な響きが聞こえるのもプラスに働きました!また、輪っか同士をぶつけたときのゴツゴツ感や、落としたときのガシャン感などなど、同じ鎖でも全く違う音色が聞こえるのが面白い。イヴェルカーナの、見た目は美しいのに攻撃は鋭い多面性ともマッチしているなと感じました。

【モンスター動作音編】 解答!

答えは…ネロミェール!!!

タンタン
こちらはかなり難しかったですね!それではネロミェールのサウンドのこだわりについて教えてください!
黒岩
ネロミェールのサウンド上のキーワードは、「わかめ」です!ネロミェールは、水と電撃の攻撃を併せもつ独特な生態。プレイしていて苦戦したハンターさん達もいたのではないでしょうか!?ネロミェ-ルの動作音を作る際、「給水しつつ撥水するってどんな音だろう?」と悩んでいて、たまたまスーパーでわかめ(水で戻すタイプ)を見つけコレだ!と。通常時はウェットな分厚い音で作り、体がドライ状態の時ではパリパリの軽い音にして、給水しつつ撥水もしそうな感覚を作りました。

 

皆さん、どうですか?正解できましたか? ここからは、更に 『モンスターハンターワールド:アイスボーン』SE制作の 真髄に迫っていきたいと思います!

タンタン
アイスボーンのモンスターをデザインするうえで、一番留意した部分はどこでしょうか?

「魔獣(Fantasy)」ではなく「野獣(Wild)」な音にする

黒岩
ということです!この世界のどこかに本当に生きているかも?と感じられるリアリティを、サウンドで表現したいなと。例えば、炎ブレスを出すモンスターだとしても、炎を捻出する身体の仕組みがあることを考え、説得力のある音にするように心がけました!ネロミェールの水を吐く攻撃では、体内の水分を喉にせり上げるポンプ機能がありそう…と考えて、 攻撃の予兆声をこんな感じに制作しました!↓

ネロミェールの声

  ▼こちらで再生して、聴いてみてください!
黒岩
エアーコンプレッサーを水の中に入れてゴボゴボさせ、手の形で音を高くしたり低くしたり…。この音に動物の声を混ぜることで、うがい声のような予兆声ができました。またナルガクルガやティガレックスなど過去作の既出モンスターに関しても、以前の特徴を残しながらアイスボーン用に作り直しています。裏話として…、ベリオロスの声は、過去作よりも掠れた声に作っていたりします!ベリオロスはモンスターハンターダブルクロスでの登場を最後に、ワールドでは登場していなかったので、担当サウンドデザイナーが「実はワールドでは冬眠中だったのでは!?」とイメージしたことが理由です(笑)。寝起きの風邪っぴきな声で作っています!
▼今作アイスボーンのベリオロスの姿
黒岩
こんな感じで、担当のサウンドデザイナーがそれぞれアイディアを出し合っていて、モンスターの個性を音でも表現しているのです!イャンガルルガは、関西のおばちゃんみたいに忙しなく話している感じにしたい、というアイディアもあって面白かった(笑)。どのモンスターでも、攻撃の予兆に関しては「この声が聞こえたら、あの攻撃がくる!」とユーザーさんが分かるように作っているので、狩りをする際に、ぜひ役立てて欲しいです!
タンタン
ありがとうございます!SEを制作するうえで、制作のために渡米されたと聞いたのですがどのような収録をされたのですか?
黒岩
アイスボーンで新しく登場する4体のモンスターのうち、特徴的なボイスや動作音などを、ハリウッド映画の音響制作会社であるSkywalker Soundと一緒に制作を行いました。制作初期に参考映画を見ていて、その中から、アイスボーンで目指す個性&野獣の音に近い!という音をピックアップ。例えば、映画「キングコング 髑髏島の巨神」に登場するスカル・クローラーの独特な喉鳴り感だったり、某ヒーローシリーズの風切り音だったり…。その映画の担当サウンドデザイナーさん達と一緒に作りたい!と協力依頼したのが経緯です。
▼Skywalker Soundでの収録風景
Photo credit: Chris Hawkinson
© & ™ Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
Photo credit: Chris Hawkinson
© & ™ Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
黒岩
生物じゃない音に命を持たせるアイディア&技術が、本当に面白い!もっと知りたい人はぜひカプコンサウンドで一緒に作りましょう!
タンタン
海外収録など、様々な取り組みをされているんですね!アイスボーンの新ステージ、「渡りの凍て地」についてのエピソードも聞かせてください!
黒岩
アイスボーンで追加された新フィールドは、名前の通り、極寒の地!冷え切った空気感を作るために、環境音にもこだわって作っています。ゲームで聞こえる環境音は、実際に2月の岩手県で収録した音です。風の音や雪が落ちる音、足音などを収録しました。
▼実際の環境音収録時の風景
黒岩
裏話として…、実際の雪山だと音が吸収されるので、あまり周囲の音が響きません!その体験を参考にして、「渡りの凍て地」で雪が積もっている場所は他フィールドよりも響きが少ないドライな空間にしています。そういったリアルな世界での体験を、ゲーム内にどう落とし込むか…が重要。収録した音をそのままゲームで使ったとしても、あまり本物らしく感じない場合もあるので、どう工夫したらよりリアルを感じるのかを考えることが大切です!

「リアルではなくリアリティを作る」。そこがゲームサウンドの楽しいところです!!


 

お二人とも、ありがとうございました!! 『モンスターハンターワールド:アイスボーン』の 制作においての様々なこだわりや裏話が聞けましたね! 皆さんも、是非意識してサウンドを聴いてみてください!