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2020年7月15日

深世海 Into the Depths
音のちょっとだけ深い話
其ノ参 音楽 前編


“深世海 Into the Depths 音のちょっとだけ深い話”
其ノ参 音楽 前編
 


2019年9月にApple Arcadeより配信され、2020年3月にNintendo Switchでも発売された新進気鋭のプロジェクト”深世海 Into the Depths“(以下:深世海)、
そのサウンド制作の裏側やちょっとした小話を
現場のクリエイターを交えてシリーズで紹介していきます。
その名も“深世海 Into the Depths 音のちょっとだけ深い話”
ついに音楽編に突入です。其ノ参 音楽 前編です。
今回お招きしたのは、其ノ壱でもお越しいただいたミュージックディレクターの森本さん(以下:森本)、そしてなんとベルリン在住の本作のコンポーザーである青島主税さん(以下:青島)です。音楽のあれやこれを深堀していきますので、どうぞ最後までお付き合いください。

過去の記事:
深世海 Into the Depths 音のちょっとだけ深い話

其ノ壱 音制作 全体編
其ノ弐 効果音  前編
其ノ弐 効果音  後編


※青島主税さん

ウサミ)
本日も皆様よろしくお願いいたします。本日は三回目の対談なのですが、私ようやく慣れてきました。今回はなんとスペシャルゲストとして、コンポーザーの青島主税さんをお招きしています。


青島)
お世話になっております。ドイツのベルリンから青島です。


森本、ウサミ)
この度は大変お世話になりました。

森本)
青島さん、ご無沙汰しております。お元気でしょうか?


青島)
私はいたって元気です!ただしコロナウイルスの影響で、
7月現在のベルリンの今の状況は基本的には公共交通機関や店内でのマスクは義務化されております。違反した際への反則金導入が新たに決定されました。レストランやカフェなどはオープンしましたが、一定数のコンサートができる会場などは依然として閉まっております。
現在はライブ活動等ができない状況なので、今まで時間がなくて溜まっていた作品の制作を進めております。まだ詳しくは言えませんが、新しいコラボレーションなど始めました。


森本)
大変な状況が続く中ですが、今は楽曲制作に専念されているのですね。新しいコラボレーション!!とても楽しみです!


ウサミ)
そしてつい先日ですが、6月30日に深世海 Into the Depthsのサウンドトラックの第二弾 “Hidden Tracks”が配信されました!!


青島)
おめでとうございます!とてもうれしいですね。


森本)
今回はボーカル曲や主題歌など、サントラ第一弾同様に美しい曲の数々となっています。そして配信しているサントラのマスタリングは全てサイデラ・マスタリングのオノセイゲン氏にやっていただきました!独特な深世海サウンドの魅力がさらに引き出されていて、とても素敵な音源になっています!!


ウサミ)
サントラの詳細については下記URLにて公式サイトからチェックしてください!


深世海 Into the Depths Hidden Tracks 特設ページ

ウサミ)
それでは毎回の恒例ですが、自己紹介からお願いいたします。


森本)
森本章之です。深世海ではミュージックディレクターとして、音楽演出や音楽制作の監修や実装サポートを行いました。


青島)
ドイツの首都ベルリンを拠点にしているドラマー、作曲家の青島主税です。深世海ではコンポーザーとして作品の音楽を担当させて頂きました。


ウサミ)
そして私、本作のサウンドディレクターの宇佐美です。実は深世海のある楽曲の中でちょこっとギターを弾いています。森本さん、青島さん、お忙しい中ご参加いただきありがとうございます!



