Looking for the blonde.

その日、ひとけのない裏道で、不幸な男がまた一人、
背後からの一撃によって地面に崩れ落ちた。
一撃をくわえられたはずみで外れたイヤホンから、激しいロックのリズムが漏れてくる。
男は、地面に突っ伏したまま動かない。

「よおし! ケン・マスターズを倒したぜ!」
もったりとした声が早口に叫んだかと思うと、声の主はその巨躯をすばやく翻し、
太い人差し指を天に向けてポーズを取った。
その直後、
「きゃーっ、ルーファスってば大会が始まる前に倒しちゃうなんて、かっこいい!」
今度は甲高い声が裏道を走り抜け、大通りにまで響き渡った。
華奢な体をくるくるとまわして、若い女は巨躯の男に駆け寄っていく。
ルーファスと呼ばれたその男は、未だ、天を指差すポーズのまま仁王立ちになり、
若い女の黄色い声に酔いしれているようだった。
「はっはっは、そんなにほめるなよ、キャンディ。照れるぜ!」
太い腕に抱きついてくる若い女をぶらさげて、
ルーファスはやはりもったりとした声で豪快に笑った。
たくましいというよりも、ふくよかという言葉が似合う恋人の肉体に
歓喜の声をあげながら、 キャンディは地面に着地した。
その足元に、さきほど倒された不幸な男が突っ伏している。
「ねえねえ、この人、死んじゃったかな?」
キャンディは、しゃがんで被害者の髪をつまみ、ひっぱってみた。
「う・・・」
くぐもった声が、うつむけになった口から漏れた。
「あっ、生きてた!」
キャンディがルーファスを見上げると、 ライダースーツにラッピングされた
むちむちとした足が、不幸な男の背中をぐりぐりと踏みつけた。
ルーファスの、野太くも若干キーの高い声が、不幸な男の背中に降ってくる。
「このぼさぼさの金髪! ケン・マスターズに間違いねえ!
こんなところを歩いてやがったのが運の尽きだったなあ!」

「ち、ちが・・・。おれは・・・ケンとかいう、名前、じゃねえ・・・」
不幸な男がわずかに顔をあげて、かすれた声で言った。
「往生際が悪いぞ! こんな野郎がケン・マスターズだなんて、情けないぜ!」
ルーファスが、さらに拳を振り上げると、気配を察したのか、
不幸な男が必死の形相でルーファスを見上げ、おびえた声で訴えた。
「おれは・・・ただのバンドマンだ・・・。
マスターズ家の御曹司に、 おれが・・・見えるか・・・」

ルーファスは、首をかしげた。
「たしかに・・・言われてみれば、マスターズ家っていや、有名な金持ちって話だ。
けど、おまえのなりはどう見ても俺よりずっとしょぼいぜ。
いや、もちろん俺様のファッションセンスは、
アメリカだけじゃなく世界に通用するかっちょよさだから当たり前なんだけど。
でも、それにしてもおまえのジーパン、やぶけてるもんな。
金持ちならもっときれいな服着て、ピカピカの靴をはいてるはずだよな。
いや待てよ、もしかしてそれがセレブの流行なんじゃ・・・」

ほとばしる言葉の渦に飲み込まれるかに思えたが、
不幸な男がふらつきながら立ち上がり、その渦をさえぎった。
「おれの名前はトーマスだ、ケンじゃねえよ・・・。
そもそも、マスターズ財団の本社ビルはここから100キロ以上離れた街にある。
こんなしけた街の裏道なんかに、その社長がいるわけないだろう」

「うっそお、100キロ! 遠すぎるー!」
キャンディが目を見開いて叫んだ。
ルーファスはしばし呆然と立ちすくみ、空を見上げた。
ビルの合間を、雲がゆったりと流れていく。
ルーファスは、己の倒した男がただの凡人であったことにようやく気付くと、
怒りのあまり、近くにあったゴミ箱を思いきり蹴り上げた。
「くっそー、ケン・マスターズめ! また替え玉を作りやがったな!
大会で会ったら、覚えてろおお!」

ルーファスの怒鳴り声は裏道にとどろき、そのはるか100キロ先にいるはずの
まだ見ぬ宿敵へ・・・
届くはずもなかった。

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