Prologue15(アニメ版)

昼下がりのブリーフィングルームで、キャミィはその紙を見下ろした。
眉間にしわが寄るのがわかる。
この手の用語はどうしていつもこんなにわかりにくいのだろう。
「――つまり、電離層の擾乱現象に不審な点があるから調査をせよ、ということですか?」
「そのとおり。詳細なデータはいつもの場所にあるわ。
現象の起こった位置と範囲、持続時間、当該時間の太陽フレアの状態、
現地での報道のされ方……。
英国内のものだけでなく、ここ最近確認されたものはすべて網羅しているはず。
目を通しておいてね」

テーブルの向かいで小柄な女性、ハンナ中尉が微笑んだ。
「さてと、質問があるようね、キャミィ?」
キャミィは椅子の上で小さく身じろぎをした。

ハンナ中尉はキャミィの上司ウルフマン大佐の腹心であり、
作戦管理と後方サポートを一手に引き受けるデルタレッドの要でもある。
一見すると常に笑顔を絶やさない優しげな女性に見えるが、
その逆鱗に触れたら最後、二度と戻ってはこられぬ北海勤務に回されるという噂もあり、
部隊の中ではある意味、ウルフマンよりも恐れられている存在だ。
入隊した頃から世話になっていることもあり、
キャミィもハンナ中尉ばかりは頭が上がらない。

「質問というか……。この編成表、今回はいつものチームじゃないみたいですけど」
「そうよ」
「実戦部隊が直接現地を調べた方が効率的では?
デルタレッドが出るということは、大佐は……」

「そう、大佐はこの件の裏に『彼ら』の存在を疑っておられる」
ハンナ中尉の笑みが深くなる。
「だからこそよ」
中尉の指がマウスを数度クリックすると、机上のPCに数枚の画像とグラフが表示された。
グラフのいくつかはデータの一部が赤く塗られ、突出した数値を表している。
「例の現象の確認されたポイントが5箇所あることはさっき話したわね。
その内、一般的なデリンジャー現象の可能性があるものを除いたとしても、
最低2箇所では相当不自然なことが起こっているの。
現象の範囲、起こった時間、その影響の強さ……。
どれも通常の通信障害では説明がつかない」

唇に指を当て、キャミィはモニタを見つめた。
「人為的な何か……」
「ええ。それもかなり大規模なものよ。当然向こうも隠蔽工作はしているでしょうから、
手がかりの残っている可能性は低い。
そして何かが残っているとしても、どのポイントにそれがあるのか。
やみくもに動いて外れだったら、すぐに彼らに感付かれるだけでなく、
他の証拠まで消されてしまう可能性もあるわ」

モニタ内に新しいウィンドウが開いた。
世界地図の上に大小の光点が点滅している。ハンナ中尉は続ける。
「つまり、大佐は現時点では無理に実戦部隊を投入せずに、
次の現象が起こるまで待った方がいいと判断されたのよ。
すべてのポイントの監視を続けた上で、ね。
そういうわけでキャミィ、初の隊長任務よ。
あなたのチームには情報関係のスペシャリストを集めてあるわ。
常に新しい情報に目を配り、次の現象が起きたらすぐに対処して。
証拠が消される前にね」

キャミィはモニタから目を上げた。
「中尉、私は隊長なんて柄じゃ……」
「柄は関係ないわ、キャミィ。それにこれは他の隊員たちの推薦でもあるのよ」
「推薦?」
「前回のこともあるからわかるでしょうけど、
上層部はこの件の調査にいい顔はしてないの。
ここだけの話、大佐にも圧力がかかり始めている。
私たちも地下工作は続けているけど、すぐには指示が出せないことも多くなるわ。
ある程度は自分の判断で動いてもらわないといけないし、
むしろ関係者全員の予想を裏切るくらいの大胆な行動力が欲しい。
隊員たちによれば、そんなじゃじゃ馬はあなたしかいないということだったわ。
――ついでに言えば、大佐と私も同意見よ」

いたずらっぽく言って、上司よりよほど上手いウィンクを寄越す。
「まさか、みんなと一緒じゃなきゃ寂しいってわけでもないでしょう?」
開きかけた口を閉じ、キャミィは小さく苦笑した。
「中尉にはかなわないな……。――了解、任務を遂行します」
ハンナ中尉はショートカットを揺らし、にっこり微笑んだ。
「良いお返事よ。キャミィ」

本部を出たキャミィは、陽光の眩しさに足を止めた。
見上げれば、この国には珍しいほどの雲ひとつない晴天だ。
胸のうちをさまざまな思いがよぎっていく。
働きを認められた誇り、任務の重さに対する不安、新しい仕事への高揚。

ふと、戦いの中で出会った友人たちの顔が浮かんだ。
大きく息を吸い、キャミィは新しいチームの元へと歩き出しながら胸のうちで呟いた。
「春麗、ガイル、おまえたちに話したいことがたくさんできた。
今度会えるのはいつだろうな……」


――彼女はまだ知らなかった。その日は、意外にもすぐ訪れることを。

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