(左上:ウサミ、右上:森本、中下:青島)


ウサミ)
このような形で皆でテレビ会議するのも久しぶりです。青島さんと一緒に制作していた期間は毎週テレビ会議を行い、ディスカッションを重ねてきました。


森本)
テレビ会議は毎週きっちり1時間。お互いの近況報告が楽しくて、あっという間の時間でした。
青島さんとの仕事の進め方は、まず私の方で楽曲のイメージを文字に起こして発注させていただき、その内容についてテレビ会議で補足。青島さんからスケッチとよんでいたのですが、モックアップのような曲の要素や方向性が分かる制作初期の状態が送られてきたら、内容についてメールやテレビ会議でフィードバック。これを繰り返して完成度を高めていきました。そんな中で、やはり直接コミュニケーションが取れるテレビ会議はとても大切な時間でした。


ウサミ)
私と青島さんは”音のちょっとだけ深い話 其ノ壱”で書いたように大学時代からの旧知の仲でして、本プロジェクトに私が参加したときに川田ディレクター(以下:川田D)からゲームの概要についての説明の中で、・このゲームで表現したいもの、・川田Dの頭で鳴っている音楽、・私自身やサウンド班で実現したいものを足した時に頭に浮かび上がったのが青島さんの顔でした 笑


青島)
2人ともプログレが好きという事で大学でも意気投合しました。
数年前に僕はシアターの演奏のために遠征でLudwigshafenというドイツのハイデルベルグの近くにある都市に滞在している時に、ウサミさんからゲームの音楽制作を僕に担当して欲しいと、依頼を受けました。かつてアメリカで彼のカプコンへの入社が決まった時に彼は自分が将来的に音楽を監修したり、プロジェクトのオーディオ統括を任してもらえる時は僕に音楽を担当してほしいと話してくれました。

森本)
青島さんは普段作曲家やドラマーとして活躍されていますが、ゲームのための楽曲制作はどうでしたか??


青島)
ゲーム音楽制作は今回初めて挑戦でした。基本的にループものが多くて、2~3分で多くの展開と構成を絶妙な塩梅で制作していくというのを森本さんを通して勉強させて頂きました。例えば、プレイヤーがそこにいる限りはずっと同じ曲が流れる場合があるなど、いかにユーザーさんを飽きさせないか、そして楽曲がゲームに馴染むかというのはゲーム音楽一つの醍醐味ですよね。


ウサミ)
確かに通常の楽曲制作とは作法が若干異なりますね。でも音楽を作るという意味では同じだと思いますし、青島さんの個性が色濃く本作品にはでたと思います。


青島)
森本さんから自分の作家性を尊重して頂いておりましたので、制作過程全般楽しかったです。


ウサミ)
森本さんディレクションをする際の流れや意識したことを少しお聞かせください。


森本)
今回のディレクションを行う上で、青島主税のアーティスト性を押し出すことを一番に意識していました。其ノ一でも少し触れましたね。ゲームの試作の動画に衝撃を受けたので、この作品には青島さんの色が必要だと。それを前提としつつ、ゲームの流れやシナリオにどのように音楽を沿わすか、それぞれの楽曲の役割等は状況によって様々なアプローチがありました。私たちはCh1と呼んでいる故郷というエリアを例にとると、・大体のプレイ時間、・ゲーム中に起きるイベント、・進行のペース感、・描きたい感情象などを元にテンションの流れをまず整理し作成しました。ここは特に川田Dとのすり合わせのフェーズです。そこからこのエリアで必要となる各曲の細かいアイデアや実現すべきことをウサミ氏ともすり合わせ青島さんへのディレクションの第一稿が完成となります。故郷の中におけるテンションの流れはもちろんですがゲーム全体に対しての故郷(※序盤)の在り方などマクロ/ミクロに常に視点を変えながら必要な要素を導き出すというプロセスを大切にしています。



※テンションチャート

森本)
各楽曲ともにゲームにマッチさせるために様々な要望や指示はしましたが、いつも想像を上回る楽曲が上がってくるので、どんどんとこちら側の発注内容もエスカレートしていくという 笑 途中からはお互いが挑戦し合うって構図になっていた面もあるかなと思います。そういう意味でも、深世海の音楽はとてもバラエティー豊かで、いろんな青島主税が垣間見れますね。私もすっかり青島ファンですからね。


ウサミ)
川田Dをはじめカプコンのクリエイターと仕事してみて何か感じたことはありますか?


