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2020年6月19日

深世海 Into the Depths
音のちょっとだけ深い話
其ノ弐 効果音 前編

“深世海 Into the Depths 音のちょっとだけ深い話”
其ノ弐 効果音 前編
 

2019年9月にApple Arcadeより配信され、2020年3月にNintendo Switchでも発売された新進気鋭のプロジェクト”深世海 Into the Depths“(以下:深世海) そのサウンド制作の裏側やちょっと深い話を現場のクリエイターを交えてシリーズで紹介していきます。
その名も“深世海 Into the Depths “音のちょっとだけ深い話
今回は其之弐 効果音 前編です。サウンドデザイナーの坂口恵里香(以下:坂口)、吉井亮(以下:吉井)、そしてサウンドプログラマーの水野大輔(以下:水野)と進めていきます。



過去の音のちょっとだけ深い話
深世海 Into the Depths
音のちょっとだけ深い話 其ノ壱 音制作 全体編

(左:吉井 右上:水野 右中:坂口 右下:ウサミ)

ウサミ)
こんにちは。今回は効果音についてです。よろしくお願いいたします。それでは本題に入る前に簡単に自己紹介をお願いします。


坂口)
入社4年目のサウンドデザイナーの坂口です。これまでは、"ロックマン X アニバーサリー コレクション" "囚われのパルマ Refrain" ”スヌーピー ライフ”などを担当しました。深世海ではウサミさんが泳げなかったり、水が怖いということで水中収録もサポートいたしました。


ウサミ)
ありがとうございます。足のつかない深さでの収録がなくて心底良かったと思っています。


吉井)
吉井です。ゲームや映画、舞台など、あらゆるエンターテインメントのサウンドを日々勉強中!


ウサミ)
吉井さんはオーディオディレクターとしても多数のタイトルに携わっている敏腕サウンドデザイナー兼オーディオディレクターで、サウンド制作の中盤から終盤にかけて大変頼りになりました。


水野)
プログラマーの水野です。サウンドのツール制作やミドルウェアのサポート等を行いました。チームには中盤から加入し、制作の最後まで参加させていただきました。


ウサミ)
サウンドデザイナーは音を制作するだけでなく、ゲームへの実装も行います。その時に使用するツールの充実化、例えば効率的に数値を一括入力する仕組み、マクロ処理等、実装面で特にサポートいただきました。水野さん自身、音楽や音への造詣が深く、画期的な実装のアイデアも出してくれたりと大活躍。サウンドプログラマーという職種について少し話してもらえますか?


水野)
はい。サウンドプログラマーの仕事は一概には言えないのですが、音楽や効果音を気持ちよく鳴らすための仕組みを作ったり、プロジェクトでやりたいことやサウンド表現したいことに合わせてライブラリを改造・改良をしたり、オーディオディレクターをはじめ各サウンドクリエイターの皆さんの技術的な相談に乗ったり、制作を効率化するためのツールを作ったり……音周りを技術的な部分で支えるお仕事です。


ウサミ)
ありがとうございます。サウンドプログラマーについては、こちらの記事も大変分かりやすいので、ご興味がある方はぜひチェックしてくださいね。


サウンドお仕事紹介! ~サウンドプログラマー編~


 ウサミ) 自己紹介ありがとうございました。繰り返しになりますが、今回は効果音の話です。思う存分語り合いましょう。まずはじめに、前回の投稿の “深世海 Into the Depths 音のちょっとだけ深い話” 其之壱で少しだけ効果音に触れていましたので、改めて紹介します。

※“深世海 Into the Depths 音のちょっとだけ深い話” 其之壱より:
『”音+水”を徹底し、
水の中にいるような没入感をサウンドで表現したい!』
その一心でサウンド制作がスタート。そこから様々なことを経て辿り着いたのが、

一、水中マイクと水中スピーカー等の機材を駆使し、水中効果音の制作の実現!
二、水中収録用マイクであるハイドロフォン、そして防水済ダイナミックマイクを使用!
三、主な制作手法は水中フォーリーと水中リアンプの二本柱!
四、水中フォーリーで表現できない音は防水スピーカーを用いた水中リアンプで!


