綾辻行人×巧 舟 スペシャル対談!

『大逆転裁判』のディレクター・巧 舟と
新本格ムーブメント(推理小説)の第一人者である綾辻行人さんに、
『大逆転裁判』をプレイしながら語り合っていただきました。

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綾辻行人(あやつじ・ゆきと)
1960年京都府生まれ。京都大学教育学部卒業、同大学院博士後期課程修了。1987年、在学中に『十角館の殺人』で衝撃的なデビューを果たし、いわゆる「新本格ムーブメント」の契機となる。92年『時計館の殺人』により第45回日本推理作家協会賞を受賞。2009年発表の『Another』は本格ミステリとホラーを融合したエンタテインメントの傑作として絶賛を浴び、TVアニメと実写のW映像化も好評を博した。近著に『深泥丘奇談・続』『奇面館の殺人』『Another エピソードS』などがある。

インタビュー・構成:田中 裕
撮影:有本真紀

綾辻  初めて『逆転裁判』をプレイしたのが、もう何年前のことになるのかなあ。たしか『4』が出るちょっと前くらいだから、2007年だと思うんですが。評判を聞いて遊んでみて、予想していたよりもずっと〝本格ミステリ度〟が高いので驚いたというか、感心しました。法廷ものというと普通、ちょっと面倒くさくて地味なイメージがあるのに、裁判のルール自体を思いきって単純化して、ゲームならではのアクティブでエキサイティングな〝論理バトル〟が楽しめるようにできている。これを作った人はきっとすごくミステリがお好きなんだなと思って、嬉しくなったものでした。その後、巧さんのお名前を知って、どういう人物なのかを伝え聞いて……初めてリアルでお会いしたのが一昨年の夏でしたね。大阪で開催された「ミステリーナイト」(註:イーピン企画制作の参加型本格推理イベント)の会場で、たまたま。今日はこうして改まって対談を、ということで、たいへん楽しみにしてきました。

  大学のときからずっと綾辻さんの作品を読みつづけていた僕としては、夢のような話です。

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綾辻  シリーズ最新作となる今回の『大逆転裁判』ですが、注目すべきポイントは?

  まず、ホームズが登場すること(笑)。また、新しく陪審員制度を採り入れてみました。凄腕のライバル検事の力で有罪に傾いている陪審員たちを、論理的に説得するところがカギです。

綾辻  前作までと違って時代は一九世紀末、主要な舞台はロンドンなんですね。そもそも「逆転」シリーズはずっと近未来を舞台としていたのが、今度は過去です。いろいろと気を遣う問題が多くて、苦労されたのでは?

  苦労というか、気苦労はたしかに多かったかもしれません。いろいろ調べあげて――まあ無視する部分もありましたけど――いつもの「逆転」のイメージを崩さないようにすることに腐心しました。

綾辻  そもそもミステリを読みはじめたのは、ホームズからだったんですか?

  ああ、僕の場合は実はモーリス・ルブランのルパンからなんです。『ルパン対ホームズ』ではいわゆる敵役だったから、最初は……(笑)。

綾辻  僕も子供のころ、最初に読んだのはルパンだったんですよね。

  綾辻さんはどの作品からホームズの世界に入ったのですか?

綾辻  少年版で出ていた『赤毛連盟』だったかな。ルパンや、江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズをどんどん読みながら、たまにホームズも読むという感じで。中学のころには文庫版で全作、読みましたけれど。ともあれ、ホームズは世界一有名な「大探偵」ですからね、古今東西たくさんのパスティーシュが書かれています。日本の小説作品だと、僕の場合、真っ先に思い浮かぶのは山田風太郎さんの『黄色い下宿人』ですが。

  ホームズがいろんな人に書かれるのはそれだけ魅力的なんですよね。島田荘司さんもホームズがお好きだとか。

綾辻   『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』というホームズものの傑作を書いておられますね。そういえば、最初に『逆転裁判』をプレイしたとき、「おっ」と思ったのはやっぱり、「DL6号事件」(『逆転裁判』に登場する重要エピソード)というネーミングでした。泡坂妻夫さんの『DL2号機事件』を意識しての命名としか考えられなかったし(笑)。

  泡坂先生も大好きですから。

綾辻  影響も受けてますよね? 泡坂作品から。

  現実的なミステリより、どこかおとぎ話的な空気が漂っているものを作りたいと思ったのは、泡坂先生の「亜愛一郎」の影響だと思います。

綾辻  あと、巧さんは大学時代、ミステリ研究会じゃなくてマジックのサークルに入っておられたんですよね? それをお聞きしたときも、愉快というか、嬉しかったです(笑)。

  綾辻さんもお好きなんですよね。

綾辻  はい。二十代の一時期は、マジックの専門店に入り浸ってました。

  どのあたりからマジックに惹かれたんですか?

綾辻  子供時代から好きだったんだけれど、本格的にハマったのは氣賀康夫さんの『百万人のトランプ手品』という本を読んだのがきっかけだったんです。で、泡坂さんがおっしゃるところの「奇術病」にかかってしまって、ショップに通っては片っ端からマジックの道具やネタを買ってきて……という。

  今も使っているんですか?

