Prologue11(キャミィ)

キャミィは草陰に潜んで移動していた。息を殺し、瞬きさえほとんどしない。
どんな小さなものであれ、イレギュラーな動きがひとつでもあれば、
たちまち相手の警戒心を呼び起こしてしまうことは、
ここ数週間の苦い経験から学習済みだ。
たった数メートルの距離を1時間近くかけて進み、
ようやく手の届く範囲にターゲットが見えた。
勝手に高鳴った鼓動が相手に聞こえてしまいはしないかと、思わず身を低くする。
草の間から、柔らかそうな薄い色の毛が見えた。
そっと手を伸ばす。
あと少し――。
「キャミィ?」
「わっ」
背後から聞こえた声に思わず肩が揺れ、声が出た。
途端、目の前の草むらからぴょんと小さな猫が飛び上がり、
ニャアと鳴いてたちまち姿を消す。
指先をすり抜けた毛皮の感触にため息をつき、キャミィは立ち上がって振り向いた。
「……何か御用でしょうか、ウルフマン大佐」
「そ、そんな目で見るな、キャミィ」
恨みのこもったまなざしに気圧されたように、キャミィの上司ウルフマンが後退さった。
「私はただ、みんなに頼まれてだな……」
「みんな?」
キャミィはきょとんとして瞬いた。
まったく心当たりの無さそうな表情に、ウルフマンがため息をつく。
「ああ。みんなお前を心配していたんだぞ、キャミィ。――とりあえず場所を移さないか?」
キャミィの潜んでいた草むらから道を挟んだ向かい側にある公園のベンチに、
二人は腰をかけた。
「それで大佐、心配ってなんですか?」
「つまりな、お前最近えらく早く帰るようになっただろう?
今までなら自主訓練だなんだと居残っていたのに」

「はい」
「それに妙にいきいきして楽しそうだという評判だ。時々思い出し笑いまでしているとか」
「…はい」
それがなんなの、と書いてあるような顔に、とうとうウルフマンが吹き出した。
「だからな、キャミィ。とうとうお前に恋人ができたんじゃないかって、
隊中の噂になっているんだ」

「こっ、恋人!?」
「ずいぶん毛の多い恋人だな、キャミィ」
ウルフマンは笑いながら、指先でキャミィの額を軽く突いた。
「悪い男だったらどうしようだの、一度相手を締めとくべきじゃないかだの、
あまりみんなが気にしているので、私が代表して様子を見に来たというわけだ。
――まあ、こんなことだろうと思っていたがな」

「も、申し訳ありません。私はただ、先月あの猫を見つけて、触ってみたくて……。
でもとても警戒心の強い子で……みんなにそんな心配をかけていたなんて……
あの、私……」

だんだん赤くなってうつむくキャミィに優しい目を向けて、ウルフマンは立ち上がった。
「気にするな。お前を心配するのはあいつらの勝手だ。
だが心配をかけたと思うなら、なるべく早くあの猫を手懐けてみんなに話してやるといい。ハンナ中尉あたりは動物好きだから喜ぶだろう」

ぱっと顔を上げたキャミィに、下手なウィンクをしてみせる。
キャミィの顔が大きくほころんだ。
「はい、大佐!」

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