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File1:シリコンカビの発生=データサイド蔓延による世界の変貌

 人類は、バクテリア=細菌を研究し、有効活用することで、汚染された自然の浄化に役立てて来た。流出した原油を分解するもの、ダイオキシンに汚染された土を浄化するもの、さらには放射線物質を分解するバクテリアさえも発見された。化学薬品や農薬では到達できない、偉大なる自然の力。その大いなる力を利用するバクテリアの研究と開発は、我々人類にとって明るい未来を約束してくれるものに見えた。
 2015年。ある科学者によって新種のバクテリアが開発された。遺伝子操作によって生まれたそのバクテリアの目的もまた、ある種の浄化作用が期待され、それに応える力を持っていた。
 その新種のバクテリアは、プラスチックやポリエステルなどの石油から合成された高分子化合物を分解し、副産物として炭化水素を排出するというものだった。これまで、一度加工されたプラスチックなどの石油化合物は自然分解することができず、そのため再利用方法も限定的な状態であった。しかし、この新種のバクテリアは自然分解されない廃棄物を食べて、再び石油に近い物質を生むという、エネルギー問題の解決に一石を投じる大発見でもあったのだ。それはまさに、"夢のバクテリア"として、人類にさらに明るい未来を約束してくれるものと思われた。
 しかし、バクテリアの導入から5年後、事態は急変する。開発後、世間に蔓延する高分子化合物に多大な影響を与えてしまう可能性の高い新種のバクテリアは、研究施設で厳重に管理され、細心の注意を払って使用されていた。だが、新種のバクテリアが施設外に流出してしまう。
 それと時を同じくして、世界各国ではコンピュータをはじめとする精密機器が使用不能になるという事象が発生。電子機器が次々と使用不能となり、それに伴い、電子化に頼った経済や流通、生産などのシステムまでも次々と崩壊するという未曾有の危機が世界を襲い始めていたのだった。
 その原因こそ、流出した新種のバクテリアにあったのだ。バクテリアは、高分子化合物だけでなく、半導体にもその効果を及ぼすものに変容。コンピュータの中核であるシリコンチップを次々と分解し、その機能を完全に奪っていったのだ。シリコンを分解するその姿は、食物などに付着するカビのように見えることから、人類を脅威に導いた新種のバクテリアは、一般には"シリコンカビ"、そして後に、このバクテリアも、そして世界を終わらせた事件そのものも"データサイド"と呼ばれ語り継がれていった。
 その未曾有の危機は、自然の浄化作用を担うバクテリアによってはじまり、広がっていく脅威は、ついに人間社会自体が自然に浄化されはじめたかのようだった……。

File2:データサイドショック後の崩壊した世界

 シリコンカビ=データサイドは、すさまじいスピードでその猛威を拡大。世界の屋台骨とも言える、コンピューターネットワークや電子技術を駆使したインフラは微生物の力であっけなく終わりを告げる。
 大量生産で市場に現れる生産品の供給が止まり、コンピュータで管理される発電も停止。電子機器でコントロールされる自動車や列車、船、航空機なども使用不能となり、さらに情報を伝えるべきテレビやラジオ、インターネットなども途絶える。天変地異でも大地震でもなく、目に見えない微生物の力によって終わる世界。この時、人類は自分たちの社会がいかに脆弱なものだったのかを思い知るのだった。
 支えるべき骨格を失った世界各国の大都市は、またたくまにその機能を停止。世界は崩壊へと向かって動き始めた。物流が途絶えた都市部では、物品を求める民衆によって店舗は略奪が横行。さらに、人々は生きるための食料を求めて、大都市を逃れ、食料を自給自足させるべく農地の開拓などが行われた。その一方で局所的な暴動や支配が世界を覆い、自然と共にある原初的な領土が形成されていった。
 支えるべきものが無くなった状況では、"国"という概念さえも大きく揺らいだ。途絶した情報網と終わりを遂げたシステムは国家を維持することができず、20年という月日をかけて、"国"という言葉は意味を変えてしまうのだった。

関連年表

2015年XX月 プラスチックを食べ石油に近い物質を生む新種のバクテリアが発見される。
2020年05月 新種のバクテリアが研究施設から流出。半導体を分解する性質を持つバクテリアに進化
2020年08月 先進国を中心に、コンピュータ、電化製品など半導体を使用した電子機器が機能停止
2020年12月 対抗策を講じる前に、データサイドは世界的に蔓延。産業、経済が崩壊する。
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