INTERVIEW

2017年11月13日

ダイナミックミキシングステージ、ダビングステージ特集

ダイナミックミキシングステージ、ダビングステージ特集 CAPCOM開発内でレコーディング/ミキシングを担当するスタジオグループ 「bitMASTERstudio」 大型コンソールとレコーディングシステムを備えた「StudioA」と、コンパクトでありながら、「StudioA」のサテライトスタジオとしてミキシングパワーに集中した「StudioB」、という構成だったこれまでのコンセプトを大幅に変更し、新たに「Dubbing Stage(旧StudioA)」と「Dynamic Mixing Stage(旧StudioB)」に生まれ変わった。

すべてはゲームオーディオのために。
「Dynamic Mixing Stage」のコンセプト

今回最も大きな変更が加えられたのが「Dynamic Mixing Stage」である。 「Dynamic Mixing」とは、ゲームの中でプログラムによって制御されたミキシングを意味し、従来のProTools等DAWに記録されたオーディオを映像に合わせてミキシングしていく従来のスタイルと一線を画す。 チーフエンジニアの瀧本氏はこう語る。
瀧本
演出された映像作品では、未来は決定しています。何分何秒に爆発が起こり、その後何秒でダイアログがスタート、という感じで。しかしゲームは違います。例えばただ廊下を歩いているだけでも、周りに落ちているものを探すプレイヤーもいれば、そのまま通過してしまう人もいる。この違いが次の演出までの時間を変えてしまい、プレイヤーが受ける印象すらも変えてしまう可能性があるのです。プログラムによるミキシングでは、こうした読めない時間をも計算に入れて演出的なミキシングを完成させていく必要があるのです。

こうしたDynamic Mixingの特徴により、プログラムミキシングを効率良く行うため、コンソールなど従来のミキシングのための機器を最小限に抑え、リファレンスとなる音を再生するため音響空間設計に最大限のコストをかけることを選択した結果、この部屋のコンセプトが完成した。
写真をクリックするとDynamic Mixing Stageを360度見渡すことができます。(Facebookページへ飛びます。)

ものづくりの場所だからデザインは大切
こだわりと技術が詰まった音響空間設計

スタジオ改修の音響空間設計は「株式会社ソナ」。既に稼働しているスタジオの内装のみを解体し理想の空間設計を行うことは、たくさんの制限を受けるため非常に難しいものになる。しかし「世界で屈指の知識と技術」と言っても決して過言ではない彼らの手により、素晴らしい空間設計とデザインプロットが届いた。
瀧本
このパネルデザインを見たときにすぐに思いついたんです。内装壁を黒で統一し、そこに金色の音響拡散パネルが周りを囲む。暗闇にパネルが浮かんでいるような雰囲気にしたくて。

音響拡散パネル

音は同じ方向に反射を繰り返すと重大な問題を引き起こす。
そこで反射を繰り返さないようランダムに音を拡散させる構造を持つのが、この音響拡散パネルだ。 チャンネルフォーマットはDolbyATMOS/DTS:Xさらにスピーカー追加によりAuro3Dと、現在考えられるすべての3Dフォーマットが再生可能。この音響拡散パネルはスピーカーボックスとしても機能しており、GENELEC The ONEシリーズのスピーカーが取り付けられている。フロントLCRに「8341A」、リア及びハイトスピーカーに「8331A」を選択した。この2機種は今年9月の発売であり、スタジオに導入された世界で初めてのスピーカーとなった。 スピーカー配置はITU-R規格に準拠し、フロントスピーカーとサラウンドスピーカーは全ての高さが1200mmに統一されている。これにより、複数スピーカーによるファンタム定位が極めて明瞭となり、さらに上方に設置したハイトスピーカーとの上下の位置関係も認識しやすい音声再生を実現している。 改修工事と機器類の導入が終わった後、徹底的な音響調整が行われた。各スピーカーはソナ社カスタムメイドのブラケットにより取り付けられており、このブラケットは各スピーカーを1mm単位で前後に動かすことができるようになっている。二つのスピーカーから同一の音を出力した時、それらのスピーカーからリスナーまでの距離が数mmずれただけで高域周波数帯に大きな問題が発生する。こうした問題を二日に渡る音響調整によって一つずつ解決していった。

