2020年2月13日
連載ショートストーリー「成歩堂法律事務所の日常」

成歩堂法律事務所のバレンタイン

御剣:やあ、すまない成歩堂。少し遅れてしまったようだ。

成歩堂:‥‥‥‥‥

真宵:‥‥‥‥‥

春美:‥‥‥‥‥

御剣:(‥‥なんだ、このケンアクな空気は‥‥)

成歩堂:ああ、御剣。約束は3時だったな。で、今は‥‥3時5分、か。

御剣:(まさか。その5分の遅れが、この空気の原因だというのか‥‥?)

春美:あ、あの。コチラ、よろしかったらどうぞ召しあがれ。

御剣:おお。ヨーカンはキライではない。いただくとしよう。

春美:あ。よろしければ。コチラも一杯、熱いうちにお飲みくださいな。

御剣:おお。これは、薫り高い‥‥‥‥‥‥

成歩堂:どうかしたか?

御剣:いや。私としては‥‥ここは当然、ヨーカンに合う濃いお茶か、ニガいコーヒーをいただけるものと思ったのだが。

成歩堂:思ったのだが?

御剣:まさか‥‥ここで“おしるこ”が出てくるとは思わなかった。

成歩堂:ほら! 聞いたかい真宵ちゃん! “おしるこ”だってさ!

真宵:だから言ったでしょ! 『理論的には』って!

春美:ああ‥‥おふたりともケンカはやめてください。すべては、わたくしのせいで‥‥

真宵:いーや。はみちゃんのせいじゃないもん。

成歩堂:ぼくのせいだって言うのかよ!

真宵:じゃあ誰のせいだって言うのよ!

御剣:取り込み中、申しわけないが‥‥そろそろ聞かせてもらいたい。私は今日、なぜ、ここに呼ばれたのか。

真宵:みつるぎ検事。今日、なんの日かわかりますよね?

御剣:今日‥‥は、2月14日。いわゆる『バレンタインデー』だが‥‥

真宵:ホラ。あたしだって“女の子”ですから。気合い入れて作ろうと思ったワケですよ。いわゆる『手作りチョコレート』を。いっそ豆から。

御剣:それは、見上げたココロがけだ‥‥って。“マメから”?

春美:はい! わたくしが『マメから作るチョコレート』の作り方を調べて、真宵さまとココロをこめて、こしらえました!

御剣:そ‥‥それは、ご苦労なことだった。

真宵:それなのに! なるほどくん、それを昨日、つまみ食いしちゃったんですよ!

御剣:な。なんだと! “つまみ食い”‥‥?

成歩堂:だから、悪かったって言ってるじゃないか。でも、そもそも‥‥

真宵:“女の子”としては。バレンタインデーのお茶の時間、日頃お世話になってるみつるぎ検事も招待して『さあ、召しあがれ!』ってやりたかったワケじゃないですか。それなのに、なるほどくんときたら!

成歩堂:だから、悪かったって言ってるだろ。でも、そもそも‥‥

御剣:‥‥成歩堂。まさか貴様、ゼンブ食べてしまったのか?

成歩堂:いやいや、ほんのヒトクチだよ! トンでもない量だったし。

御剣:それでは、残りのチョレートは、どこに‥‥?

成歩堂:‥‥おまえの目の前の、“それ”がそうだよ。

御剣:‥‥‥‥‥‥は?

真宵:あ。ちょっと甘すぎたかもしれませんけど、一生懸命に作ったんですよ!

御剣:‥‥‥‥‥‥‥‥

真宵:固すぎると風味が落ちちゃうから。そのへん、こだわってみました!

御剣:いや、そういうことではなく。‥‥これはどこからどう見ても味わっても、ヨーカン‥‥

真宵:それはホラ。あたしだって“はじめて”ですから! 最初からカンペキにはできないし。

御剣:むうううう‥‥むむ。

成歩堂:ちなみにそれ、どんなレシピだったの?

春美:ええと。‥‥『まず、カカオ豆をよい香りになるまで煎るべし』

真宵:でもさ。いきなり“カカオ豆”なんて言われても困るよねー‥‥スーパーには売ってないし。

成歩堂:はあ。

真宵:だから、かわりのマメにしたの。こないだ“あんころもち”作ったときにあまったヤツがあったから。

成歩堂:アズキじゃないか!

真宵:で、いい香りになるまで煮こんだワケ。

春美:あ‥‥いえ、真宵さま。“煮る”ではなく“煎る”だったのですけど。

真宵:あれ、そうだったの? ‥‥それで、次はなんだっけ?

春美:はい。『よくスリつぶし、練りあげ、砂糖とカカオバターを混ぜて冷やすべし』‥‥です!

真宵:うん! だから、スリ潰して、練りあげて、冷やしたワケ。砂糖と寒天を混ぜて‥‥

成歩堂:待った! ‥‥“かんてん”‥‥?

真宵:マッタク。いきなり“カカオバター”なんて言われても困るよねー‥‥でも、こないだ“ミルク寒天”作ったときにあまったヤツがあったから。

御剣:着実にできあがっていくな‥‥“練りヨーカン”が。

成歩堂:そりゃ、つまみ食いもするだろ? まさかそれが、バレンタインのチョコだとは思わないし。

真宵:うううう‥‥

春美:わたくしが悪いのです。『なんだか違うような』とは思いつつ、どうしても言い出せなくて‥‥

真宵:まあ、あたしもね。『絶対コレ、違うよね』とは思いつつ、なんだか引っこみがつかなくて。

成歩堂:ぼくとしては。『そこで引っこんでくれればよかった』としか言いようがないね。

御剣:‥‥ちなみに。この“おしるこ”はなんなのだろうか。

成歩堂:いや。これがチョコだって言い張るから、つい言い争いになってさ。

春美:なるほどくんが『じゃあ、コーヒー豆のかわりにアズキを砕いてお湯で煮出したらコーヒーになるのか』とおっしゃって。真宵さまが『理論的には、かぎりなく近いものになるはずだ』と‥‥

真宵:ちぇー。みつるぎ検事ならダマせると思ったのになあ。

御剣:‥‥なぜ、そこまで見くびられているのだ。私の味覚は‥‥

真宵:まあ、そんなワケで。まだたくさんありますから、たんと召しあがれ。その、ヨーカ‥‥あややチョコを。

成歩堂:おかわりもあるぞ。その、おしる‥‥いやコーヒーも。

御剣:‥‥結局。私は何を食べ、何を飲まされに来たのだ。

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