綾辻  いや、近年はあまり実演しなくなって、なおかつちゃんと整理していないものですから、むかし買い集めた道具を掘り出してきても、「これ、何に使うんだっけ?」という情けないありさまで(苦笑)。

  (笑)

綾辻  巧さんはどうして、ミステリじゃなくてマジックのサークルに?

  どうしてでしょうね。自分でも分かりません。でも、マジッククラブの先輩が、『十角館の殺人』にあったカードマジックを実際に見せてくれたときの衝撃は忘れられません。その先輩、しばらくやり方を教えてくれなくて(笑)。

綾辻  あれは素晴らしいトリックですからね。むやみに種明かしをしてはいけないレベルのものだから(笑)。せっかくだから巧さん、何かマジックを実演して見せてくださいよ。

  しまった、今日は何も用意してないんですよ! そういえば以前、有栖川有栖さんとお話ししたとき、「綾辻さんのマジックがすごい」とおっしゃってました。

綾辻  いやいや、大したものじゃないんです。有栖川さんはまあ、マジックに関しては完全に素人さんですからね(笑)。泡坂さんはご存命中、パーティなんかでいつも何かマジックを披露されていましたっけ。たいてい酔っぱらっておられたから、ミスが多かったような気もするけど(笑)。

  マジックはいいですね。僕は面接でマジックを披露してカプコンに入社したようなものだし(笑)。

綾辻  入社当時から、ミステリ系のゲームを作ろうと思っていたんですか?

  もちろんです。ただ、当時カプコンは『ストリートファイターⅡ』や『バイオハザード』の時代で、ミステリを作れるチャンスはありませんでした。何年かして、上司に好きなものを作っていいと言われる機会があって企画したのが『逆転裁判』でした。続編なんてまったく考えていませんでしたね。売れないだろうと言われていたぐらいで……。

綾辻  ところが、大ヒットした。

  最初はそうでもなかったんです。でも、上司が完成したゲームを気に入って、会社を説得してシリーズ化を決めてくれたんです。

綾辻  ゲーム以外のメディアでの展開もにぎやかですね。

  ありがたいことに、マンガや映画、宝塚歌劇で舞台まで実現してしまって……。

綾辻  宝塚は驚きました(笑)。三池崇史監督の映画化というのはまだ予想範囲内だったけれども、まさか宝塚に進出するとは。

  当時、社内に女性だけのチームがあって、当初は宝塚歌劇団をゲームにしたいという企画だったのですが、最終的に、ゲーム作品の舞台化というところに着地するまで、ゆうに三~四年以上かかりました。「逆転」と宝塚は、どこか浮世離れしているところが、相性がよかったのかもしれません。

綾辻  映画も楽しかったです。キャラクターの髪型までしっかり再現されていたのが、すごいというか、おかしいというか。

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  綾辻さんの『Another』もメディアミックス展開されましたね。大変じゃなかったですか?

綾辻  いや。僕は小説を書いただけで、あとはほぼお任せでしたから(笑)。

  あ、思い出しました。綾辻さんが有栖川さんと一緒に「安楽椅子探偵」(註:視聴者参加型の推理テレビドラマ。1999年の第一作以来、不定期で第七作まで発表されている)シリーズをやっていたときに、僕は『逆転裁判』第一作を作っていました。番組内で着ぐるみが出てきて、ネタがかぶった!って思ったことを今でも覚えてます。

綾辻  おお、「安楽椅子探偵」……懐かしいですねえ。

  「逆転」シリーズをやっていてつくづく思うのは、人間の頭脳は結集するとすごいということですね。ファンの皆さんに、とんでもないところまで先読みされてしまって、恐ろしいですね。

綾辻  分かります。「安楽椅子探偵」も、今またやるとなったら大変だろうな……。ところで、ミステリとマジックってやっぱり、似ているところが多々ありますね。

  トリックを知って感動するものもあれば、がっかりするものもあるところとか。

綾辻  ミステリはトリックを解明するのが前提だけど、マジックの種明かしは基本、しなくてもいい、しちゃいけないものじゃないですか。そんなマジックでも、タネを知って感心するものもあれば、がっかりするものもある。ゲームとミステリの関係については、どう思いますか?

  ゲームが有利なのは、物語がいつ終わるか見えないところですね。小説は残りページ数で終わりそうだと分かっちゃいますから。

綾辻  ゲームはゲームで、プレイヤーがゲーム画面で読むのに適した文体、文章量を計算して作らなきゃいけないから大変ですね。普通の小説のようには書けない。ミステリとマジックに関連してもうひとつお訊きしたいんですが、ミステリを読んだりミステリゲームをプレイしたりするのと、それを作るのとではどっちがお好きですか? 別の言い方をするなら、びっくりさせるのとびっくりさせられるのとでは、どっちが?

  どっちもですね。

綾辻  あ、僕もそう。

  ファンを驚かせるのはとても気持ちいいけれど、作ってる最中は苦しいですね。

綾辻  うーん。そこも同じですね(笑)。

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7月13日発売の「小説 野性時代」にて特集記事も掲載予定!

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