音楽も映像演出も無くなりはしない
従来型のワークフローにも柔軟に対応するシステム構成

プログラムによるミキシングをワークフローの中心に据えた「Dynamic Mixing Stage」は、ゲーム開発クリエイターが使用している開発用PCや開発用ゲーム実機等を常設し、ゲームエンジン内の最新の状態を確認し更新することができるようになっている。しかし、スタジオグループに依頼されるワークには、当然従来と変わらない音楽ミックスやカットシーンミックスが存在する。それらを完全に捨てることはできないため、従来のミキシング業務を滞りなく行えるシステムを構築している。 コントロールサーフィスは「ProTools S3」「ProTools Dock」を選択。 Dubbing Stageで採用している「ProTools S6」との操作の違和感も少なく使いやすい。 巨大なセッションはDubbing StageのS6でミキシングするが、プリミックスやマスタリング業務は十分にこなせるシステムとなっている。
瀧本
Biohazard 7でDynamic Mixingを進めている時、もっと効率よく作業できる環境が欲しいと切実に思いました。
そして当時はDubbing Stageでプログラムミックスを行っていたのですが、目の前にあるProTools S6に全く触れていないことに気づき、勿体ないと感じたわけです。
私自身がゲーム開発に深く入り込むようになってきたことで、新しいワークフローが生まれ、イクイップメントも新しい形に進化させるべきだと考えました。その集大成がこのDynamic Mixing Stageなのです。

オーディオの統合管制システムを構築
「Dubbing Stage」に「ProTools MTRX」導入

今回は大きな変更を加えていない「Dubbing Stage」だが、各部屋の役割をワークフローによって分けたことにより、従来型のミキシングをより効率的に行うため、モニターセクションを一新した。 「ProTools MTRX」はオーディオ再生のチャンネルフォーマットやソースセレクトに高い柔軟性があり、瞬時に必要な再生環境を構築することができる。 ProTools S6のセンターセクション上にチャンネルマトリクスの画面が表示され、必要に応じて設定を変更できる。また、チャンネルレイアウトの設定もPCの専用アプリケーションによって簡単に作成/変更できるため、極めて自由度の高い仕様となっている。

カプコンタイトルのオーディオマスターアウトプットを担う
「bitMASTERstudio」の新たなスタート

今回のスタジオ改修によって、数百チャンネルに及ぶ映画並みの巨大セッションをミキシング可能な「Dubbing Stage」、そして今後大きな可能性を秘めたDynamic Mixingのために生まれた「Dynamic Mixing Stage」という二つの柱が完成し、スタジオグループは「プレイヤーに興奮してもらえるオーディオ表現」を追求していく。 効果音を作成するわけではない。作曲を行うわけでもない。
しかし、ミキシングは、プレイヤーがゲームの音を聴く時、その感情を伝えるための大切な技術である。
「静かな薄暗い部屋に侵入したとき響く足音」
「突如として現れた敵の巨大なスケール」
「感情的なダイアログの後に続く音楽は、気づかない間に盛り上がり心を動かす」
ゲームをプレイしていて、もしこのような感動があったとしたら、そこには必ず「ミキシング」という技術が存在している。
カプコンゲームタイトルの「MASTER AUDIO」を担う。

それが「bitMASTERstudio」だ。


今回改修工事にご協力いただきました各社様からコメントを頂戴しております。
※以下、敬称略

sona_logo

株式会社ソナ

中原 雅考

今回のプロジェクトでは、スタジオ内装の基本設計とソナチームの統括を担当させて頂きました。
音響設計においては、7.1.4chの物理的スピーカ配置、物理的位相特性、聴感的周波数特性を高い精度で妥協無く融合することを目指しました。
その結果、新生ダイナミックミキシングステージでは、音が手でつかめるのではないかと思うほどの生々しい定位再現を実現することができ、スタジオとしては最高クラスの3D音像再生クオリティーが得られていると思います。
これも、カプコン様はじめプロジェクト関係者の皆様のベクトルが揃っていたことの賜だと思います。
ここから、音の本来の姿であるチャンネルフリーの4πサウンドが、新たなカプコンサウンドとして解き放たれることを楽しみにしています。