 ウサミ)
まずはここを補足していきましょう。坂口さんお願いします。収録やセットアップの話を聞かせてください。
 坂口)
水中マイクと水中フォーリーについてお話いたします。どちらの収録にも2種類のマイクを用いたというのがありますが、これは過去の経験から得た知識です。複数の異なる種類のマイクや、また複数の同種類のマイクを距離違いに配置して収録をすると、それぞれのマイクで異なる特色の音が収録できるというメリットがあります。各マイクで収録された音を単体で使うも良し、また合わせ技で両方の音を混ぜて使うこともできるので、表現の幅が各段に広がります。下の音サンプルを聞いてもらうとその差を感じられると思います。これは同じ音を同じタイミングで収録しているのに、音が全然違います。波形の見た目も違います。

(※ 上:ダイナミックマイク 下:ハイドロフォン)


ウサミ)
ここまでの大きな違いが生じたのは、もしかしたらマイクの特性の差が水中という音場と重なって、より大きく生じたかもしれないです。あとダイナミックマイクを防水に加工するために様々なもので包んでいるというのも大きいと思いますね。


坂口)
水中マイクとして用いたハイドロフォンは水中の音を収録することを前提に設計されたマイクです。クジラの鳴き声、ソナーの音等の海中の音をしっかり捉えることを目的としています。したがって収録した音も比較的クリアーで、編集加工する上でも、とても扱いやすい音です。この音はウサミさんが水の中を歩いた音でしたよね?


ウサミ)
そうそう、鉄板をバスタブの底に敷いて、スキーブーツで歩いた音です。ハイドロフォンの音を聞いて改めて思うのは、まず最初に誰もがイメージしている水中の音の感じが若干少なく感じるね。、もちろん独特の音で、雑味がなく、とても綺麗な音だと思います。それに実際の水中の音をそれに特化した機材で捉えているという意味では、これがリアルな水中の足音とも言えます。逆にダイナミックマイクで収録した音を初めて聞いたときは、「おお!!水中や!」と思いました。想像している音に近いと言いますか、水の中だから、このぐらい音は”もわー”っとしていそうなイメージがあります。音の輪郭が少しぼけて、高音域もカットされて、低音が強調されて、音に包み込まれるという感覚がこの音には感じます。このダイナミックマイクで収録された音は一聴すると、このプロジェクトにすごくマッチした音にも聞こえます。しかしこの音(だけ)ではやはり扱い辛いところもありました。

(※ダイナミックマイク 無加工/音量調整済)
(※ハイドロフォン 無加工/音量調整済)
坂口)
そうなんです。何度か試しにダイナミックマイクで収録された音をゲームに実装して遊んでみました。「あれっ何か違う…」そこで一つ体感したことがありました。当たり前のことですが、特にアクションゲームをプレイするユーザーにとって大事な要素である音によるレスポンス、操作した時の心地良さ、高い手触り感は必要不可欠です。特にカプコンはアクションゲームが多いということもあるので、どのサウンドデザイナーもこの部分を常日頃から意識されています。試しに遊ぶと全く操作が気持ち良くなかったのです。ダイナミックマイクで収録したした音だと、心地良さの要素が欠如しており、さらに悪化させたのが、足音以外の一部の音では、そもそもそれが何の音が判別できませんでした。 例えば様々な音が配置され鳴っている”故郷”のあるエリアで待機し、携帯機の内臓スピーカーから出てくる音に耳を傾けると、もはや何が何の音か分からなくて…勿体ない感じを通り越して残念になってしまいました 笑 結局その後も様々な検証を経て、ウサミさんが「ハイドロフォンとダイナミックマイク、両方の音を混ぜて使おう!」と。
 ウサミ)
通常の効果音収録でも複数のマイク収録から得た音を混ぜて使うのが元来好きということもあるのですが、今回もそれが良いと思いました。もちろん心の底には、ダイナミックマイクの音のみで表現し、この溢れる水中感を前面に推しだすのだ!という過激な考えもあり葛藤しました。ただ結果として、ユーザー体験がフラストレーションになることは、やはり避けたいという想いに至りました。ホスピタリティーはとても大事だと思います。そこを死守しつつ、そこからどこまでクリエイティブやアーティスティックにアプローチすることが肝だと基本に立ち返り、方針として両方の音の良い部分をかけ合わせる制作を基本と考えました。音によって多少差はあるのですが、音の芯や核となる部分を水中マイクのハイドロフォンから、そして音の芯の外側の面のように広がりのある要素、ナチュラルな極上の低音はダイナミックマイクロフォンから拝借し、不自然にならないように重ね合わせるという手法です。それぞれの音の使用割合はケースバイケースで、例えば足音だったら6:4もしくは7:3ぐらいでハイドロフォンの音を優先としています。程度の差はあれど多くの音でハイドロフォンを優先した配合率です。両方の要素を合わせたのみ加工の足音サンプルは下の通りです。
(※ダイナミックマイク+ハイドロフォンのみ加工/音量調整済)
ウサミ)
この合わさった状態の波形から、音のピッチを変更させたり、細かいプラグインやエフェクト処理、そして他の音要素を合わせたり、編集加工を施すことでゲーム中で流れる最終的な足音に仕上がります。
スピーカーを通して行う水中リアンプの際も、同様のフローでハイドロフォンとダイナミックマイクの二つのマイクで収録し、原則両方のマイクの要素を補いあって最終的に一音に仕上げています。(※ただし音楽のリアンプはこの限りではない)