青島)
こだわりが尋常ではない変人集団だと思いました。日本に一時的に帰国したときに打合せのためカプコン社に赴いたのですが、その時に川田Dからゲームの資料と共に内容をプレゼンテーションして頂きました。川田Dはとてもアーティスティックな雰囲気を持った方だなという印象でした。実際にゲームをプレイしてみて彼とチームが創る世界観に一瞬で虜になりました。


ウサミ)
楽曲を作る時のプロセス教えてくれませんか?


青島)
コードやリフを作ってからメロディ、ベースラインそしてリズム系という流れが多いです。僕は生粋のドラマーなので、コードやリフなど土台があれば一瞬でリズムは想像できます。もちろんサンプリング等からループやリズム系の制作を始める事もあるので一概には言えません。


ウサミ)
選別する音色や音の作り方は本当に独特ですが、リズムが常に気持ち良いのはドラマーならではかもしれませんね。リニアなのですよね。突発的なセクションに切り替わる時も線のように流れます。今作は大体25曲以上の楽曲があります。全曲をフィーチャーするのはさすがに難しいのですが、折角なので好きな曲や曲制作のこぼれ話をシェアしませんか?


青島)
一つの作品に対してこんなに多くの曲を作ることがなかったので、すべてにそれぞれ思い入れありますね。その中で、今頭に浮かんだのはオニイソメ戦の楽曲 ”Eunice Aphroditois”です。



※オニイソメと潜海者

ウサミ)
すごいプログレな曲!変拍子も多いですし、複雑なドラムです。


青島)
実は最初は普通に4分の4拍子として作っていて、スケッチの段階ではドラムやベースラインもかなりシンプルでした。森本さんにスケッチを聴いてもらった時に、まずもっと変拍子を多用してほしいのと、ベースとドラムのバトルというかフレーズの応酬がもっと欲しいとフィードバックがあってそこから一気にこの方向に仕上がりました。


森本)
初稿の4拍子の時は引っ掛かりがなくてストレートにノレるリズムでしたので、
例えば主人公が戦士とか兵士とか、ある程度の戦闘の心得を持っていて、敵に立ち向かっていくという設定だったらこれでも合うのですが、深世海の主人公は平穏に暮らしていたある意味ただの人間ですので、初めて遭遇した巨大なボス敵に振り回される、というあたふたした感じが欲しかったんです。ですので、変拍子や突然の曲にブレイクなどを入れることによってリズムを崩してもらって、とにかくノレない曲へと修正してもらいました。あとは、実際の演奏やセッションでもある予定不調和感みたいなものが欲しかったんです。「この曲はクレイジーなドラマーとクレイジーなベーシストがステージ上で思い思いに暴れている。一見、それぞれが自由にやっているようにみえるが、不思議とお互いの息が絶妙に合っている。そんな感じです。」といった、めちゃくちゃな発注を投げました。そうしたら見事にそれに応じてもらえて、青島さんすごいなぁ、とただただ 笑


ウサミ)
確かに4拍子はポップスとか一般的に広く使われていることもあって非常にプレディクタブルなリズムです。セッション感という意味では、ドラムもベースも青島さんの演奏なのでまさに一人セッションですね 笑


※音が出ます

青島)
補足すると、この曲は様々な性質のブレイクが結構あります。これもやはりユーザーが遊んでいて躓くというか、リズムに乗れそうで乗れないというニュアンスを出すために多用しています。音の波形としてのブレイクはもちろんですが、音楽的なブレイクも終盤に盛り込むようになりました。一人セッションといえば、”Break Out”の演奏は全て自分のもので、特に注目すべきパートは打楽器系。ドラム、ジャンベ、コンガ、ティンパレスもどきなどでしょうか。


森本)
“Break Out”はお祭り感を出してほしかったのですね。結果、大変バラエティー豊かな音と狂気的なドラミングで焦るけど盛り上がる曲に仕上がりましたね。ワッショイワッショイ!


