Before father’s grave.

アベルの記憶は、5年前から始まっている。

最初の記憶は炎と煙だ。
崩れ落ちていく建物を、誰かの腕に支えられながら駆け抜けていた。
そして、追いかけてくる何者かを打ち払う、鋭い技の軌跡・・・。

アベルを引き取ってくれた傭兵部隊の隊長は、
彼を救い出したのは自分の友人だと教えてくれた。
「あいつはおまえを助け出してからしばらくして、行方不明になっちまった」
アベルにとっては父親代わりでもあった隊長は、普段は明るく豪快な男だったが、
自分の過去を知りたがるアベルにこの話をする時だけは、
なぜかひどく深刻な面持ちで、 最後にこう付け加えるのが常だった。
「いいか、アベル。シャドルーには近付くな。奴らは危険だ。関わるんじゃない」
黙ってうなずくものの、アベルは自分の過去を知りたいという、
なかば本能に近い欲求を完全に消し去ることはできなかった。
自分はどこで生まれたのか。誰に育てられたのか。どんな暮らしをしていたのか。
どこから救出されたのか。いや、そもそも、あれは本当に“救出”だったのか・・・?

考えれば考えるほど溜まっていく、見えない過去への不安とフラストレーション。
アベルは、ただじっと耐えていた。

ある暑い夏の日に、隊長は死んだ。
勇猛で鳴らした傭兵部隊の隊長にふさわしい、いい死に方だったと誰もが言い、
誇りを持てとアベルの肩を叩いた。
葬式が終わり、参列者がみな帰っていった後、
アベルは真新しい隊長の墓の前に立っていた。
墓石にはかわいらしい花輪がかけられ、
その前にもあふれんばかりの花束がたむけられており、
隊長の人望の厚さを言葉より雄弁に物語っていた。
アベルは、口を一文字に結び、墓石に刻まれた隊長の名前を見つめていた。

・・・記憶や家族が無くても、孤独ではなかった。
隊長や傭兵部隊の仲間が、いつだって傍にいた。
ともに食い、ともに寝て、ともに戦った。
ともに笑い、ともに怒り、時に泣いた。
そこには、間違いなく絆があった。
まっさらだったアベルの心にはぎこちないながらも感情が芽生え、
そして今、彼は未来へ向かって生きる喜びを感じ始めていた。
しかし、どんなに絆が強くても、どんなに未来が明るくても、
己の過去を知りたいという強い願いは消えることはなく、むしろ募るばかりだった。

「・・・なあ、父さん。あんた、なにを知ってたんだ?」
自分でも気づかぬうちに、アベルは墓石に向かって問いかけていた。
ふいに風が吹き、花びらが舞った。顔をあげると、
すでに日がとっぷりと暮れかけている。
「『シャドルーには近付くな』、か・・・」
つぶやいて、アベルは静かに目を閉じた。
もう、自分の過去を知る手がかりはこれしかない。
「すまない、父さん」
アベルは墓に向きなおって頭を軽く下げると、踵を返して歩き始めた。

必ず戻ってくる。
どんな真実が、この胸を貫いたとしても。

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