2020年3月12日
連載ショートストーリー「成歩堂法律事務所の日常」

成歩堂法律事務所~桜の咲く季節

成歩堂:それにしても、驚いたよ。まさかお前が“卒業”なんてさ。

矢張:専門学校の《パティシエ養成2年コース》‥‥めでたく卒業だぜ!

御剣:いや、それよりも驚いたのは、卒業と同時に留学を決めたことだ。

矢張:やー。カノジョに言われちゃって。『ヤッパリくんてぇ、パリのケーキ屋? 修行に行っちゃえばいいと思うのぉ』なんてさァ!

成歩堂:‥‥それって、遠回しな“別れ話”なのでは‥‥

矢張:それで、決めちゃったワケ。《クリーム・ド・マミレッタ》パリ本店に住みこみ修行!

真宵:はああ‥‥ヤッパリさん、なんでもできちゃうんですねー。

矢張:そんなワケで。お前らとこうして毎年恒例の花見をするのも、しばらくお別れよなー。

真宵:ううん、寂しくなりますねー。“住みこみ”なら、しばらく会えないし。

御剣:いや。ひょっとしたら、もう一生帰らないかもしれないが。

成歩堂:今までありがとな、矢張。

矢張:‥‥‥‥‥‥‥‥やっぱり。行くのやめようかなあ。

成歩堂:行く前からホームシックになるなよ‥‥

矢張:あ! ところで、話はゼンゼン違うケド。

御剣:なんだ。

矢張:知ってるか? 桜の木の下には死体が埋まってるらしいぜ。

成歩堂:‥‥たしかに、話がゼンゼン違うな。

真宵:まあ。たまに聞きますよねー、そのフレーズ。

矢張:ちょっくら、掘り返してみようぜ! ここ、土が盛り上がってるし‥‥なんか出てくるかも。

成歩堂:お‥‥おいおい、そこはやめておけよ‥‥

矢張:あああああああッ!

真宵:ど、どうしました? 出ました? 死体。

矢張:いや‥‥コイツは‥‥オモチャの“宝箱”か。

真宵:おおお? ヤッパリさん、開けて開けて!

矢張:んんん? 中からナゾめいた手紙が出てきたぞ。

真宵:貸して貸して! えーと。読んでみますね。
『よお、1年後のオレ、元気か? オレは死んでる。
パティシエ養成コース卒業おめでとう! 矢張政志』

成歩堂:‥‥‥‥‥‥‥‥

御剣:‥‥‥‥‥‥‥‥

矢張:なんだよコレ! オレ‥‥死んでるじゃねえか!

成歩堂:‥‥‥‥‥‥‥‥

御剣:キサマ。ホントに覚えていないのか?

矢張:はァ?

成歩堂:それは《タイムカプセル》だよ。

矢張:たいむかぷせるぅ‥‥?

御剣:未来の自分たちに向けて手紙を書き、思い出の品とともに箱に詰めて、埋める。

矢張:聞いたことねえぜ。

成歩堂:いやいやいや! 去年の花見で、お前が『やろうやろう』って騒いで、勝手に手紙を書いて勝手に埋めたんじゃないか。

矢張:えー? そうだったっけかなァ。

真宵:あたし、去年は倉院の里に帰ってたから知らなかったよ。

矢張:‥‥でもよぉ‥‥

御剣:なんだ。

矢張:じゃあこれ、どういうことよ。『オレは死んでる』って書いてあるぜ?

成歩堂:お前。去年の今ごろ、落ち込んでたからな。『どうやってもクリームが泡立たない』とか言って。

御剣:たしかに。ある種、死んでいたな。

矢張:‥‥それによぉ‥‥

御剣:なんだ。

矢張:1年前のオレが、どうして知ってるんだよ? オレが《パティシエ養成2年コース》を卒業したって!

成歩堂:恐らく‥‥1年前のお前は、2年コースの1年目を終えたトコロだったから、だろうな。

矢張:うううう‥‥1年前のオレってば、驚かせやがって‥‥殺す気かっての。怖ェよ!

御剣:私としては。そこまでキレイに忘れているキサマの方がコワいが。

真宵:じゃあ。じゃあ。セッカクだから、続きをやりましょうよ!

成歩堂:なに? “続き”って。

真宵:そりゃ《タイムカプセル》だよ。来年のあたしたちにメッセージを書くの!

矢張:おおお! それ、いいねマヨイちゃん!

御剣:‥‥コリない男だ。

成歩堂:いつか、1年前の自分に殺されかねないな。

矢張:はッはァ! その時ゃアその時よ!

真宵:そうなったら、ちゃんと桜の木の下に埋めてあげますから!

矢張:よーし! そうと決まりゃ、なにか書くコトねえか?

成歩堂:ええと‥‥来年といえば、2021年‥‥か。

真宵:やっぱり。あたしたちとしては、《逆転裁判》発売20周年おめでとう! ‥‥これでキマリでしょ!

成歩堂:ああ、なるほど。それがあったか。

矢張:‥‥でもよぉ‥‥

御剣:なんだ!

矢張:来年、掘り起こすの忘れたら、ちょっとセツなくないか? ‥‥オレ、なんでも忘れちまうし。

真宵:うううん。そうですねえ‥‥

成歩堂:それはそれでいいんじゃないかな。

真宵:え。

成歩堂:先のことなんて、誰にも分からないからね。1年前のお前だって、まさか1年後、パリに旅立つなんて思わなかっただろ?

矢張:たしかになー。ホント、分からねえモンよなー。

御剣:桜の花は毎年咲くが、それはすべて違う桜だ。出会いも別れも、いつ訪れるか‥‥我々には分からない。来年また、ここで会えるかどうかもな。

成歩堂:大事なのは、今。こうしてぼくたちがここにいて、くだらないことを書いて、それが“思い出”になる‥‥その事実だよ。

矢張:‥‥考えてみれば。来年の思い出には‥‥オレ、いないんだよなァ。

真宵:まあ、こっちはこっちで勝手に掘り起こしますから、気にせず行っちゃってください!

御剣:来年と言わず、もう一生帰らないかもしれないが。

成歩堂:今までありがとな、矢張。

矢張:‥‥‥‥‥‥‥‥あのさ。

御剣:なんだ。

矢張:お前らが、どぉぉしても『行くな』って言うのなら。オレ、考えなおしてもいいんだぜ?

成歩堂:‥‥めんどくさいな。

矢張:あ、そうだ! オレ、行くのやめるわ!

御剣:なんだと‥‥?

矢張:考えてみたら。駅前に《クリーム・ド・マミレッタ》の支店があるし。

成歩堂御剣:いいから行って来い!

真宵:そして。またいつか、ここで会いましょうね!

関連記事

逆転おみくじ逆転おみくじ