ウサミ)
ドラマーならではといいますか?青島さんならではといいますか?本当に頭のおかしい曲ですよね。(誉め言葉) 少しだけ効果音の話に脱線するのですが、オニイソメのような特徴のある大きな敵やボスキャラなどの効果音を収録/制作する時には、音の属性や質感にある一定以上のテーマ性を置いて収録していました。例えばオニイソメの場合、自然の生物そして体の質感に合わせて、革製品を採択して、なるべく金属系の物質は避ける。このようにオーガニックな素材で収集した音を基調にサウンドデザインをしていくということです。しかし革製品は水に沈めると駄目になるし、金属はサビるし、部材泣かせの効果音収録でした。なお、その時に収録した音は青島さんに提供し、テーマ性に沿って各楽曲中にその音を用いてもらっています。


森本)
深世海のサウンド制作の過程で出たいろんなアイデアの一つが、効果音と音楽で音素材を共有する、ということでした。キャラクターや世界観を表現するユニークな音を共有していこう、そうやって、サウンド全体で世界観を表現していこうと。実際にウサミ氏や坂口さんが効果音として収録した素材を、青島さんが音楽素材として楽曲に使ってもらったケースはたくさんあります。オニイソメに他にも、湖で収録した氷の音とかもそうですし、逆に、音楽のステムをジングルなど効果音として使っているものもたくさんあります。”Coral Reaf”のスネアドラムのステムはレベルアップのジングルに用いられています。どちらの要素も絶妙なバランスで表現されていて、深世海の水中世界を作る大切な要素になっています。オニイソメ専用の皮の音は、青島さんがすごく上手く料理して下さってキャラクターとしてのユニークさが増しました。


青島)
いただいたオニイソメ用の効果音はうまく楽曲になじむのか?という思いとは裏腹に意外と良い感じに合いました。この効果音はオニイソメの戦闘の前に流れる、”The Dark Dweller”にも使用しています。これこそこぼれ話ですが、”The Dark Dweller”にはタップシューズによるタップ音も入っています。アメリカ出身で、NYのブロードウェイで踊るタップダンサーのクリスさんによるものです。


ウサミ)
おどるおどろしい”The Dark Dweller”にまさかタップシューズの音…オニイソメのバトル曲”Eunice Aphroditois”に話をもどしますが、ノイズの使い方も印象的です。生楽器やな生ドラムを前面に出したオーガニックな楽曲の中にノイズのブレイクからの迫りくる無機質なサーキットベンディングのノイズは興味深いアプローチですね。音の対比としても面白い。


青島)
あの部分は最初に私がノイズブレイクをいれました。そこからいくつかやり取りを経て森本さんサーキットベンディングのようなニュアンスのノイズを入れてみては?というアイデアに至りました。その時に届いたメール文は今でも忘れません。とにかくカタカナで擬音が表記されており、アスキーアートでこのような感じです。途中で左から読むことに気がつきました 笑


森本)
擬音って意外と役に立つものですね…! 汗(当時の修正依頼文を見返して少し焦っている)



ウサミ)
そのおかげもあって様々な音で構成されたセクションが目まぐるしく展開する、これぞ(最初の)ボス感満載の楽曲になりましたね!

青島さんから送られてくるスケッチは全神経集中して聴き込むのですが、最初のスケッチの時点で完成系がみえたという曲は”Trench”ですね。大海溝で流れる曲ですが、すごく青島さんの個性が現れた曲だと感じます。



※大海溝

青島)
“Trench”を作るにあたっては、実家感を大切にしたいという想いを森本さんから聞いていました。分かりやすく嬉しいや悲しいという感情ではなく、”安心感”というキーワードがありました。


森本)
この曲が流れる場所は、ゲームの進行上、帰ってくる場所なのです。探索を経て帰ってきた時に、ほっとしたい。そんなコンセプトで作ってもらいました。またこの曲が流れるタイミングはオニイソメ戦が終わってからしばらく無音の区間を経て、ジンワリとグラデーションで大海溝の曲が入ってきます。最初にこの曲を耳にする流れを意識して、とにかくビジュアルに負けないくらいに美しく聞こえることが大切でした。フワーっと入ってくるイントロが特に素晴らしくて、心が落ち着きます。この曲を聞きながら水族館に浸りたい。感情の明暗をはっきりつけないというのは実は川田Dのイメージで、3度音程をあまり強調させずに4度を主軸に構成されているのはそのためですね。


ウサミ)
この曲を聴きながら、大海溝を安心しきってゆらゆらしていると、電気クラゲに攻撃受けて悲惨なことになるということも多々あると思いますがね!

