Prologue8(バルログ)

通りがかったボーイが持っていた盆からシャンパンの入ったグラスを取って、
男は周囲を見回した。
フォーマルな装いに身を包んだ人々があちこちに数人ずつ固まり、談笑している。
一見どこにでもあるような上流階級のパーティだが、普通と少し異なるのは、
その会場にいた全ての人間が仮面をつけているということだった。
もちろん男も仮面をつけている。
仮面の穴から外を覗かねばならないせいで、視界が狭く落ち着かない。
着慣れないタキシードの襟の不快さもあいまって、
会場に入ったときからずっと居心地が悪くて仕方がない。
『――見つかったか?』
不意に耳元で声がした。仮面の中に仕込まれた超小型通信機からの声だ。
「いや、まだだ」
周囲に聞き取られないように小声で囁いて、男はもう一度周りを見回した。
「ここでヤツがシャドルーの手先と接触するって情報が本当なら、
そろそろ見つかってもいい頃なんだが。
…それにしても仮面舞踏会なんて、何の意味があるんだ?
金持ちの考えることはわからん」

『さあな。始終パーティばかりしてると、普通のパーティじゃ飽きちまうんじゃないのか?』
「おれは今日一日でもう飽きたぜ。…っと、見つけた」
男はさりげなく仮面の人々の間を縫って歩き始めた。
部屋の反対側、少し離れた場所に目指すターゲットらしき人影が佇んでいるのが見える。
「…身長6フィート強。長髪で髪を編んでる。蛇の刺青に仮面の模様も……
よし、資料と同じだ」

『どうやらビンゴだな、レイヴン。そいつがバルログだ』
スピーカーの向こうから聞こえてくる同僚の声が、少し興奮している。
先月バイソンを発見したのはよかったが、
そのあとのシャドルー残党に関する捜査は難航していた。
車の追跡に失敗した上に、
もう一人の幹部であったバルログの痕跡もまったく見つけられなかったのだ。
シャドルーグループのひとつに潜伏している工作員から送られてきた情報がなければ、今日のこの場所もわからなかっただろう。
グラスを持った手を胸元に上げ、カフスに偽装した小型カメラをつかって、
ターゲットの写真を撮る。
不意にバルログが顔を上げ、こちらを向いた。男は息を止めた。
一瞬白い仮面の奥の目と目が合ったような気がして、ぞっと寒気が走る。
何事もなかったかのようにバルログの仮面が他の場所へ向けられたあとも、
冷たい手がべったりと背中に貼り付いているような気分は残っていた。
『どうした?』
「今…、いや、なんでもない。画像を送るから、念のため照合してくれ」
『了解。すぐやるから待ってろ』
カフスの裏に隠したボタンを押して目を上げると、
バルログが傍らのドアへ入って行くところだった。
少し時間を置いて、地味なスーツの男がその後に続く。
「どうやらお迎えもご到着らしい。こっちから追うことはできると思うが、どうする?」
低く問いかけると、仮面の中のスピーカーがわずかに震えた。
『構わん。外の連中にやらせるから無理はするな。
―― それから照合結果が出たぞ。間違いなくバルログだ。
尾行に国中の衛星を使うことになっても、今度こそ絶対にアジトを突き止めてやる。
早く戻ってこい』

「わかった」
会場の出口に向かいながら、男は密かに勝利を噛み締めた。
先ほどの恐怖はもう消えていた。
――これで手がかりができた。次は必ず捕まえてやるぞ、ベガ。

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