成歩堂:それにしても、驚いたよ。まさかお前が“卒業”なんてさ。
矢張:専門学校の《パティシエ養成2年コース》‥‥めでたく卒業だぜ!
御剣:いや、それよりも驚いたのは、卒業と同時に留学を決めたことだ。
矢張:やー。カノジョに言われちゃって。『ヤッパリくんてぇ、パリのケーキ屋? 修行に行っちゃえばいいと思うのぉ』なんてさァ!
成歩堂:‥‥それって、遠回しな“別れ話”なのでは‥‥
矢張:それで、決めちゃったワケ。《クリーム・ド・マミレッタ》パリ本店に住みこみ修行!
真宵:はああ‥‥ヤッパリさん、なんでもできちゃうんですねー。
矢張:そんなワケで。お前らとこうして毎年恒例の花見をするのも、しばらくお別れよなー。
真宵:ううん、寂しくなりますねー。“住みこみ”なら、しばらく会えないし。
御剣:いや。ひょっとしたら、もう一生帰らないかもしれないが。
成歩堂:今までありがとな、矢張。
矢張:‥‥‥‥‥‥‥‥やっぱり。行くのやめようかなあ。
成歩堂:行く前からホームシックになるなよ‥‥
矢張:あ! ところで、話はゼンゼン違うケド。
御剣:なんだ。
矢張:知ってるか? 桜の木の下には死体が埋まってるらしいぜ。
成歩堂:‥‥たしかに、話がゼンゼン違うな。
真宵:まあ。たまに聞きますよねー、そのフレーズ。
矢張:ちょっくら、掘り返してみようぜ! ここ、土が盛り上がってるし‥‥なんか出てくるかも。
成歩堂:お‥‥おいおい、そこはやめておけよ‥‥
矢張:あああああああッ!
真宵:ど、どうしました? 出ました? 死体。
矢張:いや‥‥コイツは‥‥オモチャの“宝箱”か。
真宵:おおお? ヤッパリさん、開けて開けて!
矢張:んんん? 中からナゾめいた手紙が出てきたぞ。
真宵:貸して貸して! えーと。読んでみますね。
『よお、1年後のオレ、元気か? オレは死んでる。
パティシエ養成コース卒業おめでとう! 矢張政志』
成歩堂:‥‥‥‥‥‥‥‥
御剣:‥‥‥‥‥‥‥‥
矢張:なんだよコレ! オレ‥‥死んでるじゃねえか!
成歩堂:‥‥‥‥‥‥‥‥
御剣:キサマ。ホントに覚えていないのか?
矢張:はァ?
成歩堂:それは《タイムカプセル》だよ。
矢張:たいむかぷせるぅ‥‥?
御剣:未来の自分たちに向けて手紙を書き、思い出の品とともに箱に詰めて、埋める。
矢張:聞いたことねえぜ。
成歩堂:いやいやいや! 去年の花見で、お前が『やろうやろう』って騒いで、勝手に手紙を書いて勝手に埋めたんじゃないか。
矢張:えー? そうだったっけかなァ。
真宵:あたし、去年は倉院の里に帰ってたから知らなかったよ。
矢張:‥‥でもよぉ‥‥
御剣:なんだ。
矢張:じゃあこれ、どういうことよ。『オレは死んでる』って書いてあるぜ?
成歩堂:お前。去年の今ごろ、落ち込んでたからな。『どうやってもクリームが泡立たない』とか言って。
御剣:たしかに。ある種、死んでいたな。
矢張:‥‥それによぉ‥‥
御剣:なんだ。
矢張:1年前のオレが、どうして知ってるんだよ? オレが《パティシエ養成2年コース》を卒業したって!
成歩堂:恐らく‥‥1年前のお前は、2年コースの1年目を終えたトコロだったから、だろうな。
矢張:うううう‥‥1年前のオレってば、驚かせやがって‥‥殺す気かっての。怖ェよ!
御剣:私としては。そこまでキレイに忘れているキサマの方がコワいが。
真宵:じゃあ。じゃあ。セッカクだから、続きをやりましょうよ!
成歩堂:なに? “続き”って。
真宵:そりゃ《タイムカプセル》だよ。来年のあたしたちにメッセージを書くの!
矢張:おおお! それ、いいねマヨイちゃん!
御剣:‥‥コリない男だ。
成歩堂:いつか、1年前の自分に殺されかねないな。
矢張:はッはァ! その時ゃアその時よ!
真宵:そうなったら、ちゃんと桜の木の下に埋めてあげますから!
矢張:よーし! そうと決まりゃ、なにか書くコトねえか?
成歩堂:ええと‥‥来年といえば、2021年‥‥か。
真宵:やっぱり。あたしたちとしては、《逆転裁判》発売20周年おめでとう! ‥‥これでキマリでしょ!
成歩堂:ああ、なるほど。それがあったか。
矢張:‥‥でもよぉ‥‥
御剣:なんだ!
矢張:来年、掘り起こすの忘れたら、ちょっとセツなくないか? ‥‥オレ、なんでも忘れちまうし。
真宵:うううん。そうですねえ‥‥
成歩堂:それはそれでいいんじゃないかな。
真宵:え。
成歩堂:先のことなんて、誰にも分からないからね。1年前のお前だって、まさか1年後、パリに旅立つなんて思わなかっただろ?
矢張:たしかになー。ホント、分からねえモンよなー。
御剣:桜の花は毎年咲くが、それはすべて違う桜だ。出会いも別れも、いつ訪れるか‥‥我々には分からない。来年また、ここで会えるかどうかもな。
成歩堂:大事なのは、今。こうしてぼくたちがここにいて、くだらないことを書いて、それが“思い出”になる‥‥その事実だよ。
矢張:‥‥考えてみれば。来年の思い出には‥‥オレ、いないんだよなァ。
真宵:まあ、こっちはこっちで勝手に掘り起こしますから、気にせず行っちゃってください!
御剣:来年と言わず、もう一生帰らないかもしれないが。
成歩堂:今までありがとな、矢張。
矢張:‥‥‥‥‥‥‥‥あのさ。
御剣:なんだ。
矢張:お前らが、どぉぉしても『行くな』って言うのなら。オレ、考えなおしてもいいんだぜ?
成歩堂:‥‥めんどくさいな。
矢張:あ、そうだ! オレ、行くのやめるわ!
御剣:なんだと‥‥?
矢張:考えてみたら。駅前に《クリーム・ド・マミレッタ》の支店があるし。
成歩堂・御剣:いいから行って来い!
真宵:そして。またいつか、ここで会いましょうね!