この曲もグリッチサウンドた生ドラム等、アンビエント音楽の中でも意外とパーカッシブな要素もありますよね。ヴァースのセクションは流れるような3拍子で、優しくさするようなドラムワークと比較的均等に配置されたリードメロディーから始まります。拍の感覚を薄くなる真ん中のセクションは立ち止まるという印象を覚えます。そしてコーラスの部分では4拍子とドラムのリムショットですこしだけ背中が押される気にさせてくれます。シンプルではあるけど、様々な表情が見え隠れします。


青島)
リズムの組み上げにも様々なこだわりが詰まっております。打ち込みにはMAX for Liveを使用し、それに生ドラムを入れてハイブリッドにしています。また様々な音の逆再生も多用しています。


森本)
其之弐でも少し触れられていましたが、この曲は実装でもいろいろと工夫しているんです!楽曲は、導入部(“-Before Dawn-“)とメイン部(”-Jewelry Box-“)と別々のデータとして実装されていて、導入部からメイン部に切り替わるタイミングを、何としても氷を壊して進行し、ゲームのビジュアルで珊瑚が光を受けて美しく見え出すタイミングに合わせたくて、「あと1秒遅らせたい!」、「もう少しだけ後ろ!」、「あ!行き過ぎた!ちょっと戻そう!」って、実装システムを組んでくれた水野さんと何度も繰り返して気持ち良いタイミングを探っていきました。またこの曲はアウトロへの遷移も同じようにこだわっています。次に流れる楽曲へのつなぎも考慮してベストな尺になるように、水野さんに楽曲の波形内マーカーを取得して遷移できるようにしてもらったり、アウトロへの遷移命令が発行されてから実際に遷移が行われるまでのタイムラグの大きさを取得して遷移先(アウトロの波形)のそのサンプル値を変えたり。水野さんのカスタムツール様様です!
まだまだありますよ!深さに応じて楽曲のアレンジがリアルタイムで変化するようにもしています。特に大きな違いはボーカリストの変化ですね。”-Jewerly Box-“に楽曲が切り替わる時のイントロ部分の歌声はエイドリアーネさんもので、このボーカルをフィーチャーしたアレンジをしています。ループ部分になってから、大海溝の深層部ではノラさんのボーカルが重なります。エイドリアーネさんの歌声は、太陽の光を受けてきらめく珊瑚の情景にとてもマッチしていましたし、ノラさんの歌声は、静かに眠る夜の海に漂って、やさしい子守歌のように心地良い。潜水艦を手に入れたら、ぜひとも聴き比べていただきたいです。



※エイドリアーネさん



※ノラさん

ウサミ)
そしてこの曲のアレンジ版はオープニングのデモシーンでも流れます。まさに深世海を表す代表的な曲の一つとなりました。


森本)
他にももう一箇所、大切な部分にこの曲のモチーフが使われていますよね。(内緒)


青島)
とてもポジティブなフィードバックを受け、本来なら心踊る気持ちであるはずが、実はこの楽曲を作っている時にそれまでずっと苦楽を共にしたパソコンが壊れてしまって 泣 とても焦りました。不幸中の幸いだったのは、すぐに新しいモノを用意できたのと、なによりデータが無事に吸い出せたこと。安心しました。


森本)
曲によってディレクションも様々だったと思います。作リにくかった曲とかありますか?


