CAPCOM

prologue

スマートフォン向けアプリ「モンスターハンタースマート(以下スマート)」の配信開始を間近に控えた2013年秋。「本当に、今のままこのゲームを世に出してもいいのだろうか?」。ディレクターの岡野と運営プロデューサーの山本は迷っていた。

スマートの制作開始時におけるスマホゲームの主流は激しい操作を必要としないシンプルなもの。当時のトレンドを取り入れ、アクション性を極力削りRPG要素を強くする方向でスマートは開発された。だが、スマートの配信開始を控えた2013年時点で、ユーザーはアクション性の高い操作を受け入れつつある。さらにはモンスターハンターの特徴であるマルチプレイをスマホゲームで叶えた他社タイトルも出始めていた。

『“今”ではなく“未来”のトレンドを見据え、新たな市場を切り拓く』そしてこのような方針が掲げられたのである。

チームメンバーたちもこの方針に共感。そして、再開発にあたりクリアすべき課題は大きく分けて3つあった。それは、
「新しい『スマート』のメインテーマの考案」「4人マルチプレイの導入とその完全同期」「過去にないマネタイズ(※)の仕組みの確立」

20~30代の若手中心で構成されたこのチーム。どのメンバーも成長に対する貪欲さと、ゲームづくりに対する情熱は誰にも負けないという自負がある。
「『スマート』の再開発をチャンスととらえ、もっと上を目指したい」「従来のファンも新規のユーザーも楽しめるゲームにしよう」
全員が意欲を燃やしていた。

※ 無料のサービスから収益を上げるための方法。

タイトルも一新しリスタートした開発。
前を見据え突き進むチームメンバーたち。

こうして始動した「スマート」再開発プロジェクト。完成まで遠い道のりになることは間違いなかったが、クリアすべき課題のひとつ「新しい『スマート』のメインテーマ」についてディレクターの岡野には明確なビジョンがあった。

「新しい『スマート』は、“未開の島の探検”をテーマにしよう」
タイトルも「explore=探検」の名を冠した「モンスターハンター エクスプロア(以下「エクスプロア」)」に改名することが決まった。

何をもって“探検”をゲーム内で表現するのか、最初は迷走も重ねた。しかし、次第に「島の特徴に合わせた独自の生態を持つモンスターの追加」「アップデートに伴う探検範囲の拡張」など、メンバーから岡野のもとに次々とアイデアが上がってくる。

特に、あるデザイナーから上がってきたひとつの案は、メンバー全員をわき立たせた。
「探検している雰囲気が出るよう、トップページのUIは“島を臨むハンター”という構図にしませんか?」
従来のスマホゲームとは一線を画するそのUIは「エクスプロア」に一気に“探検らしさ”をもたらしたのだ。

「先の見えない状況の中でもみんな前向きですね。しかも今の段階でこれだけ完成度の高いテスト版を用意してもらえるなんて」
チームメンバーの様子を見ながら運営プロデューサーの山本は岡野にそう呟いた。タイトルのプロモーションも担う彼女にとって、高クオリティなテスト版は大きな武器となる。タイアップ先の企業やメディアに対して容易にゲームの良さを伝えることができるからだ。

プロジェクトのリスタートが決まってから、チームは活気づく一方だった。

各々のクリエイターがマルチに力を発揮し
立ちはだかる壁を乗り越えていく。

チーム内には入社して日の浅いスタッフも少なくないが、彼らには経験不足を補って余りある情熱がある。「エクスプロア」の開発が進むにつれて、若手もどんどん経験値を積み上げていった。

「カプコンならではの高度な開発環境」がある「恵まれた環境の中」で進んできたのではない。当時、難易度が高く無謀とも言われた要求に対して「従来のエンジンをモバイルに最適化」したり、「最先端のサーバーネットワーク技術」を使った。こうして若く不足がちな経験を情熱で補い挑戦してきた結果として「最高峰のマルチプレイ」が実現できた。

メンバー全員がゴールに向かって突き進んでいた。「自分も負けていられないな」と岡野。ディレクターとしても身が引き締まる想いだ。
「グラフィックをよりリッチにする」というコンセプトもあった以上、「スマート」の2D主体のデザインではパンチが弱すぎる。「エクスプロア」では3D主体にしたい。そのために、大規模なグラフィックの作り直しが必要だった。
しかし、高く求められるクオリティを実現するためには、チームに3Dアニメーターやエフェクトなどのクリエイターが圧倒的に不足していた。――

そんな無理難題を突き付けられたクリエイター達の目は、むしろ喜々としていた。
諦めることは誰でもできる。限られた条件下で、プレイヤーに驚きを与えられる最高のゲームグラフィックを生み出すことがカプコンクリエイターの使命だ。

目的を実現するにはどんな思考で、どんなスキルを身につければよいか?――
どういう環境があれば継続的に最高のパフォーマンスを出し続けられるか?――
一人ひとりがその思考を持ち、自立して能動的に動くチームが自発的に形成されていった。
クリエイター達は、専門以外のスキルもお互いに指導し合い、貪欲に習得していった結果、2Dアートワークや3Dグラフィック、UIなどに幅広く対応できる、マルチクリエイターに成長していった。
これにより、エクスプロアの高いクオリティのグラフィックが実現できた。

彼らはいずれも数年後にはリーダーとして活躍し、カプコンや業界を牽引するクリエイターになりうるかもしれない。
そんな大きな展望を感じさせる頼もしいメンバーと共に開発できることに、岡野は武者震いすら感じる思いであった。