吉井)
僕がよく利用した金属系のガチャガチャしたときの音はダイナミックマイクだと高音域のおいしい部分がごっそり削れていたから、敵の音作りでも合わせて制作するは良かった手法でしたね。ただ、ダイナミックマイクはそれはそれで味のある音で、既述の通り面白い低音が含まれたり、大きいインパクトの音とかはすごく雰囲気があって好みでした。
 ウサミ)
そもそもダイナミックマイクは水中での収録を想定していないマイクなので、ここまで音の表現できるのは驚異的ですよね。全収録通して一度も壊れていませんし。サウンドデザイナーのお二人にお伺いします。本プロジェクトのサウンドデザインをする上で終始心掛けたことありますか?


坂口)
既に話にあがっていますが、一般的に想像されている水中サウンドとリアルな水中サウンドを共存させた“オリジナリティー溢れるサウンド制作”を心がけました。今回のサウンドデザインの礎でもあった水中での効果音制作は、地上では表現できないサウンド等、未知の出会いが多くあり、収録できるすべての音に様々な可能性がありました。通常、フォーリー収録を行う時は、欲しい音や、その作り方および必要な部材をあらかじめ準備して進めていきますが、今回の収録は「この音を収録する!」とあまり自分を縛らずに、試行錯誤を行いながら作っていきました。その結果サウンドデザインの選択肢の幅は多くなったように思います。もちろんその反面「この音が欲しい!!」と思っても、意図通りの音が収録できないこともあり、水中サウンドの面白さと難しさの両方を身をもって知りました。


ウサミ)
坂口さんは早い段階の試作初期後にチームに合流してくれたので、まだまだ色々手探りの状態からの制作でした。最初は特に大変でした。加入直後、私が思っていたイメージや実際試作で入れていた音に収録について話をした時に、すごく柔軟かつ前向きだった印象を覚えています。最初のうちは特に正解が分からない状態だったけど、だからこそ何事にも排他的にならず色々収録検証しました。印象に残っている収録現場ということで、北村さん(※フォーリーアーティスト)と坂口さんと私で交代で様々部材を水に沈めて効果音を収録しました。


坂口)
大喜利でしたね 笑
本当に部活みたいな制作現場でした。ディープな実験ばかりでした。


ウサミ)
実験とか検証すべきことが多くて優先順位の策定とかフローのオーガナイズ等大変でした。吉井さんは?


吉井)
坂口さんの言うように、私も“リアルと演出の境界線を攻めること”を意識しておりました。美しく広大な海中世界を音で彩る場合、時には演出的にする場面もありましたが、それを不自然に思わせないよう、水中収録のリアルな音を使い、不思議な音作りを心掛けました。


ウサミ)
不思議な音作り、粋な表現ですね。お二方にはプロジェクトを通して、とても多くの音を作っていただきましたが、その中でも思い入れのある音について紹介してください。


坂口)
二つでもいいですか?


ウサミ)
ぜひ!


坂口)
まずは作中に出てくるマスコット的存在、”潜導”の音です。ウサミさんから「可愛く、でも声っぽくはして欲しくない…」という指令を頂き…これは最初かなり色々と考えました。

 坂口)
自分の声を何度も加工したり色々と試しましたが、最終的にたどり着いたのが今の潜導君のサウンドデザインです。言葉っぽい声を出さないからこそ可愛いキャラクターは世の中に多く存在すると思いますが、潜導君もそう思ってもらえるようなデザインにしました。潜導君の音のベースとなる音は、サウンドデザインを模索しながら水中で様々な金属を擦り合わせていた時に閃いて、「あれ?今めっちゃ悲しそうな声が出たな…これだ!」という感じで、喜怒哀楽の表現を完成させました。自分で本作をプレイしても、潜導君の気持ちが流れ込んできてウルっと来てしまいます。入社1年目の終わり頃に、このタイトルのサウンド制作に携わり始めたので、良い意味で型にはまらないサウンド制作ができたと思いますし、ゲームサウンドとして本当に必要な部分は先輩方が補って下さったので、周りに支えられながら「自分の初めてのサウンドデザイン」を貫けたのではと思っています。
(※潜導 嬉しい)
(※潜導 寂しい)
ウサミ)
いい話。自分らしさについては、クリエイターとして常に少なからずは意識するべきだと思います。潜導君の声の話に戻りますが、様々な金属の中でも短管パイプを駆使しましたね?あと実は1度だけ人の声でしゃべっている箇所がありますよね?深海言語を。


