Prologue12(ガイル)

「面白い話はない?」
唐突な声に目をやると、助手席に座っている春麗がふわぁ、
というような声を上げて口を開けていた。
「……これ、さっきから5回目のあくびなの。話してないと寝ちゃいそう」
つられてあくびをしそうになって、ガイルは苦笑した。
窓の外を見ると、空の色が明るくなり始めている。とうとう徹夜だ。
「確かに。俺たちの稼業には付き物とはいえ、待っているだけってのは眠くなるな」
「何かないの?軍隊生活の面白話とか」
「さあな。3分派手にやって、3時間報告書を書く。
その繰り返しだ。ICPOだって似たようなもんだろう」

「そうだけど…、でもいくら鬼のガイル少佐とはいえ、
昔は友達とバカなことくらいしたでしょう?
そうだ、友達といえば、ナッシュとはどこで知り合ったの?」

「言ってなかったか?牢屋だ」
「牢屋?…それは変わってるわね」
「まだ若造のとき、ヘマをして敵に捕まったことがある。
そのとき救出に来たのが、ナッシュだったんだ」

春麗はへえ、と目を丸くして、それから吹き出した。
「なんだ?」
「ふふ、ごめんなさい。聞いておいて悪いんだけど、
あなたたちの若い頃って想像つかなくて」

ガイルは肩をすくめた。
「悪いが別に普通だったぞ。
…そうだな、あいつは人の表情や仕草を読むのが上手くて、
カードじゃ誰も勝てなかった。俺はダーツで取り返してたが…」

話していると、あの頃溜まり場になっていたバーの光景が浮かんでくる。
周囲で酔っ払いがどんな騒ぎを起こしていても、
眉ひとつ動かさずにカードを配っていた男――。
その姿を思い出すのは随分久しぶりだった。
もうずっと長い間、ナッシュのことを思い出すのは、
彼が行方不明になったときのことばかりだったのだ。
ふと、かすかに音が聞こえた。
「来た」
呟くと、隣の春麗も頷く。
眠気も疲れも、蘇りかけた昔の風景も、すべてが一瞬で消え失せる。
ガイルは大きくなるエンジン音だけに耳を澄ました。
やがて一台の車が姿を現し、目の前の建物へと吸い込まれていく。
ちらりと見えた横顔は、一晩待ち続けた男のものだった。
「間違いない、ヤツだ」
二人は車を降りて、建物を見上げた。
「つまりここがS.I.N.の秘密基地というわけだ。準備はいいか?」
「もちろん」
歩き出した春麗が急に立ち止まる。ガイルは振り返った。
「どうした、春麗」
「ねえ、さっきの話面白かった。これが終わったら続き聞かせてね。若い頃のバカの話」
いたずらっぽく言って走っていく後姿を見送って、ガイルはにやりと笑った。
「そうだな」
呟いて走り出す。
たまにはあの日々を思い出すのも悪くない――。

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