Prologue9(ベガ)

それは外側から見るとただの研究施設だった。
人気のない山奥に建てられた箱型の建築物で、学校にしては窓が少なく、
病院にしては人の出入りが無い。
先週バルログを追跡したチームは、長い尾行ののち、
最後に車がこの建物に入ってゆくのを確認した。
捜査班は色めきたった。初めてシャドルーの手がかりとなりそうな場所が見つかったのだ。
しかしその後の状況は良いものではなかった。
調べても調べてもこの場所に関する情報は何も見つからず、
内部がどうなっているか知るすべもない。
シャドルーの影響がまだ上層部にも残っているせいか、
具体的な証拠がなければ強行突入の許可を得るのも難しい、
ここは静観するしかないと、彼らの上司は言った。
男を含む捜査員たちは激しく抗議した。
今こうしている間にもシャドルーは拠点を移してしまうかもしれない。
そうすればまた捜査は振り出しだ。多少の危険を冒しても内部へ潜入し、
決定的な証拠を掴むべきではないか。
そんな中、捜査班は一人の研究員らしき男が施設から出てきたのを発見した。
短い打ち合わせのあと彼らはその研究員を捕まえ、IDと制服を奪った。
そうして男は今ここにいる。
建物の中は外部の印象と同じく、ひどく静かだった。職員もめったに見ない。
IDと制服のせいで誰に見咎められることもなく、男はひたすら奥を目指した。
廊下の突き当たりはエレベーターだった。
ためらうことなく乗り込み、ボタンを確認する。
地階のボタンが地上のそれよりもずっと多いことを確かめて、男はにやりと笑った。
ここがシャドルーの拠点のひとつなら、地上の建物はただの見せ掛けで、
地下にこそ基地の重要な部分があるはずだという予想は、どうやら当たっていたらしい。
彼は最下層のボタンを押した。
エレベーターを降りると、目の前には巨大な水槽がいくつも並んでいた。
暗い部屋の中で、緑色の光に照らされた水槽だけが明るい。
ここにも人の姿はなかった。
不意に不安が湧き上がった。これだけの施設にしては、
いくらなんでも人がいなさ過ぎる。それにたとえIDがあったとしても、
チェックも薄すぎた。この潜入は、うまく行き過ぎてはいないか?
「スマルト・レイヴンだ。最下層に着いた。地上の様子はどうだ?
……おい、聞こえるか?おい!」

男は襟元につけた通信機に向かって話しかけた。だが聞こえるのはノイズだけだ。
小さく舌打ちした男は、不意に聞こえてきた声に身を強張らせた。
――お前たちはどこの狗だ?あの人形の部下か?
「なっ、なんだ?」
周りを見回しても、どこにも人影はない。
だが声はすぐ耳元で聞こえているかのように鮮明だった。
――まあ答える必要はない。お前の頭に直接聞けばすむことだ。
そのために呼び寄せたのだからな。

うろうろとさまよっていた男の視線が、真正面の水槽の中に向けられた。
その目が大きく見開かれる。
「ベ、ベガ!?まさか、……あ、ぐあああああああああっ」
男の言葉は途中から悲鳴に変わった。
水槽から放たれた紫色の光に包まれた男の体が何度か痙攣し、やがて床に崩れ落ちる。
男を包んでいた光はひとつに収縮し、水槽の中へと戻った。
――ふん、そういうことか。
ゆらゆらと動く液体の中で、光を吸収したベガは不敵な笑みを浮かべた。
――我が野望を遮るものはどんな雑魚とて容赦はせん。
お前たちも、……あの人形もな!

もはや動かない男の上で、ベガの笑い声だけが暗闇に広がっていった。

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