坂口)
はい。そうですね。深海言語とは…


ウサミ)
あっ!興味深いトピックなので、また後に取っておきましょう。


坂口)
短管パイプは、力のかけ具合次第で軋みの音に変化があったのと、カプコン内のフォーリー部材に沢山あったので、一つ一つの個体差を聞き比べることができ大変重宝しました。よく鳴くものもあれば、無口なパイプもあったり、収録の度に発見がありました。次に好きな効果音として、”海藻を刈るときの音”をおすすめしたいです!この音は水中でほうきをコテでといて作ったのですが、個人的に非常に気持ちの良い音になったと思っています。この海藻は多くの武器で刈ることもできますが、槍銃で並んだ海藻を刈るのがおすすめです!”スパッスパッスパッ!!!”っと気持ち良いのです!笑

(※短管パイプ)
ウサミ)
確かに気持ち良い!並んだ海藻をまとめてカットは槍銃の通な使い方ですね。


坂口)
些細なところで気持ちの良い音が鳴って、「あっ、今の気持ちよかった~」と思ってもらえたら、それだけで効果音は非常に意味のある存在になります。なので!ぜひ武器で海藻を刈ってください…!
 ウサミ)
些細なところで気持ち良い音で言いますと、2Dゲームとして開発された今作ですが、気泡の音、セーブポイントの音、橋の軋み音等、画面一つ切り取っても、様々な音を仕込んでいます。
3Dゲームでは広く行われる、プレイヤーの距離による音の減衰、物理のシステムで動くものに対しては触れる度に音が鳴ったり、自動で動作音が鳴ったり、凝ったサウンド設計を踏襲しています。ヘッドホンで遊んでもらえると特に感じやすいと思います。そういえば、横でゲームチェックをしている坂口さんを見ていた時に、やたら序盤に出てくるフジツボを壊しまくっていた記憶があります 笑


坂口)
そうなんです!フジツボの壊れる音もすごい好きで…この割れる音も結構試行錯誤を繰り返して作りましたね。
川田Dから気持ち良い音というオーダーがあり、「つい壊したくなる音」を目指して作りました。
水中で様々なもの、例えば陶器やレンガや瓶等を割ったり、落としたり…。そこで収録された音を基調としつつ、水中リアンプで収録した壊れ音を混ぜることによって、より臨場感を加えました。壊れる音なので、音のアタック成分の気持ち良さも意識しましたが、砕けた破片同士が当たり落ちていく音も水中ならではのスピード感があり、非常に気に入っております。ユーザーさんに、割りたくなる一つの要素として伝わっていたら嬉しいです!


ウサミ)
これも手触り感とか爽快感にとても良い影響を与えています、音のリアンプの音と水中収録の音の配合も絶妙です。吉井さんの好きな音はなんでしょうか?
  吉井)
色々とあるんですが、”機械系ギミックの音”がけっこう好きです。ロックマン11も、そうやって音を作っておりましたが、駆動部分やパーツ等、細部までイメージし、音を組み立てていく作り方をしています。そして、機械系のギミックとは対照的でもある海洋生物の音は、出てくる生物をまずはしっかり調べました。実際に深海の映像等で動いている様子を研究し、どんな音を発しているのか、体の形状、表面の質感、移動方法等を確認してから、イメージを膨らめて臨むようにしましたね。スケーリーフットの生体はもう最高に痺れましたし、初見のスターゲイザーのお顔は今でも忘れられません。

(※メカフナ虫 素材音収録波形)
(※メカフナ虫 素材音 ダイナミックマイク 無加工/音量調整のみ)
(※メカフナ虫 素材音 ハイドロフォン 無加工/音量調整のみ)
ウサミ)
スターゲイザーは名前からの印象で勝手にシュッとしているクールな魚かなと思って調べたら衝撃的でしたね。愛すべき深海生物の一つではないでしょうか。僕も本プロジェクトで深海生物についてある程度詳しくなりました!水野さんもよくヘッドホンでゲームをプレイしてくれてましたが、好きな音とかありますか?