かつて「スマート」の開発が発表されたとき、多くのユーザーから「スマホでモンハン?」というネガティブな反応があったことを岡野は知っていた。だからこそ、「エクスプロア」として再開発する以上は、世間の度肝を抜くものにしたい。

「このチームでなら、それが叶えられる」。岡野は確信していた。

リリースを間近に控え
岡野は苦渋の決断を下す。

順風満帆に見えた「エクスプロア」の開発だったが、2014年11月の配信開始を控えてチーム内に重い空気が漂っていた。UI周りの快適さ、アクションの爽快感など、自分たちが納得できるレベルに達していなかったのだ。何よりもクリアすべき課題のひとつ「4人マルチプレイの完全同期」の目処が立っていなかったのが大きな問題だった。

「納得できるものをリリースするには配信開始を延期するしかない」そう決断した岡野は、山本のもとへ向かった。

「山本さん、非常に申し訳ないんだけど……」
「ウリになるマルチプレイが今の状況だと延期は避けられないですね…。どれくらい延期すれば納得いくものにできそうですか?」
「……1年くらいかな」と岡野。しかし、その言葉は山本の想像の範囲内だったようだ。「じゃあ、その方向で上に掛け合ってみます」

1年の延期がどれほど重大なことか、もちろん山本にはわかっている。ただ、このチームが今のまま配信することを良しとしないのも理解していた。自分もゲーム内のクレジットに名を連ねるひとりだ。おもしろい作品にするためなら、最大限の努力をしたい。
「それが運営プロデューサーである自分の役割だ」
誰よりもクリエイターの想いを汲んでいた山本。何とか上層部の許可を得て、開発期間を1年延長することが決定した。

「『スマート』から数えて、随分と長くなってしまったな」
待っていてくれたユーザーも多かっただけに、申し訳ない気持ちが岡野の胸に溢れた。

しかし、今度こそもう後はない。次は絶対にユーザーも会社も待ってはくれない。1年後の配信開始を見据えて、前を向き直す岡野だった。

4人マルチプレイの完全同期と
新たなマネタイズの確立を目指して。

時間は経過し2015年。もともとゲームづくりへの意欲も、技術習得に対する貪欲さも桁外れだったこのチーム。時間的な猶予ができたことでUI周りの快適さ、アクションの爽快感を納得できるレベルまで引き上げることができた。

マルチプレイの完全同期に関しては最後まで難航したが、チーム内から様々な解決案が上がってきていた。
「今のサーバーは非同期プレイ前提の構成です。完全同期なら今のソースコードはすべて捨て、新しい技術を取りいれましょう!」
「通信量を減らすためアクションの同期方法を見直しました。これなら携帯端末でも快適にプレイできるはずです!」
こうした端末の性能差の問題も見据えた画期的なアイデアもあって、何とか「4人マルチプレイの完全同期」も実現。チーム全員が持てる技術と知識を駆使し、チャレンジを続けてきたことで、ようやく望む成果に辿り着くことができた。

最後の課題となるマネタイズについても様々な意見が交わされた。課金手法の王道は「ガチャで武器を手に入れる」というスタイルだ。しかしモンスターハンターは、モンスターを狩って武器を手に入れるゲーム。ガチャで武器が出てしまうと、モンスターを狩る動機がなくなってしまう。
「モンスターハンターとガチャの両立って、思った以上に難しいね」「じゃあ、いっそのこと『エクスプロア』と相性の良い課金の仕組みを考えてみようよ」

こうして導入されたのが「狩玉」という課金アイテムだ。使用することで討伐報酬を増加させたり、クエスト時にプレイヤーの能力を向上させたりすることができる。オートプレイの利用権入手にも使える点は、プレイが困難な状況で遊ぶことが多いスマホゲームならではだろう。
「ビジネスモデルとして完璧とは言えないけど、現時点では及第点かな」プロデューサーの杉浦は呟いた。
「エクスプロア」のマネタイズの『最適解』とは何か。現在も決して完璧なものとは言えない。
配信開始以降もカプコンとユーザーにとってwin-winとなるマネタイズの仕組みを模索する必要がある。

しかしゲームとしては、自分たちの総力を結集し最高のものをつくり上げることができた。その手応えは確かなものだった。
こうしてすべての課題をクリアした『エクスプロア』開発チーム。あとは配信開始の日を待つのみだ。

配信開始はスタート地点。
視線は既に次の目標に向かっていた。

――2015年9月。ついに「モンスターハンター エクスプロア」の配信が開始された。

サービス開始前、山本の効果的なプロモーションも功を奏し、事前登録者数はカプコンのタイトル最多となる30万件を突破していた。そして2016年1月現在において350万ダウンロードを達成、マルチプレイ襲来クエスト出発回数が1億回を超えるなど、「モンスターハンター エクスプロア」は記録ラッシュに見舞われている。

しかし、まだまだ課題はある。
ログインの動機付けとなる斬新なコンテンツの開発。自社・他社を問わず様々なタイトルとのコラボレーション展開。「エクスプロア」と相性の良いマネタイズの模索。さらには「16人マルチプレイで遊べるコンテンツの実現」という大目標も掲げている。未来に向けてやるべきことは尽きない。

「それでも、自分たちならやり遂げられる」
確信に似た想い。今日も「エクスプロア」の開発チームは全員一丸となって、次の到達点を目指し力強く歩んでいる。
業界最高水準のスマートフォンアプリを作りたい!そんな心意気を持つクリエイターをエクスプロアチームは求め続けている。