青島)
イメージの共有という点で難しかったのは”Coral Reef”、”Undersea Volcano”、”One After Another”ですかね。”Coral Reef” は当初イメージしていたメロディー感やモード感に齟齬がありまして、いくつかのフロー経て今のリディアン感のあるものに仕上がりました。


ウサミ)
“One After Another”は”-Anicient Ruins-”と”-Undersea Volcano-”のバージョン違いがあります。バトル曲としては同じ曲ですが、戦闘のエリアが異なるので、そのエリアを彩るアレンジにして欲しいと要望しました。最終的にはそれぞれのエリアの探索曲 (“Ancient Ruins”と”Undersea Volcano”)で使用されている楽器や音が入っています。さらにエリアに合わせてミックスやリアンプのアプローチも変えていたりします。

青島)
全体の曲制作の中でもとりわけ奇妙なルールの中で作った曲は、ゲームの序盤で聞くことができる”Sendo -The Drone-“と”Oddness”です。


ウサミ)
実は両方ともお互いに関係しあっている曲で、両方重ねて聞いても成立する楽曲として仕上げてもらいました。この曲は森本さんや川田Dとも相当ディスカッションを重ねたのですが、二曲で一曲というか我々の思想です。実際に両方ともループ部分の尺やテンポは全く同じです。(※サントラだとイントロ部分の兼ね合いなどで、尺が異なります。)まず最初に着想を得たのは”Oddness”です。この曲は深世海音階で構成されています。深世海の文明で好まれたスケールというもので、その構成音を使用して曲として整備してもらいました。音階自体の詳細は割愛しますが、長調とも短調ともとれる音の調べで10音階となっています。(※いわゆるドレミファソラシドはハ長調で7音階です)その音階からさらに5つの音を抽出してもらい、深世海モチーフを制作してもらいました。ライトモチーフのような立ち位置です。


青島)
このモチーフの制作も結構難航して、何度かのテレビ会議を経て最終決定しました。いくつかのキーの中でも成立しうる音の組み合わせだと記憶しています。


森本)
そうです。我々が提示したルールの中で成立する音の組み合わせについては青島さん目線で最終ジャッジしてもらいたいと考えていました。ですので、カプコン側では音の候補を提案して、最終的に青島さんに選択してもらい完成したスケールです。

そのあと、そのスケール内で青島さんがモチーフとして選択しそうな5つの音を勝手にウサミ氏や坂口さんと予想して盛り上がったりしました 笑



※深世海モチーフ制作中

ウサミ)
そして最終的には坂口さんが正解するという 笑


森本)
青島さんが候補の音でそのスケールやモチーフをピアノで何度か弾いているのをテレビ会議越しに聴いて、「ああでもない」、「こうでもない」、またゲームの情景や妄想を膨らませた結果完成しました。中々モダンな手法です 笑



青島)
“Oddness”は音色として多くの水中で収録された音を用いています。ウサミさんがお伝えしたように、音の種類や音そのものにも、それぞれ意味をもたせていたので、非常に記号的な楽曲で主人公の知らない世海を表現できていると思います。ちなみにこの深世海スケールはある曲でもほんの少し使われています。探してみてくださいね。


ウサミ)
潜導や深海文明を現すために用いたのは金属や機械仕掛けの効果音でした。先ほど紹介したオニイソメの革製品とは異なる質感を持った素材です。

青島)
記号的なアプローチは全体の音楽制作において同様です。一例として、前半(比較的浅い所や序盤)は総じてプリミティブでオーガニックな音使いが多く、後編につれてインダストリアルや機械系の音を曲により重点的に付与させていきました。


ウサミ)
シンボリックな曲である”Sendo -The Drone-“と”oddness”ですが、実装面では同時に再生されています。お互いの音量の関係性はあるエリアや物との距離に応じて変化します。”Oddness”はアレンジとしては比較的シンプルながらも、曲としての説得力をより際立たせるために最終的にはモノラル音源として実装しています。結果”Sendo”との差はより表現できたと思います。



※ディレクション資料の一部

森本)
こう改めて思うのですが、全く逆の曲調を一曲として作ってくださいなんて、非常にクレイジーな発注ですね。なぜそうしたのか?それは、ここではネタバレになってしまうのであまり詳しく語れません。言えるとしたら、「表裏一体」ということでしょうか。ねえ、ウサミ氏?
潜導君との出会いの曲”Sendo-the Drone-“は、主人公が家を無くし、行き場を失くした孤独な中で協力者に出会った嬉しさを青島さんの独特な柔らかいメロディで表現してもらいました。とても可愛らしい曲です。そんなコンセプトですので、オトモ君が主人公から離れていくと、スネアとメロディパートが聞こえなくなるんです。主人公とオトモ君との距離に、そのトラックだけボリューム値を紐づけてコントロールしているのですが、ちょっとした孤独と安心の演出になっています。迷子になった子を探す親の心境のようなものでしょうか。そんな暖かい曲と、あの冷たい深海文明曲が、何故か絶妙に合わさる。不思議。