水野)
特に好きなものを選ぶとすれば、”タイトル画面でボタンを押したときの潜っていく音”、”ギャフを地面にたたきつけたときの音”、”ジェット噴射の音”、”メニュー画面のキャンセル音”ですね。結構出ました 笑
 ウサミ)
プレイヤーの音やメニュー画面のUIの音は何度も操作することが多いので、坂口さんともとりわけ気持ちよさを意識していました。ちなみにジェット噴射の音は、エアーコンプレッサーを水に入れ、中で”プシュー”と噴射して収録した音をベースにしています。 サウンドデザイナーのお二方に改めてお伺いしたいのですが、ゲームにおける効果音をどのように捉えていますか?


吉井)
僕は”料理とスパイス”の関係と同じだと思っています。「素材だけでも美味しいけど、これがあるともっともっと美味しい!」みたいな。同じスパイスでも、どこまでもこだわれる点や、スパイスだけが主張し過ぎてもダメな部分もよく似ています。


ウサミ)
奇しくもサウンドデザイナーって料理とかスパイスとかにこだわっている人が多いイメージです。どうでしょうか?


吉井)
カプコンにおいては特にそうかもしれません。食べる事が好きな人、こだわりのある人が多いですね。


坂口)
私は肉と塩コショウがあれば十分です


吉井)
それはそれで、玄人感のあるこだわりの一つですよ 笑
 坂口)
私は”効果音は主役でなくても、なくてはならない絶妙な存在だ”と思います。一つ思うことがありまして、今回のプロジェクトはオーディオディレクターの方針によっては、必ずしも音を水中で録らなければいけなかったわけではなかったと思います。それっぽいEQ加工とかリバーブとかで水中っぽくなったかもしれません。それでも実際に水中で収録してみて、水中での音の聞こえ方を知り、そこからアイデアが生まれ、予想していなかったようなサウンドを発見し、その結果が“深世海のサウンド”です。この“深世海のサウンド”は非常に奥深く、単純な加工だけでは生まれなかったです。実際の水中の音のこもりやその時の揺らぎが、ゲームと融合してより深い没入感を演出したと思います。本作に携わったチームの皆さんは本当に愛を持ってゲームを作っていたので、私もサウンドクリエイターとして、その作品をディレクターの思い描く形に仕上げたいと思いました。極端な例ですが、”効果音こそが主人公!”という気持ちでゲーム制作をすると全体のバランスはもちろん崩壊します。お互いの領域を尊重しあって作り上げていったからこそ、ユーザーさんに楽しんで頂けるようなゲームが出来上がったと思います。


ウサミ)
その通りです。効率化や再現の容易さという意味では水中のIRを収録して水中っぽく加工できるプラグインの制作、または既存のプラグインでパラメーター調整をする等の手法は確かにモダンで最強です。もちろんそれはそれで検討をしましたが、水中にマイクを通して音を聴くと、毎回かなり異なる音が聞こえました。とても心地良い音でした。少なくともカプコンのバスタブの素材なのか、設置場所が理由なのか、排水管からつたって聞こえてくる不思議な音、ノイズ、そして低音がとても気持ち良い!これを何としてもユーザーに届けたい!この音をゲームにある種の高い水準で落とし込めたのは、すごく価値があったように思います。


吉井)
作り込んだSEや地上で収録した効果音を水中リアンプした時、予想以上にかっこいい低音が出たり(暴力的な低音に増幅されることも!)、シンセ系のSEが全くの別物に生まれ変わったりと、驚きの多い収録でした。こう考えるとやっぱり一つずつリアンプとか水中収録は意味があったと思いますね。やってみないとわからないことがたくさんありますよね。


ウサミ)
ええ、その通りです。大変であったことは否めませんし、ちょっとしたアクシデントも起きましたが、良い思い出です。


坂口)
マイクやスピーカーに付着した気泡で音が抜本的に変わる、とかありましたね?


ウサミ)
あれは焦りましたね。ちょうどレコーディングブースでリアンプした音をモニターしていると、突然聞こえている音から高音域がごっそり抜けてしまって、確かシンバルの音やスネアドラムの音をリアンプしていた時だったと思いますが、シンバルのキーンという音がパーフっていう音になってしまいました。「シンバルに聞こえない…」アクシデントがありました。原因究明に苦労していた時、収録のサポートをしてくださった北村さんが「空気が原因かも?」と一言。水中マイクやスピーカーをみると気泡だらけでした。試しにワセリンや油を少量だけマイクやスピーカーに塗ることで気泡を付きにくくしたら、かなり改善しました。ただ、それでも解決しない時も何度かありました。そんな時はその日の収録を諦めて翌日に賭けるとか、大胆でしたね。ある意味で凄い現場です。
 吉井)
バタフライエフェクトみたいな話やね。


ウサミ)
外の雨の音が、おそらくですが排水管をつたってマイクに入り込んだ時は、梅雨じゃなくて良かったと心底思いました。


後編に続く

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