最強の男

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第1章

 切り落としたイビノスの腕に両刃ナイフを突き刺して筋肉繊維と思しき部分をそぎ落とすと両手で抱えられるほどの肉が手に入った。その肉塊を木の枝で串刺しにしてから焚き火にかざす。ゆっくりと回転させながら表面をあぶり、体液が蒸発した頃合いで、枝を地面に刺して肉を固定する。肉と炎との距離が程好く保たれているのを確認すると、ハースは満足してうなずいた。
「こりゃたまげたな。本当に喰うのかい」
 ずっと作業を見ていた老人が緊張を含んだ声で呟いた。
「味を無視すれば最高の食材だ」
「──助けてもらったことには感謝しているが、わたしは遠慮しとくよ」
「あんたに喰えとは言ってないのな」
「そ、そりゃそうだな。それじゃ、わたしは小屋に戻って自分のぶんを作るか。罠で捕まえたウサギだ。もし良かったら一緒にと思ったのだけどね」
「気にするな。おれはたくさん喰うから、あんたに迷惑をかけるだろうよ」
「ああ、そんな感じだな──」
 老人はまだ何か言いたそうにしていた。しかし、気づかないふりをしていると、あきらめて小屋に入っていった。レゾナール海岸から内陸に広がる荒野。老人は、ごくたまに訪れる旅人に食事と寝床を提供する宿を営んでいるらしい。このような辺境に居を求めた相応の理由があるのだろうが、ハースは何も聞かなかった。興味がないわけではなかったが、必要以上の関わり合いは、荷物を増やすだけだと思っていた。

 ガンドアを拠点にして活動するランカーたちとの対戦に見切りをつけて、個人的な修行の旅に出てから二年近い月日が過ぎていた。町にいた頃のハースは、ひたすら強さを求め、自分よりランキングが上位の者を見つけては戦いを挑む熱心な戦士だった。しかし、やがてハースの噂──とてつもなく強い男がいるという噂──が広まり、会うことさえ避ける者が増えた。人はランキングが上位になると、その地位を維持することに汲々とするようになる。規則もマナーも無視だ。そんな相手に憤りを覚え、抗議することも多かったが、最後にはいつも相手の言い分が通った。結局のところ、ランキングが上位の者は正しく、下位の者は従うしかない。
 順位にだけこだわるのであれば、修練で得られる報奨で名を上げることも、もちろん可能だった。しかし、ハースはその行為を蔑んでいた。実力とは無関係な要素が入り込む余地がありすぎる。ランキングは相手から奪い取ってこそ価値があるのだ。
 ランカーたちの不甲斐なさに失望したハースは、獣との戦いに期待して旅に出た。獣を倒してもランキングには関係ないが、力を蓄えることはできる。人間相手では思いつかなかったような技を発見することができる。自分の中に眠っている未知の力を野生が引き出してくれるのだ。

「これ、飲むといいよ。たいていの肉には合うはずだ」
 いつの間にか戻ってきた老人がカップ入った赤い液体を差しだした。
「酒か」
「まあね」
「酒は飲まない。クセになると聞いている」
「ふん、その通りだな。厄介なものだ」
「厄介だと知りながら飲み続けるのは──理解できないのな」
「──いっちゃ悪いが面倒くさい男だな、あんた」
「そんなことはないだろう。おれは単純だ」
「わたしはあんたに助けてもらった。あんたが通りかかってそいつを倒してくれなかったらわたしは死んでいただろう。だから、とても感謝している。この気持ちを形にしてあんたに差し出したい。もっと言えば、あんたに感謝のしるしを渡して、貸し借り無しにしたい。なあ、何か望みはないのか?」
 ハースは老人の話を聞き流しながら、ほど良く焼けた肉を焚き火から外してかぶりついた。敵意すら感じるほどのえぐさだった。
「ど、どんな味がするんだ?」
 口の中の肉を胃に送り込んでからハースはしばし考え、質問に答えた。
「薬だと思えばいい」
「まいったね。あんたはあれだな。戦い以外には興味がないって手合か」
「爺さん、やっとおれのことがわかったのな。だから感謝だとか貸し借りなんて気にするな。おれはイビノスを見つけて戦いを挑み、勝った。ただそれだけのことだ」
「あっぱれだな」
「ああ、そのへんのせこいランカーとはちがう」
「褒めちゃおらんよ」
 老人はあきれたように肩をすくめるとまた小屋へ戻っていった。
「ちょっと待つのな」
 ハースが呼び止めると老人は用心しながら振り返った。これでやっと縁が切れると安心したところだったのだろう。
「あんた、トランフという奴を知ってるか? 合金屋だ」
「合金屋なんて、知るか」
「じゃあ、いいのな」
 ハースはあっさりと突き放した。
「ちょっと待ってくれ。わたしがその合金屋を知っていたら、借りを返したことになるのか?」
「爺さん、こだわるのな──が、まあ、そういうことだ」
 ハースは、太いロープで腰に縛り付けてあったリュックを外し、老人に向けて差しだした。
「これをトランフに渡してくれ。でも、知らないんじゃ、どうしようもないか──」
「いやいや、なんとかなるかもしれん。たまにここに商人が来るのだが、そいつらなら知ってるかもしれないぞ」
 老人は戻ってきてハースからリュックを受け取ろうと手を差しだした。
「これで貸し借り無しな」
 老人の手にリュックを乗せ、放した。すると老人は短い悲鳴をあげ、地面に落とした。
「なんじゃこりゃ! なんちゅう重さだ──いったい何が入っているんだ?」
「鉱石」
「貴重なものなのか?」
 老人はリュックを開いて中を確認しながら訊いた。
「知らん。ところで爺さん、ドネイ回廊まではどれくらいだ」
「ドネイ──あんなイビノスの巣窟──」老人はリュックを持ち上げようと苦労しながら答えた。「何しに行くんだ。死にに行くようなもんだ」
「おれは強いから死なないのな。それに、イビノスは訓練相手としては最高な」
「あんた、馬鹿だな」
 老人はほとほと呆れたという顔で言った。
「それで、どれくらいかかるんだ?」
「歩くんだろう? そうだな──普通は六日かかるが、あんたなら五日ってところかな」

 老人と別れて四日目の夜にドネイ回廊に到着した。噂どおり、回廊のそこかしこにイビノスがいた。さっそく一匹の気をひいて戦いに持ち込んだ。最初の数回、敵の攻撃をかわすと、その後は一気に攻め込んで勝利した。これまでに戦ったどのイビノスとも違うパターンの動きだった。
「こりゃ面白そうだ」
 呟きながら倒したばかりのイビノスを跨ごうとしたが、思い直してグシャリと踏みつけた。
「おまえら、ほんと、憎らしいのな」

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ラストランカー 製品情報
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  • 対応ハード
    プレイステーション・ポータブル
  • ジャンル
    RPG
  • 発売日
    好評発売中!(2010年7月15日発売)
  • 価格
    2,000円+税
  • プレイ人数
    1人
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    イメージエポック/カプコン
  • 備考
    メディアインストール対応

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