青島)
タンゴのようなドラムを”Sendo-the Drone-“にいれてほしいというのは、非常に斬新で新しい発見でした。この曲に限らず、深世海の楽曲制作では今までの作曲経験で最もサークルオブフィフス(5度圏)を意識しましたね。



※潜導と潜海者

ウサミ)
5度圏とは、12個のメジャーキーとマイナーキーのルート音を完全五度上昇または完全四度下降を円形に並べた図です。深世海では楽曲毎に抜本的にキーを変えています。その根底には各曲バリエーションを持たせるという想いもありますが、認知に関するバリエーションやキーの相互作用を少しだけ意識しています。用いるキーや転調する方角によって異なる色彩や特徴があるように感じています。それを効果的に使いたかったです。横文字好きを拗らせてシンボリックキーシステムなんて名付けたり 笑 五度圏は沢山プリントアウトして、自席に貼りまくっていました 笑


青島)
まさに曼荼羅!そのおかげで普段弾き慣れていないキーの曲もたくさん制作しましたよ 笑


ウサミ)
音大の課題みたいです 笑 この”Sendo-the Drone-“と”Oddness”に関して、もう一つ興味深い話があります。ゲームが完成して、いざサントラ制作をする時に森本さんがあることに気づくのです。「あれ?これ逆から読んだら、それぞれの曲名にならない?」


森本)
Sendo→odneSとOddness→ssenddo!この偶然は本当にすごい!というのも”Sendo-the Drone-“はカプコン側が考えた曲名で、”Oddness”は青島さんが考えたタイトルなんです。気が付いたときに背筋がゾワッとしました。
其ノ壱でも少し紹介しましたが、私、個人的には市街地の曲がとにかく印象に残っています。スケッチから完成まで一直線で完結した曲だと思います。


青島)
森本さんからのオーダーは、人の声は用いらず、様々な環境音や効果音でコラージュしてくださいという依頼でした。自分の家の近くで鳴っている音、自分のピアノ練習の音など夏休みの自由研究ように沢山の音を収録して素材として用いています。友達にお願いして、友達が練習しているギターやサックスの音も収録しました 笑 バックグラウンドのピアノ(メインのメロディーではない部分)はMax for Liveを使用してランダム感を出しています。他には燃えている音を左のチャンネルに、水の流れる音を右のチャンネルといった、火と水のようなエレメントとしてのコントラストも表現しています。多くの音を並べて制作したこの曲は、森本さんのいうように素材を集めてからの制作はとてもスムーズに進行し、完成までの時間でいうと一番早かったと思います。



※ディレクション資料の一部

森本)
こちらとしても、これまた難しい発注になったなぁ…と思っていたので、ある程度制作スケジュールを長く見積もっていました。でも、第一稿として上がってきたものが素晴らしくて…自席で震えながら聴きました!そしてすぐにウサミ氏に「やばい!」を連呼して…一発OKでしたね!なぜ人間が発する様々な音をコラージュした曲にしているのか、そしてなぜ人間の声は入れなかったのか、それはゲームをプレイされて、楽曲が流れる箇所を探索しながら、各々に感じていただければと思います。
実装面では、ゲームの中では楽曲を3つのステムに分けて状況によって鳴らし分けをしています。その3つのステムが全て揃って聞くことはゲームの中ではないのですが、サントラにはフル版として収録されていますのでゲーム内とはまた違った楽しみ方が出来ると思います。そちらも要チェックです!


ウサミ)
あれだけの多種多様な音が入っていながら、一つの曲として仕上がっているのは驚異的です。私は一発KOです。この曲が流れるエリアで潜海者は旧文明や元々存在していた人の痕跡を発見するのですが、まさにその記憶で紡がれた楽曲となりました。



後編に続く

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