土倉 律子

今回のプロジェクトでは、音響設計、意匠デザイン、スピーカーブラケットやスタンドパネルといったプロダクトデザインまでを担当させていただきました。
新生ダイナミックミキシングステージの印象的な金色のスタンドパネルは、「3D再生フォーマットの変換」という機能を備え、かつ「暗闇にパネルがぼんやり浮かび上がる」という瀧本様のイメージを具現化しています。皆様の遊び心と決断力によって他に類を見ない空間に仕上がっていると思います。
この異空間からどのような異次元サウンドが生まれていくのか。作品の誕生を心待ちにしています。

株式会社ソナ(SONA CORPOTATION)

音のために,人のために。
音響計算から現場施工まで,スタジオづくりに関する入口から出口までを自社でまかなう小さな工務店。
技術的好奇心あふれる若さがうり(社員の実年齢とは関係ありません)。 http://www.sona.co.jp
rockon_logo

株式会社メディア・インテグレーション

前田 洋介 (ROCK ON PRO プロダクト・スペシャリスト)
森本 憲志 (ROCK ON PRO セールス・エンジニア)

システム更新に当たってのご相談から、システムの設置及び、機器の設定を行わせていただきました。
事前の打ち合わせから、様々なアイディアが飛び出しました。
現在お持ちの機器を最大限に生かし、更新のコンセプトを実現出来たのではないかと思っています。100ch以上のクロスパッチの設定を行い、動作を実現しなければならないというスケジュールでかなり緊張感のある現場でしたが、システムの仕上がりにご満足いただけていれば、と我々としては祈るばかりです。
ダイナミック・ミキシングを念頭とした、新しいコンセプトのスタジオ。これが、これからのカプコンサウンドを一層のブラッシュアップに導いてくれれば。
今後のコンテンツに求められると思われる高臨場感を実現するためのスタジオのあり方として、一つの指針となるシステム・デザインが行われていると思います。ユーザーへ没入感を与えるサウンドデザイン、楽しみにしています!!

株式会社メディア・インテグレーション

メディア・インテグレーションは、
今、そして未来を音で奏でるカンパニーです。

私達のミッションは、音、そして映像の創作的な市場に対してイノベーションのある提案と開発を行うこと。
創造者やそれを生み出す集合体へ高い満足度を提供することをモットーとしています。
私たちと、共に歩んでいただけることを心から感謝いたします。 http://pro.miroc.co.jp
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株式会社ジェネレックジャパン

渡邉 浩二

このたびは「ダイナミックミキシングステージ」の設立おめでとうございます。
GENELECは来年で設立40周年を迎えますが、元々カプコン様ではマルチチャンネルスタジオ、フォーリーステージを含め、サウンド制作用途のレファレンス・モニターとして多くのGENELEC製品を導入いただいており、世界でもトップクラスの導入数になります。
今回もGENELEC製品をご採用いただき、誠にありがとうございました。
今回、導入いただきました「8341A」「8331A」は、3ウェイ同軸をコンパクトな2ウェイ・サイズで実現したThe Onesシリーズとなりますが、Dolby AtomsやAuro-3Dなど各社のフォーマットに対応、イマーシブ・セットアップでの制作スタジオとして、すべてThe Onesシリーズにて統一されたのは国内初!(世界初?)になるかと存じます。
今後「ダイナミックミキシングステージ」にて制作された臨場感溢れる多くの作品が発表されるのを楽しみにしています!

株式会社ジェネレックジャパン

Genelecのミッションは、サウンドをできるだけ忠実に再現することで、お客様の夢を叶える手助けをすることです。
Genelecは1978年以来、高品質のスタジオ・モニターおよびアクティブ・スピーカーを開発し、他の追随を許さないGenelecの研究開発への取り組みは、数々の業界初製品を生み出し、アクティブ・モニターで業界を牽引する存在として活躍しています。
株式会社ジェネレックジャパンは、日本のお客様に対するサービスとサポートをさらに強化し、Genelecブランドおよび革新的技術を皆様にご紹介しています。 https://www.genelec.jp/